Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
いろいろと準備が必要だったりする・・
呉に来てから数週間が過ぎた。
秦も鳳翔も、こども達もここ呉に馴染んで来ていた。
「ふぅ。 今日も暑いねぇ。」
「年々、熱くなっている様に感じますね、提督。」
「やはり、そう思うかい、大石大佐。」
「ええ。 それはそうと、今年も花火大会の時期ですね。」
8月中旬、呉の街では花火大会が催される。
秦としては、2度目の花火大会になるのだが。
今年、呉鎮守府ではそれに併せて休日を設定したのだった。
艦娘たちにも、街へ出て屋台を巡ることもOKにした。
打ち上げ花火は、呉港内に台船を浮かべ、その上から打ち上げるのだった。
台船は、呉港の陸側に係留されていた。
艦が邪魔になったりするので、陸側の艦は前もって江田島沖や柱島停泊場に移動させておいた。
もっとも、呉鎮守府所属の艦艇が、全てここ呉港に居るわけでは無く、いくつかの外洋の泊地に駐留させている部隊もあった。
だから、在籍の連中だけ、という特権になってしまった。
秦は、花火大会に向けた打ち合わせに、鎮守府側の人間として、大石大佐と共に出席していた。
当日の海上警備くらいで、ほとんどは地元の協議会が担当するのだった。
打ち合わせの会場は、呉駅前のホテルだった。
呉市内でも洒落た内装をした結構、いい感じのホテルだった。
そのホテルの大広間を会場としていた。
打ち合わせが終わって、帰ろうとしたとき、ホテル内に、あるショップを秦が見つけた。
思いついたように、
「大佐、先に車に戻っていてくれるかい。 ちょっと買い物してくるよ。」
そう言って、ホテル内に戻って行った。
30分ほどして秦が紙袋を下げてやってきた。
「すまない、時間が掛かってしまったね。」
ニッコリと笑ってみせた。
「何を買われたんです?」
「お茶請けだよ。 すまなかったね、待ってもらって。」
運転は大石大佐だった。
「いえ、大丈夫です。 逆に、いい休憩になりました。」
と。
ホテルから鎮守府までは、車で、ゆっくり走っても10分で着く。
執務室に帰って来た二人は、打ち合わせの結果を、二人の秘書艦に報告する。
その際、秦は紙袋から買ってきたお菓子を出して、冷えたお茶を用意した。
お菓子と言っても、広島銘菓のもみじ饅頭だ。
しかも、こしあんと抹茶あんの2種類。
四人はもみじ饅頭を食べたべ、冷えたお茶を飲みのみしながらの、報告会となった。
「ま、やることは限られているから、大したことはないね。 2隻くらい用意させようと思うんだけど。」
と秦が言う。
「そうね、海上警備だけだと、すっごい助かるわね。」
とは五十鈴だ。
「では、誰と誰にしますか?」
という鳳翔に対して秦が、
「うん、今回は、小回りが利いた方がいいだろうから、海防艦に任せようと思うんだけど、どうかな。」
と答えた。
「海防艦、ですか? とすると、松輪ちゃん、択捉ちゃんあたりですか。」
「そうだね、その二人にやってもらおう。 鳳翔、連絡しておいてくれる?」
「はい、了解です。 では、二人に伝えますね。」
◇
今日の仕事を終え、自身の席で、椅子にもたれて伸びをする秦。
ふっうぅぅぅっっと。
「今日のお仕事も、終わりだ!」
勤務時間は既に過ぎ、大石大佐と五十鈴は各自の部屋へと戻って行った。
秦以外に残っていたのは鳳翔だけだった。
「お疲れ様です、あなた。」
「ああ、疲れたよ。 あ、そうだ。 鳳翔にお土産があるんだ。」
二人だけの室内で、昼間、秦が買ってきた紙袋からもう一つの包みを取り出した。
「え? 私に、ですか?」
それも、かなり可愛らしい包み紙に包まれたものだった。
「これを鳳翔にってね。 そ、その、鳳翔に似合うかな、と思ってね。 あ、ヤラシイ意味は無いからね。」
鳳翔は、頭の上で”?”が浮かぶような気がしていたが、
「ありがとうございます。 なんでしょう。 開けてもいいですか?」
「ああ、いいよ。」
包みを受取り、開けていく。
「可愛らしい包み紙ですね。 あなたに似合いませんけど。」
と言って意地悪く笑って見せた。
「え・・ これって・・・」
中身を見た瞬間、鳳翔の顔が赤くなった。
それに併せて秦も赤くなる。
「ほ、鳳翔が着ると、可愛いだろうな、似合うだろうなって思ったんだけど・・ 嫌、だった?」
「い、いやじゃ、ありませんけど・・ これ・・ は、恥ずかし・・い・・ これを・・」
◇
その日の夜。
花火大会を明日に控えての前日の夜だ。
既に入浴を終え、一人で寝室で本を読んでいる秦。
寝るまでの間の少しの時間つぶしのつもりだった。
また、連れ合いの鳳翔が入浴中で、戻ってくるまでの時間つぶしも兼ねていた。
ガチャっと扉を開けて、湯上りの鳳翔が戻ってきた。
「ふぅ。 いいお湯でした。」
「お帰り。 ゆっくりできたかい?」
「はい。 今日は皐月ちゃんと卯月ちゃんと一緒でしたよ。」
「皐月と卯月か。 相変わらず、お子ちゃまな奴らだなぁ。」
「まぁまぁ、いいんじゃないですか。 私も楽しいですし。」
とニコリと笑った。
そして、いつものように、秦は鳳翔の髪を鋤くのだった。
鏡台の前に座る鳳翔の長い髪を、ゆっくりとブラシで鋤く。
時折、鏡を通して映る視線を重ねる二人。
視線が合うたびに微笑む二人だった。
ブラッシングを終え、そろそろ寝ようとベッドに腰掛ける秦だったが、秦の前に赤い顔の鳳翔が立った。
「ん? どうした?」
「・・似合い、ますか?」
そういって浴衣の帯を緩め、肩から脱いで行く。
床に浴衣が落ちると、秦からもらった下着を付けた鳳翔がいた。
下着と言っても、キャミソールだ。
それも、シルクで出来た、淡いピンク色をし、胸廻りはレースになっていて、乳房がそこそこ見える。
丈は腰までではなく、お尻が隠れる程度までに長い。
ショーツが隠れるくらいに。
その姿を見た秦も、顔を真っ赤にしていた。
「ああ。 可愛い。 すごく可愛い・・」
「や・・ 可愛い、だなんて・・ うぅぅぅ・・恥ずかしい・・」
恥ずかしがって、赤い顔を両手で覆う。
同じように顔が赤い秦が、ベッドから立ち上がって、恥ずかしがる鳳翔を抱きしめた。
「ふぇ・・」
と変な声を上げた鳳翔を、両腕で、強く抱きしめた。
「鳳翔・・ ありがとう・・ ごめんね。 無理させちまったね・・ でも、すごく綺麗。 可愛らしい・・」
「もう・・ 殿方からこういうものを贈られたことなんてないですから・・」
ちょっと脹れて見せる鳳翔だが、秦の胸に頬を摺り寄せていた。
「可愛い鳳翔・・」
そう言って、秦は鳳翔の唇を塞いだ。
んっ、んっ・・
その口づけは、短いモノではなく、長いモノだった。
強く、長く。
唇が離れると、二人はベッドへと入って行った。
そして・・・
翌日の朝、ベッドの中で、しっかりと抱き合う二人がいた。
二人とも浴衣を着ていた。
いつもの時間になって鳳翔が起き出す。
普段なら、秦はまだ眠っているのだが、今日に限っては、同じタイミングで目が覚めていた。
「おはようございます。 あなた。」
「ああ。 おはよう。」
挨拶もそこそこに、朝の口付けから一日が始まる二人。
離れた顔は、お互い赤かった。
◇
今日は花火大会だ。
午前中までは通常体制として、午後からを休日にした。
艦娘達からは、
「「え~、一日お休みじゃないの??」」
という批判もあったが、休戦も停戦もしていない状況で、まるまる一日を休日にあてる事は出来なかった。
「悪いね。 でもいつもより長めに休めるでしょ?」
という秦の言葉に、反論を塞がれてしまった。
ぶー垂れる奴もいたが、とりあえず、言う事は聞いてくれるみたいだった。
その態度をみて、
「やれやれ。 ホントは休みなんてないのに、よくぶー垂れるな・・」
と呆れていたが、ぶー垂れていても、ここの鎮守府の一員だったから、怒る気持ちは起こらなかった。
昼食後、全員を食堂に集め、
「午後からは、前もって知らせてある通り、花火大会があるから休みにする。 各自自由に過ごす事を許可する。 ただし! 問題は起こすなよ? 門限は2200だ。 いいね。 では、解散。」
と宣言した。
「自由って、出かけてもいいの?」
「ああ。 構わないよ。」
「買い物も?」
「OKだ。」
そこまで聞いて、やっと、
「やったああああ!!」
と歓声が上がったのだった。
「あ、そうそう。 忘れてた! 出掛ける奴は浴衣でな。 それと、酒保を開いてよし。」
「はーーい!!」
「浴衣が着れるぅ!」
「酒だ、酒だ~!」
出掛ける奴は着替えに部屋に戻っていった。
酒組は、そのままで酒を飲むのかと思いきや、厨房に入って行く。
「あら、どうしたの?」
と鳳翔が聞くと、
「やっぱ、酒肴が重要だよ!」
と言って、自分たちで作るつもりの様だ。
戦艦組と重巡組ばかりだったが、料理が得意なヤツもいたが、鳳翔も手伝う事にした。
「じゃあ、私も何か作りましょうか?」
「え? いいの?」
「ええ、いいわよ。 簡単なものだけど。」
とニコリとする鳳翔だ。
「じゃぁ・・」
と言って、割烹着を着て作り出したのは・・
ごぼうを洗って、笹がきをし始めた。
50cmはあろうか、長いごぼうを丸まる一本、笹がきにした。
次に用意したのは、人参だった。
ちょっと厚めの桂剥きをして、千切りにしていく。
「それって、きんぴら、ですか?」
「そうよ。 ちょっと濃いめに味付けすると、お酒にいいかなって。」
プライパンでごぼう、人参を炒め、醤油、みりんなど調味料を入れていく。
酒も入れた。
最後に、ごま油を廻しかけ、胡麻を振って出来上がり。
だいたいは、小鉢で出てくるようなものだが、今日に限っては、大皿に、ドン!ときんぴらごぼうが載っている。
次は、ちくわの醤油炒めだ。
ちくわを5mm位で輪切りにしていく。
切り終えたら、プライパンで炒めるだけ。
調味料は、基本は醤油味で、甘辛くするためにみりんを入れた。
アクセントに、胡麻とパセリのみじん切を和えてみた。
こちらも大皿に盛られている。
「これでしばらくは持つわね?」
「ありがとうございますぅ!」
そう言うと早速、箸を伸ばす。
(この食欲だと、すぐ無くなるわね・・) と思う鳳翔だった。
◇
執務室に戻ると、四人掛けソファーに松輪、択捉、佐渡、隠岐の四人が座って、正面のソファーに秦が座っていた。
「遅くなりました。」
「ご苦労様。 酒組は満足してたかい?」
「あら、ご存じだったんですね。」
「ああ。」
秦の隣に鳳翔が座る。
「さて、と。 択捉、松輪の二人には、悪いが、今晩の花火大会の海上警備をお願いするよ。」
「ぶー! あたしも花火大会、行きたいのに~。」
「屋台や露店もみたかったなぁー。」
「隠岐は? 佐渡は? お留守番?」
「隠岐も行く!」
「は? いや、隠岐は・・」
隠岐の目に涙が溢れそうだった・・
「う、うぅぅぅ・・」
「わ、わかった、分かったよ。 そんな目で俺を見るな。 ったく。 隠岐は、松輪に同乗しろ。 佐渡は択捉だ。 俺は、択捉に乗るから。」
すると、隠岐と佐渡が笑った。
「「へへへ。」」
「あら、私はどうするんですか?」
「ん? 鳳翔はま・つ・・」
鳳翔が秦を睨んでいた。
「・・・あ・・ 鳳翔は、俺と一緒、ね。」
すると、ニッコリとして、
「はい!」
と。
グタッと肩を落とす秦だった。
(まったく、提督を脅してどうすんだよ・・)
と心の中でぼやくのだった。
その姿をみていた五十鈴が笑う。
「あははははっ 提督も鳳翔さんに掛かれば、肩無しだねっ。」
大石大佐は、顔を下に向けて、笑いを堪えているようだった。
「お前たち、笑い過ぎだっ!」
一通り笑ったところで、択捉ら四人が準備の為、出て行った。
代わりに、朝霜らがやってきた。
「邪魔するよ!」
と、いつものように。
「父さん、お母さん、じゃぁ、行ってくるね。」
そう言うのは睦だ。
後ろに皐月、卯月、弥生がいた。
みな浴衣姿だった。
それも、鳳翔が縫った浴衣。
「おぅ。 可愛いじゃないか。 それじゃ、可愛い娘さんたち、気をつけて行ってきな。 あまりはしゃぎすぎるなよ。」
【はーーい。】
と言って出て行ったのだった。