短編から連載にしてみましたが、投稿は不定期になると思います。
「スピードワゴン財団……」
「ええ、何でもその幻視について調べたいそうよ」
世界でも最高峰の医療技術を持ったスピードワゴン財団が個人にコンタクトを取る、という謎。一体どうするのかしらネエ、と頬に手を当てながら呟く看護師を横目にぎゅうと手を握る。
ここは、ジョジョの奇妙な冒険の世界。なら、夢の世界で会ったあの少年と赤ん坊は……。
「……スタンド能力、だった、と?」
「あら? 何か言いました?」
「いいえ、何も」
――ゆめにっきを渡した、あの赤髪の少年は恐らく『花京院典明』だ。とすると、緑色の友人は『緑の法皇』。何も疑問を抱かなかった自分を責める。もし、あの時忠告していれば……無駄か。何年も先に君は死ぬ、と伝えても意味は無い。
「それで、いつスピードワゴン財団へ行けばよろしいのでしょうか」
「こっちの都合のいい時間を向こうに連絡すれば大丈夫だそうよ。向こうの先生方が来てくれるらしいわ」
「……そうですか」
何を調べるのか、と言われたら間違いなく自分の能力についてだろう。そして、敵意はあるか否か。
……あの夢の世界もスタンドだとするなら、自分はとても恐ろしい存在ではないか?
もしエフェクトも再現できるのならば警戒するべきはやはり☆しんごう☆だろう。ずっと『世界』発動可能、など聞いたらスタンド使い全員がひっくり返ってしまう。他には殺傷能力のある☆ほうちょう☆か。
考え事をしていたせいかしかめ面になっていたらしい。看護師が話題を変える。
「そうそう! あのピアノ演奏凄かったわよ〜! 皆聞き惚れちゃってさァ、いつの間に練習したの?」
むぐ、と言葉に詰まる。あの後、突如出現した謎ピアノを弾くのは止めて病院内にあった古いピアノを弾くことにしたのだが、少々やりすぎた。流石に二時間ぶっ通しの個人演奏会は人目を引いた。自分が満足するまで弾いて、ふうと一息ついた瞬間拍手の雨が降って来たのだ。
「あ、ああ……あれはその、何となく、としか言えないのですが……」
「まあ独学? 凄いじゃない! それって天才って事じゃないかしら!」
ぱん、と手を合わせる。
「なら、将来もしかしたら『センセイ』って呼ぶ時が来るのかしら?」
せんせい、センセイ、先生。
それだと、あの……本当に「センチメンタル小室マイケル坂本ダダ先生じゃないですか!」になってしまうんですか?
「センセイ、ですか。……正直想像つきませんよ」
「うふふ、もしプロになったら病院でまた弾いてちょうだいね」
「はあ……」
……勝手に期待を背負わされて、センチメンタルになりそうです。
あれから一週間、こちらから連絡した約束の時間だ。ベンチに座って待っていると、誰かが近づいて来た。がっしりとした体躯の男と、スケッチブック片手に歩く男。見覚えがあるその二人、一人は空条承太郎。もう一人は――。
「っ貴方は、きし……!?」
「
空中に『ピンクダークの少年』のイラストそっくりのスタンド像が浮かぶ。それを見た瞬間、彼は意識を失う。力が抜けベンチに横へ倒れる彼を支える。顔の横にぴ、と切れ目が入り、そこからぱらぱらと本のように顔がめくれだす。
「悪いが、読ませてもらうぞ」
最初に、『我々に嘘をつくことはできない』『我々を攻撃することはできない』と書き込もうとペンを片手に顔のページをめくる。
「何ッ!」
「な、これは一体……!?」
彼の本には、文章ではなくカラフルなイラストが描かれていた。
……いや違う。彼の体験の文章の上にイラストがある。その為に文章を読むことができないのだ。
『奇形の少女』
『信号』
『釣り人』
『目玉の化け物』
『猫のコイン』
『幽霊』
『ナス』
『死体』
『階段』
『ベッド』
『扉』
『ピアノ』
『RPG風のドット絵』
『鬼』
『赤の王』
『かまくら』
『風船』
どれだけめくってもイラストばかり、文章が全く読み取れない。それだけで異常なのだ、彼は。
「ああくそっ、訳がわからない!」
杜王町には『産まれてからの自分の経験が全て書かれた本』のスタンド能力者がいた。そいつはそのスタンド本を相手に読ませることで、そこに書かれた自分の経験を追体験させる力があった。追体験させられた人を本にしてその文章を読んだ時、追体験の部分だけ無理やり違うものを差し込まれたような違和感があった。
――だが、そいつとは全く違う。このイラストはここにあるのが当然だ、と言わんばかりに主張している。こいつの考えを、過去を読み取ることができない。
ページをめくる速度を上げ、終わりの方から数えたほうが早いページにやっと文章が並んでいた。
『終わりが見えない夢の世界、いつまでここにいるのだろうと思っていた。死神ピエロに殺されても覚めなかった。……今日、やっとあの夢の真実が分かるのだろう』
『待ち合わせ場所に二人の男。一人は漫画家の、あの岸辺露伴。突然空中にピンクダークの少年がでてき』
「『夢の世界』! そして僕の
「この様子だとつい最近能力に気づいたらしいな。……夢のスタンド、か」
「良し、ここなら書き込めそうだ」
露伴が愛用のペンで空きスペースに書き込もうとした瞬間、隣のページのイラスト、鳥顔の女が目を動かしてこちらを見た。
「待て! 様子がおかしい!」
承太郎さんに肩を掴まれ、いきなり後ろにもっていかれた。ばらばらばらと本が閉じ、彼の顔は元に戻った。
「う、何、が、はぁっ……ッ!?」
意識を取り戻した彼の胴体から何かが這い出て来る。黒い服が水の波紋のように波打ち、腕が、頭が、体が……。あのイラストを現実に持ってきたらこうなるのだろう、といった怪物の姿。
「ぎぃいぃあぁっ……」
「ぐ、あ……!」
まどつきの夢にうろつく化け物――鳥人間。それが彼のスタンドを通して現実に現れた。彼はスタンドに体力を持っていかれたのか、もともと白い顔を更に白くしてベンチに横たわったまま動かない。
「くっ、こいつは一体!?」
「もしや、彼の精神を守る無意識の防護壁! それが夢の怪物の姿を取っているのか! マズイぞ、スタンドを制御できていないッ!」
「スタープラチナ!」
最強のスタンド、スタープラチナが鳥人間を殴った。丸太のような腕が鳥人間の顔を歪める。彼にダメージはない。
――触れた。触れてしまった。それがいけなかった。
「何ッ! これは!」
視界が歪む。現実と違う世界が重なって見える。立っていられない。最強のスタンド使いが膝をつく。
「承太郎さんッ!?」
――眠い。抗いがたい欲。承太郎は今、さながらフランダースの犬のネロ。目を閉じたらそこでお終いだと理解している。その理性を上回る眠気が襲っている。
「しまっ、た……!」
鳥人間に捕まったらおしまいだ。身動きが取れない夢の世界へと引きずりこまれる。それがゆめにっきのルール。それが力。誰も抗うことなど出来ない。
――いや、ここに例外が存在する。この鳥人間を呼び出したスタンド使いにして、夢の世界と現実を行き来できる人間が。
「……めろ」
顔は真っ白、ふらふらと立ち上がる彼は自分のスタンドを止めようとしている。が、半ば暴走状態の鳥人間は命令を聞いていない。
突然、自分で黒い服の胸辺りに手を突っ込んだ。どぷん、と波打つ。勢いよく引き抜いた手には何かが握られていた。
――包丁。
「やめろッ!」
包丁を鳥人間の背に突き刺す。
「キョア、アァア……?」
何故? という思いを含んだ断末魔をあげて鳥人間は消滅した。チャリン、という音。体力の限界か彼は地面に倒れた。眠気は消え去った。
「っ大丈夫ですか承太郎さん!?」
露伴が駆け寄ってくる。ぐ、と何とか体を起こす。
「あ、ああ……恐ろしいスタンドだった……強制的に眠らせるスタンドとはな……。だが、暴走したスタンドを止めるためとは言え、自分のスタンドを刺すとはな」
やれやれだぜ、と帽子を整えながら呟く。ひょろ長い見た目とは裏腹に熱いものを持っている男。もう少し落ち着いてから話をしよう、と思い彼を抱き上げベンチに寝かせる。
「これは? ……何でだ?」
露伴が拾い上げた、鳥人間が消えた後現れた物は百円玉だった。