全国シニアリーグ野球大会の準決勝当日。
真夏のジリジリとした太陽光線が容赦なくグラウンドに降り注ぎ、その場に立つ選手たちはきっと熱を吸った黒土のせいでまるでサウナの中にいるような錯覚に陥っているだろう。
そのグラウンドの中心……マウンドに立っている青少年は額から流れてくる汗を帽子を取り、身に纏ったアンダーを使って拭い取ってから再度帽子を被り直す。
ここまで両チームのスコアボードには15個の0が並び続けていた。
両チームともにエースが登板し、スタミナと神経をすり減らしながらも快刀乱麻の投球を続け観客や高校のスカウト陣を大いに熱狂させてきた。
「健太。大丈夫か?」
スタミナが底をつき始めているエースに彼の女房役が声を掛ける。
「まだ投げられる」
「そうか。クリーンナップを迎える事になるけど油断せずに行こう」
「ならいい加減『あのボール』のサイン出しやがれ」
「それがなくてもここまでなんとかなってきただろ?」
そう言って女房役は小走りで自分のポジションへと戻っていく。
(……自分のブロッキングの甘さを棚に上げて何言ってやがる)
心の中で舌打ちをしながらボールを受け取り、グラブの中の白球の縫い目に指を掛けて静かに見つめる。
顔を上げると相手は3番からの好打順。
これまでの対戦成績は空振り三振2つと内野安打1つ。
自分のスタミナとイニング毎のペース配分を考え、力を抜くときは抜くピッチングスタイルが故にヒットを打たれることもしばしばだがピンチになると一転して鬼気迫る圧倒的なピッチングで今まで数多くのピンチを抑えてきた。
左手につけたグラブを目以外の顔の部分を覆い、キャッチャーからのサインやバッターの情報以外を遮断してサインが出るのを待つ。
示されたサインに何度も首を振っても効果はなく、仕方なしに頷きモーションに入ってから投げる。
綺麗なバックスピンが効いた133km/hのストレートがキャッチャーが構えたミットよりも僅かに浮いた。
県大会や地方大会みたいに甘く入ったボールを悠々と見逃すようなバッターはこの大会には誰一人としておらず金属バット特有の痛烈な金属音を残し、打球は瞬く間にレフト前へと転がっていく。
そして迎えるは世代No.1打者との呼び声高い相手チームの扇の要
本日4度目の世代No.1投手と打者の激突に観客は割れんばかりの歓声と熱い視線をマウンドとバッターボックスへと向ける。
視線を一手に引き受けたマウンドに上がるエースはここが勝負所だと睨み、ペース配分と言う名の枷を外す。
バランスのよいピッチングフォームから繰り出された138km/hのストレートを雨宮は低いと判断し、見送った。
が、ボールはホップしたかのように急激に伸びてストライクゾーンギリギリを通過してミットに突き刺さった。
(……すごいな)
雨宮はクールな表情で最後の力を振り絞るように右腕を振り、自分を抑えに掛かる相手エースを心の中で賞賛する。
2球目のボールもストレート。
バットの上っ面に当たってバックネットに飛んだ。
3球目、4球目はそれぞれシュートとスライダーが外れてカウントは2-2。
カウントを整えてからの勝負の5球目。
マウンド上の彼は何度も何度も首を振り、1度足元のロジンバッグに手をやる。
この試合に限らず、この大会に入ってから首を振ることが多い……。
バッテリー間で呼吸があっていないのか?
そんな事を考えているとようやく頷き、セットポジションに入った。
1度ランナーを目線で牽制してから投じられたエースの自身最速タイに迫る139km/hの渾身のストレートがミットに吸い込まれるように唸りを上げて進んでいった。
そんなエースにとってこの試合のベストボールだと誰が見ても分かるストレートを雨宮は何の迷いもなくバットを振り抜いた。
木製の乾いた打球音と共に打球はグングン伸びていく。
誰しもが打球の行方を追っていくが、この熱闘を演じた彼ら2人だけは違った。
打った雨宮はバットを投げて打球の行方に目もくれず静かにベースランニングを始め、打たれたエースは打たれた瞬間片腕をついて崩れ落ちた。
世代No.1投手と謳われた松井 健太の最後の全国大会はサヨナラ本塁打を浴び、サヨナラ負けという形で幕を降ろした。
そして、半年後……。