カミトに一条の光が差す。
光は何もない世界を照らしながら徐々に輝きを増していき、ついには蓮を飲み込んだ。
白光が視神経を伝って脳に焼き付く。
反射的に目を瞑って顔を背けるも、焼き付いた白は依然として残っている。
20~30秒ほど経ったころ、次第に瞼の裏が暗くなってきたので、目をパチクリと慣らしながら少しずつ開けていく。
雲が浮かばない筈の無窮だが、何故かとても暗い。
最初は目が眩んだからと思っていたが、目元の不快感が和らいでも一向に暗いままだ。
疑問に思い、空を見上げる。
見上げた視線の先には、少なくともこの世界にはあるはずのない
『さぁ、第2ラウンドだ』
天空を統べる神が、雷鳴と共に降臨する。
双貌を持った竜が、無窮の空を駆け巡る。
赤く染まった身体は、雷雲の中を何度も往復していながらなお果てが見えないほど長い。
上下2つの口を携えており、さらにその上には晴天のように青く輝く宝珠があしらわれている。
大気からは張りつめた緊張感だけでなく、産毛を波打たせる静電気が伝わってくる。
『その剣を見極めよう。己を知らぬ蟷螂の斧か、あるいは神に届きうる至極の剣か』
「……空凪流の真髄、心行くまでご覧に入れよう!」
見下すカミト、見上げる蓮。
さながら、ドラゴン退治にやって来た勇者のよう。
もっとも、どちらが悪でどちらが善、という関係ではないのだが。
ぷるぷる、ぼく、わるいオシリスじゃないよ。
いや、どらちかといえばゴッドイーターだろうか?
『ラー』というアラガミが存在するそうな。
ま、それはさておき。
互いの視線が交差する時、二人の頭は全く同じ事を考えた。
((あぁ……俺、今ものすごく恥ずかしいこと言ったな))
覆水盆に返らずというやつだ。
…………
……
…
場を無窮に移し、既に2時間が経過した。
どちらもあと一歩のところで決定打が決まらず、戦況は滞っていた。
両者がじわじわと消耗していくばかり、近年稀に見る泥試合が続いていた。
『ゴッド・ハンド・クラッシャー』!!
カミトは『オベリスクの巨神兵』となり、拳を振るっていた。
消耗すればするほど、ラーやオシリスの力は衰えていく。
このような状況下ならば、破壊力の変わらないただ1つのオベリスクこそ最適解となる。
無論、これ以外にも最適解に足る活躍ができる場所はあるが。
「はっ!……はぁ、はぁ…………ふぅ」
蓮もすんでのところで回避し、呼吸を整える。
手数で劣っている中、感情に身を任せるのは愚策だ。
愚直に打ち合っていた時とは比べ物にならないほど張り積めた緊張の中、『最低限の~』だとか『最大限の~』とか考える余裕は無い。
その場の思いつきで動くほかにない。
それでも、なおも攻防は激しさを増し続ける。
文字通り規格外の攻防。
2つの台風の目は、
まだ足りない、と。
友達とまだ遊んでいたいと駄々をこねる、二人の幼児がいた。
故にこそ。
切り札を斬る。
「ふぅ…………」
刀を納め、目を瞑り、頭を冷やす。
ふと、いつだか聞いた師匠の言葉を思い出す。
……嘘、何を言っていたかさっぱり思い出せない。
まあ、なんとかなるだろう。
敵を前にして剣を納めた。
これには二種類の意図で取られる。
『降参』か『戦法』か。
しかし、少なくとも降参ではないと、瞑ったはずの眼光が語っている。
であれば自分もそれに応えようと、残り少ない魔力を雷に換える。
もし剣を納めるのが戦法であり、得物が刀であれば、まず思い付くのは居合切りだ。
ならば、心を乱せば隙が出来るのでは?
『超伝導波サンダーフォース』!!
「…………ふっ!」
『ッ!?』
蓮の姿が突如として視界から外れる。
見失う、という一対一ではおおよそあり得ない事態に、急ぎ思考を巡らせる。
自分の思考には頼らず、自分の勘だけを頼りにした。
結果、物理的にあり得ないはずの未来を予想した。
(電撃ごとブッた斬るつもりか!?)
……と、思っていた時期が私にもありました。
『電撃を斬る』と言ったな?
あれは嘘だ。
いやまぁ、普通に考えればさ、電気なんてモン斬ったら感電するに決まってるじゃん。
そもそも斬れないし。
例え斬れたとして、放電やらスパークやら起きて危ないし。
単純なことだった。
超スピードかワープかなにかで上空に回避した、それだけ。
原理も気にはなるけど……今それどころじゃない!
頭から自然落下しながらも、未だ目は閉じたまま、居合の構えを保ったままだ。
空中だからと迂闊に手を出せば、それこそ手痛いカウンターを貰うことは目に見えてる。
どうする?
……打開策はある。
が、魔力はギリギリ。
というか、打開策といっても、必ず打開できるとも限らない。
いままで感じたことが無いほど身体はダルいし、目の焦点も定まらない。
こちらに来てから忘れかけていた
けど、
いやだ……
俺は……
『負けたくないイイイィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!』
「なんーーーがっ!?」
自然落下をしていた蓮だが、強烈な衝撃によって体勢を崩し、何が起きたかも分からないまま風上を向く。
絶叫に応える様に、闇は辺りを飲み込んでいく。
止めどなく闇が広がる中、仄かな輪郭として見えてきたのは黒い球体だった。
否、それは既に球体ではなく、蠢きながら形の変わり続けるナニカだった。
黒いナニカは形を変えていき、人間のような形を形成していく。
依然として真っ黒だが、どこか見覚えのあるような顔の造りをしていた。
まるで、
『邪神アバター』
三邪神の一柱にして、最大の奥の手。
オリジナルをも上回る、究極の偽物。
最も優れた能力を持つ者を上回る力を持つ邪神。
対象に制限は無い。
例え、蓮であれ、アクアであれ、ダクネスであれ、めぐみんであれ、カズマであれ、ゆんゆんであれ、ウィズであれ、ベルディアであれ、デストロイヤーであれ、バニルであれ。
例え、
人の『修行』や『鍛練』といった努力を踏みにじる、最悪の禁止カード。
『正真正銘、最大最悪の奥の手だ。全てを模倣しそして超える、禁止カード』
「……ああ、最悪だ。そっちがその気なら、こっちも出し惜しみ無しだ」
蓮は軽く息を吐くと、
「魔源、解放」
己の全魔力を解放した。たとえ、カミトも強くなるとしても。たとえ、“アイツ”に怒られるとしても。
「あと少し、付き合ってもらうぞ」
『それはこっちの台詞だ』
全身に萌葱色の粒子を纏い、髪を軽く逆立たせた蓮は、“今”を楽しむ為に静かに構える。
対称的に、カミトは肩の力を抜いて剣先を地に向けていた。
次の瞬間、空間に衝撃が走った。
少し遅れて、音叉の様な金属音が波打つ。
それはカミトと蓮の剣がぶつかりあったモノだった。
出し惜しみをなくした二人の戦いは激しさを増していく。
規模や派手さこそ先程より劣るものの、その質は先程の比ではない。
埒が明かないと感じたのか、カミトは剣を引き後ろに飛び下がった。
そして、地面に着くと同時に残像を残して視界から消える。
背中、うなじ、脚、肩、胸、頭、腹、脇……その身を切り落とさんと吹き荒ぶ剣舞。
対する蓮は漆黒の刀と萌葱色の魔力を実体化させて鎖へ、槍へ、爪へ、壁へ、剣へと何度も形を変えてカミトの攻撃を防ぎ、攻める。
何十も、何百回打ち込んでも衰えない二人の戦いは、徐々に加速すらしていく
カミトはさながらベアリングの様に、打ち込めば打ち込むほどキレや速さに磨きが掛かっていく。
今の蓮を表すのなら、「千変万化」が最適だろう。
相手に慣れを与えぬよう、常に最適化し続ける。
だが、この戦いの終わりがやって来た。
『……ははっ、燃費、悪すぎだ……バカ野郎…』
ドサッ……。
「……ははっ、ここまでか……」
ドサッ……。
二人はお互いに魔力切れを起こし、倒れ込んだ。
二人が最後に見た無窮の空は、どこまでも無垢な虚空だった。
~ アクセルの街 裏道 ~
女(神)三人寄れば姦しいと言うように、残された女子組は漢同士の戦いなどいず知らず、話に花を咲かせてキャッキャウフフしていた。
「それでね、その時の蓮ったら冷たく「おいこら、初対面の人に俺の悪印象を植え付けるんじゃねぇよ」あ、おかえりー」
「お帰り、早かったわね?」
「どちらが勝ったのだ?」
「「こいつ」」
同時に、互いを指差した。
仲がよろしいことで。
そして、これまた仲良く、驚いた様子で同時に顔を見合わせる。
「最後に立ってたのはお前だろ!?」
「お前が出し惜しみしなきゃ勝ってたからお前だ!!」
「立ってた奴の勝ちって言ったのはお前の方だろうが!?」
「ガス欠で勝ったなんて納得できるか!!」
「デッキ切れも歴とした戦略だ!!」
「そういう問題じゃねぇよ!?」
唐突に言い合いを始める二人。
しかも、互いに「お前の勝ち」だと言って譲らない。
呆気にとられてポカーンとしている3人。
(まるで、すぐ熱くなる子供だな……)
(自分の負けを主張するって、一体どんな状況!?)
(なんかよく分からないケド、ようは互角ってこと?)
全力を出し切ったのが嘘のように言い合いは続き、最終的に、じゃんけんによる厳正な審査の結果「引き分け」で可決したらしい。
全300戦
カミト:100勝100敗100引き分け
蓮 :100勝100敗100引き分け
こんにちは、ひきさんです。
遊霧 粋蓮様とのコラボ回、いかがでしたでしょうか?
書きたいことが多すぎてなかなか纏まらず、結局ぐだくだとこんなに間が空いてしまいました。
これからも亀かもしれませんが、更新を続けていきたいと思っております。
また、Fate二次創作や、ONE PIECEの再開なども考えておりますので、ご期待いただければ幸いです。
それでは、
次回 天使の施し
デュエルスタンバイ!