死神と法皇は夢を見た   作:ウボァー

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大変長らくお待たせしました……。今回も短め。


勇気の一歩

 うろうろぐるぐると同じところを行ったり来たり。電話を手に持って、番号を押して途中でやめて。

 

 彼が思い詰めているのは未来について。

 何がどうしてそうなったのか。自分の所為であり得ないことが起きようとしているが責任が取れそうにないから逃げたい――その願望がずっと胸の端にちらついている。そのくせ自分が原因で皆が傷つく姿は見たくなかった。

 臆病でお人好し、頼みを断れない弱い人間なりに動こうとした結果、『誰かを頼る』ことがようやく選択肢の上位に入ったわけだ。

 

 口から粘液を垂れ流していた幽霊は彼の頭上ではなく今度は隣にいる。じっと見ている。逃げ出さないようにと監視しているのか、声なき応援なのかは分からない。

 

 ふう、と息を吐く。

 緊張から鼓動が早くなったまま、言うべきことをホテル備え付けのメモに書き殴った原稿モドキを確認しながら。決心してから何度目かの挑戦かは分からないが、男はようやく空条承太郎へ電話をかけることに成功した。

 

「もしもし承太郎さん。………………もし、私がこの先何が起きるかを知っていると言ったら……あいやその、そこに私はいないし知っているのは全部じゃなくって、飛び飛びでっ」

 

 心の中ではなんともなかったのにいざ口にすると噛むわ早口だわ整理できてないわ、とダメダメの三重苦。急に何を言っているんだ、ふざけるな、と怒鳴られても仕方がないと自分でもわかる。

 

『――そうか。大変だったな。伝えてくれてありがとう』

 

 予想外。電話越しの声は一世一代の告白を何一つ疑うことなく受け入れた。

 

「あ………はい?」

 

 夢は時として未来を見せることもある。適当か偶然か本物かの判断ができるのは当人以外に存在しない、それが予知夢。

 デイドリーム・ビリーバー、かのスタンドの能力を全て把握できた者はいない。男の能力には未知がまだ潜んでいるのだと周囲は認識している。

 ――幸か不幸か、原作知識はスタンド能力の一部だと思われた。男がそのことに気がつくのはまだ先である。

 

『ところでここに花京院がいるんだが』

 

「………………あの、えっ?」

 

『今変わる、少し待ってくれ』

 

 ガサガサと音。時間にしてほんの数秒、電話の主が変わる。

 

『変わったよ、僕だ。声をかけなかったのはすまないと思っているけど、それ以上に急いでいたものだから』

 

「……どうして?」

 

 いろんな意味の込められた疑問。どうやって向こうまでの距離を飛び越えたのか、その行為をした理由は何なのか、……自分にそこまでするのは何故なのか。

 

『僕は守りたい。友人を失うわけにはいかない』

 

 花京院典明はキッパリと言い切った。

 

『恐ろしいスタンド使いが来る。そうだろう? このままだとDIOの手先と同じ、いや、それ以上の殺意が杜王町を襲うことになる。それは避けなければならないが、逃げ場はない。なら抵抗するしかない』

 

 本当は電話越しで伝えず、直に問いただしたい重い言葉。

 

『貴方はどうしたいんですか?』

 

「――それは」

 

 返せる言葉を自分は持っていない。口の中はカラカラに乾いている。答えまでの時間を稼ぐ悩み声はスカスカの風になって消えていく。

 マイナス思考を察知して幽霊がまた粘液を垂れ流そうとして、何かにばちんと叩かれた。下手人は床から生えている一本の腕。わきわきと動いているその手のひらにはジト目になっている瞳。スタンドは、己の主たるスタンド使いを見つめている。

 

 ☆めだまうで☆。それは戻るためのもの。取り返しのつかない場所から帰るためのもの。

 お前の考えるそれは本当に言いたい言葉なのか? まだ逃避を続けるのか? 口はないが目で語りかけてくる。睨みつけてくる。

 

 ……違う、自分は逃げたいわけじゃない! ただ、怖い。

 

 口を閉ざす。受話器を持つ力が強くなる。怯えているのか? 当たり前だ。自分がいることが、何か行動を起こすことが最悪の可能性を呼び込むのだと起きた事象が証明しつつある。

 

「っ」

 

 原理は不明だが移動した腕が彼の背を押す。バシッと叩く。

 ……スタンドは自身の精神の発露。ならば、その行動はきっと自分の奥底にある思いによりもたらされている。もう一度叩かれる。綺麗にまとめることはできないまま、吐き出してしまえと急かしている。

 

「私だって、止めたい。でも皆が巻き込まれるのはもっと嫌なんですよ!」

 

 目覚めてからこれまで出したことがない大声が部屋に響く。

 

「抗えるならどれほどいいものか……でも、そんな力は無い」

 

『そこから間違っている』

 

 感情的になるこちらとは対照的に冷静さを保つ法皇は静かに語る。

 

『貴方は弱くなんてない。だろ? 承太郎』

 

 友のその言葉に無言で頷く。

 空条承太郎は知っている。自身のスタンドの暴走を自身で止めた彼を見ている。あの時起きたことが、彼の強さを保証している。

 

「――そう、でしょうか」

 

『ああ』

 

 ☆めだまうで☆、ぐっと親指を立てている。どうやらお気に召したようだ。これがグッドコミュニケーション。満足したからかそのまま床へ潜って消えていった。

 信頼を受け止めるため、反芻するかのように同じ意味のやりとりを繰り返す。口に出すほどに実感が強まる肯定。……知らない間に幽霊も☆めだまうで☆と同様に消えていた。

 また電話相手が変わる。

 

『君の言うスタンド使いについてだが、特徴が当てはまる者を探すようスピードワゴン財団にも連絡しよう』

 

「はい、ありがとうございます」

 

 男は電話をかけた時とは打って変わってハキハキと感謝を告げる。

 ……彼は全てを伝えたわけではない。暗殺者チームの容姿は持ちうる限りの語彙力で伝えられたとは思っている。スタンド能力も覚えている範囲で答えたものの、ディアボロとドッピオに関する全ては省いている。

 徹底して姿を隠している謎のボス、として知られるパッショーネのトップ。その男のもう一つの人格と姿を知っていると気付かれたのなら……これまで以上に姿を隠し、かつ情報を抹消するべく彼の直属のスタンド使いが放たれ、多くの死がもたらされるだろう。 

 

 ――余計なところを突っつく必要は今は無い。出来る限り原作に沿わせる、それが最優先事項。

 

 電話を切る。胸を撫で下ろす。乗り越えなければならない試練はまだあるが、彼らの力を借りられるのは心強い。心の重荷はかなり軽くなった。そう、この風船のように! ……またスタンドが勝手に出てきてしまった。嗜めるように指先でつつくも揺れるだけ。

 

「…………?」

 

 脳の隅を引っかかれるような不快感。緊張の反動か? すぐに落ち着いたので気のせいだろうと忘れる。

 忘れちゃいけない、承太郎に話し終わったのなら次は杜王町のスタンド使い達に早く教えないと。ドアを開ける。そういえば花京院はどうやって帰ってくるんだろうか、なんて考え事をして。

 ……だからだろうか。風船が割れ、中から()()()()()()()()()()()()()()トランプのジョーカーが出てきたのに男は気が付けなかった。

 

 

 

 電話が切れた瞬間、また電話が鳴る。リンリンと喧しい鈴の音が早く出ろと急かす。繋げると同時、焦った様子の声が聞こえてきた。

 

「何があった?」

 

『音石明が我々に対し、要求に応えられなければスタンドを使用すると脅しを』

 

 音石のスタンド、レッド・ホット・チリ・ペッパー。仗助との戦いでボロボロになっているが、その能力はシンプルで強力な電気そのもの。

 エネルギーとなる外部からの電気を通さぬよう対策してある牢獄とはいえ、待機している財団職員の中にスタンド使いはいない。放置していれば被害が出てもおかしくはない。早急に対処する必要がある。

 

「何を要求している」

 

『それが……ここから出せ、宇宙人に合わせろ、とのことで』

 

 ついに狂ったか、それが一番最初に浮かんだ言葉。牢屋の中の方が安全だ、と完全にビビっていた姿を思い出す。

 

「宇宙人? …………いやまさか」

 

「花京院、知っている奴か?」

 

「まぁ、当たっているかどうかは分からないけど覚えしかないって感じかな。承太郎も知っている人だよ」

 

 男は困ったように笑っていた。

 

 

 

 人気のない、人目につかない暗い道。一人の男、人殺しの男が立っている。

 

 口癖のようにしょうがねーなぁ、と呟く。ちょっとでもカネを浮かせるためとはいえ、メンバー数名を小さくしての密航は危険だと思っていたのだが、リーダーの決定となれば従うほかない。

 ……まァ、一人分のチケットで複数人のスタンド使いが来たなんて思いもしないだろう。結論からすればリーダーの判断で正解だったと言うわけだ。

 

 目的地は漫画家岸辺露伴の家。

 何かしらを知っている、もしくは関わっているのは間違いない。口を割らなければちょいと不幸なことが起きるだけ。

 

 ――指令が下されてイタリアから日本へ。飛行機、タクシー、乗り継いできたにしても()()()()。途中が飛んでいる。そのことに誰も気付いていない。

 

 ……きゃあきゃあと、赤子の笑う声がどこからともなく聞こえていた。

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