Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
9月に入ったこの日、午前中に書類仕事を終わらせ、午後から大石大佐と共に工廠とドックに視察にやってきた秦。
鳳翔と五十鈴の二人の秘書艦は、執務室で留守番だった。
「各艦の改造は順調そうだね。」
「ええ。 工廠の作業員には、だいぶ無理をさせていますが。」
「それは、申し訳ないなぁ。 だが、厳しいようだが、やらなければならない。 皆には、安全に気をつけてやってもらうよう、通知をしておいてくれるかい?」
「はい。」
そんな会話をしながら、ドックを一つ一つ廻っていた。
鎮守府本館から離れたドックに居た頃だった。
鎮守府の入口付近で、赤色灯が回っているのが見えた。
確かに、救急車の警告音が、遠くで鳴っているのは聞こえてはいたが・・・
「ん? 何かあったのでしょうか? あの赤色灯は、救急車ですね。」
「ああ。 そのようだな。」
秦と大石大佐は、誰だろう?、と思っていた。
すると、大石大佐の携帯電話が鳴った。
「はい、大石。 なんだ、五十鈴か。 どうしたんだ?」
(どうしたじゃ、ないわよ! そこに楠木提督はいるの?)
「ああ、いるよ。 ちょっと待って。」
携帯電話から顔を外して、電話を秦に渡す。
訝しながら、
「ん、俺かい?」
「ええ。 そのようです。」
電話を受取り、
「楠木だが。」
(提督、大変です。 鳳翔さんが、鳳翔さんが、倒れました!!)
「は? 何を言ってる。 さっきまで元気だった・・」
(今しがた、倒れたんです!! 医務室へ連絡して、救急車を呼んでいます! 至急、医務室まで来てください!)
「わ、わかったよ。 すぐ、行くよ。」
そこで電話が切れた。
「どうなさったんですか?」
「いや、要領を得ないんだが、鳳翔が倒れたらしい。 医務室まで来てくれって。」
何があったんだろう、と思った秦だったが、とりあえず、医務室まで行くことにした。
「大佐、視察は一旦、ここまでだ。 俺は、医務室へ行ってくるよ。」
「では、車で行きましょう。」
「ああ、頼む。」
大石大佐の運転で、秦は鎮守府本館まで戻ることにした。
秦が到着するまでに、救急車は既に走り去った後だった。
到着後、急ぎ医務室までやってきた秦だったが、
「入るよ?」
そこに居たのは、医療部の女医だった。
「あ、提督。 遅いですよ。」
「あぁ、すまない。 で、鳳翔は?」
「はい。 既に救急車で搬送されました。」
一足違いだった。
「遅かったか。 では、病院へ行こう。 大佐、頼めるかい?」
「了解です。」
「それで、五十鈴が一緒だと思ったんだが?」
「五十鈴秘書艦が病院に付き添っていきましたよ。」
「鳳翔の状態は、分かる?」
「いえ。 倒れて運ばれてきたのですが、冷や汗をかいて、呼吸が浅かったので、救急搬送を依頼しました。 意識は不明です。」
そこまで聞いて、急ぎ、病院へと向かった。
搬送先の病院は、予想出来ていた。
艦娘が運ばれる先は・・ 海軍の協力で、病院内に艦娘用の婦人科がある、呉赤十字病院だ。
元々は人であるものの、定期健診などで、艦娘の研究がされていたのだ。
もっとも、検査で得られた結果は、ほぼ人と変わらない、という事だけだった。
艦娘としての能力は、生まれ持ってきたものか、後天的に現れるものなのか、それすら分からないのだ。
救急車に遅れる事20分程。
秦が病院に到着し、救急処置室の前までやってきた。
どうやら、ちょうど応急措置が終わったらしく、救急処置室から集中処置室へと移されるところだった。
ストレッチャーに乗せられた鳳翔を確認した秦が声を掛ける。
「鳳翔、鳳翔!」
平静を装っていた秦だったが、白く血色のない鳳翔の顔を見ると、落ち着いていられなくなっていた。
「提督。」
声を掛けてきたのは五十鈴だった。
「あぁ、五十鈴か。 鳳翔の具合はどうなんだ?」
「まだ私も聞いていません。 しかし、執務室で急に倒れたので。」
集中処置室でベッドに移される鳳翔。
意識が無く、ぐったりしているように見えていた。
よく見ると、点滴だろうか、点滴袋が2つほど鳳翔の細い腕に繋がっているようだった。
左手には、心拍計だろうか。 血圧と共に数字が表示されていた。
慌ただしく医師と看護師が作業をしている。
その作業がひと段落したらしく、秦の前に医師がやってきた。
担当する女医だった。
「提督さんですか?」
「はい。 呉鎮守府提督、楠木です。 それで、妻は、鳳翔は、大丈夫なんですか?」
「ま、焦らないで、落ち着いてください。 現状を説明しますので。」
そう言って、カウンセリングルームに連れて行かれた。
医師、看護師と秦、大石、五十鈴が座る。
「奥様、鳳翔さんは、今、鎮静剤を打って、眠っています。 外傷は見られません。 簡易検査の結果では、身体に異常は認められませんでした。」
「異常がない? では?」
「まだ、血液検査等の結果が出ていませんので、詳しくはその結果を見て、という事になろうかと思います。 あと2,3時間は目を覚まさないでしょう。」
「そうですか。 あと、2,3時間・・・ では、私は待ちます。」
「判りました。 待機は、部屋がありますので、そちらで。 では、後ほど。」
そう言って医師と看護師が出て行った。
残された三人は、一応の異常がない事に安堵していた。
「異常はみられらず、か。 なんだろう。 で、五十鈴、詳しく教えてくれるかい。」
「ええ。 二人が視察に出て行って、しばらくして、鳳翔さんが、気分が悪いっていって、ソファーに倒れ込むように座ったんだけど、顔色が悪いのがすぐわかって、声を掛けたんだけど、そのうち返事が無くなって、呼吸が弱くなってきちゃって、医務室に連絡したのよ。 医務室に運んで、診てもらったんだけど、鳳翔さんの意識が無くなってしまったので、念のため、救急搬送をお願いしたの。」
だそうだ。
「そうだったのか。 ありがとう、五十鈴。 そう言えば、少し前から体調が思わしくないって言うときがあったから、何らかの前触れだったのかもしれんね。」
腕を組んでちょっと考え込む秦だった。
「そうだ。 大佐、五十鈴、ありがとう。 あとは、俺が居るから、二人は鎮守府へ戻ってくれ。 大佐、後を頼めるかい?」
「え、あ、はい。 大丈夫です。」
「すまないね。 それでは、後をよろしく。 それと、睦らに連絡を頼むよ。」
「了解しました。 では、提督、戻ります。」
そう言って、大石大佐は、五十鈴と共に戻って行った。
秦は、ベッドサイドまで行っていい、との許可をもらって、白衣を借りて、集中処置室に入って行った。
ベッドサイドの丸椅子に腰かけ、鎮静剤で眠っている鳳翔を見ている秦。
シーツから出ている手を、握った。
白く、か細い手だった。
まだ顔色が良くなく、いつもより顔色がくすんで見えていた。
「鳳翔・・ 鳳翔・・ 俺はここに居るから。 傍に居るからな。」
と小声で、それでも鳳翔の耳に届く声で話す。
心拍数、血圧計の数字は、ほぼ変化なく、一定に近い数字を表示していた。
それを見て、今は落ち着いているようだ、と認識する秦だった。
「鳳翔、体調が優れないって言ってたのに、気付いてやれず、ゴメンね。 やはり、苦労させ過ぎたようだね。 仕事は、大石大佐と五十鈴がいるから、彼らに割り振って、お前さんの仕事を減らそう。」
鳳翔の前髪を鋤く。
「鳳翔には、ゆっくりしてもらうよ。」
秦は鳳翔の耳元でそう言った。
握った手に力を込めて。
すると、意識が無いままなのに、握り返してきた。
!
「鳳翔・・ 俺はここにいるぞ。 お前さんの傍に、いつまでも、ずっとな。」
その言葉が聞こえたのか、少し頬が緩んだような。 ちょっと朱くなったような感じがした秦だった。
◇
執務室に戻った大石大佐と五十鈴。
「五十鈴、早速だが、睦ちゃんたちに連絡をお願いできる?」
「いいわよ。」
そう言って、睦に連絡をする五十鈴。
「あ、睦ちゃん? 五十鈴よ。 今どこに居るの?」
(執務室の前だよ。)
「え? 前? ちょうどいいわ。 入ってきて。」
(はーい。)
「おじゃましまーす。」
と言って睦が入ってきた。
「およ? 父さんとお母さんは?」
いつもは居る、秦と鳳翔がいないのに気付いた。
「そのことで話があるのよ。」
「え? 話?」
五十鈴と大石大佐が目配せして、大石大佐が話すことになった。
「睦ちゃん、鳳翔さんがさっき、倒れてね。 今、病院に搬送してきたんだ。」
「え? 倒れた? ど、どうして?」
動揺を隠せない睦だ。
「細かな症状は分からないんだ。 で、提督から連絡しておいてくれって言われててね。」
「そ、そうなんだ・・ ありがとう、大佐さん。」
「これからどうするの?」
と五十鈴が聞く。
「うん、みんなに連絡して、病院に行ってみるよ。」
そう言って、朝霜、皐月、卯月、弥生に連絡をして、病院へと向かっていった。
「睦ちゃん。 お母さんが倒れたって、どういう事だよ?」
「詳しくは分かんないよ。 だから、急いで行くよ!」
「睦ちゃーん、待ってぴょーん! うーちゃんも行くぴょーん!」
早く、早く、と皆に急かされる卯月がそこにいた。
鎮守府からは、そう遠くないとはいえ、それはあくまでも敷地からの話で、鎮守府本館からすれば、門を出て、市場の前を通り越して、呉駅前へ。 さらに駅から山手に向かっていかなければならない。
車で10分あれば着くが、走っていくとなると、それなりに時間が掛かる。
五人が病院に辿りつく頃には、息も切れ切れの状態になるのは目に見えていた。
だから・・ 門の前からタクシーを使った。
五人で1台に乗り込んで。 もう、ギュウギュウだ。
「朝霜ちゃん、もっと詰めて!」
「あーん! 潰れそうだよーー。」
「じゃぁ、ボクは前ね。」
「「「ええっ!!」」」
皐月は一人で助手席に座って、残り四人が後部座席だった。
乗車時間数分。
着いたよ、と言われて、タクシーから降りる五人。
料金は、ワンメーター分で十分だった。
小走りに病院に入って行く。
受付で病室を聞いて五人は早足で病室に向かった。
◇
集中処置室のベッドに寝かされていた鳳翔が、目覚めたのは病院に着いてから3時間ほどしてからだった。
う、うぅぅーーん、と薄らと目を開けると、そこには、秦と五人のこども達がいた。
しかも、鳳翔の顔を覗き込んでいた。
「あ、あなた・・ それに、あなたたち・・」
「鳳翔! 気が付いたか! 良かったぁ。」
そう言った秦の目から涙がこぼれていた。
「お母さん、大丈夫?」
鳳翔のベッドに六人が寄ってきて、良かった、と胸を撫で下ろしていた。
鳳翔の意識が戻ったところで、集中処置室から個室に移された。
そこで改めて、
「あ、あの・・ 私は、どうしたんですか? 確か、執務室にいて、気分が悪くなって・・ そこからあまり記憶が無いんですけど・・。」
と聞いてみた。
「その時、意識を失った鳳翔を、五十鈴が医務室に運んでくれてね。 医務室でも対応できなくて、救急搬送されたんだよ。 それで、この病院に。
俺は、五十鈴から連絡をもらって駆けつけたんだ。 病院には五十鈴が付き添ってくれて、助かったよ。」
「そ、そうだったんですね。」
「簡易の検査はやったらしいんだが、外傷性の痕跡はないらしい。 で、検査結果を後で教えてくれることになってはいるんだが、まだなんだ。」
「え? 父さん、まだ聞いてないの?」
「ああ。 まだだよ。 でも、意識が戻って、良かった。 戻らなかったら、どうしようかと思ったんだ。」
そして見つめ合う秦と鳳翔・・
「あー、またやってる。」
と気付いたのは卯月だった。
慌てて視線を逸らす二人だが、二人とも頬が赤かったから、
「もう・・ 父さんとお母さんってば、飽きもせず・・」
「い、いいじゃないか。 夫婦なんだし。」
そう秦が反論するが、
「それはそれ、これはこれ。」
だと。
そんな言い合いになりかけたころ、病室に医師と看護師がやってきた。
「失礼しますよ。 あ、目が覚めたんですね。」
「あ、先生。 ありがとうございます。」
「では、症状について説明をしますね。 あ、ちょっと込み入った話になるから、お子さんたちは外で待っててくれるかしら。」
睦らがわかった、と言って退室した。
それを確認したのち、話始めた。
「まず、先にも言いましたが、外傷性の傷はありませんでした。 どちらかというと健康体そのものですね。 それから、血液等の検査結果ですが・・・」
その結果に、秦と鳳翔が驚いたのだった。
「「え?」」
お読みいただき有り難うございます。
突然ですが、本話を持ちまして、「Family of Seven~ハズされ者の幸せ2~」を終了させていただきます。
続きは「幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~」に引き継がせていただきます。
何卒、よろしくお願いいたします。