Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~   作:鶉野千歳

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思わず店先に地元産の檸檬を見つけた鳳翔。
これで自家製レモネードを・・。
これまた美味しそう。



檸檬

呉に来て数日。

官舎での食事は、最初から用意されていた食材で今までやってきたが、日数が経つと、それなりに不足してくるのもだった。

今日は買い出しと散策を兼ねて、鎮守府からほど近い、呉駅前のスーパーにやってきた鳳翔。

横須賀と違い、呉の鎮守府は駅に近かったから、徒歩だ。

夏の暑さ対応に、薄手の生地の着物に襷を掛けて、レースの付いた白い日傘を刺してきた。

片手には籐でできた買い物籠が一つ。

スーパーとは言いながら、一つの建物に個人商店が専門店として入り込んでいた。

生活雑貨は、まだまだ余裕があったものの、補充分の購入が出来るかどうか、も心配だったので、端からお店を見て回ることにした。

食材としては、食肉屋、魚屋、八百屋は持ちろんのこと、揚げ物の惣菜屋さん、味噌屋、漬物屋、酒屋、小物雑貨、食器、花、果物屋など、一通りの種類はあった。

 

(一通りのお店はあるのね。)

 

と思っていた時、食肉屋のオヤジに声を掛けられた。

 

「おや? 見ない顔だねぇ。 ここは初めてかい?」

 

「ええ。 つい先日、こっちに越してきたばかりなんですよ。」

 

「そうかい。 ここは何でも揃うから。 肉はウチで・・・・・」

 

とここのスーパーの紹介をしてくれた。

 

「で、見たところ若奥さん風だが、どこに住んでるんだい?」

 

「あ、鎮守府の官舎です。」

 

「え? 鎮守府の官舎って・・ もしかして、新しく来た、提督さんとこかい?」

 

官舎と聞いて少々驚くオヤジだった。

 

「あ、はい。 私、楠木 鳳翔と申します。 以後、よろしくお願いします。」

 

と一礼をする鳳翔。

 

「なんだ、提督の奥さんかい。 それじゃあ、みんなに紹介しないとな。 おーーーい! みんな! ちょといいかあ!」

 

オヤジの号令に、ぞろぞろと集まってくる・・

なんだよ? とか なになに? とかの顔をしてやってくる店主たち。

 

「こちらのご婦人が、今度来た、新しい提督の奥さんだ。 楠木さんだと。」

 

「へぇー、そうなの。」

 

「奥さん、うちにも寄ってよ。」

 

などなど、声を掛けていく。

 

「あ、みなさん、よろしくお願いしますね。」

 

ニッコリと微笑んで挨拶をした。

 

「で、ご家族は、何人なの?」

 

聞いてきたのは惣菜屋の女将さんだった。

 

「ウチですか? ウチは七人です。」

 

「な、ななにん!?」

 

眼をひん剥いている。

 

「失礼だけど、あんた、歳は? 30にもなってないでしょ?」

 

「年齢ですか? 20代前半ですけど。」

 

は? へ? とかと言う声が聞こえたような気がした。

 

「その歳で、七人家族って・・ あ、オヤジさんとお袋さんも入れて、かい?」

 

「いえ。 提督と私と、こどもが五人ですけど。」

 

ああ? はい? と再び声が聞こえてきた気が・・。

と、そこへ、睦がやってきた。 ミニスカートに白の半そでブラウス、麦わら帽子を被って。

 

「あ、お母さん! 見つけた!」

 

そう言って鳳翔に抱き着いてきた。

 

「あら、睦ちゃん。」

 

睦を受け止めた鳳翔。

 

「どうしたの? 一人で来たの?」

 

「うん。 父さんが、お母さんが買い物に行ってるから、手伝って来いって。 後で皐月ちゃんも来るよ。」

 

「そうなの。 ちょっと荷物が多くなりそうだから、助かるわ。」

 

「あ、あの、この子が、娘?」

 

「ええ。 娘の睦です。 中学一年生です。」

 

「あらま! おっきな娘さんね。」

 

鳳翔は気付いた。

 

「あ! この子は、提督の、主人の子ですので。」

 

そう。 自分が産んだのではなかったので、疑われたのだと。

そこまで聞いて、みな納得したようだった。

 

「なるほどねぇ・・・」

 

「じゃぁ、提督さんは40代後半かい?」

 

「いいえ。 30代前半ですけど。」

 

「へぇ・・ 若いころのお子さんなのねぇ。」

 

「ま、とにかく七人家族じゃ、食糧はかなりいるだろ。 安くしとくから、いつでもいいな?」

 

「はい。 ありがとうございます。」

 

賑やかになった挨拶が終わった。

食材を買い揃え、睦と二人して荷物を抱えて帰ろうとしたとき、店先に黄色と緑の果物が目に入った。

 

「あら?」

 

「どうしたの、お母さん?」

 

「これ、レモンですよね?」

 

と店主に聞く。

 

「そうだよ。 地元産の広島レモンさ。 この時期は、貯蔵するための個包装したレモンと、ハウスのグリーンレモンがあるよ。」

 

グリーンレモンを手に取って匂ってみた。

 

「あ。 いい匂いですねぇ。」

 

「そりゃ、防腐剤なんか一切使用してない、国産レモンだからね。」

 

鳳翔は何かを思いついたような顔をして、

 

「じゃ、グリーンレモンを、二籠くださいな。」

 

「あいよ。」

 

グリーンレモンを二籠、10個と追加で隣にあった黄色のレモンも二籠、10個を購入した。

鳳翔は別の店で炭酸水とシロップを買ってきた。

スーパーを出たところで、皐月がやってきた。

 

「もう、お買いもの終り?」

 

「皐月ちゃんも来てくれたの?」

 

「ボクも手伝うよ。 これを持てばいいよね。 これってレモン?」

 

鳳翔が持っていたレモンと炭酸水の籠を持つ皐月。

 

「ええ。 お昼の休憩時に、レモンスカッシュにでもしようかと思って。」

 

「レモンスカッシュ?」

 

「ええ。 レモンの酸味と、炭酸のシュワシュワ感がいいわよぉ。 美味しいから。」

 

「やった! 期待してるよ。」

 

三人、賑やかに話ながら帰って行った。

 

 

このところの鳳翔の料理は、ややすっぱめだった。

今年の夏は、特にここ呉の夏は、暑い。

そのため、水分と塩分は身体にとって必須な成分だ。

また、暑さの為、食事が進まない、というこども達の声もあって、さっぱりとした料理が多かったのも頷けた。

買い物から帰って来た鳳翔は、グリーンレモンと炭酸水、シロップを持って調理場にやってきた。

冷凍庫の氷をグラスに入れ、レモンを絞ってグラスに。

炭酸水とシロップを入れてかき混ぜた。

飾りにグリーンレモンの輪切りを一つ添えて。

即席のレモンスカッシュの出来上がりだ。

 

「さあ。 休憩にしましょ。」

 

と言って、お盆にレモンスカッシュ入りのグラスを載せて執務室に入ってきた。

 

「おお。 冷たそうな飲み物だね。」

 

「はい。 レモンスカッシュを作ってみました。」

 

「へぇ。 レモンなんてよくあったね?」

 

「今日、市場で見つけてきました。 なんでも、地元広島産だそうで。」

 

そこに大石が話に入ってきた。

 

「そういえば、近年は、ここ広島の沿岸部でレモンの栽培が盛んだとか、聞いたことがありますね。」

 

「へぇ・・ そうなのか。 それは知らなかったなぁ。」

 

そこへ、睦や皐月らこども達がやってきた。

 

「お母さん、来たよ。」

 

「なんだ、お前たち?」

 

「私が誘ったんですよ。 飲みに来なさいって。」

 

「そうなのか。」

 

「はい・・」

 

テーブルの上に人数分のグラスを置いた。

氷がグラスにあたって、カラン、と音を立てていた。

 

「ま、頂くとしよう。」

 

みなレモンスカッシュに手を付けた。

一口飲んで、

 

「ウマ!」

 

「シュワシュワがいいね。」

 

「このすっぱさがたまんないよ―!」

 

大石も五十鈴も一口飲んで、

 

「美味しいですねぇ。」

 

「ホント。 そんじゃそこらのお店より、美味しいんじゃない?」

 

「お母さんが作るのは、なんでもおいしんぴょん!」

 

「フフフ。 ありがと。」

 

ニコリと微笑んでいた。

鳳翔自身も一口飲んで、

 

「んー、いい具合に仕上がってますぅ。 ちょっと酸味が弱かったかしら。」

 

「そうかい? 俺は充分に美味しいけど。」

 

「あ、ありがとうございます。 そう言って頂くと嬉しいです。」

 

そう言って頬を赤めて、見つめ合う二人であった。

 

「またあ・・」

 

そう嘆くのは睦だ。

 

「見つめあって、赤くなるのは、なんとかならない? 父さん、お母さん。 こっちが恥ずかしい・・」

 

・・・・

 

何も言えない秦と鳳翔だった。

 

「大佐さんにも、悪影響だよ、きっと。」

 

「そ、それは無いよね、大佐?」

 

「はぁ・・」

 

返答に困る大石大佐であった。

 

「ほらぁ、返事に困ってるじゃん。」

 

「ま、まぁ、たまに目線が合って、ニッコリと微笑みあっているのは見るけど、やっぱり、アツアツだなぁっとは思ってたけど、回数は多いかしらねぇ。」

 

そう言うのは五十鈴だった。

 

「ホラ。 気を付けてって散々言ってるのにぃ。 」

 

「イチャイチャは、治らないぴょん。 仕方ないぴょん。 割り切るしかないぴょん。 でも、こっちは恥ずかしいぴょん。」

 

みんなに言われ放題の二人であった。

ちょどそこへ、演習に出ていた艦隊の報告に榛名がやってきた。

 

「榛名です。 失礼します・・って。」

 

大勢が執務室にいたの驚いていた。

 

「あら。 大勢いらしてたんですね。」

 

「ちょうど良かった。」

 

「ちょうど??」

 

榛名が首を傾げている。

 

「あ、いや、こっちの事、こっちの事。  で、どうした?」

 

「はい。 本日の演習訓練が終わりましたので、そのご報告に。」

 

巫女風衣装に、赤の袴風のミニスカートの榛名が秦の机までやってきて報告書を渡す。

報告書を秦が受取り、目を通していく。

 

「お疲れ様。 うん、一応、練度の向上は図れているようだね。」

 

「はい。 砲撃戦は順調だと思います。 が、やはり、航空機を使った練度が不足している、と思います。」

 

「榛名でも、そう思うかい?」

 

「はい。 榛名や金剛お姉さまは前任地でも航空戦隊と編成を組んでいましたから、なおの事と思います。」

 

「そうか・・  ありがとう。 航空隊との訓練は、考えておくよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

秦が鳳翔へ振り返って、

 

「鳳翔の航空隊は、他の航空隊の機種転換訓練や慣熟訓練に出てるんだったっけ?」

 

「はい。 今は、手一杯ですね。 対空訓練にも回したいのはヤマヤマなんですけど。」

 

「そうだよなぁ。」

 

そう言って頭を抱えるのだった。

 

「榛名、航空隊との訓練は少し先になるが、やる事だけは、断言しておくよ。 今はそれでいいかい?」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

榛名が一礼して退室するが、その頬は赤かった。

退室する榛名を、秦の目が追っていた。

ただ、頬を赤めた榛名を、(どうしたんだ?)と思っただけなのだが、それを鳳翔に見られていた。

 

「提督・・ 提督は、ああいう感じの娘がいいんですか?」

 

と鳳翔が呟いた。

 

「え? 俺? ああいう感じの娘?」

 

純粋に、なんだ?と思った秦なのだが。

 

「何か、顔がほころんでいたような気がしたので・・」

 

「え? 榛名かい? ま、確かに、いい娘であるとは思うけど、ちょっとシスコンが強いかねぇ。」

 

「それだけですか?」

 

「な、なにがだい?」

 

「いえ、榛名ちゃんみたいに胸の大きな娘に、鼻の下を伸ばしていたように見えたので・・」

 

「はいぃ? そ、そんなことは無いよ、ほんと。」

 

「やっぱり、胸の大きな方が・・・」

 

鳳翔の声がだんだん小さくなり、俯いて行くように見えていた。

秦は、何言ってんだか、と呆れた感じで、

 

「ハァ~。 そんな事関係ないよ。 胸の大きい、小さい、なんて気にしないよ。 そんなん気にしてたら、本人に失礼だろ?」

 

と、報告書にサインをしながら応えたのだった。

そして、さらにぶっきらぼうに・・

 

「それに、俺は鳳翔の胸が一番いいんだ。 手に収まるちょうどいい大きさ、跳ね返す弾力、透明感、肌のすべすべ感なんかが最高だよ。」

 

「あ、あなたああーーーー!!!!」

 

大声で叫んだのは鳳翔だった。

 

「な、何言ってるんですかーー!!! は、恥ずかしいったらーーーー!!!」

 

顔を真っ赤にて更に叫ぶ。

 

「え?」

 

鳳翔を見ると、両手で胸を隠すようなしぐさをしている。

怒りに震えているのか、恥ずかしさに震えているのか、プルプル、いや、わなわなと震えて、秦を睨んでいた。

 

「「「と、父さん!!」」」

 

こども達も声を上げて秦を攻める。

 

「何言ってんの! このスケベ!」

 

自分が言った言葉にようやく気が付く秦。

 

「え? いや、ちが・・ あの、違わく無いけど、だあああああ。  ご、ごめん! ホントにごめん!」

 

平身低頭、平謝りの秦だった。

大石大佐は、キコエナイ、キコエナイヨー、と他人のフリ。

五十鈴も、顔を真っ赤にして両手で顔を押さえていた。

鳳翔とこども達に責められること数十分・・

ようやく許しを得た秦だが、皆にみっちりと責められ、机に突っ伏していた。

旨い具合に、本日の勤務時間の終了を告げるチャイムが鳴った。

大石大佐と五十鈴はそそくさと連れ立って執務室を出て行った。

睦、皐月らも呆れて官舎へと引き上げていった。

残された秦と鳳翔。

鳳翔が秦の隣まできて、

 

「あなたったら、もう! 恥ずかしいったらありゃしないんですから!」

 

と、手を腰にあてて、仁王立ちの鳳翔に、

 

「ゴメン。 あまりに無防備に答えてしまったよ。 申し訳ない。」

 

と手を合わせて許しを請う。

 

「まったくもう・・」

 

「でも・・ 俺には鳳翔しかいないから。 ね、ね?」

 

「じゃぁ・・ これで勘弁してあげます。」

 

そう言って、目を閉じ、両手を広げてきた。

 

「ん・・」

 

と。

秦が、へっと一瞬固まっていると、

 

「ん!」

 

と再び催促する鳳翔。

その様子で、催促されている事を理解した秦。

椅子から立ち上がって、顔を鳳翔に近づけていく。

そして・・ 

んっ、むっ っと、二人の唇が、しっかりと重なる。

互いの腕が、互いの身体を包み込む。

ちゅ、ちゅ、・・・

長い口づけが終わり、視線を重ね合い、微笑む二人。

 

「愛していますよ、あなた。」

 

「ああ。 俺もだよ。 鳳翔。」

 

誰もいない執務室で、しばし抱き合う二人だった。

 

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