Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~   作:鶉野千歳

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睦たちは林間学校へ。
残された二人は、二人だけの時間を。



二人の休息

4月中旬。

今日から2日間、睦たち新入生の林間学校が始まる。

こういう日は、睦たちは秦と鳳翔に起こされることなく、自ら起床してきた。

 

「父さん、お母さん、おはよう!」

 

「あら、おはよう。 今日は早いのね。」

 

「だってぇ、今日から林間学校だし、それに・・・」

 

「それに?」

 

「一緒に寝た卯月ちゃんに、蹴られて、寝てられないんだよ・・」

 

とトホホな表情をしていた。

 

「「は?」」

 

一瞬、何かと思った二人だったが、次第に吹き出し笑いに変った。

 

「あはははは、それは災難だったなぁ。」

 

「おはよ~。」

 

といって、大あくびをしながら朝霜らがやってきた。

 

「どうだ? よく眠れたか?」

 

「アタイは、まだ・・ねむ・・」

 

「う-ちゃんは、元気だぴょん!!」

 

睦の目が、ジーッと見つめていた・・・ それは、刺すような冷たい視線だった。

 

「う、睦ちゃん、何かな?」

 

「卯月ちゃん、覚えてないの?」

 

「何のことかにゃ??」

 

眉間に、しわが、入る。 ピキピキと音がしそうな・・・。

 

「あたしは、卯月ちゃんに蹴飛ばされて、一睡も出来なかったんだよ!!」

 

と卯月に詰め寄る睦だ。

 

「ぴょん-!!!」

 

その迫力に、押されている、いや、明らかに負けている卯月だった・・・。

 

「ほらほら、騒いで無いで、朝ご飯よ。」

 

「おはよ!」

 

と皐月と弥生も入ってきて、朝ご飯となった。

林間学校は、一旦、学校に集合することになっている。

そのため、朝食のあと、準備した荷物を再確認して、5人は学校へ向かった。

 

【いってきまぁぁっす!】

 

まあ、荷物と言っても、1泊なので、着替えのお泊りセット、学習なので、筆記用具、ノートくらいだ。

5人は、バックの中に、密かにお菓子を忍ばせていた。

まったく、気分は、遠足だった。

 

「遠足気分だなぁ。 大丈夫なのか?」

 

「まあ、いいんじゃ、ないですか。 向こうで、休む時間が無いくらい絞られるのも。」

 

と言っている秦と鳳翔の二人が留守番、だったのだが、子供らがいない事をいいことに、二人で温泉に行くことにしたのだ。

 

 

午前中に執務を終わらせ、軽めの昼食を済ませた二人。

いそいそと出かける準備を始めた。

秦の私服は、スラックスにカラーシャツという姿だ。

鳳翔は、というと・・・着物ではなく、洋装だった。

白のブラウスに紺のカーディガンを羽織って、フレアスカートに、パンプス。

 

「おう。 これは・・」

 

「へ、変でしょうか?」

 

と鳳翔が顔を赤めて秦に聞く。

 

「い、いや、そうじゃないよ。 そ、その、よく似合ってる、似合ってるよ、鳳翔。 また、惚れ直しそうだ・・・。」

 

「や、恥ずかしい・・」

 

お互い、顔を赤めたまま、しばらく動かなかった。

 

「じゃあ、行くか。」

 

「・・はい。」

 

秦が運転する車で警備部を出た。

行く先は・・・赤穂御崎温泉だ。

相生湾からは、めっちゃ近い・・・。

遠出でも良かったのだが、ゆっくりすることを第一に考えて、近場にしたのだった。

昼過ぎに旅館に着いて、荷物を預けて、市内観光に繰り出した。

赤穂は古くから、良質の塩が取れた城下町だ。

そのため、江戸時期には、赤穂藩の財政は豊かだったとか。

また、近くを流れる千種川の水を引いた、上水の設備がされている。

ここ赤穂が一躍有名になったのは、忠臣蔵だろう。

刃傷事件も討ち入りも江戸での出来事だが、忠臣蔵の中心人物の大石内蔵助は赤穂藩の国家老だった。

その為か、赤穂城跡には、大石神社がある。

境内には浪士四十七人の碑がある。

その境内を二人で歩いた。

赤穂城跡から大石神社、義士資料館、花岳寺、息継ぎ井戸へと、赤穂の街を二人並んで。

 

「1日中執務室に籠っているより、たまには、二人でそぞろ歩きをするのもいいだろう。 どう?」

 

「ええ。 たまにはいいですね。 こうやって歩くのも。」

 

そう言って秦の腕に抱き着いている。

互いを見やって、微笑む。

いつもは、睦たちが一緒にいるから、この二人で歩く時間は貴重だ。

陽が傾き掛けた頃、旅館に戻ってきた。

チェックインをして、仲居さんに部屋に通された。

お部屋はこちらです。と。

部屋は、瀬戸内に面した、オーシャンビューだ。

二人には十分な広さの部屋だったが、この部屋にしたのは、理由があった。

仲居さんが、こちらにお風呂がついています、と。

部屋の様子をうかがっていた鳳翔が

 

「あ! ホントだ。お部屋にお風呂があります!」

 

と声を上げた。

所謂、家族風呂と言う名の内風呂だ。

 

「こっちの方がゆっくりできると思ってね。」

 

では、こゆっくり、と言って仲居さんが出て行った。

 

「うん、この大きさだと二人で入るには十分だな。」

 

「そうですね。」

 

部屋付きのお風呂だが、露天風になっていて、海をそのまま望む事が出来る、源泉掛け流しのお風呂だった。

 

「夕食までは、まだ時間があるから、入れば?」

 

「はい。 いただきます。」

 

そこまで言って、秦を見た。

 

「あ、あなた・・・」

 

鳳翔の顔が赤いような・・・

 

「ん? どうした?」

 

「せっかくですから、一緒に・・・。」

 

明らかに、顔を赤めて、秦を見つめていた。

い、いや、と言いかけたが、

 

「わ、わかった・・・。 じゃ、一緒に・・・。」

 

と応じた。

服を脱ぎ、掛け湯をして、湯船に入った。

湯気が上がる、ちょっと熱めのお湯だった。

 

「お、おお。 ちょっと熱いかな?  でも、いいお湯だ。」

 

続いて、鳳翔も掛け湯をして、湯船に入ってきた。

 

「あ、確かに、ちょっと熱めですね。」

 

湯船からお湯が溢れていく。

ここ赤穂御崎温泉のお湯は、しょっぱい。

どちらかと言うと、海水がお湯になっている感じだ。

今、二人並んで湯に浸かっている。

このお風呂の正面は、瀬戸内だ。

湯船に浸かると、水平線が広がっているように見える。

風が吹くと湯気が揺れる。

秦にもたれる鳳翔。

そのうち、鳳翔の顔が秦を見つめた。

秦が顔を降ろす。

二人の行為は、必然的に見つめ合う格好になり、そして、熱い口づけとなった。

唇が離れると、二人の間には水糸が・・・。

 

「今日は、子供たちがいませんから・・・」

 

秦がフッと笑うと、

 

「大胆だな、今日は。」

 

「たまには、いいじゃないですか。」

 

「俺は、いつでもいいんだけど?」

 

「もう。 いじわる。」

 

と顔を赤める鳳翔を、秦が抱き寄せた。

二人は、そのままで満足するハズもなく・・・・

短い喘ぎ声が響いた・・

 

 

暫く経って、二人は縁側で、テーブルを挟んでお茶を啜っていた。

 

「ふう。 やっぱりお茶は落ち着くなぁ。」

 

「ここの緑茶は・・見たことないブランドですね。」

 

「地元産かな? 聞かない名前だね。」

 

「でも、美味しいですね。」

 

「それに、ここは景色もいいし、風が心地いい。」

 

お茶をテーブルに置いて、鳳翔は秦の膝の上に座った。

陽が沈み、辺りが暗く、闇に包まれていく。

沖には、行き交う船の明かりが見えていた。

西へ向かう灯り、東へ向かう灯り・・・

鳳翔は、秦の腕の中で、その光を追っていた。

 

「わたし・・」

 

「ん?」

 

「今、幸せです。」

 

「そうか。」

 

そう言って鳳翔をギュッと抱きしめた。

 

「俺もだよ。」

 

「はい・・」

 

そして・・今日、何度目かの口付けを交わす二人。

まわりから見れば、アツアツのカップルに見えるかもしれない。

夫婦として見るならば、新婚ほやほやの、イチャイチャ度満載に見えるだろう。

お互い、互いを離さない、と心に誓っている。

言葉にはしないが、互いが、いつまでも傍に居る、いつまでも一緒に歩む、と、思っている。

今、静かに、夜の水平線を二人して見ていた。

 

「でも・・」

 

「でも?」

 

「け、ケダモノですね。」

 

と顔を赤めて小声で。

ヴ!

秦の動きが固まる。

 

「そ、その言い方は、ないんじゃない?」

 

「充分です・・ 私の・・・」

 

「あーーー、あーーー、 あ? そういう鳳翔も・・・」

 

「わぁーーーー!!」

 

お互いの顔が、真っ赤になっていた。

 

「ま、まぁ、お互い、そう言う事で・・・ ね? だめ?」

 

「そ、そう言うことなら・・。」

 

と赤い顔で見つめあって、落ち着いた二人。

まったく、恋人チックな二人であった。

 

 

コンコン、と入口から音がして、

 

「お食事の用意を致しますね。」

 

といって仲居さんが入ってきた。

 

「もう、そんな時間なんですね。」

 

時計を見ると1800過ぎだった。

 

「部屋食ですか?」

 

「ああ。 大広間でも良かったんだけど、たまには二人だけで食事を、と思ってね。」

 

いつもは食堂で、七人で摂る、賑やかな食事なのだ。

部屋の真ん中のテーブルに、食事の用意がされていく。

今回は、会席料理だ。

二人が向い合せに座ると、料理が出される。

まず、先付が出された。

春らしく、菜の花のお浸しの様だ。

 

「はは、春らしい。」

 

「ホントですねぇ。」

 

次は椀物で、煮物だった。

向付は、お刺身。 瀬戸内の真鯛、烏賊。

鉢肴は、鰆の幽庵焼き。

やはり、春にちなんだ、旬のモノが続く。

二人して、美味しくいただいていく。

目を合わせながら。

そのたびに微笑む。

強肴は、炊き合わせだった。

そして、次は意外にも、地鶏の蒸し物が出た。

ツケだれは、梅肉を使ったたれだ。

 

「う~ん、すっぱくていいですね、これ。」

 

お腹が少々膨らんだ頃、食事だ。

白ごはんと、イカナゴの釘煮、お味噌汁。

お味噌汁は、アサリ入りだ。

 

「このアサリ、大きいですよ。」

 

「そういや、この辺りは、遠浅の海岸が残ってて、アサリが取れたんじゃ・・・」

 

「はい、そうです。 このアサリも地元産ですよ。」

 

と。

ご飯もやわらかく、釘煮もいい感じで、山椒が効いていた。

料理の最後は、水菓子。 

果物は、苺とブドウ、ピオーネだ。

やはり、季節ものだ。

 

「やあ、美味しかったね。 鳳翔は、どうだった?」

 

「はい。 美味しゅうございました。」

 

食器を片づけていく仲居さんが、「どういたしまして。」と笑顔で返してくる。

 

「やはり、春だねぇ。 食材も季節も。」

 

「そうですね。 旬のものを、旬に食べる。 これほど贅沢なことはありません。」

 

食器を片づけた仲居さんが下がって行った。

再び縁側の椅子に座ってマッタリしていると、今度は布団を敷きに仲居さんがやってきた。

「では、お布団をご用意しますね。」と言って二人分の布団が敷かれ、仲居さんが出ていった。

時刻は2100だった。

秦は、もう一度お風呂に入ることにした。

 

「食事の後のお風呂に入るか。」

 

と。

浴衣を脱いで、部屋風呂に入った。

 

「ふぅ。 やはり、風呂はいいなぁ。」

 

そうしているうちに・・

 

「お邪魔しまぁす。」

 

とおちゃらけた口調で鳳翔が入ってきた。

 

「なんだ、鳳翔も来たのか。」

 

「はい。 二人だけで、一日に何度もお風呂に入る事なんて、ありませんから、この機会を有効に使いませんと。」

 

そう言って、頬を赤めて、秦の隣に入ってきた。

再び、二人寄り添って、湯船から海を見ていた。

 

「暗い海だな。」

 

「ええ。 確かに、暗い海です。 けど・・・」

 

「けど?」

 

「その暗い海で、私は、あなたという灯りを見つけました。 そして、その灯りの元に辿りつけました。 何度でも、何度でも言います。 この場所を離れませんから。」

 

とにこやかに涙を浮かべながら、秦を見つめていた。

 

「ああ。 離さないから。」

 

また、二人の唇が重なる。

この日、何度目なのだろう、何度でもいいや、と秦も鳳翔も思っていた。

 

 

次の日の朝。

いつもは、0530に鳳翔が、0600に秦が起き出すのだが、今日は、二人とも寝坊中だ。

二人とも夢の中だった。

使った布団は1つだけ。

鳳翔と秦は、抱き合ったまま眠った。

二人ともいつもの時間に目が覚めたが、今日は朝からの家事は無かったこともあって、2度寝だ。

寝坊のくせに、二人とも、満足げな顔をしている。

普段から一つのベッドで寝ているにも、だ。

それでも0700には起き出した。

先に起きたのは鳳翔だった。

 

「おはようございます。 あなた。」

 

ちゅ!っと。

 

「・・あぁ、おはよう。 鳳翔。」

 

ちゅ。 と2度目の口付け。

睦がいたら、まったく、この二人わ! と呆れていただろう。

着替えて、遅めの朝食を摂った。 朝食は大広間だった。

いつも向い合せに座って食事をとるが、何気に、大広間での食事は、気恥ずかしかった。

何しろ、すでにほかの客は、食事を終えていたのだから。

朝食後、チェックアウトまで、部屋でまったりと時間を過ごす。

今日は、帰るだけ。

 

「たまには、こんな無駄な時間の過ごし方もいいだろう。」

 

「フフフ。 無駄だなんて、有意義に使った事にしましょうよ。」

 

「そうだな。 そう言う事にしておこうか。」

 

ははは、フフフ、と二人して笑いあった。

そしてチェックアウト。

売店で睦たちにお土産を買った。

旅館を後にして、警備部に帰るのだ。

帰り道は・・急ぐこともないので、海沿いの道を、遠回りでゆっくり帰ることにした。

右に瀬戸内海を見て、走る。

波に光が反射してキラキラ光るのを見ながら、帰って行った。

こうして二人の、短い休息は終わっていった。

 

 

【たっだいまあ!!】

 

と5人が帰って来た。

 

「お帰り。」「お帰りなさい。」

 

と秦と鳳翔が出迎えた。

5人が二人に抱き着いて、あのね、あのね、と林間学校での話をしようとする。

 

「こらこら、一気に同時に喋らないの!」

 

と怒られる5人だ。

 

「どうだったの? 楽しかった? 怪我は・・してないようね?」

 

「大丈夫さ! まだまだ元気さぁね!」

 

朝霜の元気は・・十分のようだ。

卯月は・・なぜか俯き加減なんだが・・

 

「どうした? 卯月?」

 

「うん・・・。」

 

俯いたまま話をしない卯月に代わって皐月に聞いてみた。

 

「寝相がね・・」

 

と言って・・

 

「うん、卯月ちゃんったら、寝相が悪くて、みんなに苦情を言われたんだよ。」

 

と睦。

 

「夜は、大部屋で寝たんだけど、卯月ちゃんの寝相が悪くて、隣の子を蹴ったんだよ。」

 

「それで、大目玉ってわけ。」

 

「はぁ、そう言う事ね。」

 

みんな呆れていた、というか、卯月に対して何も言えなかった。

 

「じゃぁ、卯月ちゃんは、寝相の改善が必要ね。」

 

と鳳翔に、マジに言われていた。

余計に落ち込む卯月。

 

「わぁああん! お母さんにまで言われるぴょん! 悲しいぴょん!!! わぁぁぁん!!」

 

気まずくなった雰囲気に鳳翔が、

 

「さ、夕飯の準備をしますよ! みんな、手伝って! あなた、お洗濯をお願いしますね?」

 

と、明らかに動揺していた。

 

「悪気は無かったのよ、ごめんなさい、卯月ちゃん。」

 

「じゃぁ、お母さんと一緒に寝るぴょん!!」

 

【え??】

 

驚くみんな。

そんなことはお構いなしに、ニシシと笑う卯月だった。

 

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