野クル+2日誌   作:ある介

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お待たせしました、いよいよ釣りキャンスタートです


第十二話「リンの力で貸し切りにしといたよー」

 早朝の身延駅。まだまだ寒い時間帯ではあるが、電車を待つ野クルのメンバーの表情は明るい。

 

「えーっと、甲府まで行って、中央本線に乗り換えて日野春だっけ」

 

「だな、乗り換え自体は簡単だからいいけど、ちょっと遠回りになるから時間かかるんだよな」

 

「ま、のんびり行ったらええよ。なんなら寝とってもええで」

 

「んーん、大丈夫。昨日はバッチリ寝たから!」

 

「それは羨ましいな。あたしはなかなか寝付けなくて、ちょっと眠い」

 

「あきも?実は私もなんよ。キャンプ自体久しぶりやし、楽しみや」

 

 間もなく到着した電車に乗り込むと、そんな会話を交わしながらボックス席へと腰を下ろす。千明もあおいも口では眠いと言っているが、その様子は感じられない。

 

 電車が動き出してからも三人の会話はとどまることなく、そのテンションの高さは今日のキャンプが楽しみなのか、長期休みからくる解放感か……ともあれ、これからしばらく電車に揺られ、目的地を目指していく。

 

 

 

 

 三人に遅れる事約一時間、こちらは学校の最寄り駅。リンと恵那が美波の到着を待っていた。

 

「ちょっと早く来すぎちゃったかな」

 

「まぁ一本後でも遅刻ではないからな……にしても斎藤良く起きられたな」

 

「失礼な。私だって起きる時は起きるよー。ま、ちくわはまだ夢の中だろうけど」

 

 すると、じゃれ合う二人の前に一台の車が停まった。

 

「おまたせしました。ごめんなさいね、待たせちゃって」

 

「おはようございます。大丈夫ですよ、私達もさっき来たところですから」

 

「おはようございます先生。よろしくお願いします」

 

「はい、おはようございます。じゃぁ二人とも乗ってください、さっそく行きましょう」

 

 心なしか急いでいるような美波の言葉に、二人はいそいそと荷物を積み込んで、シートに座った。シートベルトを付ける自分たちを見つめる美波の様子を、いつもとは何か違うと感じたリンは、走り始めたところで美波に聞いてみた。

 

「あのー、鳥羽先生。なんだかソワソワしてません?」

 

「え、いえ、そんなことないですよ?」

 

 リンからの質問に思わず否定したものの、いつもと違う雰囲気は恵那も感じていたらしく、彼女もまた質問を飛ばした。

 

「そんなことありますよー。というか、私たちも遅れないように早めに来たのに、それと同じくらいに来るなんで……何かあるんじゃないですか?」

 

 実際二人は、時間ギリギリではあるが、もう一本後の電車でも集合時間に間に合うところを、美波を待たせては悪いと思って一本前の電車で来たのだ。

 

 二人で適当に話でもしながら待っていようかと思っていたところに、意外と早く美波が来たものだから、少し驚いたというのも正直なところだった。

 

 そんな二人がかりの質問に観念したのか、あるいは隠しておくほどのものでもないと思ったのか、美波はため息をひとつついてから答え始めた。

 

「実は、場所が決まってから近くに何か時間潰せるところがないか調べてみたんですよ。ほら、あなた達が釣りしている間暇になってしまいますし。まぁ、歩いて数分だそうなので、先にキャンプ場でのんびりしていても良いんですけどね。最初はそのつもりでしたし」

 

 そこで一旦言葉を切り、カーブを曲がった後で再び喋り始めた。

 

「そんなわけで色々調べてみると、前から行きたいと思っていた施設が近くにあったんですよ。なので、これはぜひとも行かなければと思いまして!」

 

 説明を進めながら段々と熱を帯びて来る美波の口調に、二人は若干引きながら一つの施設が頭の中に浮かんだ。

 

(それってもしかしなくても……)

 

(あそこのウイスキー工場だよな……)

 

 その施設とは、とある有名メーカーが県内に構える蒸留所で、見学ツアーやショップ、レストランもあり、テレビでもしばしば取り上げられていることもあって、未成年の二人でも知っている有名な所だった。

 

「はぁ、それは楽しみですね……」

 

「ええ、見学ツアーは時間の関係もあって無理ですが、その分ゆっくりショップを見てこようかなと思いまして。あ、帰りに前回皆さんが行った酒蔵にも行ってみたいですね。確か途中にあったはずですし」

 

 さすが、そっちもチェック済みなんだなと二人が呆れ半分、感心半分といった感想を思い浮かべたところで、車は高速道路へと入っていった。

 

 

 

 

 リンと恵那の二人が美波の熱弁を話半分に聞いていたころ、野クルの三人は甲府駅にいた。

 

「ねえあきちゃん、お腹すかない?」

 

「さすが、はらぺこなでしこ……とは言え確かに小腹がすいたな」

 

「そう言われてみれば、朝早くてご飯食べてへんし、なんか食べたいかもしれんなぁ」

 

 あ、私は食べてきたけど……というなでしこの言葉はスルーしつつ、きょろきょろと周りを見回した千明が、あるものを発見して指さしながら叫んだ。

 

「えーっと……あった!あそこ行こうぜ!」

 

 そう言って千明が指さしたのは、立ち食いそばの店だった。

 

 まだ乗り換えまで時間があった三人は、ちらほら見え始めたサラリーマンのおじさま方に混じって、蕎麦屋へと入っていき手早く注文すると、荷物が邪魔にならないように端っこへと陣取って、さっそくそばをすすり始めた。

 

「あー、美味いズラァ。最初にコレを考えた人は天才だな」

 

 そう言いながら千明が食べているのはコロッケそばだ。彼女がこれを食べる時のコロッケの食べ方は三段階。

 

 まず初めにサクサクの状態を楽しんで三分の一。その後そばを食べ進め、コロッケの衣に汁がしみ込んでしんなりしたところでまた三分の一。最後に残った三分の一は崩してそばに絡ませながら食べ進めて、残った時は汁と一緒に食べる。これが、彼女が思う最も美味しいコロッケそばの食べ方だった。

 

「ほんまやなぁ。なんかホッとするわぁ」

 

 こちらはあおい。彼女が食べているのは月見そばだ。黄身がつぶれないように慎重にそばを食べ進めて、麺を食べきったら最後のお楽しみだ。

 

 あおいはゆっくりと器を持ち上げ、口元に添えて狙いを定めると残った黄身を汁と一緒に口の中へ。

 

「イヌ子は相変わらず変な食べ方するよな」

 

「わかっとらんなぁ、あきは。これがうまいんやって」

 

 二人のそんな会話をよそに、なでしこがちゅるっとやっているのは、これまた駅そばの定番かき揚げそばだ。彼女もまた、はじめはサクサク途中でしっとりを楽しみながら食べていた。千明のコロッケと違うのは崩さないことくらいか。

 

「っはー、おいしかった」

 

「そしたらそろそろいこかー?あき、時間は?」

 

「よし、行くかー。えーっと次の電車は……うわ、もうすぐ来るぞ!急げ!」

 

 千明のその言葉に、急いで食器を返却口へと持って行く三人。店を飛び出て聞こえてくる電車到着のアナウンスに慌ててホームまで走ると、そこには……

 

「あれ?電車無い?」

 

「間に合わなかったか……?」

 

「いや、二人ともあれ見てみ」

 

 あおいが指さす反対側のホームに入ってくる逆方面行の電車。こちらのホームの電光掲示板を見ると、自分たちが乗る予定の電車にはまだ数分の余裕があった。

 

 それをみた千明は、先ほど確認してスマホに表示させたままになっている時刻表を見て「あっ」と漏らすとすぐさま消した。

 

「ちょっとあき!今の『あっ』ってなんやの!?」

 

「あきちゃんもしかして……」

 

 あおいとなでしこはその小さなつぶやきを聞き逃すことなく拾うと、千明に詰め寄った。

 

「まちがっちった。てへぺろ」

 

 千明が見ていたのは逆方面の時刻表だったようで、無駄に走らされた二人は怒るのも忘れてベンチに座り込んでしまった。

 

 

 

 

 そんなすったもんだがありつつも、何とか目的の駅までたどり着いた三人は迎えが来るのを待っていた。

 

 すると、三人のスマホにグループチャットのメッセージが届く。

 

【リン:着いたー】

 

【恵那:リンの力で貸し切りにしといたよー(写真)】

 

【千明:さっすがしまりん!やる事がでっけーですな】

 

【リン:いや、普通に他のお客さんがいないだけだから】

 

【リン:まぁ、それは置いといて。先生もそっちに向かったから後十何分かでつくとおもうよ】

 

「さすがに平日の朝は人いないねー」

 

 恵那から送られてきた写真を見ながらなでしこがそんな感想を漏らした。と、その間にもやり取りは進んでいく。

 

【恵那:とまぁこんな感じだから場所取りとかも必要なさそうだし、クラブハウスの中で待ってるね】

 

【あおい:わかったでー】

 

【なでしこ:二人で仲良く待ってるんじゃよ】

 

【リン:わかったよおばあちゃん……あ、先生のテンションがうなぎのぼりなので気を付けて】

 

 リンのメッセージに一瞬首を傾げた三人だったが、昨日の美波とのやり取りを思い出してすぐに原因に思い当たった。と、その時、車の音が聞こえてきたかと思うと、目の前に一台の車が停まって、そこから美波が顔を出して言ってきた。

 

「さあ、行きましょう!三人とも乗ってください」

 

【なでしこ:あー】

 

【千明:うん】

 

【あおい:わかった】

 

【リン:(´-ω-`)ゞ】

 

 

 

 

 十数分後無事に合流した五人は、早くもその場を走り去っていった美波についての話もそこそこに、さっそく受付を済ませて釣りを始める事にした。

 

 実は前回お世話になった女性のスタッフに会えるというのも、楽しみにしていた事の一つだったのだが、残念ながら今日は休みなのか姿が見えなかった。

 

「今日はいないみたいだね。残念だー」

 

「そうだね。ま、いないのはしょうがない。さっそく始めようか」

 

 例のスタッフに会えなかったことを残念がりながらも、手慣れた様子で準備を進めるなでしことリン。この二人は道具が手元にあるということもあってあれ以降も時々触っていたのか、二回目とは思えない手際の良さだ。

 

 ただ、他の三人に関しても特に手間取ることなく準備を進めているのは、キャンプでアウトドア慣れしているからだろうか。

 

「よーし、釣るぞー!第一投行きまーす!」

 

 各々準備も終わり、先陣を切ったのはなでしこだった。

 

 なんとなく気分で選んだというシルバーとピンクのツートンカラーのスプーンが、キラキラ光りながら水の上を飛んでいく。

 

 他の面子もそれぞれお気に入りのルアーをつけて投げ始め、この日の釣りが始まった。

 

 ヒュッ、ポチャッ、シャー……投げて、落ちて、巻く。しばらくその音だけが響く静かな時間が続いた。そんな中、一人気合を入れている人物がいた。千明である。

 

(前回は後れをとっちまったからな。今回は先に釣りあげたいもんだぜ……確か朝のうちは水面近くにいる事が多いとかって書いてあったし、試してみるか)

 

 千明は何日か前に見た初心者向けのサイトにかいてあった文言を思い出し、他の面々がしばらくルアーを沈めてから巻いているのに対して、着水してすぐに巻き始め、水面に近いところでルアーを走らせる。

 

 そんなことを試してから数回後だった。千明の視線の先で波紋と共に、パシャッと軽い水音が立ったかと思うと、一気にロッドが引き込まれた。

 

「うおっ!来た!来たー!」

 

 千明が見た波紋と水音は、彼女のルアーに魚が食いついて、身をひるがえした時のものだった。

 

「なでしこ、網頼む!」

 

「了解ですぶちょう!」

 

 今回はしっかり合わせられたと感じた千明は、隣にいたなでしこに網の準備を頼んだ。その間も魚の動きに合わせながらロッドを動かし、着実に魚を引き寄せていく。

 

「もうちょい……よし、とったどー!」

 

 油断なく岸まで引き寄せられた魚は、なでしこが構える網に観念したかのようにするりと入っていった。

 

「おめでとうあきちゃん!虹鱒ゲットだよ!」

 

 網に入った魚を、千明の元へと届けながらなでしこが祝いの言葉をかける。と、周りからも同様に声がかけられて、千明は照れた表情を浮かべた。

 

「へへ、ありがとう。なんか結構浅いところにいるみたいだぜ」

 

 照れ隠しに釣れた時の状況を説明して、他の皆にも試してみるように言いながら魚を魚籠へと移した。

 

 朝マヅメというには少々日は高いが、まだしばらくはトラウト達も表層部に集まっているだろう。二匹目、三匹目が釣れるのもすぐのようだ。

 

 

 

 

 一方その頃美波はと言えば、彼女が話していた蒸留施設のショップ内にいた。

 

「開店前に着いてしまったので、待ちの時間もありましたが、むしろ開店と同時に入れたのは僥倖ですね。並んでいた他の方々は先に見学ツアーに行くようですし、選び放題です」

 

 子供の様にキラキラした目で見つめるその先には、このメーカーが誇るウイスキー各種はもちろん、グラスやスキットルなどのウイスキーを味わうためのグッズや、ベーコンやウインナー、チーズなどのおつまみも並んでいた。

 

「とりあえず、ここの限定ボトルは買うとして……おつまみもいくつか買っていきましょうか……あぁ、このスキットルもかっこいい……」

 

 それほど広くない店内を、あっちへ行ったりこっちへ行ったり……美波の買い物はまだまだ終わらなそうだ。

 

 

 

 

 そんな美波の様子はつゆ知らず、釣り組は着々と釣果を伸ばしていた。とは言え、あまり釣りすぎても大変だということで、のんびりした様子ではあったが。

 

「みんなー、そろそろ時間だよー」

 

 休憩がてらポンドの周りを散歩してきたなでしこが、皆の所に戻ってくるなりそう言った。気が付けば間もなく十二時ということで、半日券の終了時間が近づいていたようだ。

 

「うぃー、んじゃそろそろ片付けますかー」

 

 リンのその一言で、皆が片付けへと動き出す。程なくして片付けも終わり、流しを借りてワタ抜きなどの下ごしらえをここで済ませてしまうことにする。

 

 ワタ抜き・三枚おろし・開き等、料理用途に応じた下ごしらえを済ませて、クーラーボックスに氷と共に入れ、準備は万端だ。

 

「さっき先生からメッセージが来て、もう受付済ませて荷物もサイトに運んであるってさ……って事で、皆の衆参ろうか」

 

 大仰な千明の物言いに、ほかの皆も「おー!」と声を揃えて拳を上げた。キャンプ場までは歩いて数分、久しぶりのキャンプに皆もテンションが上がっているようだった。

 




今回はここまで。
次回はご飯づくりを中心に、キャンプの様子をお届けします



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