Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
民宿に帰り着くと時間は、夕食の10分前だった。
「あ、どこ行ってたの? 心配したよ?」
「ごめんごめん。」
と手を合わせて謝る朝霜だった。
生徒全員が席に着くと、夕食の始まりだ。
肉、野菜が乗った大皿が、ドン!と各6人テーブルに置かれていた。
食材は、すべて地元産とのこと。
肉は、地元但馬牛だった。
野菜も、民宿の畑から採ってきたピーマンやキャベツなどが並ぶ。
ご飯も地元の田んぼで採れたお米だ。
コンロは、さすがにカセットボンベのコンロだった。
時間になって、夕食が始まる。
と、同時に、ワァーっと肉に群がる生徒達であった。
焼き網に具材を載せていく子、まだかなまだかなっとワクワクしながら見てる子、いろいろであった。
朝霜は・・後者で、睦や皐月は前者だった。
「もう、朝霜ちゃんってばぁ・・ そんなにがっつかなくても、具材はたっぷりあるよ?」
「こういうのは、早く食べないと!」
そこへ女将さんから「ご飯もあるからね。」と言われ、ご飯を貰う生徒もいた。
茶碗は、丼鉢だった。
つけタレは、さらりとした、あっさりタイプのタレだった。
風味としては、ゆずの香りがしていた。
焼き網にお肉が載ると、ジューーっと音を立てていく。
それも、網いっぱいに具材が載っている。
網の面積の半分に、お肉。 またその半分にウインナー。 残りに野菜だ。 玉ねぎの輪切り、茄子、春らしく筍もあった。
【いっただきます!】
と声が聞こえたかと思えば、箸が一斉に伸びる。
まずは、お肉。 但馬牛のお肉は、柔らかく、甘い。
「おいしー。」
つけダレがさっぱりとして、また美味しい。
「このタレにつけると、さっぱりしておいしいね。」
焼き野菜も食べていく。
筍は、歯ごたえがいい感じに、ホクホクと焼けていた。
「筍も、こんなふうに食べると、結構美味しいじゃん。」
ホクホク筍に満足な朝霜だった。
「玉ねぎも甘くておいしいよ。」
火が通ると格段に甘くなる玉ねぎを頬張っているのは弥生だった。
丼鉢のご飯は、タレつけご飯として、皆のお腹の中に消えていった。
食事開始から一時間。1900になったころ、大皿の食材をほぼ食べ終えた生徒たち。
食事を終えて、割り当てられた部屋へと入っていった。
部屋へと入ってきた生徒たちだったが、結構、疲労していたので、早々にお風呂に入ることにした。
ここのお風呂は、男女別で、ちょっと大きめだった。
湯舟は5人、洗い場も5人が入れるほどだった。
「おぉぉ、さっさと入っちゃおうよ。」
順番に入っていく。
かけ湯をして、湯船につかって、体を洗って・・・。
体を洗うついでに髪も洗った。
睦はショートヘアだから、髪を洗っても時間は掛からないが、朝霜、皐月、卯月、弥生は髪が長い。 しかも、かなりの長さだ。
朝霜が髪を洗おうとしたとき、睦が手伝うよ、と言ってきた。
「え、いいのかい?」
「いいよ。」
「じゃぁ、ちょっとお願いするよ。」
とこんな感じで、皐月や弥生、卯月もお互い洗いあった。
何しろ、この学校の女子の髪形は、肩にかからない程度、という規則があったから、楠木家以外の皆はそこそこ短いのだった。
楠木家の面々はお風呂から上がってきたら、お互いに髪を鋤きあっていた。
「楠木さんって、皆髪が長いから、手入れが大変だよね?」
って言われていた。
「まぁ、ね。 でも、お互いに手伝うから、そうでもないんだけどね。」
とは皐月が答えていた。
ブラッシングはそれなりに時間を要するから、寝るまでにひと作業が入るのだった。
その姿をみて、へぇー、楠木さんって仲いいんだね、だって。
そう言われて、満更でもない睦たちだった。
ブラッシングを終えると速攻で寝入ってしまった。
中には、眠くならなかった子もいたようだが、それでも2200には、全員が就寝した。
◇
翌朝。
皐月と睦は、悲鳴によって起こされた。
「いったぁ!!」
早朝の部屋に響く叫び声。
「な、なになに?」
「なんよ?」
「いったいなぁ! もう!!」
「どうしたのさ?」
「誰かが蹴ってるんだよ! 痛いったら、もう!」
その子を蹴ったと思しき奴を見てみると・・ 卯月だった。
睦は、あちゃーと頭を抱えた。
卯月は、寝相が悪いのだった。
時刻は0600少し前だった。
「またぁ、卯月ちゃん・・」
睦が卯月を揺すって起こした。
「ん? なん、なんだぴょん・・・」
眠い目を擦りながら起きてきた。
「ぴょん、じゃないわよ! あんた、あたしを蹴ったでしょ!」
いきなり大声で怒られてびっくりする卯月。
「ぴょんーー! ゴメンぴょん・・」
「ゴメン、じゃないわよ! 痛かったんだからね。 卯月ちゃんは、ちゃんと寝相を直してね。 いい?」
「わ、わかったぴょん・・ ごめんぴょん・・」
怒られて小さくしょげる卯月だった。
0700に全員起床し、0730から朝食だった。
卯月は朝からしょげていたので、皐月が聞いた。
「ねぇ、睦ちゃん。 卯月ちゃん、どうしたの?」
「ん、実はね、周りの子を、寝ながら蹴ったんだよ。 それも”トン”てあたる感じじゃなくて、”ドカッ”って感じらしいよ。」
「ありゃぁー。 やっぱり、蹴っちゃったか・・」
皐月も卯月の寝相の悪さを知っていた。
それも、身をもって知っていた。
「私たちは知ってるから、どうと言う事はないけど、初めての子たちはねぇ・・ やっぱり、驚くよね。 ま、卯月ちゃんには頑張って直してもらうしかないね。」
「そだね。」
◇
しょげている卯月をそのままに、林間学校の2日目が始まった。
朝食後に、民宿周りの清掃のチームと、女将さんの畑チームに分かれて作業を行った。
畑チームは、水やりや草引きを手伝っていた。
畑は、よく手入れがされていて、草引きはそんなに多くはなかった。
どちらかと言うと、水やりの方が大変だった。
なにしろ、広いのだ。
畑の脇にある水路から、バケツで水を汲んで、運び、水を撒いていく。
これを何度も繰り返すのだ。
どちらかと言えば、体力勝負な作業だった。
「「ひぃぃ、バケツの重たいこと!」」
と嘆いたのは、朝霜と皐月だった。
水やり作業は、3時間をかけて一応、終わった。
終わると、休む間もなく、昼食の準備だ。
昼食は、飯盒でのカレーライスだった。
「はい、皆、各チーム毎で作ってもらうからね。 その味比べを先生がします!」
「「えーー!」」
生徒達からは非難の声が上がったが、先生はお構いなしに、準備を進めていく。
「飯盒はこれで、お米はこっちね。 カレーの材料はここにあるから。」と。
(先生、聞いちゃいねぇ・・)
飯盒でお米を炊く・・
大鍋でカレーを作る・・
どちらも、かまどが必要だ。 それも2口。
かまどに、木を組み上げ、古新聞紙を入れておく。
最近では、バーナーや着火剤を使うが、今日は、マッチで火をつけるのだ。
マッチを擦って、新聞紙に火を移して、かまどの古新聞紙に火をつけていく。
紙はよく燃える。
しかし、組み上げた木はなかなか燃えてくれない。
そのため、木くずや細かな木材にまず、火を移して、徐々に火を起こしていくのだ。
これが、なかなかうまくいかなかったりする。
「こらぁ! 何やってるの! そこの男子! 早くしなよ!!」
と火起こしを急かす朝霜。
そういう朝霜は、飯盒で米を研いでいた。
先生の分を入れると7人分になるお米だが、ちょっと多めの8人分のお米が用意されていた。
だから、飯盒は2つ。
一つに4合入るが、これが2つなのだ。
5、6度水を替えてお米を洗った。
水を張って、火が起こった網の上に置く。
”始めちょろちょろ、中ぱっぱ・・”だ。
始めは弱火、なのだが、かまどでは、なかなか火の調節はうまくいかない。
何せ、素人の中学生がやるんだから。
弱火だ、って言いながらも、よく燃えている。
「あぁ、もう! 火が強すぎじゃん! ちょっとは加減しなよ?」
”そうは言うけどさあ、むずいんだよ?”的な顔をする男子たち。
朝霜の勢いに押されていく男子たち。 それを見ている睦は(かわいそうだねぇ・・)とは思った。
なんとか弱火にする男子たち。
抜いた木材は、隣のカレー鍋用に使っていた。
カレーの方はと言うと・・
主に睦だ。
人参、じゃがいもを洗っていた。
人参は水洗いだけして、一口大に切っていく。
(皮目に栄養があるって言ってたし・・)
じゃがいもは、皮をむいて、こっちも一口大に切っていく。
(お母さんの料理姿を見てたし、手伝ってたから、これくらいならなんとかにゃるしぃ・・。)
次は玉ねぎだ。
その側の皮を2枚ほど剥いて縦に6等分に切った。
そんなに切り刻むこともなかったので、”目が染みるぅ!”なんてことは、全然なかった。
お肉は、牛のバラ肉だった。
こいつも一口大に切っておく。
材料はこんなもんか、と。
では! と睦は木べらを持って、鍋を火にかけた。
少量のサラダ油を引いて、バラ肉を入れ、軽く炒めたら、玉ねぎ、人参、じゃがいもを投入。
火は中火くらい。
玉ねぎがちょっと色が薄くなったら、水を入れる。
8人分なので、それなりの量だ。
あとは、基本、煮えるのを待つ。
時々、灰汁が浮いてきたら掬い取る。
しばらくは、グツグツと煮る。
飯盒の方はと言うと・・
今、強火だ。
飯盒の状態は、あまり最初と変化がない。
しばらくこの状態が続いていた。
「睦ちゃん、どう?」
「うん、今のところ、問題ないよ。 朝霜ちゃんの方は?」
「こっちも問題ないけど、変化なぁし。 ちょっと暇だよ?」
「暇でも、目を離さないでね。 いい?」
「おっけーだよ。 あたいは、そんなに心配かい?」
「うん。」
即答された朝霜がずっこける。
「な、なんで即答・・ 酷いよ、睦ちゃん!」
「へへへ、ごめんごめん。」
そうやっているうちに、飯盒から泡が漏れてきた。
最初は少しだったけど、次第にブクブクと大きく泡がふいてきた。
そうしたら火を遠ざける。
ふくのが収まったら、火から外して、逆さにして蒸らす。
10分ほど蒸らせば出来上がりだ。
カレーの方は、と言うと・・
じゃがいもが柔らかく煮えたころ、ルーを割りいれた。
割りいれるのだが、ほんとは、いったん火を止めてから入れるのだが、ここではそんな細かな芸当は無理だ。
だから、火にかかったまま割り入れる。
ダマにならないように、丁寧に溶かす。
ルー1箱を投入し終え、ちゃんと溶かし切った睦だ。
小さく、”よし!”とガッツポーズだ。
「お! うまくいったかい?」
「うん、ばっちり、だと思うよ。」
どれどれ、と朝霜が鍋をのぞき込む。
カレーのいい香りがする。
「いい香りだねぇ。 すきっ腹にこたえるねぇ。」
「もうちょっと煮込んだら、出来上がりだよ?」
6つのグループで、ほぼ出来上がっていたのは、睦、朝霜のチームと皐月、弥生、卯月のチームだった。
「やっぱり、お母さんの料理を見てたから、自然と手が動くよ。」
とは皐月だった。
それから15分ほど経って、全チームが出来上がった。
各チームで、お皿にご飯をよそって、カレーをかけていく。
朝霜の飯盒も、なんと、お焦げが少々あるが、うまく炊けていた。
「おおぉぉぉ!」
「へへん! どんなもんだい!」
睦のチームのカレーは、程よくとろみがあった。
皐月のチームも、程よいとろみのカレーになっていた。
あるチームのは・・ 水の量が多すぎで、シャバシャバだった。
別のチームのご飯は・・ お焦げがいっぱいだったり。
【いっただきまぁぁっす】
用意できたチーム毎に、昼食が始まった。
「ん、いけるよ、いける!」
「このご飯、うまいなぁ。」
「あ、睦ちゃんとこもおいしそうだね。 ちょっと頂戴。」
と言ってきたのは皐月だった。
「うん。 いいよ。 じゃぁ、皐月ちゃんのもちょっと頂戴?」
「うん。 どうぞ。」
お互い食べあう。
「ん、睦ちゃん、このカレーいいねぇ。」
「皐月ちゃんのも、美味しいよ。」
皐月チームのカレーの具は、ちょっと小さめだった。
だから、そこそこ煮崩れていたんだけど、それが良かったらしい。
先生による味見もあった。
「まぁ、みんなよくできました。 一番は、朝霜さん、睦さんたちのチームと、皐月さんたちのチームの2つかな。」
だってさ。
五人で顔を見合わせて笑っていた。
「ケケケ。 やっぱそうなるぅ?」
と朝霜がどや顔で笑っていた。
昼食を終え、後片付けが終わると、帰るまでの自由時間だ。
とは言え、民宿のテラスで、みんなまったりしていた。
昨日今日で、クラスメイトとよく話すようになった睦たち。
ただ、一人、暗い顔の奴がいた。
卯月だった。
「卯月ちゃん、まだしょげてるよ?」
「しょうがないなぁ。 でも、もうバスに乗るから、帰ってからだね。」
そして、バスが迎えにきた。
民宿の女将さんに、さよならのあいさつをして、バスに乗り込んでいった。
出発の時、窓を開けて、
「女将さん、バイバイ!」
と手を振っていた。
「気を付けてお帰りー」
と振り返してくれる女将さんがいた。
バスは、民宿を離れていく。
お互い、しばらく手を振っていたが、とうとう見えなくなってしまった。
「楽しかったね。」
「おもしろかったー。」
なんて声がバスの中に響いていた。
帰りは、昨日とは逆に辿っていく。
北から南へと帰るのだ。
ただ・・
30分も走ると、全員が、眠ってしまっていた。
谷間を縫うようにバスは街道を南下する。
徐々に山が低くなり、開けた盆地を走って行く。
そして・・・
睦が気づくと、もうバスは、相生の街の中だった。
(もう、帰ってきたんだ。)
見慣れた街の風景が目に入っていた。
すでに夕暮れになっていた。
目の前に学校の校門が見えてきた。
門をくぐれば、一泊二日の林間学校が終わる。
校庭に入って、バスが止まった。
校庭で整列した生徒たち。
先生からの話があったのだが、生徒たちは、眠気と闘っていたため、十分に聞こえていない。
「しょうがない子たちねぇ。 いい? 明日から通常通り学校がありますからね! 忘れないでね?」
と念押しされて、解散となった。
「あぁぁ、終わったねぇ。」
ううぅーん、と伸びをしながら朝霜が言う。
「結構、楽しかったね。」
と皐月が応えた。
睦たち五人は、わいわい言いながら、連れ立って帰っていく。
秦と鳳翔の待つ”家”へと。