「よーし、それじゃ次回のキャンプの計画を立てるぞー」
放課後、校庭、いつものベンチ……千明の号令で野クルの活動が始まった。そして、千明に続いてなでしこが口を開く。
「今日は先生と恵那ちゃんも参加してまーす。リンちゃんは図書委員だっけ?」
「そうだよ。リンには私が説明しておくけど、一応『みんなに任せる』って言質は取ってあるから安心して」
なでしこの紹介に「よろしくね」と軽く答える美波と、何やら気合の入った恵那。彼女もすっかりアウトドアにハマったようだ。
「とりあえず、今度のキャンプなんだけど、午前中は釣りして、昼過ぎにチェックイン。晩ごはんは釣った魚でっていう流れなんで、それができるとこで探すとこないだの所がベストかなって。歩いて五分の所にキャンプ場があるみたいだし」
「はい、ぶちょう!湖畔のキャンプ場ではだめでしょうか?」
「いい質問だ、なでしこくん。そしてその質問に関しては、イヌ子くんが説明してくれる」
なでしこの質問に芝居がかった口ぶりで、千明があおいに話題を振る。するとあおいも「しゃーないなー」とまんざらでもない感じで説明し始めた。
「こないだあきと相談したんやけど、今度のキャンプはぜひとも釣った魚で晩ごはんしたいなーって思ったんよ。だから、自然の湖やとちょーっとハードル高いかなって思て」
釣り初心者の彼女たちにとって、うまく釣れるかどうかわからない自然の湖よりも、一度とは言え実績のある管理釣り場の方が良いだろうという考えだ。特に今回はあおいの言う通り『釣った魚で晩ごはん』というのを目的の一つにしているので、余計にそう考えていた。
「先生からも一ついいかしら?」
生徒たちの話を聞いていた美波は、そう言うと皆の注目が集まるのを待ってから話を続けた。
「今度は私も参加したいから車を出すのは良いんですけど、先生の車って四人乗りなんですよ……そこで提案なんですが、二人と三人に分かれてもらって二人と荷物を載せた車組と電車組で分かれるのはどうですか?二人を降ろした後、最寄りの駅まで迎えに行くという流れで」
という美波の提案を聞いて一瞬顔を見合わせて考えるが、それがベストな案だということでそれを元に話を進めることとなった。となると、次はどう分かれるかなのだがこれはすんなり野クル三人が電車組、リンと恵那が車ということであっさり決まった。
「そしたら次、日時決めよかー。とりあえず……先にせんせーの予定聞いた方がええんかなぁ」
あおいがのんびりした口調で美波に問うと、すかさず答えが返ってくる。
「連休が取れるのは二日目から四日目の三日間だけです。それ以外はほとんど仕事なので、是非そこでお願いします……」
最後に頭を下げてまでお願いしてくる美波になでしこがちょっと感動しながら言葉をかける。
「せんせー……そんなに私達とキャンプに行きたいって思ってくれてるなんて……。うれしいです!」
「だって!この間のあなた達の釣りの時の話とか写真を見たら、おいしそうでおいしそうで……それに、キャンプだったら飲んでも問題ないわよね!」
なでしこの言葉にまたもや間髪入れずに言葉を返した美波に対して、その言葉の内容に思わず千明が突っ込んだ。
「先生、素が出てます」
「あらやだ、ごめんなさいね。まぁ、そう言う訳ですので、その辺考慮してもらえると嬉しいですね」
容赦ない千明の言葉に、教師としての顔を取り繕う美波。そんな美波をよそに、話は進む。
「恵那ちゃん、リンちゃんは予定どうだって?なんか聞いてる?」
「えーっとね……あ、来た来た。『その日程だったらバイトも入ってないから大丈夫』だってさ。私も大丈夫だよー」
「そっか、よかった。わたしも大丈夫だけど、あきちゃんとあおいちゃんは?」
「あたしもイヌ子も問題なーし。じゃぁ、春休み二日目、三日目の二日間でいいかな?」
それぞれの予定を聞いて問題ないことを確認すると、後は時間や持ち物等の細かいことを決めていく。
大体のことが決まり、下校時間も迫ってきたこともあってそろそろ帰ろうかといったところで、恵那がみんなに話しかけた。
「私は一旦リンの所に行って今のことを説明してくるけど、今回の魚以外の晩御飯は私とリンで用意するね。車に乗せてもらう分交通費がかからないから、そこから出すよ。交通費を折半っていうのもなんだか違う気がするし」
「いいのか?そんな気にしなくてもいいぞ?」
「いいのいいの。メニューはこっち任せてもらうことになるから、作りたいものがあったらそれは買ってきてもらわなきゃだけど……あ、でもお酒は買えないので、それだけは先生お願いします」
「わかってますよ。うふふふ」
「ありがとね、恵那ちゃん。リンちゃんにも後でお礼言わなくっちゃ」
どうやらその食材に関することは、会話しながら先にメッセージを飛ばしていたらしく、リンもすでに了承済みらしい。
それぞれが恵那にお礼を言って、恵那も「期待しててねー」と手を振り、職員室へ戻る美波と一緒に校舎へと向かって行った。それを見送って、野クルの三人も学校を出て駅へと向かった。
「じゃあ、私は職員室へ戻るから。志摩さんに説明よろしくね」
「はい。失礼します」
校舎に入り、美波と別れた恵那はリンが待つ図書室へと向かって行った。
「リン、お待たせー」
「おー、どうだった?」
「うん、大体さっきメッセージ送った通りかな。時間がちょっと早いけど、大丈夫だと思う」
下校時刻が迫り、ほとんど生徒も残っていないということもあって、カウンター越しに会話をする二人。すると、先ほどの話し合いでの結果を説明し始めた恵那に、リンは怪訝な表情を向けた。
「斎藤朝弱いのにほんとに大丈夫なのか?心配だなぁ」
「大丈夫だってば!それよりも、晩御飯何にしようか?」
いささか露骨な話題変更に何か言いたげなリンだったが、その言葉を飲み込んで恵那の話に乗ることにする。
「そうだなぁ、私らだけ出費が少ないってのもちょっと申し訳ない気もするからね。電車代もそうだけど、先生にもガソリン代とかもしかしたら高速代も出してもらうことになっちゃうかもだし……」
「そうだよねー、だからその分みんなが喜んでくれるもの作りたいんだよねー」
「となると……やっぱり肉か……」
「リンが持ってる賽銭箱で焼き肉かな……ご飯も欲しいね」
「だから、賽銭箱じゃないって……でも、アレで焼いた肉は美味かった……」
以前なでしこと言った四尾連湖焼き肉キャンプのことを思い出すリン。思い出したのは焼き肉の美味さだけである。それ以外のことは……忘れた……ことになっている。
ともかく、方針は定まった。魚は釣ったものを調理するとして、あまり釣れなかった時のことを考えて、肉を中心にキャンプ場で作れそうなメニューをお互いに検索しては見せ合う。
「あ、これおいしそう……」
「リン、これは?難しいかな?」
「使えるバーナーって何個あったっけ?そこって直火OK?」
「直火NGらしいけど、上に網を乗せて調理ができる焚き火台を先生が持ってきてくれるって」
「おー、さすが先生。それならできる料理の幅も広がるな」
その後すぐに下校時刻になってしまったので、帰りの道中も相談しながら帰ることにする。いくつかこれが良いという料理も見つかり、ちょっとしたワクワク感と、喜んでくれるかという不安を胸にそれぞれの家へと帰っていった。
次の日曜日、いよいよ釣りキャンを数日後に控えて、なでしこたち野クルの三人は、毎度おなじみのカリブーにガス缶などの消耗品を買いに来ていた。
「あおいちゃん、薪だけじゃなく炭も向こうで買うの?」
「せやでー、薪と一緒に買うて割り勘するで」
なでしことあおいが薪や炭が並ぶコーナーでそんな話をしている頃、千明は一人離れて別の場所を物色していた。
「うわー、前もって調べていたとはいえ、めっちゃ種類あるなぁ」
千明の目の前にずらりと並んでいたのは、燻製用のスモークウッド各種だ。同じような見た目のものが並んではいるが、特徴や、向いている食材などが書かれたPOPも設置されていて、それなりに選びやすくはなっているようだ。
「えーっと、桜に林檎か……この辺は聞いたことがあるけど……」
適当に手に取って眺めていると、どこかで聞いたようなものも目に入った。そんな中で千明が選んだのはくるみのスモークウッドだった。
「あ、これがいいかな。オールラウンドに使えて、クセもそこまで強くないらしいから、初めてならちょうどいいんじゃないか?」
今回はお試しということで、一本だけ購入して二人の元へと戻っていく。
「あー、あきちゃん、どこ行ってたの?まったく……一人でいなくなったらだめじゃよ」
「ごめんね、おばあちゃん」
いつものしょうもない会話を交わしつつ、それぞれ必要なものを買っていく。とはいっても、ガス缶が数本程度で買い物自体もすぐに終わったので、隣にあるカリブータックルを覗いて帰ることにした。
「いつ見ても綺麗だよねー」
壁一面に陳列されたルアーを眺めながらなでしこがつぶやいた。他の二人もそれに同意しながら、気になったルアーを手にとっては眺めている。すると、そんな彼女たちの背後から声をかける人物がいた。
「いらっしゃいませ。お久しぶりね」
「あ、この前のお姉さん!こんにちは」
声をかけてきたのは、初めてルアーを買いに来た時に相談に乗ってくれた女性店員だった。なでしこたちが口々に挨拶を返すと、話題はさっそく前回の釣りデビューの話に移っていった。
「皆管理釣り場デビューしたのよね?どうだった?」
「はい、お姉さんのおかげで全員釣れました!」
「そう、それは良かった。そういえば、どこの釣り場に行ったの?」
なでしこが嬉しそうに釣れたことを報告すると、店員も笑みを深めてさらに質問を重ねてきた。
「なあイヌ子、あの時の写真見てもらおうぜ」
「せやね、ちょっと待ってくださいねー……っと、これや。ここ行ってきたんですよ」
店員の質問に千明とあおいが写真見せると、彼女も知っているところのようで「あー、ここかー」と声を上げた。
「こういう仕事してるからね、一応県内の管釣りは押さえてるわよ。ここもいい所よね、施設もそうだけど、スタッフさんの対応もいいし」
「そうなんですよ、スタッフのお姉さんに色々教えてもらって、初めての釣りだったけど楽しかった!」
なでしこはそう言って、釣り場で受けたレクチャーのことなどを楽しそうに話していった。
「そうやって楽しかったって言ってくれると、釣り好きとしては嬉しいわね……また釣りに行ったら話聞かせてね」
最後にそう言って、店員は仕事へ戻っていった。
結局その日は何も買わずに店を出て帰ることにした三人。そして帰る前には忘れちゃいけない『みのぶまんじゅう』……これまたいつものように、ベンチで一息ついてから駅へと向かう三人だった。
そしてむかえたキャンプ前日……春休み初日ということで、当然昨日は例の儀式があったわけで、野クルの面々も悲喜こもごも……というか約一名が母親から少々お小言を頂いたらしい。
「大丈夫?あきちゃん」
「毎度のことやんなぁ」
落ち込み気味の千明を心配したなでしこの言葉に、あおいが返事をした。その本人はと言えば、ため息交じりで口を開く。
「まぁ、二学期の時も期末試験ギリギリでやばかったからな。でも、こないだのテストは少し点数上がってたのになぁ……」
そんなことを言いながら、テントや寝袋などの大きな荷物を載せたキャリーをゴロゴロ引っ張って、学校へと入っていく三人。春休みに入ったはずなのに、なぜ三人が学校へ向かっているのかというと……。
「みなさーん!こっちですよー!」
「あ、先生こんにちわー」
三人が校門を過ぎたところで、職員用駐車場の方から美波の声が聞こえてきた。
「いやー先生、サンキューです」
「いいのよ、荷物がたくさんあって大変でしょう?一緒に行く時くらい、顧問っぽい事させてください」
美波に車まで案内された三人は、口々にお礼を言いながら荷物を積み込んでいく。美波の車は軽ではあるが、片方のリアシートをたたんでスペースを確保すればそれなりに荷物を積むことができる。
すると、一通りの荷物を積み込んだところで、あおいが美波の表情に気が付いて尋ねた。
「せんせー、なんか嬉しそうな顔しとるみたいですけど、なんかあったんですか?」
「ええ、まぁね。明日行くところを調べてみたら、近くに良いところがあったんですよ。あなた達が釣りをしている間に、ちょっと行ってみようかと思いまして」
「あ、もしかしてこの前私たちも行った、酒蔵のカフェですか?」
「あそこもよさそうなお店でしたね。でも、そこも行ってみたいのですが、もう一か所行きたいところがあるんですよ。実はもう予約も済ませてあるんです」
美波の答えに、どこだろうかと三人は首を傾げたが、美波は「また明日ね」と手を振って戻ってしまった。去っていく背中から「いやー、楽しみだわー」と素の声が聞こえてきたところで、千明がつぶやいた。
「ま、酒関係だろうな」
その千明のつぶやきに、無言で頷くなでしことあおいだった。
タイトルからもわかったと思いますが、今回は釣りキャンの計画・準備編でした
そしてグビ姉が楽しみにしている場所とはいったい!?
お酒好きの方ならすぐにわかるかもしれませんね
お読みいただきありがとうございます