死神と法皇は夢を見た   作:ウボァー

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死神と法皇は夢を見た

 ――ここ、は……?

 

 目を覚ますと、妙にふかふかした場所に寝かされていた。ベッド、だろうか。皺一つない真っ白なそれは、俺が初めての使用者であると示していた。

 

 ――おかしい。俺はこんな場所で寝た覚えはない。確か俺は、DIO様の敵のジョースター一行を殺す為に向かっている途中で……。

 

 今自分が置かれている状況を理解すると同時に俺のスタンド、『死神13』を呼び出す。

 

「ラァ〜リホォ〜」

 

 スタンド操作に問題は無し。スタンドが暴走している、というセンは無くなった。ならばジョースター一行の協力者、スピードワゴン財団の手の者か? ……分からない。情報が圧倒的に足りない。

 

 『死神13』を使い、辺りを見回す。俺が寝ていたのはダブルベッドだったらしい。曲線で構成された真っ白な部屋。壁にアーチ型の溝があるが恐らくドアだろう。大きな窓からは宇宙が見える。俺が寝ている間にわざわざこの部屋へ移動させた、という説よりも有力なのは。

 

 ――スタンド攻撃、か。

 

 俺のスタンド、死神13は寝ている間の無防備な精神を覆い、相手のスタンドを使わせず確実に殺す『夢のスタンド』。それがこうして出せている。ならばここは『夢の世界』。

 本来夢の世界ではスタンドを出すことは出来ない。ならば何故俺のスタンドが出せるのか? 恐らく、同じタイプのスタンドだからだろう。夢のスタンド使いが同じ夢のスタンド使いに囚われるなんて冗談にもならない緊急事態。

 

 ――クソッ! こんな所で死ぬわけにはいかねぇんだ。何とかしねぇと……!

 

 この部屋にとどまっているだけでは何も進展しない。危険を承知で移動するしかない。死神13に俺をベッドから降ろさせ、抱えさせたままドアへ近づく。すると丸いドアは自動で開いた。

 

 

 ♪ ♫ ♩ ♬……。

 

 

 部屋に入ってから死神13から降り、スタンドをしまう。俺がいた部屋よりも大きな部屋。普通のものより長いピアノ、丸テーブルに二つの椅子。壁の上半分に見える宇宙。こちらの部屋も白で統一されていた。

 

 長身の男がピアノを弾いている。ドアの開閉音でこちらに気づいたようだ。ピアノを弾くのをやめ、ゆっくりと振り向く。

 首から指先、足先まで真っ黒な身体。焦点があっていない灰色の目。病気かというほど真っ白の顔。

 

 こいつが原因だ、と心で理解した。ならやる事はたった一つ。

 

 ――『死神13』ッ!

 

 鎌を持ったピエロ面の死神。それを男の数メートル前に出現させる。右へ、左へと移動させる。男もそれを追っている。

 

 ――俺のスタンドが見えている。間違いない、こいつのせいだッ!

 

「ラァ〜リホォ〜。お前が俺だけをこんな世界に閉じ込めたのか? ……ナァ、出しちゃあ、くれねぇカナァ〜」

 

 鎌をチラつかせながらスタンドに喋らせる。反応は変な音一つだけ。俺を夢の世界から解放する気は感じられない。

 

 ――なら、仕方ない。

 

 俺のスタンドが鎌を振り上げる。殺される恐怖からか、俺のスタンドを視界に入れたまま後ろ向きに逃げる。どん、と後ろの壁に背中が当たる。ここまできても俺を解放する気はないらしい。

 

 ――殺れッ!

 

 逃げ場を無くしたそいつに向け鎌を振り下ろす。

 

 キョアアァオ……。

 

 何も抵抗しなかったそいつは血を流し、悲鳴をあげて……消滅した。

 

 ――スタンドが消えたなら、俺も解放されるハズだが……?

 

 そう思っている中、光に包まれて視界が真っ白に染まる。視界全てが真っ白になる前。ほんの一瞬だけ赤いクラゲが見えた気がしたがもう確認できない。

 

 ――そして俺は目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ゆめにっきというフリーゲームをご存知だろうか。

 

 まどつきという少女が見る不思議な夢の世界。彼女はいつも同じ夢しか見ない。セリフは無く、何を感じるかは人によって異なる。故に十人十色の考察があった。

 

 ……どうやら自分は死んで、ゆめにっきのキャラクターの一人に近い存在になったらしい。らしい、というのは死んだ記憶が無いからだ。

 

 ある日、いつも通り起きたと思ったらこうなっていた。夢かと思って頬をつねった。痛みはなかった。なら、夢なのだろう。

 宇宙船の中を調べてみたが何もここから出る手がかりは無く、自分がベッドに寝ても変化は起こらなかった。一向に現実世界へ戻る気配はなく、ならば暇つぶしにとピアノを弾いている。

 

 ピアノに向かうだけの日々を退屈とは感じなかった。何故か他のキャラクターがいつのまにか宇宙船の中に居たからだ。

 白黒姉妹、金髪ポニーテールの少女、帽子とマフラーを身につけた少女の影。……ただ、まどつきはいくら時間が経とうと訪れることはなかった。

 自分の心に浮かぶメロディーを奏でる。彼らがリズムをとる。変わるようで変わらない日常。

 

 

 ――そんな中、久しぶりにゆめにっきキャラクター以外の存在が宇宙船に来た。

 不思議な赤ん坊だった。ぐずりもせず、ベッドから落ちる音も聞こえなかったのに、どうやってここまで来たのだろう、と考える。

 突然現れた死神ピエロがふらりふらりと移動する。何だろうか、と取り敢えず見ていたら突然話しかけられた。

 

「ラァ〜リホォ〜。お前が俺だけをこんな世界に閉じ込めたのか? ……ナァ、出しちゃあ、くれねぇカナァ〜」

 

 閉じ込めた? 何のことだかサッパリだった。この世界に来る人はいつのまにか訪れ、いつのまにか去るものでは無いのか? 取り敢えずその旨を伝えようと喋った、のだが。

 

 ……口から出たのは言葉ではなく音だった。

 

 話が通じない。これは予想していなかった。前来た少年には通じたのだが。困った、どうしようかと思っているうちに死神ピエロは怒ったようで。☆ほうちょう☆ではなく鎌が迫る。逃げる。壁に背中が当たる。逃げられない。キョアーオ、とゆめにっきお決まりの断末魔をあげて自分は消えた。

 

 ……まさか、殺されても復活するとは思わなかったが。

 

 赤いクラゲに人の足が生えた存在――ファンの間では死神と呼ばれるそれは自分が復活したことを見届けると空気に溶けるように消えた。現実で眼を覚ますまで自分はずっとここにいるのだろうか。少し不安になった。

 

 ……そういえば、あの死神ピエロをどこかで見た気がする。はて何だったか。漫画? アニメ? まあいいか、と気持ちを切り替えピアノを弾き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 花京院典明は子供の頃宇宙人にあったことがある。

 

 ――ただし、夢の中でだが。

 

 自分の隣にいる緑色の友人を誰も理解してくれなかったあの頃。自分を守るように布団の中に潜り込んで眠りについた。

 

 ――ここは、どこ?

 

 ピアノの音で目が覚めた。おかしい、自分の家にピアノなんて無い。ば、と弾き出されたように体を起こし……これまたおかしく、自分は椅子に座っていた。

 

 ――ッ!

 

 知らない場所、まず思いついたのは誘拐。自分の友人を使い周囲を警戒する。

 

『おや、起きたのですか』

 

 不思議な音と言葉が同時に聞こえた。言葉の主人はピアノの前に立ち、自分を見ていた。

 

「……うちゅうじん」

 

 幼い自分はそう形容するしかなかった。だってそうだろう、黒い体と白い肌。目はあらぬ方を見ているようでしっかりと自分を認識している。

 

『不思議なご友人ですね』

 

「!? 見えるの!?」

 

『ここは夢、ですから。何が起きても不思議ではありませんよ』

 

 ここが夢? ならこの宇宙人は何だろうか。この友人が見える人にいて欲しい、という願いから作り出したのだろうか。

 

『……もしこの夢を忘れたくなければ、これをどうぞ』

 

「……これは?」

 

 深緑色のノートと鉛筆。

 

『ゆめにっき、です。ここに書き込んだ夢の出来事を忘れない、それだけの道具ですが宜しければどうぞ。私には必要ないものですから』

 

 夢の中で書いて意味はあるのだろうか。……いや、夢だからこそ意味なんて無いのかもしれない。取り敢えず『うちゅうじん』『ピアノ』『見える人』とだけ書いてみた。

 

『この出会いを祝して一曲、どうですか?』

 

「……あ、おねがい、します……」

 

 身体を包み込んでくれる優しい音だった。椅子に座って聞いているうちに眠気が増して。まぶたがゆっくりと降りて……。

 

 ――再び目を覚ますと、そこは自分の家だった。枕元にはあの『ゆめにっき』もあった。夢の中で書き込んだ文字も残っていた。

 

 不思議な夢だった。普通、夢の記憶は薄れてしまうが、あの夢だけはいくつになっても忘れなかった。

 時が過ぎ、自分以外にも能力を持つ者が現れた今、あれは誰かのスタンド能力だったのでは? という説も浮かんだ。だがそれを確かめることはできない。あの不思議な夢を見たのは一度だけだった。

 

 

 

 

 

 ……子供の泣き声が聞こえる。自分はどうやらパジャマで遊園地の観覧車に乗っているようだ。どうしてこんな不釣り合いな衣服で遊園地に来て……?

 

 ――おかしい、確か僕はジョースターさん達と共に、DIOを倒すためエジプトへ向かう旅の最中ではないか。

 

「ゆめにっき……?」

 

 日本に置いてきたはずのそれが、今自分の手元にあった。

 

 ――取り敢えず、『遊園地』『赤んぼの泣き声』とだけ書いてみる。

 

 陽気な世界から一転、悪夢へと変化する。犬が鎌に貫かれ、目がギョロギョロ動き……。

 

「うわああああああっ!!」

 

 夢でよかった? とんでもない、本当の悪夢はこれからだった。

 

 赤んぼが怪しいという僕の主張を聞いて、ジョースターさん、承太郎、ポルナレフは僕の気がおかしくなってしまったと思っている。誰も僕の言う事を聞いてくれない。それが真実だとしても、彼らへ見せられる証拠は何も無いのだから。

 敵は僕を一番警戒していた。だから僕を集中して狙い、仲間割れを誘っていた。だが、敵にはたった一つ誤算があった。

 

 ――あの宇宙人に感謝する。これが無ければ、皆何もわからずに殺されてしまっていただろうから。

 ここに書き込んだ夢の出来事を忘れない、それだけのアイテム。それだけでも、今の自分にはありがたい。

 

 『遊園地』『赤んぼの泣き声』『死神13』『赤んぼがスタンド使い』『夢のスタンド』『身につけているものしか持ち込めない』……。

 

 書き込んでいないにもかかわらず、文字が増えていた。

 

「……やはり、これも『スタンド』の一部か……」

 

 自分で書く、というのはゆめにっきの使い方の一部でしかなかったわけだ。無意識のうちに必要な情報を書き込んでいた。これだけ情報があれば十分だ。

 ――スタンド戦は情報戦である。それを調子に乗っている赤んぼに教えてやろうではないか。

 

「――死神13、覚悟しておけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、う……」

 

 重い重いまぶたを開ける。身体に繋がったチューブ、無機質な天井が現実世界で初めて見たものだった。

 医者も看護師もばたばたと駆けつけ、大丈夫ですか、と声をかけられる。二度連続で瞬きをする、など必死に動いて意識がある事を主張した。先生達はそれを見て心の底から良かった、といった顔をした。

 

 どうやら、自分は二十年以上昏睡状態だったらしい。ずっと入院していたせいか、同年代の人と比べて体は細く肌は白い。ご飯が喉を通らず、リハビリにもかなりの時間がかかった。

 

 少しずつ自分で出来ることが増え、自力で病院着から着替える。黒のタートルネックに黒のズボンと黒づくめだった。これが一番自分に似合っている気がするのだ。

 

 ――ふと、夢の世界だけでなく、現実でもピアノが弾きたいな。そう思っただけだった。

 

 自分を中心に、半円状のピアノが現れた。

 

「…………な、にが……!?」

 

 恐る恐る触れると夢と同じ音が鳴った。もしや幻視か、と思いその事を先生方に相談した。

 

 ――それが運命の分かれ道だった。

 

 ある機関が話をしたいそうだ、と先生方から渡された連絡先。そこにはこう書かれていた。

 

『スピードワゴン財団』

 

 ――ジョジョの奇妙な冒険の世界にセンチメンタル小室マイケル坂本ダダ先生って、どうなんでしょうか?




スタンド名 無し

【破壊力−E/スピード−C/射程距離−A/持続力−A/精密動作性−C/成長性−C】

現実世界ではピアノ等、夢の世界ではピアノ含む宇宙船、ゆめにっきキャラクターの姿を取る群体型スタンド。
夢の世界ではスタンド使いを自分の夢に誘う能力がある。能力の対象となったスタンド使いが夢の世界から現実世界に戻るには
・一定時間の経過
・主人公の殺害
・自殺
といった条件のうちどれか一つを満たせばいい。主人公を殺害したとしても、宇宙船が無事ならば主人公は復活する。
夢の世界で主人公を本当に殺すには、宇宙船にある全ての物を壊す必要がある。なお、そうしようとした瞬間鳥人間達に襲われ現実で目を覚ますので実質不可能。


ゲームゆめにっきに出てきた物なら全て現実でも作り使用できるのだが、物によって精神エネルギーの消耗具合が変わる。ピアノが一番疲れないとのこと。
ピアノに破壊力は無い。「とてもいい音が出ます」とは主人公談。ピアノの音をスタンド使い以外にも聞かせようと思えばできる。が、やっぱり精神エネルギーを消耗する。

花京院に渡したゆめにっきは主人公が無意識のうちに作っていたもの。使用した人物がゆめにっきの所持者(スタンド使い)となり、念じれば現実、夢の世界どちらでも使用可能。ゆめにっきの能力は主人公も言った通り「ここに書き込んだ夢の出来事を忘れない」だけである。

主人公の見た目はセコムマサダ先生似。夢の中ではセコムマサダ先生まんま。ピアノを弾いたことがないのに弾けるので天才では、とか噂されている。

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