死神と法皇は夢を見た   作:ウボァー

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待たせた割に短くて申し訳ない…
少しずつ、でも確実に。物語は進んでいます


機転、一転、好転……?

「これで、どう、だ――?」

 

 攻撃を受けているにもかかわらず夢から覚めない彼に対し、『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』で今すぐに目を覚ますように書き込んだ。緊急事態であるからか、あの鳥の頭を持つ人間の妨害は無かった。

 スタンドを介して見えたあの世界は? 氷を身に纏っていたあの青年の正体とは? 聞きたいことは山ほどある。それらをぐっと奥底に押し込めて、岸辺露伴は彼の動きを注視していた。

 

「…………………………う、うう…………っ」

 

 かふ、と口内に溜まっていた血を吐き出す。

 

「あれ、ろは、せんせ……と、だれで、すか…………? わた、し、は――」

 

 焦点が定まらぬまま、男は回らない舌をなんとか回そうとしている。

 

「無理に喋らなくていい。……あのクソッタレに電話はした、もうじきここに来る。それまでじっとしててくれ」

 

 そうですか、と消え入りそうな声で応えて――また、意識を失った。

 

「自分のスタンドの夢で、敵に襲われ、殺されかける――あの仮説を一刻も早く認識させないと、いつか本当に自分のスタンドに殺されるぞ」

 

 眠らずに生きていけるか、と問われて迷う事なくYESと答えられる人間はいない。睡眠は三大欲求の一つ。逃げることなどできやしない。彼は一生このスタンドと付き合っていかねばならないのだ。

 

「露伴っ!」

 

 バイクのエンジン音。タイヤと道路が摩擦で熱を帯びる。東方仗助はバイクから飛び降りるようにして離れ、意識を失っている彼の元へ急いで駆け寄る。

 

 この世の何よりもやさしい能力を持つスタンド、クレイジー・ダイヤモンド。能力を発揮しようとする彼のスタンドの手の平が、倒れている男に向けられて――三人のスタンド使いは同時に目を見開く。

 

「これは一体どういう事なんだ……?」

 

 出血が止まっている。いつの間にか彼の怪我が塞がっている。だが傷が完全に癒えたわけではない。ばっくり割れた粘土を一つに戻そうとした――そんな治り方だ。

 怪我は間違いなくしていた。それはべとりと衣服に染み付いた血が証明している。それに仗助は男の状態を電話越しに聞いていた。凍傷と裂傷が混ざったような、今まで見たことのない怪我だと。岸辺露伴はこんな緊迫した状況で嘘をつくようなヤツじゃない。

 

「と、取り敢えず残ってるキズを直すっスね」

 

 クレイジー・ダイヤモンドが男に触れる。

 ぶより、と触れた部分が歪んだ。

 

「うおおっ!?」

 

 およそ人間のものと思えぬ感触に思わず飛び退く。手を離すとぶよん、と反動で皮膚が……いや、肉体が揺れる。脂肪の揺れではない。ゼリーやゲルのような揺れ方だ。

 ぶるぶると震えた箇所から目の大きな、三つの大きな突起を持つ……名状し難い何かが飛び出す。彼の中から出てきたそれは、地面に降り立ちスタンド使い達の姿を確認する。大丈夫だと判断したのか、ぴょんぴょんとその場で飛び跳ね、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの宇宙船の中、私だけが立っている。いや、いつもとは違う。ギアッチョの攻撃を受けて壁や床が家具がボロボロになっている。

 

 

 ――からん。ある程度の硬さと質量がある物の落ちる音。

 

 

 音がした方へ視線を向ける。そこには見覚えがある、ありすぎる模様の仮面。笑っているのか悲しんでいるのかわからない表情の白黒の仮面は、自分の顔に丁度はまりそうな大きさだ。

 これもエフェクト――なのだろうか。手に持って、何の気なしに被る。不用心すぎる、と嗜める人はいない。

 自分が現実ではかつて無いほど疲弊している事実を忘れているのか、彼はどんな能力かもよくわからないエフェクトを使った。使ってしまった。

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、やめて』

 

 何の変哲も無い、照明のスイッチ。少女は手を伸ばす。

 

『お願い、やめて』

 

 パステルカラーのふわふわした家。二人の女子が同じ部屋。悲しいかな、互いに声は届かない。それとも、聞こえてはいるが目をそらしているだけなのか?

 

 

 

 

 ――ぱちん。暗転。

 

 

 

 

『どうして』

 

『わたしを』

 

『みないの?』

 

 それに限界はない。一度触れればどこまでもどこまでも飲み込んでいく。その奥底には否定と共に押し込めたどろりとした感情の群れ。延々と見せられる苦行。いつまでもいつまでも、こうなったのはお前のせいだと捕らえて離さない。

 

 

『――っ』

 

 いつもと違う。この夢はおかしい。目を覚まそうと頬をつねろうとして、気付く。仮面越しではつねられない。仮面が、外れない……!

 

 

『だれもたすけにこない』

 

『だれもたすけられない』

 

『おまえはひとりぼっちだ』

 

 

 雨が降っている。

 雷が落ちる。

 また一人誰か死ぬ。

 

 好奇心で猫が殺す。猫に近寄ってはいけない。たとえ手招きされたとしても。誰かの名前を叫んでも、爆風に掻き消されてしまうから。

 好奇心は彼を殺した。何度も何度も殺された。理由など無くて。運命が彼を閉じ込めた。

 

 

 

 ――じゃあ、自分は?

 

 

 

 ぞっとするような殺意の象徴。それは自分の中に沈んでいた。私は何だ? 自分は何だ? どうしてこんな姿になっている?

 何かが体内の窓を叩く。駄目だ、駄目だ、駄目だ! それは出てくるべきものではない。何もかもを喰らい尽くす。純粋な悪。夢が壊れてしまう。

 

 

 恐怖。

 

 

 何もかもがわからなくなる。何もかもを塗りつぶしてしまう。内側と外側がひっくり返って、全てが台無しになって――、

 

 

 

 

 

 誰かに、頭を撫でられていた。

 

 赤を下地に黒や緑などの色を塗した縦に長い存在が、小さな手を優しく動かし私の頭を撫でている。どうしてかきゅ、きゅ、きゅ、と不思議な音もする。

 私が目を覚ましていることに気付くと、しゅぽん、と地面に潜ってどこかに行ってしまった。

 ここは……病院、だろうか。清潔感ある白で部屋が包まれている。

 

「……随分早いお目覚めですね」

 

 誰かの声。目に入るのは深緑の学生服。

 

「――――きみ、は」

 

 あの頃とは声も身長も顔立ちも変わっている。

 

「お久しぶりですね、『うちゅうじん』さん」

 

 幼い頃、そう彼は私を呼称した。少し恥ずかしいのか、頬の赤みがほんのり増す。

 

「僕の名前は花京院典明、と言います」

 

 君の名前はもちろん知っている。けど、彼はその事を知らない。その事実を知られてはいけない。

 

「貴方にきちんと、お礼が言いたいんです」

 

 ……お礼? 何のことだろうか。身に覚えがない。

 

「ですから、どうか……貴方の名前を、教えてください」

 

 私の、名前。私の名前、は――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は苛ついていた。苛つきのまま蹴飛ばした小石は真っ直ぐではなく曲線を描いて溝に落ちた。

 

 なぜ俺があんな薄汚い暗殺者の無茶振りを聞かねばならないんだ。ボスに近付けるかもしれない? 復讐? 馬鹿を言うな。勝手に探って勝手に死ね。俺を巻き込もうとするんじゃない。

 

 そう愚痴ったとしても、情報分析チームという肩書きが男をそうさせるように仕向ける。取り敢えず今あるスタンド使いの情報を適当に洗い直して、後は適当な誰かに押し付けようと思考を巡らせる中、ふと思い出した。

 

 

 ――10年ほど昔、裏の世界で大きなカネが動いた。カネで雇われたスタンド使い達はある人物を殺せ、と命令されたらしい。

 だが、その依頼を達成したものはいなかった。全員返り討ちにされたと風の噂で聞いた。

 

 

 カネで雇われたプロが誰一人として結果を残せなかった。なら、そいつらはプロではない。プロを自称する二流だったに違いない。

 俺はそんな二流とは違う。一流だ。誰よりも強い。その気になれば誰だって殺せる。だからこそ面倒ごとは他人に押し付ける。

 銃を突きつければ何だって言う事を聞かせられると勘違いしている馬鹿とは違う。自分の能力を見せびらかす、なんて事はしない。

 

 ボスは出来る限りアシをつけたくないだろう。自分と関係の無い、どうなってもいい外部の人間を使うのは十分に考えられる。それを知っているだろうに、ボスの正体に近付けるとほんの僅かな欠片でも信じているあいつらが滑稽で仕方がない。

 

 ――ボスの正体などどうでも良い。自分が損をしないこと、重要なのはそれだけだ。

 

 スタンドの媒介として常に懐に入れている53枚のトランプは、変わらずにそこにあった。




暗殺者チームから夢のスタンドを探せとお願い(脅迫)されたムーロロ!取り敢えず裏社会の人間から漁ってみることに!
裏の世界に関わりがあり、かつ夢のスタンドを持つ人間…一体誰なんだろうなぁ…
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