文学作品を護る存在に。……漫画もね。   作:Mr.ねこ

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修業ってのは辛いもんさ

 此処妙神山修行場で始められたのは、師匠である天狗様の修業とは大きく違っていた。

 何が違うのかと説明すれば、まるでバファリンかと思ってしまう程の優しいトレーニング内容であろう。

 そう、半分が優しさで出来ていると言われるバファリンを比較に出してしまうくらいには、此処のトレーニングが非常に体に優しかったのだ。

 だが、体に優しくとも心には別である。

 つまり、マザー・テレサも裸足で逃げ出す程には辛く厳しい内容という訳だ。……心には。

 

 妙神山修行場の修業内容を掻い摘んで説明すると、以下の通りとなる。

 

 ●陽の昇る少し前に起床して、座禅での瞑想二時間。

 ●朝食を済ませた後は、針山の上で座禅をしつつ昼まで瞑想。

 ●昼食を済ませた後は、徒手空拳と刀術の型を軽く熟しながら霊気のコントロールを細かく指摘され、悪い部分を修正し続ける事二時間。

 ●再び瞑想をする事三時間。

 

 これが俺の修業内容である。

 そう、殆ど一切の身動ぎも許されぬ瞑想ばかりであった。

 しかも、軽く武術の型をするとあるが、勿論全力で型を熟しながら完璧な霊気のコントロールが出来る訳がないので、滅茶苦茶ユックリとした動きでの型である。

 師匠の修業では凄絶な痛みと苦しみがあったが、満足に動く事は許されていた。

 もっとも、動きたくなくても動かなくてはならないので、強制的に動かされていたとも言えるのだが。

 しかし、此処の修業は、全力で動き回るトレーニングなど微塵も無いので、異常な程にストレスが掛かるのだ。

 

 そうして、早く全力で動き回れる修業がしたい、と願う自身の心が、何時からか此処の修業内容に順応し始めた半年後、俺も驚く程にガラッとトレーニング内容が変わる事になる。

 

 ●陽の昇る少し前に起床して、全力での霊気解放。そして、そのまま全力での武術の型を行う。

 ●朝食を済ませた後は、針山の上で両手に霊気を収束させて霊波刀(自分の霊気で創る刀)を創造しての型を行う。

 ●昼食を済ませた後は、一旦収束させた霊気を任意の所から一気に放出させて、標的となる案山子を延々と破壊し続けるという霊波砲(遠距離、中距離を想定した技)の修練を二時間。

 ●小竜姫様を相手にした地稽古(じげいこ)を三時間。勿論、霊能力をフルに駆使した地稽古(じげいこ)である。

 

 と、こんな風に体を全力で駆使する修業に大幅に変化した。

 初日こそ嬉しく思い、はしゃいで修業していたが、小竜姫様との地稽古(じげいこ)では戦慄してしまう。

 そして、次の日もその次の日も、幾度も死を体験するかのような小竜姫様との地稽古(じげいこ)で、悟ってはいけない部類の悟りを開き掛けた程だった。

 

 そんな訓練が半年過ぎて、この妙神山に来てから一年が経過すると、俺の霊能力関係の技能は飛躍的に高まっていた。

 小竜姫様曰く、俺の霊力は90マイトくらいはあるし、霊波刀や霊波砲は及第点だそうだ。

 勿論、天狗様である師匠と小竜姫様から指導を受けた武術は既に名人の領域に達しているらしく、何処に出しても恥ずかしくないそうで、手放しで褒め称えてくれた。

 

 本当に、心の底から嬉しく思える称賛の言葉だったと言えるだろう。

 何せ、この辛く厳しい三年間が報われたのだから、感動に打ち震えても仕方ないと思える。

 

 そんな俺が今日も訓練を頑張ろうと考えながら部屋から出ると、何故か唇をツンと尖らせている小竜姫様が居て、少し面食らってしまう。

 普段は決して見せない表情で、どことなく可愛いとも思える。

 しかし、何時もの冷静なものとは違う顔を窺わせる小竜姫様を不思議に思い、どうしたのだろうかと俺が口を開きかけた瞬間、逆に小竜姫様が口を開く。

 

「あなたには、人に仇なす妖怪や悪霊を退治してもらおうと思っています。実戦経験を積む事も大事なので」

 

「随分といきなりなんですね」

 

 小竜姫様の提案を聞いて、直ぐに抱いた感想を素直に口にする。

 すると、小竜姫様は心底納得いかなそうな表情で、俺に聞こえるか聞こえないかという小さな声でブツブツと呟いた。

 

 余りに小さくて何やら判然としないが、「私の弟子なのに………可愛い弟子が怪我したら………まだ11歳の子供なのに………」とかなんとか、誰に不満を言っているのか不明だが、ずっと不満を口にしている。

 だが、やがて意を決したのか、小竜姫様は凛とした雰囲気を醸し出して俺へと視線を向けて来た。

 

「私としては、実戦はまだ早いと思っています。ですが、あなたの………護の実力なら問題無いと思っているのも本当です。

 護、頑張ってください。必ずや人に仇なす妖怪や悪霊を退治し、この妙神山に帰って来てくださいね」

 

「は、はぁ。あの、頑張ります?」

 

 唐突な提案と、コロコロと表情を変える小竜姫様に対して戸惑いつつ返答すると、何やら書類のような紙束を手渡され、俺はそれを受け取るなり目を通す。

 一枚目、二枚目、三枚目、と順番に目を通してみれば、この紙束が何なのかが理解出来た。

 

 この手にある紙束は、妖怪や悪霊が行ったと思われる事件の資料だったのだ。

 つまり、これを基に実戦経験を積んで来いという事なのだろう。

 事前に事件の資料に目を通していれば、今の俺なら問題無く対処出来るであろうから、それは本当に有り難く思う。

 だが、資料の中に被害者の遺体写真も載せる必要があったとは思えない。

 はっきり言って、ドン引きである。

 何故ならば、被害者の悉くがバラバラであるからだ。

 普通、子供に見せるような写真ではなかろう。どう考えてもトラウマになるから。

 

 何とも言い表せない気持ちで顔を顰めていた俺に向かって、小竜姫様が微笑みながらポンッと軽く俺の頭に手を乗せる。

 

「大丈夫ですよ。私も目を通しましたが、何れも護なら容易く退治出来ると感じましたから」

 

「有り難う御座います。頑張って参ります」

 

「護の無事を、此処妙神山から願っていますね」

 

 そう言葉を掛けてくれた小竜姫様は、何やら少し大きめのリュックを俺へと差し出す。

 元々俺が持っていたリュックではなく、新品のリュックだった。

 しかも、中にはびっちりと中身が入っており、結構な重量感がある。

 

「これは?」

 

「このリュックの中には、護の為に私が用意した服や下着が入っています。……その他には、護符や吸引札などですね。

 妖怪や悪霊との戦いで使用してください」

 

「すいません、俺なんかの為にこんなに用意して貰って。ですが、この服のままでは駄目なのですか?」

 

 俺が今着ている服は、妙神山修行場で渡されている服になる。

 これ以外の元々俺が持って来ていた服は、成長したせいで入らなくなったので、俺は終始渡されていた服を着るのが普通になっていた。

 そんな俺からすると、わざわざ服を用意して頂いたのは非常に嬉しく思うものの、別の服に着替える必要性が思い浮かばない。

 

 だが、俺の疑問を耳にした小竜姫様は、カラカラと笑いながら即座に否定した。

 

「護も立派に神族の仲間入りですね。ふふ、そんな服で世俗を彷徨いていては、目立って仕方ないではありませんか」

 

 確かに、そう言われるとその通りだ。

 修験者と変わらぬ出で立ちの師匠、和服を少し弄ったような小竜姫様の服、そして僅かな邂逅であったが武士の服装をしていた犬塚キバさん、といった俺が出会った三人の人達が悉く世俗から浮世離れしていた服装だった事もあり、現在の自分が着ている服が普通なのだと認識してしまっていた。

 その事を理解した途端、俺は愕然としてしまう。

 どうやら、俺は自分でも知らぬ内に、世間知らずの子供と成り果てていたようだ。

 

 ま、まぁ、これも致し方なかろう。

 三年間も世間から離れて生活していたのだから、これくらいなら許容範囲内だと思っておこう。

 山籠りした故の、弊害、とも言える。

 

 ともあれ、俺は自室に戻ると、小竜姫様に渡されたリュックの中身から一着の服を取り出し、ササッと素早く着替える。

 そして、此処を旅立つ用意をして部屋から出ると、俺の姿を目にした小竜姫様が………

 

 

「キャーー!! 予想した通り似合っているではないですか! フードが大きめの服を選んで正解でしたね、実に似合ってますよ! それに、そのサングラスも最高に似合ってて、格好可愛いぃ! 全体的に黒い服装にした事で、シックさと大きめのフードによる可愛らしさの複合! サイッコーーウ!!」

 

「……………」

 

 いや、良いんですけどね。

 ただ、俺を着せ替え用の人形か何かと考えているとしか思えない発言には、そこはかとない悲しさが込み上げてくるのも事実。

 俺は貴女の弟子ですよ? 天狗様の弟子あり、貴女という神である小竜姫様の弟子。

 間違っても、俺は服飾のデザイナーとして弟子入りした訳ではありません。

 

 そんな風にさめざめと思いつつ、俺は一旦妙神山を降りる事になった。

 因みに、下山する時は登頂時とは別のルートで、実に呆気ない程にすんなりと下山出来た。

 

 そうして、三年ぶりに人里へと舞い戻った俺は、取り敢えずどの資料にある事件から片付けるべきかを考えていたのだが、ふと視線の先に存在するレストランに気が付き、腹の虫が盛大に鳴くので堪らず中に入る。

 店内に居る沢山の客の前にあるのは、分厚い肉、肉、肉、肉、肉、肉のオンパレード。

 肉と言えばずっと魚肉だけの生活だったので、野性味溢れる肉汁が恋しかった故のレストランへの入店である。

 

「いらっしゃいませ。御一人様ですか?」

 

 もう俺の視線は御客さんの肉に釘付けで、店員の人には目もくれなかった。

 そんな俺に苦笑する店員さんは、俺を席へと案内すると、内心でステーキだろうと思いつつ一応の確認として注文内容を確認して来た。

 何故俺が店員さんの考えを見透かしていたのかと説明すれば、俺が”サーロインステーキ“のサーと口にした瞬間に、「サーロインステーキ一人前ですね。お飲み物はどうされますか?」と、食い気味に言われたからだ。

 

 ともあれ、飲み物はこれまた好物のメロンソーダを注文し、暫く資料の事など忘れて運ばれて来た料理を頬張り続けた。

 そして、全てを平らげメロンソーダに舌鼓を打っていると、ふと何やら妖しげな雰囲気に気付く。

 

 その雰囲気の原因が何なのか疑問に思った俺は、視線を店内へと巡らして見渡してみた。

 しかし、一見しただけでは普通の客層で、おかしな部分など見当たらないし、至って普通通りである。

 だが、やはり今も妖しげな雰囲気が感じられているのも事実。

 

(………何なんだ?)

 

 心底不思議に思った俺は、首を傾げつつメロンソーダを飲み干す。

 と、その瞬間、妖しげな雰囲気を撒き散らしていた正体に気付き、目を細めてその面妖な存在を見詰める。

 

 俺の視線の先には、宙を漂いながら何やら不満そうに愚痴を呟いている20センチくらいの不思議な生物が居た。

 デフォルメされたようなその姿から察するに、恐らく使い魔、或いは式神、に分類されるモノのようだ。

 その妖しげな存在が、主と思わしき黒髪の女性に文句を言い募っていた。

 

(へぇ〜………あれが式神とか使い魔ってヤツかぁ)

 

 この世界に来てから初めて目にする存在に、俺は感心しつつ見詰め続ける。

 しかし、感心すると同時に疑問が浮かぶ。

 何せ、式神は読んで字の如く一応は神と呼ぶのだから、こんな妖しげな雰囲気は出さないのでは、と疑問が浮かぶのも当然だろう。

 実際こんなに妖しげな雰囲気を撒き散らしているのに、神、という文字を当てたりするとは思えない。

 だが、そうは言っても、俺のオカルトに関係する知識が浅いせいで、如何せんそれが確証に至る真実なのかは判然としない。

 もっとも、神ではあっても不吉な存在だったり、はたまた邪悪なモノも存在するのは一応知っている。

 例えば、荒神となった霊を鎮める為、その霊に苦しめられた人々が神として祭り上げたりする事例もあるし、神様=神聖な存在という図式が成り立つものではないのだ。

 

 しかし、そういった事情をしっているとは言え、やはりオカルト関係の知識が浅い俺からしたらそこ止まりの結論で、その先の”目の前の存在が善か悪か“という一番大事な事がさっぱり分からない。

 そんな訳で、腹の底がモヤモヤする感じに支配された俺は、それに堪えられず行動に移そうと思い至り、席から立ち上がると直接女性に尋ねるべく近付いて………

 

「おいエミ、さっさと食え! 依頼人と会う時間が迫ってるぞ!」

 

「うるさいワケ。どうせ、始末したヤツの魂が食いたいだけでしょ?」

 

「キキッ、分かってるなら早くしろ!」

 

 前言撤回。

 俺は話し掛けるのを中止して、そのまま素通りするとカウンターで料金を支払い、そのまま外に出た。

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