そしてタイトルのODRとは……?
その日は朝から晴れて気温も上がっていたが、湿度は低くカラりと爽やかに晴れた絶好のアウトドア日和と言えるような天気だった……のだが。
「なでしこちゃん、今日はお出かけしないの?」
リビングのソファーで寝転んでゴロゴロしていたなでしこは、母親のその言葉に「よっこいしょーいち」と気だるげに体を起こし、背もたれにもたれかかりながら言葉を返した。
「んー、みんなバイトとか用事があるみたいなんだよねー。こんなことならソロキャンの計画でも立てとけばよかったや」
「お母さんもそろそろお友達の所へ行かなくちゃだし、お留守番してくれるのもありがたいけど、ずっとゴロゴロしてるのもねぇ……」
なでしことしても、せっかくのこの天気で外に出ないのももったいないとは思っていたので、母親の言葉にうんうん唸りながら、何やらやることはないかと考えてみる。
しばらく考え込んだ後、なにかを思いついたのか「そうだ!」と声を上げて自室へと向かった。
自分のキャンプ用品を床に並べて色々っ物色し始めるなでしこ。その中からODガス缶を拾い上げると、耳元で振ってみた。
「んー、やっぱり中途半端に残っちゃってるー。これくらいだと……四……いや、三十分持てばいいほうかなぁ」
以前キャンプに持って行ったはいいものの、使い切れずに余らせてしまったガス缶だ。次のキャンプ用に取っておくのもいいが、どうせなら使い切ってしまおうという考えだ。
缶の中からシャワシャワ聞こえてくる音から、あとどれくらい使えるかを判断し、その他にもいくつかの道具をバッグに入れてリビングへと戻った。
そして、何やらキッチンでゴソゴソ、トントン、カチャカチャと作業をしたかと思うと母親に声をかけた。
「お母さん、ちょっとそこの川まで行ってくるねー」
「はいはい、気を付けていってらっしゃい。お母さんも出かけるから、鍵忘れないでね」
わかったー、と元気よく玄関を飛び出したなでしこは、お気に入りのロッキングチェア――なでしこ曰くゆらゆらイス――を抱えて、近くの河川敷にやって来た。
「んー、暑くもなく寒くもなくいい感じ。風が気持ちいいねぃ」
到着するなりそう言ってひと伸びすると、なでしこはいそいそとセッティングを始めた。千明に教えてもらった百均材料を駆使したミニテーブルに、バーナーや調理道具、食材を一通り並べて一息つく。
「お昼ごはんにはちょっと早いけど、のんびり作ったらちょうどいいかなぁ」
そんな独り言を言いながらさっそく調理をすることにした。
まずは鍋であらかじめ切ってきた野菜を炒めていく。冷蔵庫の中に残っていた玉ねぎ・しいたけ・ねぎを塩・コショウでざっくり炒めたところで、水を入れて沸かしていく。沸騰したところで入れるのは即席ラーメン(塩味)だ。
「ふひひ、こりゃぁええのぅ」
ぐつぐつと沸き立つお湯にゆるゆるほぐされていく麺を見ながら怪しい笑いを浮かべつつ、その時を待つ。
煮込むことしばし、いい具合に麺が柔らかくなったところで添付のスープを投入して完成。この時スープを全部入れると塩辛くなるので注意が必要だ。
「うん、美味しそう!いただきまーす」
まだお昼には早いなどと先ほど言っておきながら、待ちきれないとばかりに鍋から直接食べ始めるなでしこ。女子高生的にはいささかはしたない感じもするが、これもまたアウトドア飯の醍醐味かもしれない。
と、その時、なでしこのスマホがメッセージの着信を知らせた。
【千明:うぇーい、やっと休憩だぜぇ……疲れた( ._.)】
【なでしこ:あきちゃんお疲れさまー。その顔文字は疲れた感がひしひしと伝わってくるね……】
【千明:なんか今日に限って朝から大量に買い込むグループが立て続けに来てさー、皆どっか遊び行くんかな?】
【あおい:おつかれさん。あきんとこもそうだったんか……多分同じお客さんうちの店にも来たでー】
【千明:あー、酒はうちで食材はイヌ子んとこで買って、BBQって感じか】
【千明:そういや、なでしこは今日は何してるんだ?】
【なでしこ:今河川敷でお昼ごはん食べてるよー、本日のメニューはODRでございます】
【千明:ODR?】
【あおい:ODR?】
【なでしこ:やだなぁ、ふたりとも。アウトドアラーメンだよ!(写真)】
【千明:なんだその美味そうな物体は!……略し方はどうかと思うが】
【あおい:ほんまや、おいしそうやなぁ……略し方はどうかと思うけど】
【なでしこ:( ゚н゚)】
【千明:じゃああたしも昼飯食ってくるわー、休憩時間なくなっちゃうし】
【あおい:あ、わたしもー。なでしこちゃん、また後でねー】
【なでしこ:いってらっしゃーい】
「ダメかなぁODR……TKGみたいでいいと思ったんだけど」
ちょっぴりしょんぼりしながらODRをすするなでしこだったが、完食する頃にはすっかり元通りになっており、ニコニコしながらお茶を淹れるためのお湯を沸かし始めていた。
そうしてお茶を飲みつつ、雑誌などを読みながらのんびりした時間をなでしこが過ごしていると、何やら川の上流の方から声が聞こえてきた。
「いち、にー、いち、にー、いち、にー……」
段々と近づいてくる声の方をよく見ると、そこにはカヤックに乗った千明、あおい、リン、恵那の姿があった。
「えー!?みんな何してるの?」
「お、なでしこー、見ての通りカヤックだぞ」
「せやでー、このまま海まで行くんやでー」
千明とあおいがなでしこの質問に答えている間も、リンと恵那の「いち、にー、いち、にー」という掛け声に合わせて、リズムよくオールを漕いでカヤックは進む。
よくよく見れば、舳先にはちくわが魚肉ソーセージを咥えて、しっかりと踏ん張って流れの先を見据えていた。
いよいよなでしこの目の前を通り過ぎようかという時、なでしこは思い切って四人に声をかけた。
「楽しそう、わたしも乗せてー」
そんななでしこの言葉に答えたのはリンと恵那だ。
「すまんなでしこ、これは四人乗りなんだ」
「ごめんねー、また今度ー」
四人を乗せたカヤックはそのままスピードを緩めることなくなでしこの目の前を過ぎ去り、流れの先へと進んでいった……
「……ひどいよー……って、なんだ……夢か……」
いつの間にやらなでしこは寝てしまっていたようで、膝の上に広げられた雑誌には川でのアクティビティとして、カヤックでの川下りが紹介されていた。どうやら夢での出来事はこの記事が影響したらしい。
「これのせいかー……でも、楽しそうだったなぁ」
気づけば日は山の端に隠れ、川を渡る風も肌寒く感じるような時間になっていた。そろそろ帰ろうかと荷物を片付け、河川敷から出たところで見慣れた車がこちらへと走ってくるのが見える。
その車が目の前までやってくると、運転席に乗っていたのは姉の桜だった。
「あんた、こんな時間まで河原にいて寒くないの?」
「いやー、もちょっと早く帰るつもりだったんだけど、寝ちゃって……」
「はぁ……あったかくなったって言っても夕方はまだ肌寒いんだから、風邪ひくよ。まぁ、いいや、早く乗んなさい」
「えへへー、ありがとお姉ちゃん」
二人を乗せた車はゆっくりと家へと走り始めた。
一方こちらはバイトを終えた二人。午前中とは打って変わって、午後はそこまで忙しくは無かったらしく、足取りはそれほど重くはない。とはいえ、スーパーなどはこれから夕食前のピークがもう一度やってくるのだろう。
「なぁ、あき。うちの店の社員さんで、趣味で燻製作りしてる人がおったんよ」
「へー、じゃぁいろいろアドバイス貰えるんじゃないか?」
「今日はちょっとしか休憩かぶらんかったからあんまり話できなかったけど、今度いろいろ聞いてみるわ」
先日の部室での話以来、燻製づくりについて調べていた二人は最近何かとその話題になる事が多かった。
「なんかこないだの釣りもそうだけど、いざやるとなるとテンションが上がるというか、早くやりたいよなぁ」
「せやなぁ、あきは特にそうかもな」
「なんだよぅ、イヌ子はそうじゃないのかよぅ」
「まぁ、私もそうやね。今日チラリと聞いたその社員さんの話によると、甲州サーモンのスモークはたまらんらしいで……食べたいわぁ……」
「食べたいなぁ……」
まだ見ぬ手作り燻製に思いを馳せつつ、家路を歩く二人だった。
ODR=Out Door Ramen
という訳で、なでしこのゆるい一日でした
お読みいただきありがとうございます