カメオ、更新ペースを上げる願いを叶えてくれ……。
この世で起きることに意味があるとすれば、それは結果だけだ。
過程はどうでもいい。結果さえ出れば良い。過程を重要視しようと、過程で得たものは素晴らしいのだと唱えても、それは理想論にすぎない。
だから、ここには結果だけを残す。
誰が。いつ。どうやって。何を。どうした。
全ての過程は消し飛んだ。
『彼の存在はディアボロに知られた』
『スタンド使いの集団は日本に来る』
「ハァッ、ハッ、ハッ――」
ここは借りているホテルの一室。……寝汗が酷い。恐怖は抜けそうにない。
夢の中、花京院が助けに来なかった中でかの悪魔の襲来をどうやって切り抜けたのかは些細なこと。今は『知られた』ことだけが問題だ。
絶頂を邪魔する者である自分を排除する。未来視の能力を持たずとも、そう遠くない未来にそれが現実になることは間違いない。
「4部の終わりから、5部への間――時間は、どれだけある?」
わからない。
「今ディアボロが動くと、影響はどこまで出る?」
わからない。
「もしも暗殺チームがいなくなれば、ジョルノ達はどうなる?」
わからない。
ただ一つ言えるとするなら――黄金の意志が途切れるだろうことは確かだ。
何を、どこで間違えた。
「……知らせなければ」
どうやって、誰に? 杜王町に住む彼らに任せるつもりか?
吉良吉影よりも残酷な人殺しが今から来ます、ですが殺してはいけません、未来のギャングスターの成長のために――なんて言えばいいのか?
頭を抱えても良案がやって来るはずもない。来たのは精神のブレをきっかけとしてスタンドにより現実へ引っ張り出された奇妙なもの。
渦巻しっぽの生えた幽霊の口から、蛍光色のどろりとした液体が彼の頭へと流れていく。粘性のあるそれが頭からだらだらと、彼を苛むように包んでいる。スタンドから発せられる物体で窒息してしまうのでは、そう心配する人はここにいない。孤独の部屋で押しつぶされて溺れていく。
自分に害はなくとも邪魔になるドロドロから逃げようとはしない。それは触れてはならないものに触れた罰を心のどこかで求めている証拠。そもそも、彼は最初スタンドを制御できるだけの意思の強さを持たなかった弱い人間だ。
目に悪い色合いが床に溜まっていく。頭が回るほどに自分のマイナス点を咎める言葉が心を締め付ける。
「………………あれ」
そういえば、花京院はいつになったら帰ってくるんだろうか? 何かしたいことがあるからと部屋を出て、それで……。
……一人よりも二人の方がきっと良くなる、頭を回すのは先延ばしにしよう。花京院ならきっと相談に乗ってくれるし口も堅い。
取り敢えずスタンドから出たコレをどう掃除しようか。まず制御できていない状態のスタンドが元になっているコレは消せるのだろうか。スタンドの見えない一般人にはそう影響は無いだろうが自分はスタンド使い、これを放置したまま生活はできない。どうしたらいいのだろうか、と悩む男が立っていた。
――気配をたどる。それは自身のスタンドの延長線。彼からもらった夢日記。手を伸ばして、掴んで、引き寄せるのではなくそちら側へ移るように。
スタンドの射程距離や能力でこのルールに例外はあるがそんなものは気にしない。事象を逆転させる。大切なのは『できる』と思うこと。
彼のスタンドにより夢へ囚われ、現へ姿を見せるのにも彼のスタンドが関与した結果、花京院は未だ彼のスタンド――『デイドリーム・ビリーバー』の影響下にある。ディアボロの襲来という危機は何となくとしか言えない曖昧な感情と共に伝わった。――これから起きるだろう戦いの予感も。
あの人は弱い人間だ。スタンドが巻き起こす闘争も裏の世界も知らなかった人間だ。頼り方を知らない人間だ。大人のような子供。問題を一人で抱えて両手が塞がり、転んでしまって立ち上がり方が分からない。
問題解決のために、手を差し伸べるために正面切って「貴方を助けたい」と言っても「大丈夫だから」なんて遠慮してしまう日本人の典型的な大丈夫ではない断りをするのは目に見えている。自身のスタンド能力の強さによる慢心ではなく、本当に心の底からの遠慮。自分のせいで他人に迷惑をかけたくない、その気持ちは分からなくもないが……それで死んでしまってもいいと言うのか?
良くない。許せない。僕が許さない。彼が殺されるのを黙って見てろ? そんなの受け入れられない。そうやって死んでも良いことなんて一つもない。
だから、勝手にやってやる。勝手に手を貸す。これは僕が一人で始める反抗だ。
僕の最期になったあの日から一つも変わらない僕を見て、君はほんの少しだけ目を細めた。
君の纏う色は変われど、シルエットは変わらない。細かく顔を見ると、肌のハリだとか小さなシワだとかが気になって。……どうでもいいことが話したい。自分がいなかった時に起きた出来事を共有して過ぎた年月を埋めたくなる。
死人だというのに、いつかいなくなる存在なのにずっとを望んでしまう。隣にいたい。彼を目の前にしてそう思ってしまった。モノクロの彼女たちに「めっ」なんて叱られる幻聴が引き止める。……もしかすると幻聴じゃなかったのかもしれない。
落ち着いて、線を引く。どんなに自我を保っていても、生者と死者の境界は越えてはいけない。
「……老けたなぁ、承太郎」
――無から有として現れた法皇の主は、会えない筈の星と再開した。
杜王町にはスタンド使いが多い。これは虹村京兆と吉良の父親が矢を用いて戦力となるスタンド使いを増やしたことに起因する。
――スタンド使いとスタンド使いは引かれ合う。多ければ多いほど、目に見えない引力は強くなる。矢に由来しないスタンド使いもいるこの杜王町で正確なスタンド使いの数は分からない。杜王町にいたが、離れたスタンド使いもいる。
目の前にいる彼が、杜王町から離れたその一人だ。
「ひっ、んだよココ……!」
手入れが満足にできていないぼさついた髪、囚人服。犯罪者の証。ぱちぱちと火花を放つ黄色のパキケファロサウルスのようなスタンドはボロボロの状態で、とても戦えるようには見えない。
彼の名は音石明。スタンドはレッド・ホット・チリ・ペッパー。電気そのもののスタンドを操る強者でありギタリスト。
スタンドはシンプルなほど強い。能力を発動させるにあたり複雑な条件を持つものもいるが、応用が効き対策を練りにくいシンプルな能力に勝る強さはない。
仗助君のクレイジー・ダイヤモンドを追い詰めたこともあるスピードとパワー。彼を暗殺者との戦いに巻き込めば……とまで考えてそれは流石に良心が咎める。仗助君と戦い、承太郎さんに脅され心が折れてリタイアした男を一度命の危機へ? 無理だ。そこまで非情にはなれない。
……なんでまた夢の世界へ来たのか? 答えは「掃除に疲れてベッドに寝転んだらそのまま寝た」……うん。我ながら体力のなさが浮き彫りになってしまった。情けなくなってくる。
弱っていたとしても強力なスタンド、下手に刺激する方が危険。時が過ぎるのを待つのが一番。さも自分は人間ではなく舞台装置だとピアノを弾いて彼が起きるまで待とうと、しただけだった。のに。
「………………」
何だこれ。手を、鍵盤の動きを見られている。夢の宇宙船に備え付けられた椅子を動かして、この演奏会の特等席を自分で作ってきた。近い。そして音石の体が一定周期で揺れて……それじゃまるで『リズムにノッている』みたいじゃ、というかそのものだ。
音石明はギタリスト。仗助君達を襲った時もエレキギターを持ってという筋金入りのギタリスト。とてもピアノに興味があるようには見えない。これは個人の偏見だが……音石明はロック以外音楽とは認めない、なんて言いそうだと思っている。そんな彼が大人しくしている。
つまり、音楽性が……合った? その証拠か、彼の両手は独特の動きをしている。エアギターでセッションしているつもりだろうか。
うん。……うん。招かれるスタンド使い、友好的と敵対的の振れ幅が大きすぎないか?