野クル+2日誌   作:ある介

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第四話「サービスタイム終了やー」

「いただきまーす」

 

 その言葉と共に、一斉に箸が餃子へとのびる。それぞれ醤油・酢・ラー油で作ったタレにちょんとつけて口に運んだ。

 

「……ど、どうかな?」

 

 作った本人としては満足のいく焼き加減だったけれど、皆の反応が気になるなでしこ。そんな彼女の不安そうな一言に最初に返したのはやはりと言うかなんというか、千明だった。

 

「うまし!前になでしこに貰った餃子を家で焼いたんだけど、こんなにきれいに焼けなくてさ。元がいいから美味しかったのは美味しかったんだけどね。グッジョブなでしこ!」

 

 と、それに続くようにあおいからも声が出る。

 

「うん、さすが元浜松っ子やわぁ。スープも美味しいで、なでしこちゃん。パパっとこれだけのもん作れるなんて、ええお嫁さんになるわぁ」

 

「ほんと?よかったぁ。んじゃ、私もいただきまーす!……んー、おいしい!」

 

 二人の言葉を聞いてほっと胸を撫でおろして、自分も食べ始めるなでしこ。方やリンと恵那はと言えば……

 

(この絶妙な焼き加減、店レベルだ……これが浜松っ子の実力だというのか……それにもやしが良い。餃子、もやし、餃子の無限ループ……時々ご飯とスープを挟んでいくらでも食べられそうだ)

 

 相変わらず表には出さないものの、どんな感想を持っているかはその食べっぷりを見れば一目瞭然だろう。

 

(お母さんのいないときには、なでしこちゃんがご飯作りに来てくれないかな)

 

 ……考えていることはともかく、気に入ったのは間違いないらしい……

 

 結局残り半分の餃子も焼くことになり、ひと箱すべて平らげることになった一同。その中でもなでしこがかなりの量を消費していたのは言うまでもないだろうが……

 

「食べ過ぎてしまった。動けん……」

 

「あはは、リンってば調子にのって食べるからー」

 

「そう言う恵那ちゃんも、黙々と食べてたやん」

 

「あきちゃーん、大丈夫ー?」

 

 仰向けに寝転がって大の字になるリンとそれをからかう恵那。千明はピクリとも動かずになでしこにつつかれている……

 

「あなた達……大丈夫?ほどほどになさいよ?」

 

 たまたま通りかかった桜がその死屍累々の様子を見て一言つぶやいて去っていった。

 

 そんな桜の冷ややかな目線も浴びたりしながら、しばらくゴロゴロしてなんと一同がお腹を落ち着かせると――千明はまだ先ほどの格好のまま固まっているが――あおいが口を開いた。

 

「とりあえず、基本的なことは分かったと思うんやけど、この後はどないするー?さすがにこれから実践ちゅー訳にはいかないけどなー」

 

「あ、それならうちの近くの川に行って、きゃすてぃんぐ?の練習してみない?……えっと、これこれ。この練習用のおもりつけてさ」

 

「あ、それなら私の方にもあるよ。確かに練習は必要かもね」

 

 あおいの問いかけに、キャストの練習をしようと提案するなでしこ。その手に握られたゴム製のおもりを繋いで練習してみようということらしい。ちょうど似たようなものがリンの持ってきたタックルボックスにも入っていたので、それも使って練習をしに行くことにした。

 

 川までは近いということなので、この場でタックルをセッティングして各務原家を出る。

 

「なでしこの言ってる川って富士川だよな?」

 

「そうそう、富士川。駅からウチに来るのに渡ったでしょー?たまにゆらゆらイスもってまったりしに行くんだー」

 

「ロッキングチェアな」

 

「そうそう、さすがリンちゃん!でもいつも寝ちゃってて、気が付くと日が沈んでお姉ちゃんに起こされるんだよねー」

 

 出発直前に何とか復活した千明となでしこの会話にリンがツッコミを入れる。そして、それに答えたなでしこの言葉に、他のメンバーは容易にその光景が思い浮かんだのか「あー」と大きく納得の声が上がった。

 

 と、そんな会話をしながら歩いていると、程なくして富士川河川敷へと到着する。

 

「よーし、とうちゃーく。んじゃさっそくやろうぜ。と、その前に……」

 

 到着するなりきょろきょろしながらそう言って、何かを探す千明。すると、不意に川に近づいたと思ったら、上流から流れてきたと思われる大きめの木の枝を三本ほど持って戻ってきた。

 

「あきちゃん、それどうするの?」

 

「んー?これをこうして……っと、よし」

 

 謎の行動をとる千明に、皆を代表してなでしこが質問した。それを背中で聞きながら千明は拾ってきた枝で地面に三角形を作った。

 

「どうせだから、これを的にして練習しようぜ!一番最初に入れた人に、最後まで入らなかった人がジュース一本ってどうよ?」

 

 そんな千明の提案に、皆口々に賛成していく。そして、話し合いの結果十メートルちょっと離れた所からキャストすることにして、じゃんけんで順番を決めてキャスティング大会?が始まった。

 

「んじゃ、あたしからなー。ラインをちょっと出して指に引っ掛けて、こいつ(ベイル)を上げてっと……そりゃっ!」

 

 千明は一つ一つ動作を口に出して確認していって、軽く振りかぶりロッドを振って指に引っ掛けていたラインを放す。するとおもりが放物線を描いて飛んで――ドスッ――はいかなかった。

 

 指を放すタイミングが遅かったのか、千明の目の前の地面におもりが突き刺さった。

 

 危なくないように離れた所から見ていた一同は、その光景に思わず口をそろえて「うわぁ……」と漏らす。それをやらかした千明は、無言のまま皆の所へ戻ってきて次の順番のあおいにロッドを手渡すと、そのまま皆から離れて、体育座りで縮こまってしまった。

 

「ほな、つぎいこか……」

 

 その後キャスティングを再開すると、流石に皆一発でとはいかなかったが、的が大きかったこともあって、なでしこ、恵那が二回目で成功。あおい、リンも三回目で成功し、四回目でようやく千明が成功した。

 

「コツをつかめば結構簡単かもね。ほいっと」

 

「そうだな、強すぎてもこうして指で止めればいいし」

 

 一度成功した後は、なにかポイントを見つけたようで次々に成功させているなでしことリン。他の三人も二人には及ばないものの、だいぶコツをつかんだようだった。

 

「じゃあ、次はいよいよ実際に釣りに行く感じかな?」

 

「せやなー、来週はバイト入っとるしその次かー……テスト休みとか?」

 

「いいんじゃないかな?補習さえなければ……」

 

「まぁ、大丈夫と思うで……多分な」

 

 そう言ったあおいの脳裏には若干一名テストが危なそうな人物の顔が浮かんでいたが、その当人はと言うとなでしことリンにキャスティングのコツを教わるのに忙しいようだ。

 

 その後も距離を変えながらキャスティングの練習をしたり、なでしこが家から持ってきたバーナーでお茶を淹れて飲んだりしながら、のんびりとした時間を過ごしていった。

 

 川を渡る風はまだ少し肌寒いが、それでもこの辺りの気候としてはだいぶ暖かくなってきたと言えるほどで、春がそこまで来ていると感じさせるには十分なようだ。とはいえ……

 

「ちょっと寒くなってきたしそろそろ戻ろっか」

 

 生粋の梨っ子に比べて寒さに慣れていない静岡生まれのなでしこの言葉で戻ることにした一同。

 

(あんなところで寝てたのに、寒さは感じるんだな……)

 

 初めて会った時のことを思い出して、なかなか辛辣な感想を思い浮かべる子もいたが、彼女自身も戻ることには賛成なので、何も言わずに歩き始めた。

 

 ほどなくして各務原家に戻ってきたところで、暖かい紅茶を飲みながら今後のことを相談し始める。今日一日で『初めての釣り』に現実味が帯びてきて、期待感も高まってきていたようで、やたらテンションが上がっている子がいた……

 

「ぶちょう!決行はいつでしょう!?」

 

「うむ、さっきイヌ子と恵那が話していたそうなのだが、再来週のテスト休みにしようと思う」

 

「ぶちょう!場所はどこでしょう!?」

 

「うむ、それはこれから決めるからな……ちょっとおちつけー」

 

「ぶちょう!おやつは……」

 

「好きなだけ持ってこい!……あー、イヌ子君、ちょっと彼女を黙らせておいてくれるかい?」

 

 いつかどこかでやったようなやり取りに苦笑いしながらあおいがなでしこを「ちょーっと落ち着こうなー」と千明から引き離す。それを離れた所からニコニコしながら見ている恵那と、呆れ顔のリン。

 

 すると、とりあえず場が落ち着いたところで、リンが手を挙げる。

 

「えーっと、ちょっといいかな」

 

「はい、しまりん君!」

 

(うっ……そのノリはまだ慣れないんだよ……)

 

 ちょっと食い気味に指名してきた千明に、思わず怯みそうになるのを我慢して言葉を続ける。

 

「場所の方は私が探してみるよ。元々何か所かアタリをつけてるとこもあるし……」

 

「さっすがしまりん。じゃぁ、時間とか集合場所も行き先が決まってからかな。あと、先生はどうだろう?難しいかな」

 

 リンの提案に新たな問題点を提起する千明。なでしこの茶々が入らないと話もスムーズに進行するようだ。そんな千明が挙げた問題点に意見を述べたのは恵那だった。

 

「んー、忙しいんじゃない?そもそもテスト休みって、生徒のためって言うより先生たちがテストの採点とかするための休みとかって聞いたことあるし」

 

「なるほど、まぁ聞くだけ聞いてみるか……っておい!なんだそれ!羨ましいぞ!」

 

 なでしこが静かなのは良いがそれにしても静かすぎるな、と千明が様子を見るといつの間にかなでしこはあおいの膝枕ですやすやと寝息を立てていた。

 

「いやぁ、試しにやってみたらこんなんなってしもたわ。まぁ本気で寝てるわけじゃないと思うけどなー」

 

 その言葉に反応してなでしこが目を「カッ!」と見開くと、そのままの体勢で力説し始めた。

 

「すごいよあきちゃん!この柔らかさと適度な弾力……まさに至高の枕…………スゥ」

 

 あおいは、そのままゆっくり目を瞑って再び寝息をたてはじめたなでしこの頭を持ち上げて、腿の上からどかして立ち上がる。

 

「はーい、サービスタイム終了やー。そろそろ時間もアレやし帰るでー」

 

 その言葉をきっかけに他の皆も帰り支度を始める。電車組の三人を見送って、スクーターのリンも自分の愛車にまたがって、その去り際。

 

「じゃぁ、場所が決まったら連絡するか、学校で」

 

「うん、楽しみにしてるね。じゃぁまた学校で……気を付けて帰ってね」

 

 そんな会話を交わして、軽く手を振り合ってリンは走り去っていく。そんな彼女をなでしこは見えなくなるまで大きく手を振って見送った。

 

 

 

 

 翌日、学校にて……

 

「あ、先生!部活のことでちょっと聞きたいんですけどー」

 

「あら大垣さんに犬山さん、何かしら?もしかしてこの間話してた釣りの事?決まったの?」

 

 廊下で千明とあおいに声をかけられた美波は、いつものように人当たりの良い笑顔で対応したのだが……。

 

「はい、来週のテスト休み……なん……ですけど……」

 

 千明は話している途中から段々と表情が変わっていくのを感じて、終わりの方は尻すぼみになってしまっていた。

 

「テスト休みね……私はちょっと無理だからあなた達で行って来て頂戴……くれぐれも気を付けるのよ……じゃぁね……」

 

 美波は蚊の鳴くような声でそう答えると、最後には気が抜けたような表情になって去っていった。

 

「やっぱり無理か……」

 

「せんせーのあの表情、よっぽどなんやろな……ご愁傷様や……」

 

 そう言って静かに手を合わせる二人。二人の目に映る顧問の背中は、心なしかいつもより小さく見えた。

 




悲報:グビ姉ぇグビれず……

まぁ日帰り予定なので、どっちにしろお酒はNGなんですけどね



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