それでも気にしなーい、という人は良かったら御覧ください。
ふと気付けば、数え切れない本棚が存在する不思議な空間に俺は居た。
一見すると図書館のようにも思えるが、本棚に並ぶ種類が小説や漫画などとジャンルが酷く乱雑で曖昧であり、とても普通の図書館とは思えない。少なくとも、俺が暮らす街にある図書館ではないだろう。
「ならば此処は何処だ………?」
いや、それ以前に、何故俺が自分でも知らない図書館に居るのかが一番気になる。それに、此処まで来た時の記憶が一切無かった。
なんとか思い出そうとした結果、思い出せたのは仕事場へと移動する”出勤“という毎日の決められた行動をしていた事のみ。
そう、何時も通りに「怠い」「サボりたい」「ゲームしていたい」とか、そんな愚痴を吐きつつ独り暮らしのアパートから出発し、駅まで徒歩で移動していた筈。
なのに気付けば、何故かこの見知らぬ図書館の床を踏みしめているという理解不能な現実、現状、由々しき事態。
「もしかして……健忘症?」
外傷性の記憶喪失ではなく、ストレス性の記憶喪失にでも成ってしまったのだろうか?
だが、幾ら思い起こしてみても、ストレス性の記憶喪失に成る程のストレスに苛まれていたなどという記憶は一切存在せず、寧ろ順風満帆な生活だった記憶しかない。
ならば、若年性アルツハイマーだろうか?
いや、それにしたって兆候がある筈なのだが、物忘れが激しくなっただとかの記憶も思い至らない。
「すいません! 何方か居られませんか?」
訳が分からないのなら、誰かに尋ねるしかない。そう思って若干大きめに声を張り上げて助けを求めた。
勿論、図書館内で大きな声を上げるというのは御法度であるし、当然それを理解している。だが、この異常事態には許されるだろう。
もっとも、自分の現状を説明する前に、一度は苦言を呈されるだろうが。
そんな注意される事を前提とした俺の叫びであったが、何故か無反応。
「こんなにも大きな図書館なのに、誰も居ないって事はない筈………だよな?」
不思議だ。結構大声を出したつもりだったのだが、何故誰も注意しに来ないのだろうか?
「すいませーーん!! 何方か居られませんかーーー?!」
誰も来ないという事にかなりの不気味さを感じて、堪らず先程の叫びよりも大きな声を張り上げ、助けを求める。
巨大な図書館内に、俺の声だけが嫌に成る程に響き渡った。
だが、やはり誰も注意しに来ない。
普通ならば図書館内で叫ぶ人物など居ようものなら、所員の者が激昂とまでは言わぬども、割かし本気での説教をしようと来る筈。
自分以外誰も居ない巨大な図書館内にポツンと佇むのはまだ我慢出来る。
しかし、図書館内でやってはいけない事の第一行に当たる”叫ぶ“という行為をしたのに、誰一人として注意しに来ないのは不気味過ぎてゾッとしてまう。
まるで、俺以外の人間が消えてしまったのかと錯覚すらする。
「……本当に誰も居ないのか?」
勿論、この世から人が消えたなんて本気で考えている訳ではないが、それでも何故自分が見知らぬ場所に居るのかも分からない現状においては混乱するのも仕方がないだろう。
この不気味な図書館のせいで、自分が立たされている現状に余計不気味さが増し、更には少しの焦燥感すら感じざるを得ない。
ともすれば、ジッとその場に佇むというのは困難になり、堪らず歩き出す。
本、本、本、本、本、本。
ジャンルなど御構い無しに乱雑に並べられている本を横目に、俺は出口を求めてひたすら歩き続けた。
そうして暫く歩き続けた結果、コツ、コツ、と本を棚に並べているような音を耳にする。
待望の人だ。俺はそう思い、少し足早に音の発生源と思わしき場所まで移動する。
何せ、余りにも不可思議な状況と不気味過ぎる場所と いうのもあり、見知らぬ人間だとしても心踊らせてしまうのも無理からぬ事だろう。
決して、俺がビビりだからとかではない。まぁ、少しビビっていたのは認めるが。
だが安心したのも束の間、音の発生源だと思わしき場所に辿り着いた俺は、先程の喜びようなど嘘だったかの如く絶句してしまう。
そして、心底恐ろし過ぎて棒立ちになった。
何故なら、ヒトガタの
まるで、黒いペンキで塗り潰されたかのようなヒトガタの、絶対に人ではない何かが、本を丁寧に棚に並べていた。
「ッ…………!?」
ゾッとする、総毛立つ、身震いする。視界に入れた
だが、当事者の俺からしたら、そんな生易しいものではないと断言出来た。
圧倒的な恐怖と絶望。いや、それでもまだ生易しい。
時が止まり、自分の心臓すら止まったかと錯覚する程の、圧倒的な”死の予感“を彷彿とさせる災厄の存在。
そう、そう形容してさえも足りないと思える
そして、そのヒトガタが、俺が生唾を飲み下した音を耳にして、ユックリと此方に視線を………
「あ、ゴメン。本の確認に夢中になってて、君を呼び出したのを忘れてた」
「は………? え………?」
前言撤回。恐怖とか絶望とか、目の前のヒトガタが声を発した瞬間、霞の如く消えたよ。
何か普通の、そこいらに居る気の良い兄ちゃんのようで、何でビビっていたのか不思議に思う程だった。
「えぇと……そうそう。
「は、はい。……あの、此処は?」
名前を呼ばれて思わず頷いた俺は、何故目の前の不思議生物が俺の名前を知っているのか疑問を抱くものの、取り敢えず現状を理解するのを優先して尋ねた。
すると、目の前のヒトガタは笑いながら(真っ黒だから本当に笑っているのかは不明。あくまで俺にはそう見えなくもないって事)説明を始める。
「いやいや、そりゃ普通困惑するよねぇ。混乱する君の為に、先ずは此処に呼び出した理由を説明するよ。
実は君に折り入って御願いがあるんだ。大丈夫、君なら喜んでくれる筈だし、拒否しないと思う。まぁ、嫌なら此処での記憶を消して元の日常に返してあげるしね」
そう笑顔(?)を浮かべながら話し始めたヒトガタは、そのまま軽い口調で言葉を紡いでいく。
そうして暫くして、ヒトガタの詳しい説明は終わった。
その説明を箇条書きにするのなら、以下の通りとなる。
●ヒトガタは神様。他にも神様は存在する。
●仕事は文学作品の保全。何故か漫画も含まれる。
●世に生み出された作品は、沢山の人々の念によりさまざまな影響を受ける。
●有名な作品程多くの人に読まれる訳で、悪意や嫉妬、羨望などを受けると作品自体が崩壊する事がある。
●崩壊を防ぐ為に、定期的に作品の中に人を入れて物語を適切な完結に導く必要がある。
●現在ヒトガタに選ばれた人間は、俺一人。以前に数人居たが、今は引退して普通の日常に戻った。
●もし引退せずに、沢山の作品の中で生活し続ければ、俺も人ではなく神様になれるらしい。
●ヒトガタも、昔は普通の人だった。
とまぁ、こんな感じの内容であった。
はっきり言わせて貰うならば、胡散臭いの一言である。
しかし、そうは言っても現状の不可思議さや目の前のヒトガタという不思議生物を見た俺からしたら、その胡散臭い内容を一笑するのは難しく、本当に真実を話しているのだと理解せざるを得なかった。
「どう? 君は漫画とか好きでしょ?」
「はぁ、確かに好きですね」
「それじゃあ、受け入れてくれるだろ?」
「……まぁ、漫画の世界に入って主人公達の活躍を間近で見れるのは楽しそうだとは思います。でも、主人公達が居れば俺など不要なのでは?」
普通に考えて、主人公は物語を完結へと導くヒーローだと言える為、俺などが入らずとも物語は当然完結への道筋を辿る筈である。
であるからして、俺は不要な存在だと言えるだろう。
………いや、その完結への道筋を、俺が本の中に入って見届ける必要があるからこそ、中に入らねばならないんだっけ。
そうか、中に入るのは作品の崩壊を止める為なんだから、ヒーロー達が完結へと至るのを見ているだけで良いのか。
そう内心で考え、俺は先の発言を撤回する為に再度口を開く。
「すみません、作品の崩壊を止める為という前提があったのを失念してました」
「ははは。いいよいいよ、気にしないで。混乱するのも理解出来るし、遥か昔は自分も同じように神様に言っていたから」
「えっと……つまり、主人公達の活躍を間近で見届けるだけで良いんですよね?」
「まぁ、平たく言えばそうなるね。でも、さっきも言ったけど、作品は崩壊へと向かっているんだよ?」
「……つまり?」
「簡単に言えば、崩壊へと向かっているせいで、内容も原作とは違うものへと変わっている場合があるって事さ。……例えば、登場人物達の数人が消えていたり、完結へと導く為の大切な何かが存在しなくなってたりだね」
それは、最悪の状況だったらという意味なのだろうか?
そんな作品上の”もしも“など頻繁にあったら、どうやって主人公達が完結を迎えられると言うのだ。どう考えても、無理だろう。
何せ、例えばダイの大冒険で重要なダイの剣が存在しないとなれば、当然バーンは勿論の事、ハドラーにさえ勝てないと思われる。それに、HUNTER×HUNTERで例えるならば、グリードアイランド編にビスケットが登場しないとあったら、ゴンやキルアは満足に強くなれずボマーに殺されてしまうではないか。いや、ボマー以前にビノールトに食われるかもしれない。
そんな不吉な”もしも“などがあるとしても、そこまでの状況が頻繁にあったとしたら、俺では適切な完結へと導ける自信はない。
そう考えた俺は、その内心の疑問を口にする。
少し頬を引き攣らせながら「最悪の状況だったら、という”もしも“の話しであって、そうそう無い状況ですよね?」と、願いつつ尋ねた。
目の前の神様の頼みを断るなら、この質問はしない。
つまり、俺の中では既に頼みを引き受けると決めたからの質問だと言える。
それを察したからなのか、神様は嬉しそうな雰囲気を漂わせながら返答した。俺にとっては残念な返答を。
「ははは、そうだと良いんだけどねぇ。でも、現実は厳しく世知辛いものなのさ。
作品が原作のままってのは、殆ど有り得ない。寧ろ、内容が変化してるのが当たり前だと思っておいた方が無難だよ」
「そ、れは厳しい、ですね。……もし武天老師の居ないドラゴンボールが存在したとしたら、その時はどうしろと?」
「う〜ん………君が頑張って悟空を教え導くしかないね」
「いや、あの、武天老師が居ないとなると、悟空はもしかしたら記憶を失っていない可能性もあるんですけど……。つまり、元々の狂暴なサイヤ人のままって事ですよ?」
「うん、そうだね。それでも君がどうにかするしかないって事さ」
少し面白そうだから引き受けようとか考えていたが、そんな”もしも“に対応出来る自信は無い。有る訳がない。
一気に高揚していた気持ちが、スッと引いて行く。まるで、波の満ち引きかのように。
「まぁ、君の記念すべき最初の作品は、そんな絶望的な”もしも“なんてのが無い世界を選ぶから、そこまで心配しなくても大丈夫だよ。
先ずは、この作品を試金石にすると良い」
そう気軽に言いつつ差し出す神様の手には、ある漫画の一巻目が握られていた。
俺はその本を受け取り、タイトルへと目を移す。
「GS美神、ですか?」
「読んだ事はあるかな?」
「はい。読んだのは随分昔ですが、ストーリーは未だに確りと脳裏に焼き付いていますね」
「それは重畳。君が読んでなかったのなら、此処で読んで貰うつもりだったから手間が省けて何よりだよ」
最悪の”もしも“が無いというのなら、GS美神の世界に行くのも吝かではない。
何せ、小さい頃はこの本を何度も読み返していたものだ。ドラゴンボールなどと同じく、俺にとっては
何時も邪な事ばかり考えている男子高校生の主人公と、人当たりのキツい成人女性のW主人公の漫画であり、その二人が織り成すドタバタコメディは抱腹絶倒もので、そんな二人を間近に出来るとあれば実に喜ばしい。
「GS美神の世界に行くのは理解しましたが、何時からですか? 原作の一話目から?」
「いやいや、一話目からだと対処出来ないでしょ? 作品に登場する人物達は、その作品に欠かせない才能を持っているからこそ色々と対処出来るのであって、普通の人間がその世界に入って直ぐにその世界特有の力を身に付け、あまつさえその力を十全に使える筈が無いんだからね。
もっとも、君は神になれる才能を有しているのだから、入った世界に存在する固有の力も訓練次第では主人公達を遥かに凌駕する潜在能力は有るんだけどねぇ。……勿論、潜在能力ってのは努力して引き出すものだから、当然それ相応の辛いトレーニングはしなきゃ駄目だけど」
「つまり、力を身に付ける為に原作開始より前に世界に入る訳ですか?」
「うん、そうなるね。男の主人公と同年代の方が絡み易いだろうから、原作開始に同じ年齢になるようにして………。ん〜、どうせだから五歳頃からってのはどうかな?」
「そう、ですね、力を付ける為にはそれぐらいの頃からトレーニングしなきゃ駄目でしょうし………はい、五歳で御願いします。……ただ、俺の住む所や生活費とか戸籍とかは?」
「ははは、それは此方で調整するから問題無いよ。君がトレーニングに集中出来るようにするさ」
こんな感じで進みます。
ドラゴンボールの二次創作を書いていて、コメディ要素を強く意識して書くのが難し過ぎてこういうのを書きたくなりました。
淡々と進んで行く感じだと思って貰えれば良いかな? 多分。