お楽しみいただければ幸いです
ある日の放課後、野クルの面々はいつものように部室でだべっていた……。
「なーあきー、そろそろ冬用シュラフじゃ暑ない?なんやいつの間にかそこがあきの指定席みたいになっとるけど」
「……暑い……」
あおいのその言葉にぽつりと一言だけ返して、もぞもぞと寝袋から這い出て棚の上から降りる千明。その寝袋を丁寧にたたんで戸棚にしまい、前まで使っていた夏用を取り出して、棚の上に置いた。
「夜はまだ寒いけど、昼間はだいぶあったかくなったもんねー」
のんびりした口調で部室唯一の窓から空を眺めながらそんなことを言うなでしこ。すると、そのなでしこが急に何かを思いついたようで「ハッ!」と言いながら、夏用寝袋をめぐってわちゃわちゃやっていた二人に向き直った。
「ねぇあきちゃん、あおいちゃん。ここって『野外活動』サークルだよね?」
「おう!そうだぜっ!」
「せやでー?」
なでしこの言葉にサムズアップで力強く答える千明と、今さら何を?と言った感じで首を傾げるあおい。その二人の返事にちょっと考え込んだ後、なでしこは言葉を続けた。
「キャンプがやりたくてこのサークルを作ったってのは最初に聞いたんだけど……せっかく『野外活動』ってついてるんだし、他のアウトドアー的なことはしないの?」
そんななでしこの疑問に言葉を詰まらせてしまう二人。その状態から初めに再起動を果たしたのは千明だった。
「いいかねなでしこ君。君の言うことは確かに正しいかもしれない……だが、我々には圧倒的に足りないものがあるのだよ……君もこれまでの活動で気づいているのではないかね?」
千明に遅れて再起動したあおいもその言葉に続く。
「せやでーなでしこちゃん。キャンプもせやけど、アウトドアって結構かかんねん……」
二人はそう言った後「こ・れ・が」と言いながら揃って同じジェスチャーを行う……手のひらを上に向け親指と人差し指で輪を作ったアレだ。
それを見て「むっ……」という顔で固まってしまったなでしこ。気づけば他の二人も同じような顔で固まってしまっている……そんな状態がどれくらい続いただろうか、下校時刻を告げるチャイムの音がむなしく響いた。
「あきちゃん、あおいちゃん、帰ろっか……」
「おう」
「せやね」
夕食後、なでしこはリビングのソファーでくつろぎながら、リンといつものメッセージアプリでやり取りをしていた。
【なでしこ:――――――ってことがあったんだー】
【リン:気持ちはわかるけど、キャンプ道具も揃ってないものあるんでしょ?】
「へう゛っ……そうだけど、リンちゃんきびしい……」
【なでしこ:そうだけどぉ( ノД`)】
【リン:ていうか、なでしこは静岡にいたとき何もやってなかったの?浜名湖近かったなら釣りとかさ。海もあるんだし】
【なでしこ:野外活動ならやってたよ!サイクリング!!】
【リン:ふーん……って、あれはやむにやまれぬ事情があったからだろ!?】
【なでしこ:(゜н゜)】
「釣りかぁ……」
なでしこは画面を見つめたままごろんとソファーに寝転がると、ぽつりとつぶやき静岡に居た頃のことを思い出していた。
姉に言われて自転車で浜名湖を周回していた時、たくさんの釣り人を見ていた。岸からはもちろんボートを浮かべて釣りをしている人も少なくなく、時には気になって自転車を止めてしばらく眺めていることもあったものだ。
「かっこよかったなー」
浜名湖と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるのは『うなぎ』かもしれないが、汽水湖である浜名湖では、人気の『スズキ(シーバス)』を始め『キス』や『カレイ』『クロダイ』などを気軽に狙える釣り場でもあるのだ。
なでしこは寝転がりながら、かつて見た釣り人達を真似して竿を振る自分の姿を想像していた。
――――シュッっと風を切る音をさせてなでしこの振る竿から『何か』(うろ覚え)が放たれる。太陽の光を浴びてキラキラ輝きながら飛ぶそれは、なでしこの狙い通りに着水するとゆっくりと沈んでいった。
そこですかさずなでしこはリールを巻き始める。それと同時に竿を小刻みに動かす(確かそんなことをやってた気がする)と、水中に沈んだ『何か』はさながら餌の小魚のような動きを見せ、さらにその後ろから大きな口を開けた魚(何が釣れるかはわからない)が追いかけて来る。
「むっ、来たか?」
竿の反応で何かを感じ取ったのか、なでしこがそうつぶやいた瞬間竿がグンッと引っ張られる。それを見逃さず竿を引いてしっかりとあわせるなでしこ。
「来たー!フィーッシュ!(そんなことを言ってた人がいたような気がする)この引きは……ふはは、大物じゃー!」――――
一方そのころリンは……
「お母さん、おじいちゃんが置いてった荷物ってどこにしまったっけ?」
「それなら二階の納戸にまとめておいてあるわよー」
「ありがとー」
なでしことの会話であることを思い出したリンは、祖父に「好きにしていい」と言われていた荷物を漁っていた。
「確かおじいちゃんの荷物の中に……あった!」
目当てのものを見つけたりんは、その中からいくつかのものを取り出して自分の部屋へと運び並べ始めた。
(前におじいちゃんに見せてもらったことがあるから、何となく使い方は分かるけど……)
見慣れない道具に時折首を傾げながら、見栄え良く並べていく。
(ふっふっふ、できた。なかなか私のディスプレイセンスも悪くないな)
思いのほかきれいに並べることができた道具達に、一人満足げにニヤニヤしながら写真を撮って、それをなでしこに送った。
「おじいちゃんの荷物にあったんだけど……っと」
【リン:おじいちゃんの荷物にあったんだけど……】
【リン:(写真)】
「……ふはは大物じゃー……ハッ!」
釣りをしている自分の姿を想像しながらウトウトしてしまっていたなでしこは、リンからのメッセージの着信に気が付くと、飛び起きてメッセージを開きその写真を見て声を上げた。
「うわっ!かっこいー!いーなー」
そんな妹の奇行に……は慣れっこなので、大して驚きもせずに姉の桜が後ろからのぞき込む。
「へぇ、リンちゃんルアーもやるんだ?」
「これはおじいちゃんのなんだってー……って、お姉ちゃんわかるの?」
「んー?ああ、向こうで友達がやってたからね。これはルアーフィッシングの道具。中でもスピニングタックルって言われる奴よ。あー、タックルっていうのは道具って意味ね。ルアーは聞いたことくらいあるでしょ?っていうかめんどくさいからこれ以上は気になるなら自分で調べなさい」
「うん、聞いた事はあるけど……そっかー、これがそうなんだ……浜名湖でやってた人たちもこれ使ってたのかぁ」
「んー、まぁルアー以外の人もいるだろうけど、こういうのを使ってる人もいるってことだな」
リンが写真で見せてきたのは、桜が言う様にルアーフィッシングで使われる道具で、二種類あるリールのうち、スピニングリールというリールを使う物だった。桜自身はやっていなかったが、友人に見せてもらったり、何度か釣行に付き合ったりしたこともあってそれなりに扱い方も知っている。興味があるのならと、なでしこに少し教えようかと思った所で彼女の顔を見てみると……
と、ここでなでしこは何やら思いついたのか急にニヤニヤし始めた。それを見た桜はまたなんかしょうもないことを始めるのかと思ったが、とりあえず放っておくことにして自分のスマホをいじり始めた。
【なでしこ:かっこいいね!それってアレでしょ?ルアーフィッシングの】
【リン:なでしこ知ってるの?】
【なでしこ:ふぉっふぉふぉ。わしはなんでも知っておる。それはルアーのスキミングタックルじゃろ?】
調子に乗って、桜から聞いたばかりの知識で知ったかぶるなでしこ。画面の向こうでリンが呆れ顔でいるのは想像に難くない。
【リン:おじいさんや、ボケるにはまだ早いですよ……てかスキミングって何を盗む気だ】
【なでしこ:あれー?スリリングだっけ?】
【リン:『スピニング』だ】
【なでしこ:えへへー、それそれ。実はお姉ちゃんに教えてもらったんだー。お友達がやってるんだって】
だが、そんななでしこの知ったかぶりもこうして話のネタにできるあたり、この数か月で二人の仲の良さも深まっていた。
と、ここで先ほどまで自分のスマホで何やらやっていた桜が、不意に顔を上げてなでしこに声をかけた。
「おーい、なでしこ。あんたも釣りやってみたい?」
「うん!やってみたい!」
そんななでしこの返事に「ふーん」と気の無いような返事をした桜は、再び自分のスマホへと向き直る。「なんじゃったんじゃ?」と首を傾げるなでしこにはお構いなしで桜はスマホをいじり続けている。
【リン:興味があるなら明日の休みに見に来る?】
【なでしこ:いいの?……でも明日は学校休みだから朝からバイトなんだー。明後日でもいい?】
【リン:あー、明後日は私がバイトなんだ……】
【なでしこ:そっかー残念。じゃぁまた今度だね】
【リン:……だね。じゃあそろそろ寝るよ、おやすみ】
【なでしこ:おやすみー】
リンとのやり取りを終えたなでしこは、自分も部屋に戻って休むべく、ダイニングに座っていた桜に「おねえちゃんおやすみー」と声をかける。いつの間にかメッセージのやり取りから電話に切り替えていたさくらはその声を背中で聞きながら軽く手を振り、電話での会話を続けた。
「……うん、じゃあ明日。そっち着いたらまた電話するから」
そして残りの野クルメンバーの二人は……
【あおい:BBQはキャンプ飯的な感じでできるとして、や。ほかに野外活動ってなんやろー】
【千明:釣り・ボート・カヌー・登山・ラジコン・天体観測・キャッチボール・フリスビー・凧あげ・蹴鞠・シマリング】
【あおい:前にもクライミングやら、ボルダリングやら話しとったなぁ。にしても、前半はお金かかりそうやぁ……そして後半はなんか違う気がするで。シマリング】
【千明:でも野外での活動だぜ?……まぁ、わかって言ってるんだけどさ】
【千明:キャッ…………チボール……地ボール……地・球】
さすがのあおいも突っ込みようが無かったようで、二人のやり取りに短くない間が開いた。沈黙という画面越しのあおいの反応に、千明も「これはあかんやつや」と感じたのか、気を取り直してやり取りを再開させる。
【千明:コホン、そりゃあわたしも色々やってみたいけどさー……】
【千明:……なぁイヌ子よ、どうしてわたしたちは金がないのだ】
【あおい:そうやなぁ、あきはもう少し学問に力入れたらいいと思うで】
【千明:それはあれか、すゝめ的なあれで福沢先生がお喜びになるのか?】
【あおい:そうや、お喜びでお近づきや。おまけに文系科目なら樋口先生、理系科目なら野口先生もお喜びや】
【千明:……!!】
【あおい:まぁ、がんばってなー。私はそれなりにできるので、明日バイトで稼いでくるでー(θзθ)】
【千明:(◎н◎)……って、私も明日はバイトだ】
【あおい:せやなー】
結局のところ、最後はいつも通りの二人だった……。
こんな感じでゆるゆる書いていくつもりでいます
更新は不定期ですが、これからもお読みいただけると嬉しいです
お読みいただきありがとうございました