Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~   作:鶉野千歳

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執務の合間で一休みする秦。
そこに榛名がやってきて・・


呉、その日々
木陰


呉に来てから数日が経った頃だった。

執務室のソファーで寛いでいた楠木家五人の娘に秦が・・

 

「そうだ。 睦、朝霜、皐月、卯月、弥生。 お前たち、学校はどうするんだ?」

 

と聞いた。

 

「「「え? 学校?」」」

 

「学校へ行くなら、そろそろ手続きをしておかないといけないんだけどさ?」

 

「え~、勉強、やだなぁ--」

 

やだ、と言ったのは朝霜だった。

 

「でも、この鎮守府でも学校へ行きたいって言う娘も何人かいたよ?」

 

そう言ったのは五十鈴だった。

 

「どうしようか?」

 

と考え込む秦だった。

そこへ大石大佐が口を挟んだ。

 

「提督。 学校ならば、ここ鎮守府内に分校を作ってもらうのはどうでしょう。」

 

「え? ここに分校?」

 

「はい。 確かに、学校へ行きたいという声は聴いていますし、義務教育期間中の子らは、教育を受ける権利が有りますしね。」

 

「そうだよね。 小学校、中学校は、市役所で聞いてみるか。 で、高等学校はどうしようか。」

 

「なんなら、市立の公立校っていうのはどうでしょう。」

 

「市立の?」

 

「はい。 呉市には市立の高等学校がありますし、それに皆、呉市在住になりますので、拒否されることは無いかと思います。」

 

「それもそうか。 じゃあ、相談してみるか。」

 

学校の件は、市役所に相談する事にした。

その日のうちに市役所に連絡し、教育委員会とも協議をすることになった。

そして、数回の協議の結果は・・

呉鎮守府内に、呉市立の小中学校と高等学校の分校が設立されることとなった。

 

 

食堂の掲示板に、学校設立の報告を張り出すと歓声が上がったのだった。

 

「やった! 学校に行ける!」

 

と言う声もあれば、

 

「えぇ~、やだなぁ、あたしは・・」

 

と言う声もあった。

 

「勉学は必要だよ。 みんな、いいかい? それに、ここ鎮守府内に分校を作るから、そんなに嫌がらなくてもいいだろう。」

 

「それは、そうなんだけどさぁ。 でも、提督? 授業が優先なの? それとも出撃が優先なの?」

 

「残念ながら、出撃が優先だ。 だから、みんなには掛け持ちをしてもらうことになる。」

 

ええぇぇーっていう声が上がったが、秦は聞こえていないフリをした。

 

「じゃぁ、学校って何処に出来るの?」

 

「ああ。 この鎮守府本館につながっている倉庫として使ってる部屋がいくつかあるだろ? そこを整理して、掃除して、使おうかと思ってるんだ。」

 

「へ? あの倉庫?」

 

「あの部屋だと、1部屋20人くらいかしらね。 フフフ。 いいんじゃない?」

 

「いいじゃないか。 私は賛成するよ、提督。」

 

最後には陸奥と長門が賛成したことで、全体の意見が纏まった。

 

「ところで提督ゥ。 一つ忘れていませんカー?」

 

そう言ったのは金剛だった。

 

「何をだい?」

 

「何をって! 小学校にも入れない子がいるじゃないですカー!」

 

 

そうだった。

小学生より小さな子、ここでは、海防艦の艦娘たちが居たのだった。

択捉、松輪、隠岐、佐渡をはじめとする海防艦の艦娘たちだ。

秦はその子らのためにさらに一部屋をねん出して、小学生以下の年少組を纏めることにした。

そこには、大人な艦娘に保母さん役を担ってもらうことにした。

それから倉庫の整理をして、教室として必要な、黒板と机を運び込み、1週間ほどで教室らしくなっていったのだった。

後で聞いた話によると、年少組の部屋で、人気のある”保母さん”は、以外にも金剛が一番で、神通が二番だったらしい。

しかし、陰では、一番の人気は、”母”たる鳳翔だったという。

 

 

初めて市役所との協議を行った日の夕刻、秦は執務を粗方終えて、本館の隣にある木陰の長椅子に腰かけ、海を見ていた。

眼下に見える呉の港には、多数の艦船が浮いていた。

数隻の小型艦が、秦の左から右へと動いていた。

どうやら、訓練から帰って来た部隊の様だった。

そう言えば、今日の午後から訓練を行う部隊があったな、と思い返していた。

 

(フーッ、まだ日差しが強いなぁ。 ここは、風が抜けて心地いいなぁ。)

 

そう思っていた。

日が沈むまでには、まだ少し時間がある。

まだまだ暑さが残る中、秦は上着を脱ぎ、上半身肌着として着ているシャツ一枚になっていた。

その姿を確認していたかのように、一つの影が秦に近づいてきた。

榛名だった。

 

「今、お一人ですか?」

 

と声を掛けてきた。

 

「ああ。 休憩中、かな。」

 

「では、隣、よろしいですか?」

 

「どうぞ。」

 

と置いていた上着をどけて、スペースを空けた。

そこに榛名がスカートを押さえつつ、静かに座った。

秦が榛名を見つめる。

鳳翔とは違う、別の意味での大和撫子の姿だ。

鳳翔の様に、全てを包み込むような微笑みと存在感とは違う。

お淑やかさが漂うものの、明るく元気な女の子、であった。

そんな榛名が、見つめられて顔を赤めて座っている。

 

「榛名? どうした?」

 

「いえ、・・・何をお考えなのかなっと。」

 

「俺かい? 俺は・・ 大所帯になったなぁっと思ってね。」

 

「大所帯、ですか?」

 

「前の警備部では五隻七人だったからね。 今は50人近く居るし。 だから七倍?八倍?になってしまったからね。 名前を覚えるのが大変でね。」

 

クスッと榛名が笑う。

 

「ご苦労様です、提督。」

 

その笑顔は、美人の部類に入る榛名の顔が、更に美しく見える。

 

「じゃぁ、榛名は、どうしたんだい? 何か用なんじゃないのかな。」

 

「あ、いえ・・ 特に、何かあるわけでは無いのですが・・ 提督にお聞きしたいことが・・ ありまして・・。」

 

「俺に?」

 

「はい・・ 提督は、鳳翔さんのことを、その、愛していらっしゃるのですか・・」

 

「ああ。 愛している。」

 

秦は、はっきりと言い切った。

 

「出会いは、ちょっと特異だったけど、俺は、鳳翔を愛している。 何処の誰よりもね。 まぁ、鳳翔も同じだと思ってるんだけどね。」

 

(大雨の中で、拾った、なんて言えないし・・)

 

「そう、ですか・・」

 

俯き、暗い顔をする榛名だった。

そんなことを聞きに来たのか、と思った秦だが、榛名を見て、思い至った。

 

「そう言えば、榛名は、そろそろ最高練度に到達すんだったな?」

 

「はい・・」

 

たぶん、このことだろう、と・・

 

「俺は、ケッコンカッコカリを、バンバンするほどの甲斐性は無いよ。 お前さん、それを聞きに来たんだろ?」

 

榛名はただ黙って頷いた。

 

「そうか。 お前さん・・」

 

「私、榛名は、提督のことが・・」

 

秦はそこまで言った榛名に対して、口の前で指を立てて見せた。

 

「出会って日が浅いのに、そう思ってくれるのは、嬉しい限りだよ。 ありがとう。 君のような綺麗な女の子に好かれるのは光栄なことだね。」

 

榛名に向いて、微笑んで見せた。

その微笑みに、榛名が顔を赤く染める。

 

「日が浅いなんて思いません。 出会いは、運命だと思っています。」

 

「そうだな・・ 出会いは、運命、だな。」

 

秦はそう言って、上を、強い日差しを遮る木陰を作っている木を見上げた。

 

「俺は、ジュウコンをするほどの甲斐性は無いと思っているし、したいとも思ってない。 変にすれば、それは、その娘に対して失礼だと思ってるよ。 ホントに失礼極まりない事だと思う。 ただ・・ ただ、好かれるのは、この立場にいる限りは、致し方ない事だ、とも思う。

 まあ、睦たちには父親として好かれていることは事実だし。 それに・・朝霜なんかは、もう少し年齢が上がれば、自分から”ケッコンしろ!”って言ってくるんだと思う。」

 

「朝霜ちゃんが、ですか?」

 

「ああ。 朝霜だけじゃない。 睦だって、もう10年遅かったら、そうだと思う。 皐月、卯月、弥生はどうか、とは思うけど。」

 

「じゃぁ、なんで、家族なんですか?」

 

「朝霜はそこまで練度が達してないし、ケッコンに意識が行ってないんだと思う。 だからか、アイツらたちから俺の事を父さんと呼んだんだ。 鳳翔をお母さんとね。 そう呼ばれたから、アイツらを娘にしたんだ。 ま、それはそれで大変なんだけどね。」

 

と苦笑して見せた。

 

「三人家族が、いきなり七人家族になったけど、それはそれで楽しいし、問題もあったけど、有意義なことだ、と思ってるよ。」

 

秦の目が海を見つめていた。

 

「今は・・ ここ呉のみんなが家族みたいなもんだ、と思ってる。 ははは。 余所余所しい提督なんて、嫌だろ?」

 

「提督は・・ ここのみんなを愛すると?」

 

「うん。 そうしたいと思う。 少なくとも、愛情は注ぎたい。 どんな形にせよ、この戦争が終わる事になったとき、各人が故郷へ帰る時が来るはずだ。 家族、恋人の元にね。 その時、誰も信じられないような女の子にはしておきたくないからね。」

 

しばらく話し込んだ後、

 

「それでも、私、榛名は、提督の事が好きです。 今の話を聞いて、確かにそう思います。 ですから、いつでもお側に居たいと思います。」

 

そう言って秦に向かってお辞儀をして去って行った。

その言葉にしぐさに、驚き、頭を掻く秦だった。

榛名が去った後暫く海を見ていたが・・

 

「出ておいでよ。 鳳翔、そこにいるんだろ?」

 

と声を掛けた。

すると、後ろの建物の陰から鳳翔が静かに現れた。

 

「気付いていたのですか?」

 

秦が鳳翔の方を振り向いた。

 

「ああ。 お前さんの、その髪油の匂いでね。 はは。 惚れた女の匂いは間違えることはないよ。 で、聞いていたんだろ?」

 

「そうですか。 立ち聞きしてしまって、すみません。 最初は、お声を掛けようと思ってたんですけど。」

 

「いや、いいよ。 どのみち、鳳翔が傍に居ても、俺の答えは変わらないからね。」

 

微笑みながらそう言って、椅子に座るよう促した。

それに応えるように、鳳翔が出てきて、長椅子に袴を押さえながら、秦の隣に座った。

 

「榛名の事、どう思う?」

 

と鳳翔の手に、秦自身の手を重ねて言う。

 

「はい。 素直な、いい娘だと思います。」

 

鳳翔も秦の手を取って、握っていた。

 

「そうだね。 俺もそう思う。 ただ、榛名の思いを俺は受取れない、受け止める事ができない。 その点は、榛名に悪いと思う。」

 

「あの娘は・・ 分かってくれますよ、あなた。」

 

目を細めた、優しい眼で秦を見ている。

 

「そうだと、いいが・・」

 

「大丈夫ですよ。」

 

「鳳翔がそう言うなら・・ 分かったよ。」

 

そう言って、二人は、手を握り合って、寄り添って海を見ていた。

陽が徐々に陰りはじめ、海の色が暗くなってきた。

 

「陽が・・ 陰ってきましたね・・」

 

「ああ。 少しは涼しくなったかな。」

 

いつまでも、こうしていたい、と二人は思っていた。

だが・・

 

「さあ、戻りましょ。 もうすぐお夕飯ですし。 今日は卯月ちゃんリクエストのメンチカツですよ。」

 

ああ、と言って、二人手を繋いで官舎へと戻っていった。

 

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