FGO_Bloodborne 作:姿無きオドン
プロローグ
扉の開く音が聞こえる。
いつ以来か分からない程久しく聞いていなかった物音。
そして鼻腔を擽る"月の香り"
「やっと来たか……」
見ずともわかる。何も無い自分が唯一持つ目的、ずっと待っていた存在である目の前に立つ狩人の腕をつかみ顔をのぞき込む。
マスクと帽子のあいだから見える瞳が驚きで軽く見開かれているのを見て少しだけ笑みがこぼれる。
「待っていた……が、死体漁りとは、感心しないな
だが、分かるよ。秘密は甘いものだ
だからこそ、恐ろしい死が必要なのさ
…愚かな好奇を、忘れるようなね
」
未だ慣れない/使い慣れた 落葉を手に持ち、構え、前を向く。
この長い夢から覚めるために。
I II III IV V VI VII VIII IX X XI XII
転生、いや、憑依転生?私が巻き込まれ、経験したことはソレだ。
ごく普通に生活し、サラリーマンとしての日常を謳歌していた私だが、やはり人生というものはわからないものだ。
コロリ、そんな擬音がつきそうなほどとてもあっさりと死んでしまった。
そして目を覚ますととても広く、床の板がところどころ剥がれている部屋にポツリと置かれた椅子に腰掛けていた。
反応の鈍い身体をなんとか動かし、視界を下に移せば血に濡れた異国の装束や物騒な獲物などが視界に写る。
そしてそれらを見た時はとても混乱した。
『Bloodborne』
PS4ソフトで、世界観が特徴的なゲーム。そのゲームにて登場する『時計塔のマリア』その人の服装、武器、登場する場所がその時の自分とまったくもって同じだったのだ。
この時どれだけの間パニックになっていたのか……身体はうまく動かず、異性のもので、しかも少し落ち着いて考えてみれば、正確にはわからなかったが十中八九あのBloodborneの世界だ。
上位者、獣、おぞましい実験や儀式。ゲームの中の狩人ならいざ知らず、凡そ一般人である自分なんかに耐えきれ無いであろうモノに溢れているのだ。
苦悩し、発狂し、どれだけの時が過ぎたのか、それらをくりかえし、事実を何とか受け入れた頃、動くこともままならないため、寝ることしかできなかった私はある『夢』を見るようになった。
マリアの記憶なのだろう。
カインハーストと思わしき場所で過ごす様子、場面は飛び、ゲールマンに師事し、狩りを行う様子。
おぞましい儀式。
そして星見時計の裏の部屋を住処とし、最期まで秘密を隠し続けた。
眠るたびにソレを見せつけられた私は確かに気が狂いそうだった。だが同時に、望んでいなかったとはいえ私が奪ってしまった体の持ち主であるマリアから与えられ続けた、マリアの心を無視することは出来なかった。
せめて、月の香りの狩人に屠られるその時まではここで一人、秘密を隠し続けよう、そう決めたのだった。
その誓を胸に抱いてから暫く、数え切れないほどの悪夢に囚われた狩人立ちを屠っていた。秘密を暴こうとする者達と戦う、その時だけは体が嘘のように軽く動いたが、ある日を境にそれらの狩人が現れなくなった。
ある日というのはこんな夢を見るようになってからだ。
多くの墓石が並び、墓石があるにもかかわらずどこか優しく、暖かい、扉を開け放たれた教会のような建物ひっそりと佇む場所。
そこには人形と狩人。
夢の中だが、人目でわかった。
私を、私の夢を終わらせてくれる人だと。
そして今、その狩人は私の胸に手を突き立て心臓を握りしめている。
あぁ、これで終わる。
長い長い夢が。
ありがとう。
どこかからそう聞こえた気がした。
ガチャリ
I II III IV V VI VII VIII IX X XI XII
『人理焼却』一言で表すならば人類の滅亡。
そんな惨事を阻止した彼等、人理継続保障機関フィニス・ カルデア。そのブリーフィングルームに、カルデア最後のマスターとして戦い抜いた彼、藤丸立香と、彼をそばで支え続けた彼女、マシュ・キリエライトは集まり、現所長代理ダ・ヴィンチから招集の理由について聞かされていた。
「今回藤丸君達に集まってもらったのは他でもない、新しい特異点が見つかったからなんだ」
「新しい……特異点?」
「あのダ・ヴィンチちゃん、質問よろしいでしょうか」
「いいよいいよ、どんどんと聞いてくれたまえ」
「はい、ありがとうございます。コホン、ではまず、人理焼却や亜種特異点なんかは無事解決することが出来ましたが、今回の特異点はそれらと関係はあるのでしょうか」
マシュのその質問にダ・ヴィンチは満足そうな笑顔を浮かべ、それにたいする答えを返す。
「とてもいい質問だね、まず、今回の特異点は今までの特異点とは全くの別物だと思ってもらった方がいい」
「全くの別物……?」
「ああそうさ、なぜなら、今回の特異点は今までの特異点のデータと比べてみた結果、聖杯が関係しているわけではなさそうなんだ」
その答えに、マシュ、立香の2人は驚きの声をあげる。
「それじゃあどうやって特異点が!?」
「それが分かれば苦労しないんだけどねえ……わかることと言えば、何者かが聖杯なんかよりもよっぽどすごいナニカで起こしていることだけだよ。
ま、そこに関しては調査中さ、それから、今回の特異点は座標もはっきりとしないんだ、分かるのはただそこにあるとだけ、数値としては全くもってわからないのに存在の観測は問題なく行える」
「なっ、それではレイシフトするには観測が上手くいかずに意味消失の危険があるのではないでしょうか?」
「いや、観測自体はハッキリと、それも今までの特異点のどこよりも安定して観測されているんだ、コンピュータであるはずのシバが数値とすら言えないようなナニカをね」
「それじゃあレイシフト自体は可能なんですね」
「ですが先輩……」
「ああ、今回も立香くんには苦労をかけるね……本当なら私ももっとしっかりと調査をしてからレイシフトさせてあげたかったんだけどね、どうにもそうもいかない状況になってね」
ダ・ヴィンチはそう言うといくつかのデータを表示させる。
「これらを見てもらえるかな」
「これは……死徒ですか?」
表示されたデータはいくつかの文書と画像データだったのだが、その中の画像データは、人形の獣のような姿をしたナニカであった。
「いや、これはただの人なんだ」
「なっ」
驚きに2人が固まっているとダ・ヴィンチは続きを話し始める。
「実は今回の特異点が発見されると同時期に、局所的に赤い月が現れるようになったんだ」
「赤い……月?」
「ああ、何でもひとつの村や街単位で、月が赤く見える現象が起こり始めたんだが、そういったところでは必ずこのような獣のように変貌した人間が現れるようなんだ」
「これらの獣人間は総じて人を襲うらしいが、毎回これらを討伐すると赤い月は無くなるらしい」
「つまり……?」
「今のところはなんとか隠蔽ができているけど最近は頻度が高くなってきているみたいでね、これらの現象が起こり始めたのと特異点発見が同時期のため、魔術協会やお偉いさん方は関連性があると考えたようで、早急な解決を我々に命令してきた、というわけさ」
「わかりました、今回も不安ですけど、それでもやります」
「わ、私もお供します、先輩!」
「あーっと、マシュは今回もお休みだ、やっぱりまだデミサーヴァントとして戦うには色々と無理があるからね」
「…………了解、しました……」
「うん、気持ちは分かるけど、今回もオペレーターとして頑張って貰うからあまり気にやまないでくれるかな?」
「はい!不祥マシュ・キリエライト、全力で先輩をサポートさせていただきます!」
「うん、宜しくねマシュ」
「さて、肝心の特異点だが、シバの観測ではこうなっている」
『ヤーナム』と
I II III IV V VI VII VIII IX X XI XII
匂い立つ血の香り。
耳を打つ獣の断末魔。
人影は、手に持つノコギリ状の刃に付いた血肉を払うとポツリと呟いた。
「まだ終わらないか」
I II III IV V VI VII VIII IX X XI XII
私が月香の狩人に殺されると、そこは長らく見ていなかった広く、青く、どこまで持つ続く晴天の空だった。
考えずとも感じる、あの忌々しい悪夢の気配は毛ほどもせず、清々しいほどに澄んだ空気のみが感じられる。
見下ろして見れば、前世の体には戻っておらず、やはりマリアの体だ……が、ようやく死ねた。ようやく夢から開放された。その思いの前には些細なものだ。
しかし、たしかに己は死んだはずだ。それなのにこうして思考し、動くことが出来ている。
「まぁ、もうどうでもいい」
そう、どうでもいいのだ、あの悪夢を見ることも、秘密を守るというその使命も、何も無い今この時間こそが自分の求めていたものなのだから。
「さて、眠るか」
時計塔でずっと使っていたモノと同じ椅子があり、そこに腰掛けると、脚を組み俯く。
そして目を閉じ………………
ゾクッ
あぁ、またこの感覚だ。
獣狩りの夜が始まる。
続……く?