ガールズ&フレームアームズ   作:ロボ太君G。

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Ep.03:嘘-Lie- (前編)

  ゴオォンッ……キュドオオォォォ!

 

 FA「轟雷」が雄々しい姿のままに右肩の120mm低反動砲による砲撃をしている姿が映し出される。その途轍もない轟音に多くの生徒が耳を塞ぐか顔をしかめるかとしている中、悲しいかな、みほは慣れているために特に反応を示す事は無かった。

 そして、その轟雷の映像を皮切りとして次々と様々なFAが映し出される。先の轟雷の120mm低反動砲を避けるスティレット、そのスティレットと共に急降下してくる通常仕様(ノーマル)のバーゼラルド、そしてその二機を轟雷と共に迎撃する榴雷。

 

(よくここまで綺麗に写せたなぁ……)

 

 その大迫力の映像を前に、みほは相も変わらず無感動で興味も持っていない瞳を向けるばかりだった。

 

『FA道は、古来から続く伝統的な文化である戦車道などの流れを汲む乙女の嗜みとして生み出されました、新しい伝統です』

 

 体育館の全員がその3D映像に、体育館の()()全員が食い入るように見つめ始める。だが、既に生まれてから久しく、それ自体の人気が下り坂気味なのには触れないのだろうか、と唯一の経験者であるみほはただただ単純に疑問だった。

 

『礼節のある、淑やかで慎ましく、そして凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸でもあります』

 

 目指しただけに終わったな、とはこの時のに出さずに内心で思った偽らざる本音だ。

 日本FA道における最大派閥の一角が()()()()だったのだから、みほの感想も無理からぬことだろう。

 

『FA道を学ぶことは女子としての道を究めることでもあります。

 鉄のように熱く強く、その足で愛らしく歩み、その腕から繰り出される一撃で必殺命中』

 

 愛らしい歩みが可能な機種なんて個人使用の改造機しかない、という訂正を大声で言わなかったみほの精神力は褒められてしかるべきだろう。

 

『FA道を学べば、必ずや良き妻、良き母、良き職業婦人になれることでしょう』

 

 その一言に、みほにはどうしても頭によぎる影があった。

 

(お母さん……)

 

 みほの記憶の中ではもはや厳格な姿しか残っていない母親。もはや西住流の師範代としての姿しか記憶に無いその姿を思い出し、辟易しそうになった。

 

『健康的で優しく逞しい貴女は、多くの男性に好意を持って受け入れられるはずです』

 

 そもそもとして武道の一種である以上は怪我と無縁ではいられない以上、健康的と言えるかどうかは人による部分もある。そして、この一文が当てはまるのは一部のトップ選手だけ、という事実を多くの生徒は知らないらしい。現に、みほの隣に座っていた沙織は頬を紅潮させてややだらしない表情を作っていた。

 映像も佳境に入り、無駄に熱い戦闘シーンが続いていく。だが、その殆どのシーンは一対一戦闘が主流のアリーナマッチと呼ばれる競技からの流用であった。それは現在、男性の競技として定着しつつある競技である。

 とどのつまり、映像の流用元が明らかに違っていた。だが、それに気づく者はいない。

 

『皆さんも是非、FA道を学び、心身ともに美しい女性になりましょう』

 

 最後、コクピットからパイロットスーツ姿で出てきた女性選手がヘルメットを両手で持って脱ぎ去り、数回首を振ってから右手を挙げて軽く振っている。そして、その女性選手へと割れんばかりの大歓声が降り注いでいた。

 そこで映像は終了のようで、映し出されていた立体映像が消える。同時に体育館の明かりが付き、例の生徒会の3人が壇上へと出てきた。

 

「実は、数年後にFA道の世界大会が開催されることになった。

 そのために、文科省から全国の高校、大学にFA道に力を入れるように要請があったのだ」

 

 生徒会の方眼鏡がいかにも偉そうかつ凛々しい口調で説明すれば、その後を生徒会長と名乗った角谷杏が続ける。

 

「それで、ウチの学校でもFA道を復活させるからね~。

 選択すると色々と特典を与えちゃおうと思うんだ~。副会長」

 

 これまたいかにも胡散臭い口調で宣言すれば、最後の補足とばかりに副会長と呼ばれた最後の一人が続ける。

 

「はい。

 もしFA道を履修し好成績を収めれば、食堂の食券100枚、遅刻見逃し200日、さらに、通常授業の3倍の単位を与えます!」

 

 破格としか言えないレベルの特典が宣言されれば、さらにざわめきが広がる。ばかりか、これまで興味なさそうだった一部の生徒までが顔を上げている始末だった。

 

「そういう事で、ヨロシク~♪」

 

 いかにも何も知らない気楽で無責任な口調で告げると、生徒会の3人はとっとと壇上を後にする。

 残ったものはと言えば、取り残された生徒のざわめきと真面目くさった態度で生徒たちの前に立っている風紀委員の面々だけだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 嘘に嘘を重ねて塗り固めた映像に、みほは辟易とした気分になっていた。

 

(よくもまあ……あんな物まで用意したものだよ……)

 

 心の中だけで愚痴を零しつつ、みほは沙織と華の二人と歩いていた。

 実のところ、通常の―――スクリーンに映すタイプの―――映像なら無料配布されている。そのため、行くところに行けば見れるものだった。家元の娘である―――先頭に、一応、という言葉が付くが―――みほに至っては、それこそ見飽きたとしか言えない。

 だが、3Dタイプの映像はそうはいかない。そもそも映写機として利用していた3D・ホロ・プロジェクター自体が割と人気の品で中古でさえ高く付く始末の上、素体のFAも型によるが高いものは高い。そもそもFAも民生用では中古でも作業用機械として人気である昨今の事情を鑑みれば、安いものなど中身にアテにならない部品がざっと50は混ざっているのを覚悟する他無い。しかも、PVであるはずの映像もなぜか製作元であるFA道連盟が()()販売しているという訳の分からなさである。

 

 つまり―――いくら要請があったと言えど、余りに高い金を使い過ぎているのだ。

 

(補助や援助があったならばまだしも……もし学校の経費でやったとしたら、それこそ無駄なんじゃないかな)

 

 あるいは、()()()()()()()()()でもあるのだろうか。などと愚にもつかないことを考えながら疲れたような気分で歩みを進めていく。

 

「決めた!」

 

 そんな、どうしようもない気持ちを引き摺る様にしながら歩いていたみほの耳に響いたのは、横を歩いていた沙織から発せられた一言。

 思わずぎょっとした表情で振る向いたみほが見たのは、満面の笑み――やや邪な物が混じっているが――を浮かべている沙織だった。

 

「最近の男子は、強くて頼れる女の子が好きなんだって!

 それに、FA道やればモテモテなんでしょ!」

 

 弾んだ声で語る沙織に、みほは困ったような笑顔を浮かべるのが精々だった。

 噴き出しかけた感情を抑える、それ以上の対応を求めるのは()()()()()()()()()()()()を過去にしきれていないみほには酷だった。

 

「みほもやろうよ!

 家元なんでしょ!」

 

 何時ぞやの発言は何処へ行ったのか、沙織はウキウキとした様子と弾んだ声でみほの癒えていない傷跡へと容赦ない一言を突き刺してくる。

 最も、その一言に悪意のない限りはみほに責める気持ちなどありはしないのだが。

 

「私は……」

 

 故に、話しかけられたみほの返しは曖昧な笑みと濁した言葉だけに止まった。

 その次にどんな言葉を紡ごうか、思い悩んでいたみほが答えるより早く言葉を選んだ人がいた。

 

「そうですよね。私、西住さんの気持ち、少し分かるような気がします。

 ウチも、華道の家元なので」

「そうだったんだ……」

 

 もう一人の友人であり、一緒に歩いていた華である。

 意外だが、それまでの立ち居振る舞いを考えるに十分な納得も得られる事実に、咄嗟に上手い返しが取れなかったみほだった。

 

「でも、FA道って素晴らしいじゃありませんか」

「え?」

 

 だが、笑顔で放たれた言葉に、思考が止まる。

 

「私、ずっと、華道よりアクティヴなことがしてみたかったんです」

 

 奇麗な姿勢で歩きつつ、とんでもない理由での参加を宣言した。

 

「私もFA道、やります。

 どうか、ご指導ください」

「……えぇ」

 

 前述の理由の影響もあり、みほは控えめに言って引いていた。あるいは、知らないということが幸せなことなだけなのかもしれない。

 

「みほもやろうよ!

 みほがやれば、ブッちぎりで一位の成績取れるって!」

 

 弾んだ声に、浮かれた様子。FA道を履修する二人は、さぞ楽しい授業風景を想像しているのだろう。

 ――故に、みほは決意した。

 

「沙織さん、華さん」

 

 ――この時のみほを、二人の友人は、後にこう語る。

 

()()()()()()()なら、止めといたほうがいいよ」

 

 ――満面の笑みのはずなのに瞳に一切の光が宿っていない、真っ暗で歪な笑顔だったと。放たれた言葉はどこまでも優しい口調の筈なのに、冷たいナイフを生肌に突き付けられたような悪寒を感じさせたと。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「黙りなさい」

「だから、負けたことそのものは私の責任だけど……」

「黙りなさい。

 西住流に、負け犬の遠吠えは不要です」

「だから、そうじゃないって……!」

「もう黙りなさい。

 お前のことは、追って申し付けます」

「その前に、調べなきゃいけないことがあるの……!」

「今更何をどうしたところで、黒森峰、ひいては西住流があのような流儀に反する行いの末に敗北した事実に変わりはありません」

「そんな事以前の問題なんだよ!」

「そんな事とは何ですか! 西住流の娘が、敗北をそんな軽々に……」

「そんな事はそんな事だよ!

 とにかく、試合会じょ」

「黙りなさい!

 みほ、貴方は一回その頭を冷やすため、戦車道から離れなさい!」

「~~~~~っ!! 頭を冷やさなきゃいけないのはお母さんの方だよ!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……あの夢か」

 

 布団の中から這いずる様に出てきたみほは、何の気無しに時計を見た。

 指示されている時間は午前3時を少し過ぎたくらい。

 

「……なんでこんな時間に起きちゃったのかな」

 

 誰に対してでもない文句を言うも、それで何が変わる訳ではない。みほはもう一眠りしようかと考えたが、先ほど見た夢の内容を思い起こしてしまい寝付けなくなっていた。

 

「……」

 

 そのまま、布団の中に潜り込むようにして膝を抱えて蹲った。

 

「…………」

 

 答えは出ている、けれどその答えに対して疑問を投げざるを得ない。

 

(……沙織さん、華さん)

 

 もし、あの二人がやることに決めてしまったとしたら、さすがに放っていくことができない。

 あの二人との付き合いこそ短いが、それでも自身のことを気にかけてくれた友人である。みほにしてみれば、FA道以外で出来た友人などもう何年振りかのことだった。

 

 ――故にこそ、みほは決断しなければいけなかった。

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