神様との邂逅の後、俺は笑顔(?)を浮かべる神様に見送られて、気が付いたら見知らぬ部屋にポツンと独り佇んでいた。
キョロキョロと室内を見回して抱いた感想は、以前に住んでいたアパートの一室が物置小屋かと思える程の、そして比べるのが悲しくなる程の広いマンションの一室で、此処が神様が用意してくれた住みかなのだと理解し、嬉しく思うと共に申し訳なく思えた。
「広っ!……そして目線が低っ!」
自分の手足に視線を移せば、当然視界に映るのは小さな手と足である。
何せ、五歳の頃に若返っている筈なのだから、目線が低いのが当然だし手足が小さいのが当たり前。
リビングの中央にあるガラスのテーブルの前に立ち、その表面に映し出される自身の姿を見てみた。
真っ白い髪と真っ赤な瞳。紛れもない俺自身である。
そう、俺は先天性の遺伝子疾患で、先天性白皮症という………まぁ、所謂アルビノって形容されるやつだ。
それは特に問題無い。髪は染めれば良いし、眉毛だって染めれば良いのだから。まぁ、睫毛とかは無理だし面倒なので、そこまでは気を回してなかったのだが。
ともあれ、それらはある程度誤魔化しが効くのだが、問題なのはコンタクトレンズが無いって事。
GS美神が連載されていた時は、まだDVDも存在しないような時代なのだ。
故に、真っ赤な瞳を隠す為のコンタクトレンズなどは、諦めるしかないだろう。
それからもう一つ、アルビノの人間の最大の敵と言えるのが日光なのだが、その天敵の対策となる日焼け止めなどがこの時代に存在しないのも問題である。
勿論、この時代ならではの日焼け止めは存在するのだろうが、俺が使用していた商品は100%存在しない筈だ。
アルビノの人間は、肌が嫌になる程に弱いし、目も同じく紫外線の影響を諸に受けてしまう。
肌は長時間日光を浴び続ければ真っ赤に腫れ上がるし、最悪の場合だと焼け爛れたようになる。いや、それより最悪なのは、紫外線による癌の発症率が高くなる事だな。
そして、目の場合は失明してしまう事。
小学生の頃や中学生の頃は、酷くイジメられた記憶があるし、アルビノってのはホント辛いとしか言えない。
社会人になると幼い頃とは逆で、見た目が神秘的だの何だのと言われてモテたので………まぁ、プラマイゼロと言えるかもしれないが。
「サングラスは購入しといた方が良いな。肌の方は……良さそうな日焼け止めを買っておこう。最悪は、極力素肌を隠して生活すれば良いし」
普段の生活で、俺は素肌を極力隠していたので苦ではない。
となれば………
「いや、その前に、お金は?」
ガラス製のテーブルに映る自分の顔を見つつ考えていると、ふと大切な事に気が付いた。
そう、お金だ。
と、その事に考えが移った瞬間、テーブルの上に一枚の紙が出現した。サイズはA4サイズである。
若干、いや、かなり驚きつつ紙を手に取って目を通してみると、それは神様からの物だというのが察せられた。
『その時代の日本は、子供でも問題なく銀行に預けたお金を下ろせるから心配無いよ。無用心だと思わない?
因みに、預金は二百億あるし、通帳は寝室にあるタンスの中だよ』
二百億とは心底驚かされた。有り難いのは事実だが、多過ぎやしないか?
『原作開始に合わせて、再び君にはメッセージを送るよ。それまでは頑張ってトレーニングに励んでね。
あ、それと、幼稚園とか学校とかは心配いらない。行かなくても問題無い様にしといたから。行きたいなら行くと良いよ。
それじゃあねぇ〜』
少し驚かされたが、何から何まで実に有り難い。
俺は神様に感謝しつつ、指示された場所から通帳(印鑑もあった)を取り出し、フードを目深に被って外に出る。
そして、エレベーターに乗って再び驚いた。
何故ならこのマンション、地上四十階建てのビルらしいのだ。しかも、俺の部屋は最上階の四十階らしい。
とんだ豪華ビルに住む事になって、呆れ果てるばかりである。
そうして、俺は半ば呆然としつつ人に尋ねながら銀行に辿り着き、お金を無事に下ろすと必要な物を買い漁った。
日焼け止めやサングラスは勿論、トレーニングに必要そうな物や食糧などである。
………まぁ、自分が非力な五歳児なのを忘れていたせいもあり、買い過ぎて帰りが大変苦労したが。
兎も角として、トレーニングに必要だと思い買った物は以下の通りである。
●空手の型を解説を交えながらのビデオ映像
●ボクシングの型やステップを解説を交えながらのビデオ映像
●柔術の型を解説を交えながらのビデオ映像
●空手の試合を解説を交えながらのビデオ映像
●ボクシングの試合を解説を交えながらのビデオ映像
●柔術の試合を解説を交えながらのビデオ映像
と、こんな感じで、初心者にも分かり易い様に詳しく解説をしてくれる教材用のビデオである。
武術教室などに行くのも良いかもしれないが、俺の年齢ではまだ駄目だろうと考えたので、こんな風にビデオでの技術習得を目指そうと思い至ったのだ。
決して、外に外出する度に日光を浴びなければならないのが嫌だった訳ではない。
俺なりに考え抜いた結論の基、これらの沢山のビデオを購入した訳だ。
因みに、これは全然関係無いのだが、ビデオコーナーに何故か無造作にエロビデオも置いてあったんだけど、そのビデオの山の中にあった一つに飯島愛のビデオがあり、元々AV嬢だったというのを知って若干驚いたりもした。
ともあれ、早速ビデオを見てみようと思う。
「先ずは、空手の型から見てみるか」
オーソドックス(?)に空手からが良いだろうと判断し、懐かしのブラウン管テレビの電源を入れ、これまた懐かしのビデオデッキに空手のビデオを入れる。
すると、古い演出のオープニングが始まり、それが終わると今は亡きアンディフグが踵落としと共に登場して来た。
「お、おお!?」
アンディフグの登場となって、若干俺のテンションが上がる。
何せ、彼の事は小さな頃に憧れた時もあったのだから、今みたいに知らず知らず拳を握り締めていても可笑しな話しではないだろう。
アンディは、それはもう美しいと思える程の型を、それはそれは丁寧にビデオカメラの前で披露してくれる。
そして、その姿を見詰め続けていると、最後にアンディの代名詞とでも言える見事な踵落としをしてビデオ映像は終了となった。
「こいつは良い物だ。掘り出し物だな」
乱雑に置かれたビデオの山から見付けた物だったのだが、意外に素晴らしいチョイスをしていたらしい。
俺は満足感を感じつつ、次のビデオを手に取る。
だが、そこで腹の虫が鳴き、一時ビデオ観賞を中断する事に決めた。
俺は大学入学を期に親元を離れたので、料理に関しては結構得意な部類に入ると思う。
自分で言うと自画自賛になってしまうが、そこいらの主婦よりは上等な料理を作れるつもりだ。
小さな頃から凝り性というのもあって、和食ならば何でも作れるし、外国料理ではスペイン料理が得意である。
そんな俺であったので、自信満々でキッチンに立ったのだが………
「………身長が足りない」
ガックリと項垂れるものの、仕方なく椅子を引っ張って来て、それを台にして流し台の上へと買って来た材料を置く。
そして、野菜を洗い始め………
「包丁は………向こうかよ」
離れた位置に置いてある包丁を視界に入れ、大きく溜め息を吐いた。
だって仕方ないだろう?
何故なら、包丁を取る為にわざわざ椅子から降りて、包丁が置かれている場所まで椅子を引き摺って移動し、そして椅子に乗って包丁を取ったら、また椅子を引き摺って元の場所まで移動しなきゃならないのだから。
子供の体ってのは、こんなに不便なものなんだな。
これからの生活が思いやられるというものだ。
何はともあれ、そうやって苦労しつつ作った料理を綺麗に平らげたら、続きのビデオ観賞へと戻る。
次は、ボクシングにしとこう。
蹴りがボクシングには無いので、俺は余り見た事が無い。まぁ、刃牙という漫画では、ボクシングは地面を蹴る格闘技だと解説されてあったので、この俺がしたボクシングには蹴り技が無いという判断は間違いであるのだろうが。
そんなどうでも良い事を考えつつ、俺はボクシングビデオを入れる。
すると、空手のビデオと同じで、少しチープなオープニングが始まった。
だが、登場した演者を見て少し驚かされる。
何故なら、嘗ての世界チャンピオンである輪島功一が登場したからだ。
ボクシングに疎い俺でも知っている有名人である。
ただし、このビデオは失敗だったと痛感せざるを得なかった。
理由はただ単純で………
「………何を言ってるのか分からん」
テレビの中の輪島さんが必死に説明してくれているのだが、言葉が聞き取り難いのだ。
関根勤が真似する輪島功一のまんまであり、これでは教材としての意味を成していないと言えるだろう。
だが、動きを見て真似するだけなら出来るので、全くの無駄かと言えばそうでもないのかもしれないが。
「取り敢えず、一応これは捨てずに持っておいて、明日他のボクシングビデオを買って来よう。……確か、ステップとか技の型を解説をしていたのが他にもあった筈」
ハァと深い溜め息を吐いた俺は、柔術のビデオを手に取った。
そして、そこはかとない不安を感じつつ、その新たなビデオを投入する。
すると、俺の不安感を増大させる様なこれまでに無いチープさのオープニングが始まり、何故か関根勤と柔道のメダリストである吉田秀彦が登場して来た。
勿論、柔術の先生だと思わしき胡散臭い姿の老人も居る。
「意味の分からない組み合わせだな」
そう、意味の分からない組み合わせである。
だが、始まった内容は至極真っ当な物であり、一切の不真面目さを排除したものだった。
その内容は最初こそ胡散臭いと感じたが、解説される内になるほどなと思わされ、いちいち感心させられる。
ぶっちゃけ、これは掘り出し物だと認めざるを得ない。
ただ分からないのが、何故関根勤と吉田秀彦が居るのかという事だ。
アシスタントが必要なら弟子が居るだろうし、どうして二人が必要だったのだろうか?
「不思議だ。……まぁ、だからと言って俺が困る事はないけど」
そうして、少しの疑問を感じながらのビデオ観賞は終了し、夜となった事もあり歯磨きをすると寝る準備をする。
そして、寝室にあるキングサイズのベッドに横になると、明日からのトレーニング内容へと思考を移す。
先ず、妖怪や魔族と戦うのを念頭にすれば、必要となるのが戦闘技術になるので、今日用意した教材を基に武術の基本を学ぶとして、次に大事なのがこの世界固有の力を習得する事である。
その力とは、勿論霊能力。
だが、これも武術教室と同じくして、俺の年齢では弟子にしてくれる霊能者など居ないと思えるので、どうするかが問題だ。
プロゴルファーに始まり、あらゆる競技において最も重要なのが幼児期から始まる技術習得だと言われている。
無論、プロの中には遅くして始める者も少なからず居るが、それは非凡な才能を有していたからこそなのだ。
対して俺はと言うと、普通の男である。
そんな俺であるからして、技術習得は出来るだけ早いに越した事はない。
となると、原作中で最も優しい人物として知られる神父の元へと行くべきだろう。
彼なら、俺の様な子供だとしても無下にはしない筈。
だが、今の時代だとW主人公の一人である美神令子が弟子として居る可能性もあるので、俺が弟子入りするのは憚られる。
何故なら、俺の指導に時間を割いたせいで、美神令子が弱体化する可能性があるからだ。
ならばどうするべきかと考えると、一番技術習得に最高なのが妙神山であると言えるだろう。
ただし、紹介状が要るし、試しの門に居る鬼門を倒す必要もあるのだが。
そうなると、俺には霊能力の技術習得は、一旦自力での試行錯誤による努力しか選択肢がなくなる。
「はぁぁ………まぁ、仕方ないっちゃ仕方ないかぁ。自分の都合良く事態が動くなんてのは有り得ないんだから」
兎に角、明日からはひたすら努力あるのみ。
武術は教材があるし、霊能力は………霊能力は………まぁ、記憶にある他の漫画を教材としてやってみようと思う。
そして、そう決断を下して目を瞑った瞬間、ふと思う。
神話とかの勉強もするべきだろうか? と。