前回からだいぶ間が空いてしまった&いつもよりちょっと短めですが
釣りキャンの続きです。一応これで今回の釣りキャンは締めになります
「美味しかったねー」
みんなで夕食の後片付けをしながらなでしこがつぶやく。片付けと言っても、すでに洗い物などは済ませてあり、今は焚き火を囲みながら簡単に荷物をまとめているところだった。
「だなー、燻製もうまくいってよかったよ。これは今後のキャンプ飯の定番にしてもいいかもな」
「そうだね、こうなると他の食材もやってみたいな」
千明と恵那は、段ボールスモーカーのなれの果てを焚き火に放り投げながらそんな会話をしている。このように片付けが楽というのも、段ボールでスモーカーを作ることになった理由の一つでもあった。
「恵那ちゃん恵那ちゃん、チーズケーキとかも美味しいらしいで」
「なんだ? またいつもの『嘘つきイヌ子』か?」
あおいの言葉にそんな風に言い放つ千明だったが、あおいが「失礼な!」と言いながらスマホの画面を見せてくると、そこに映っていたチーズケーキの燻製画像に目を見開いた。
恵那となでしこも横からその画面を覗き込んで「えー!?ほんとに美味しいの?」と声を上げていたが、そんな二人を尻目にリンは、洗った後の自分の焚き火台を拭きながら考え込んでいた。
(それにしても、釣りキャンか……これはなかなかいいんじゃないか?次は富士五湖のどこかとか、県内の湖でやるのもいいな。確か漁券を買えば釣りできるところが多かったはずだし……釣れても釣れなくてものんびり竿を振って、飽きたらいつもみたいに本でも読んで…………アリだな……ソロキャンで行けるかな……)
最終的に何やら決意したような表情になったところを恵那に見られて、ニヤニヤされていることに気が付くと、顔を逸らしてそそくさと焚き火台をしまった。
といった所で片付けも終わり、ここからは焚き火を囲みながらまったりだらだらモード。千明が持ってきたタブレットで動画を見たり、いつものような取りとめもない会話を交わしながら過ごしていく。
そんな時、ふとなでしこが空を見上げると、そこには木々の切れ間から満天の星空が覗いていた。
「うわー、綺麗な星だねー」
「あぁ、冬の澄んだ星空も良いけど、これはこれで見事なもんだな」
なでしことリンのそんな言葉に釣られて、他の皆も空を見上げた。
「うん、星見酒っていうのもなかなかオツなもんよね」
ひたすら飲み続けていた美波がそんな感想を漏らすと、すかさず千明からツッコミが入る。
「いや、先生はなんだかんだでいつも飲んでるじゃん。っていうか、うちの店のお客さんもそうなんだけど、酒飲みってのは常に飲む理由を探してるよね」
「大垣さん、何言ってるの?当り前じゃない!」
千明のツッコミに美波が事も無げに言い放つと、周りから呆れ交じりの笑いが起こった。
しばらく他愛もない話しで盛り上がったところで夜も大分更け、そろそろ寝るにも良い時分だ。
「さて、そろそろ寝るか」
「せやね、もういい時間だし寝よかー」
「みんなお休みー」
そんな風に就寝前の挨拶を交わしながらそれぞれのテントへと潜り込んでいく。そんな中、なでしことリンは同じテントに入ると、寝袋にくるまりながらぽつりぽつりと会話を始めた。
「ねぇリンちゃん、次はソロで釣りキャンとか考えてる?」
さっきまで考えてたことをズバリ言い当てられて、返事を返せないでいるとなでしこが言葉を続けた。
「リンちゃんがソロキャンを愛しているのは知ってるし、そんちょーしたいけど……やっぱり釣りとなるといつも以上に水辺に近づいて危ないだろうし……できたら……いくときは……さそってくれたらうれしい……なぁ…………」
なでしこはもうだいぶ眠かったようで、それだけ言うとすぐにすぅすぅと寝息を立て始めた。そして、彼女のその言葉にリンも目を瞑りながら考える。
(釘……刺されちゃったな。お母さんも似たような事言ってたし……さっきのあの感じだと斉藤にも多分読まれてただろうな)
そしてリンは一度目を開けて、チラリとなでしこを見、また目を瞑る。
(ま、今は皆で釣りするのが楽しいし、もう少し慣れるまではソロ釣りキャンはお預けでいいさ……心配かけるのもなんだしね)
と、そこまで考えたところでクスリと笑い、もぞりと体勢を整えると眠りへと落ちていった。
そして翌日――
「……おはようござ……る」
「はいはい、ござるござる。ほらなでしこ、顔でも洗ってきなよ」
「うー……うん……そうする……」
寝ぼけ眼で、なぞの朝の挨拶をしてくるなでしこを、リンは水道へ促し一緒にテントから出る。なでしこが起きる前に顔を洗ってきたこともあって、一足先にスッキリしていたリンは、残っていた炭を熾し、コッヘルでお湯を沸かし始めた。
「ふぃー、スッキリしたでござる」
「おかえりなでしこ、お茶淹れるけど飲む?……ってか、『ござる』続けるのかよ」
「えへへー、なんか『ござる』良くない?……お茶、頂くでござる」
芝居がかった仕草のなでしこに、リンは「はいはい」と軽く答えながら二人分のお茶を用意する。春先の肌寒い朝にピッタリのあったかいお茶をすすりながら一息つくと、リンがなでしこに尋ねた。
「朝ご飯は何作るの?手伝うよ」
「じゃあ、お味噌汁作るから、お鍋にお湯を沸かしておいて欲しいのと、ミニトマトを半分に切っておいてもらえるかなぁ?後は……」
お茶を飲みながら準備してきた献立の説明を始めるなでしこ。マグが空になったところで、さっそく二人は動き出す。
まずなでしこは、昨日のうちに三枚におろして、悪くならないように軽く焼いて火を通しておいた虹鱒を、改めて炭火にかけて焦げ目をつけていく。その間に、ダッチオーブンに米・しめじ・麺つゆ・水を入れ、そこに焦げ目がついた鱒を入れて蓋をし、火にかけて炊いていく。麺つゆを使ったお手軽鱒の炊き込みご飯だ。
「こっちは後は炊きあがるのを待つだけだよ、リンちゃんのほうは?」
「ん、トマトは切れた。お湯も沸いたし、トマトとキャベツ入れちゃっていいかな」
「うん、だしの素も入れちゃって。ひと煮立ちさせたら火を止めて、味噌を溶いたらできあがりだよー」
そんな風に準備を進めていると、ダッチオーブンの方から美味しそうな匂いが漂ってくる。すると、その匂いに誘われたのか、他の面子ものそのそと起き始めた。
「おはよー……んー、美味そうな匂いズラァ」
「おは……ふあぁ……あら、失礼」
「おはようみんな。……あき、先生は?」
恵那と一緒にテントから出てきたあおいの質問に、千明は無言で首を横に振った……。
「そうか……しゃあない、やるか」
「あおいちゃん、なにするの?無理に起こしたら悪いよ?」
「いや、自然に起こせるいい方法があるで。なでしこちゃん、そのお味噌汁の鍋持ってこっち来てくれるかな」
そう言ってなでしこをテントの前に立たせると、テントの入り口を開けてうちわを使って出来立ての味噌汁の匂いを中に送り込み始めた。
すると程なくして、ごそごそとテントの中のみのむしが動き始めたと思ったら、急に起き上がり一言。
「……いい匂い……朝ご飯?」
そのセリフを聞いて、一同が思わず噴き出したところで、無理なく自然に美波を起こすことに成功したあおいが皆の方を向いて、うちわを構えて言い放った。
「これぞ日本古来の伝統技術、味噌汁目覚ましやで!」
最近では匂いで起こしてくれるという目覚まし時計の開発も進んでいるらしく、何気に理に叶った起こし方を思いついたあおいのドヤ顔に「おー、お見事」と歓声をあげる一同。ただ、テントの中では事態について行けていない美波が、寝ぼけ眼で首を傾げていた。
その後、簡単に身支度を整えて、朝食にすることにした一同。ここまでくるとさすがにもう寝ぼけた表情をしている者はいないが、若干一名しかめ面なのは眠気ではなく二日酔いのせいだろう。幸いチェックアウトまではまだ時間があるので、それまでにはいつも通りになっているだろうと信じて、皆は料理に手を伸ばす。
「あー、やっぱりお酒を飲んだ次の日はお味噌汁ですね。トマトの酸味が良い感じにさっぱりさせてくれます」
「お酒のことはよくわからんけど、確かにこの味噌汁は美味いな。トマトって意外と味噌汁に合うんだよな」
味噌汁が入った椀を両手で持って「沁みるわー」と感慨深げにつぶやいている美波と、その姿に苦笑いを浮かべながらも、味に関しては同意する千明。
「炊き込みご飯もおいしいでー、ダッチオーブンでご飯も炊けるんやねぇ。焼いた鱒の香ばしさがええ味出しとるわぁ」
「ねー、びっくり。なんだかいつものご飯よりふっくらしてる感じ?」
口々に語られる料理への感想に、調理を担当した二人は顔を見合わせて笑い合う。
「やったねリンちゃん」
「ああ、うまく作れて良かったよ」
その後味噌汁効果か、元々そこまでひどくなかったのか、二日酔いから復活した美波も会話に加わり、朝の爽やかな空気漂う林の中には楽しそうな声が響いていた。
今回は釣りキャンの夜と次の日の朝ごはんをお届けしました
お読みいただきありがとうございます