Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
1500になって、海防艦・択捉と同じく松輪が動き出した。
択捉には、佐渡、秦、鳳翔の三人が乗り込み、松輪には、隠岐が乗り込んでいた。
二艦とも、甲板上に白い天蓋を張り、日よけにしていた。
「今日は、特に暑いなぁ。」
そう言いつつ、積み込んだラムネを飲む秦。
打ち上げ用の台船から離れる事500m。
この位置で二艦を止めた。
ここより台船寄りは、接近禁止区域になっていた。
二艦は警備艦の役目だった。
警備艦と言っても、見物客の船が事故を起こさないように注意喚起するだけだし、見物用の遊覧船は、すぐ傍まで来ることになっていた。
いわゆる、海上の目印としての位置付けであった。
ただ、緊急時には、すぐに動かないといけない事を考え、機関の火は入れたままだ。
1600。
早くも観覧用の遊覧船が出てきた。
基本的に、やる事の無い秦は、天蓋の日陰で、持ちこんだロッキングチェアでくつろいでいた。
「司令~、暇なんだけど~」
とダレた格好で秦に呟く択捉だったが、
「ん、そうだな。 暇だな。」
とつれない返事をする秦。
「もう! そうだけどさ、何かやること無いの?」
「無い。」
と言い切る秦。
それを聞いてズッコケる択捉。
「もう! そうだけどさ!」
「フフフ。 何もない事が一番、平和でいいわ。 暑いけど。」
チェアに腰かけていた鳳翔が言う。
「あぁ、暑ければ空調を効かせた艦内に入っていればいいよ。 そういや、鳳翔? 最近体調はどうなの?」
「あら、気付かれていました?」
「ああ。 調子がいい時と悪い時があるよね、最近。 体調が悪ければ休んでいても良いからね。」
「はい。 その時は、そうさせてもらいます。 でも今は大丈夫ですよ。」
そう言って見つめ合う。
「なら、いいんだが、無理しないでね。 それから、今日の夕飯は、この警備が終わってからになるから、2100くらいかな。」
「はい。 承知しています。 それじゃぁ、択捉ちゃん達も呼びますか?」
「ああ、いいね。 呼ぼうか。 択捉、佐渡、今日の夕飯は遅いけど、ウチで食べるかい?」
「え、いいの?」
少々驚いた択捉たち。
「ええ。 いいわよ。」
と鳳翔がニコリとしていた。
「やったああ!」
「鳳翔さんの美味しいご飯が食べられるよ!!」
鳳翔の料理は、鎮守府内でも知られた話になっていた。
”鳳翔さんのご飯は、美味しい”と。
食堂は食堂部のおばさん達による料理だったから、家族以外で鳳翔の料理を食べる機会など、滅多になかった。
「それじゃあ、松輪達にも伝えるね!」
艦橋へと駆け出す択捉。
5分ほどして戻ってきた。
「連絡完了。 松輪達もオッケーだって。」
「よし、上等、上等。 今日の晩御飯は賑やかになりそうだな。」
「フフフ、そうですね。」
そう言って秦も鳳翔も微笑んでいた。
花火の打ち上げは、陽も暮れた1900から。
およそ30分間で5,000発を打ち上げるのだそうだ。
1800を過ぎて、徐々に日が陰ってくる呉港。
島の陰になっている事で陽が無くなるのは早い。
ようやく、涼しく思えるような海風が吹き始めていた。
海上の遊覧船も増えてきたようだった。
見ると、択捉と佐渡はお揃いの浴衣を着ていた。
「お。 お揃いか。 可愛らしいじゃない。」
「へへへっ、いいでしょ。 鳳翔さんに着付けて貰ったの。」
「良かったな、二人とも。 ご苦労様、鳳翔。」
「この子たち二人分なら、どうと言うことはありませんから。」
択捉と佐渡の頭を撫でる秦。
微笑む鳳翔だった。
暫くして、そろそろ始まるか、と相成る時間だった。
「択捉、探照灯を点けておくれ。 松輪にも連絡を。」
「了解!」
装備されている探照灯に灯が入る。
さすが、探照灯のことだけあって、遠くまで灯りが届く。
今日の目的は、警備艦の位置を知らせる事だ。
だから、海面を照らしていた。
侵入禁止エリアに船が入ると、探照灯を照射して、退去を促すのだった。
もうそろそろ打ち上げの時間になろうとしていた。
「街へ行った連中も、楽しんでいるのかな。 怪我とか無けりゃいいんだがな。」
「みんな、大丈夫でしょう。 もう十分に一人前ですから。」
「司令? 探照灯は点けっぱなしでいいの?」
「ああ。 ただ、照点は下げておいてくれ。」
「りょーかーい!」
「あ! 始まったよ!」
台船から打ち上げ音がして、空に大輪の花が咲いた。
5000発の打ち上げの始まりだ。
打ち上げが始まると、立て続けて上がる花火。
空に大輪の花のような菊先やボタン。
やし、葉楽、銀蜂、青蜂が続く。
「おぉぉ、すごいなぁ。」
「わあ、大きいですねぇ。」
上空で爆ぜて、落ちる間に色が変化する星達。
「綺麗だねぇ。」
秦、鳳翔、択捉、佐渡も上空を見上げて、次々と打ちあがる花火に見とれていた。
いつの間にか、秦のチェアに鳳翔が割り込んできた。
一つのチェアに二人で座って空を見上げていた。
択捉と佐渡は舷側に越しかけて見上げていたから、その隙にやってきたようだった。
「まったく、お前さんは・・」
「ふふふ。 いいじゃないですか。」
そう言って秦に抱きついている鳳翔だった。
秦の腕が鳳翔を抱き寄せ、鳳翔の頭は秦の胸の上にあった。
次々と上がる花火を見ていた。
「綺麗ですね。」
「ああ。 見事なもんだ。」
上がる花火の陰で鳳翔を抱きしめる秦。
「ずっとこうしていたいよ、鳳翔。」
「はい、私も。」
そして、花火大会の最後となる大玉が空に大輪の花を咲かせた。
花びらがちらちらと燃え尽きながら落ちて行った。
「終わったようだな。」
「ええ。」
物足りない顔をしている鳳翔だが、花火が終わったからには、仕方がなかった。
「あぁぁあ。 終わっちゃった・・」
「終わっちゃったね・・」
残念そうな択捉と佐渡。
1945を少し過ぎたころ、周りの遊覧船たちが帰り始めていた。
二隻の探照灯はあたりを照らしている。
まるで帰り道を指し示すかのように。
「さあ。 俺たちも片付けようか。」
「オッケー!」
そう言って甲板上のモノが片付けられていく。
30分ほどが過ぎたころ、二隻の警備艦のまわりには、一隻も残らずいなくなっていた。
「司令、誰も居なくなったよ? 帰らないの?」
と聞くのは択捉だ。
既に天蓋は片付けられていた。
秦たちは、択捉の艦橋にいた。
「よし。 帰るとするか。」
そう言って、択捉の頭にポンと手を置いて、撫でていた。
へへへっと択捉が笑う。
「松輪にも連絡してくれるかい? 終了して帰るぞ、と。」
「了解!」
松輪に帰投命令が伝わると、その位置から離れて行った。
二艦は微速で最初の桟橋まで戻ってきた。
すでに2000を過ぎていたが、街には屋台の提灯が明々と灯っているのが見えていた。
◇
官舎に帰り着いた秦と鳳翔達。
睦達はまだ帰ってきていなかったから、灯りは灯ってなかった。
「なんだ、睦らはまだか。」
「そのようですね。」
「門限は2200って言ってあるから、そのうち帰ってくるだろ。」
そう言って、食堂に入って行った。
「じゃぁ、晩ご飯の用意をしますね。」
と言いながら割烹着を着こむ鳳翔。
「みんなは、何がいいかな?」
「私は、チキンライスがいい!」
とは佐渡。
「私は、焼き魚がいいです。」
とは松輪。
秦は、どうする? と鳳翔に聞くが、
「じゃぁ、両方にしましょ。 ちょうど、サバもあるし、大丈夫でしょ。」
と微笑んで答えてくれた。
「「「やったあ。」」」
喜ぶのは択捉ら四人だ。
なんか、両極端なメニューになったが、鳳翔は一人ニコニコして料理に取り掛かった。
択捉たちはカウンター越しに調理場を覗いていた。
その目はキラキラしていた。
割烹着姿の鳳翔は、見られている事に驚いたようだったが、微笑みを返してもなお、楽しそうに料理を続けた。
鯖の切り身を6切れ用意して、焼き網に乗せて焼いていく。
しばらくして・・
魚が焼けるいい匂いがしてきた。
また、フライパンを振る姿も見えた。
すると・・
「さあ。 出来たわよ!」
と。
テーブルに赤いチキンライスと焼きサバが並ぶ。
対照的な白いポテトサラダも並んでいた。
「いいにおーい!」
秦と鳳翔もテーブルについて、みんなで「いただきます。」と。
「あ、あなた。 白ごはんもありますからね。」
「ああ。 ありがとう。 でも、俺もこっちのチキンライスをもらうよ。」
チキンライスを頬張る択捉たち。
「ん、おいしー。」
焼きサバの身を食べる松輪。
「お魚、おいしー。」
「噂通り、鳳翔さんのご飯、美味しいね。」
択捉らと共に、美味しいという。
「うふふふ。 ありがと。 そう言ってくれると、嬉しいわ。」
「良かったな、鳳翔。」
「ええ。」
択捉達四人と秦、鳳翔の六人で囲む夕食は、睦や朝霜らとは違う雰囲気の夕食だった。
四人を見ながら微笑む秦。
それを鳳翔が見て、
「どうしたんですか、あなた?」
「いや、なに。 睦らとは違う雰囲気だなぁって。 睦や朝霜らは、この子たちからすると十分に大人に見えるよ。 睦らとは違う、可愛らしさがあるよ。」
「そうですねぇ。 この子たちは、まだまだ幼子ですからね。」
食事を終えて、四人には見えないように、テーブルの下で手を握り合っていた。
「「ごちそうさまでした!」」
「おいしかったねぇ。」
「うん。 おいしかった。」
「そうか、美味しかったか。 良かったな。」
食後のお茶で一服をしていると、玄関から声が聞こえてきた。
「「たっだいま!」」
朝霜と皐月の声だ。
どうやら五人がまとまって帰って来たようだった。
ぞろぞろと食堂へやってくると、秦と鳳翔を見つけて、
「父さん、お母さん、今帰ったよ。」
「お帰り。」「お帰りなさい。」
「あれ? 択捉ちゃんたち、どうしたの?」
と聞くのは皐月だ。
「警備艦のお役目が終わって、今、やっと晩ご飯が終わったところよ。 あなたたちは?」
「屋台で散々、食べてきたから、お腹いっぱいでさ。」
とニコニコと笑いながら答えるのは朝霜だった。
「朝霜ちゃんってば、甘いモノばっかりだったじゃない。 聞いてよ-・・・」
と秦と鳳翔に密告しようとするのは皐月だ。
「ス、ストップ! そこからは、ダメって言ったじゃん!」
慌てて皐月の口を塞ぐ。
フガフガ・・と悶える皐月。
「でも、いろいろ食べて、楽しかったぴょん。」
「花火も綺麗だったねぇ。」
その言葉に皆が、うんうん、という。
夜も遅いので、皐月と睦に、択捉達を寮まで送らせる事になった。
「気をつけて帰りなさい。 皐月、睦、頼むね。」
「うん、了解だよ。」
手を振りながら帰って行く四人。
その姿を見ながら、
「あたいも、あんな可愛い妹が欲しいかも。」
「なんだ、ウチの家族たちでは不満か?」
「そうじゃないよ。 もっと人数が居てもいいかもってさ。」
けけけっと笑う朝霜だ。
「そう簡単に、大人数を家族に出来るか。 ていうか、鎮守府みんなが家族みたいなもんだろうに。」
「ま、そうなんだけどさ。」
まったく、と呆れながら見送る秦たちだった。