野クル+2日誌   作:ある介

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第五話「だって、かわいいじゃない?」

 釣りに行く日時も決まり、場所はリンの連絡待ちということになったところで、なでしこが野クルの面々は部室で釣り雑誌や、サイトを見ながらイメージトレーニング……という名の雑談をしていた。

 

「改めて調べてみると、山梨って釣りのポイント多いんやねぇ。湖に川、管理釣り場もあちこちや」

 

 スマホをスクロールしながらあおいがつぶやく。

 

「そういや今まであんまり気にしてなかったけど、釣具屋も多いよな。でっかいのから小っちゃいのまで、車で走ってると結構見るぞ」

 

「はい!ぶちょう!」

 

「んー、どしたー?」

 

「釣具屋さん行きたいです!」

 

「釣具屋なー、よく見るとは言ったものの、どこか……」

 

 あおいのつぶやきに反応した千明に、なでしこがそんな提案をした。どこか近くにあっただろうかと考え込む千明だったが、答えを出したのはあおいだった。

 

「あきー、カリブーの横に無かった?なんやったかなぁ……カリブータックル?……あぁ、これや」

 

 そう言いながらあおいが見せたウェブサイトには『アウトドアのカリブーが送る!フィッシングタックルの専門店!カリブータックル』の文字と共に店舗の写真が掲載されており、隣にはいつも行っている店が見切れていた。

 

「あー、あったあった!あそこ釣具屋だったのか。よし!なでしこ、行ってみようぜぃ!……なでしこ?」

 

 千明がなでしこに話しかけると、なでしこはどこか上の空で「カリブー……タックル……」とつぶやいている。どうやらまたくだらないことを考えているようだ……

 

 

 

 

――――ここはカナダ、針葉樹の森の中。少し開けた広場のようなところで、今まさに、負けられない戦いが始まろうとしていた……。

 

 前足を大きく広げて立ち上がり威嚇しているのはこの森の王者、ヒグマ。それに対するは、一頭の雄カリブー。いつもなら逃げの一手なのだが、今日の彼には逃げられない、負けられない理由があった。

 

 彼の後ろには妻である雌カリブーと少し前に生まれた彼の子供……ここで逃げたら子供が餌食になる……そう思った彼は臨戦態勢を取った。そして、ヒグマもまた四つ足になり、突進の体勢を取った……その瞬間だった。

 

 カリブーが先手を取って仕掛けた。立派な角を前に出し、大地を強く蹴って弾丸の様に飛び出していく。彼の得意技『カリブータックル』だ!――――

 

 

 

 

「おーい、なでしこー戻ってこーい。行くぞー」

 

「カリブー…………あっ!あきちゃん、あおいちゃん、待ってー!」

 

 なでしこの脳内で繰り広げられた戦いの勝敗は分からないが、千明とあおいに追いつくべく彼女も部室を飛び出していった。

 

 いつものように電車に乗って身延へと向かう。通り慣れた道を歩き、カリブーへと到着するといつも入っていく建物の隣に一回り小さい建物が見えた。その入り口の所にはロッドとリールの意匠と共に『カリブータックル』と書かれた看板が掲げられていた。

 

「いやー、今まで全然気にしてなかったわー」

 

「せやなー、こっちの建物の一部や思てたわ」

 

「せやせや」

 

 毎度おなじみのふわふわしたやり取りをしながら、店の中に入っていく。

 

 まず見えてきたのは、入ってすぐの特設コーナー。この辺りの川や湖で使えるおすすめのロッドとリールがずらりと並んでいた。

 

「はぇー、すごいねー。こんなに色々種類あるんだ……」

 

 それぞれのロッドにかかれている説明書きを見ながら驚きの声をあげるなでしこ。

 

 このルアーフィッシングのロッドというのは、渓流で使うような柔らかい物から、大物を相手にできる硬い物まで硬さがいくつか分かれていて、狙う魚や使うルアーの種類によって選ぶ必要がある。

 

 ヤマメを相手にするのに硬いロッドではやりにくいし、バスのようなパワーがある魚に柔らかいものという事でも同じだ。さらに硬さに応じて、扱うルアーの適正な重さの範囲があって、ルアーを買う時はある程度自分のロッドの特性を理解しておかなければならないのだが……。

 

「そういやなでしこ、釣具屋になにを見に来たんだ?」

 

「んとね、ルアーをいくつか買っておきたいなって。貰ったのもあるんだけど、数が少ないのと、やっぱり自分で選んだので釣りたいなーって……でも……」

 

「でも?」

 

「どうしようあきちゃん、硬さによってルアーの重さが決まってるんだって!私のどれかわかんないよぅ……」

 

 そう言って頭を抱え込んでしまうなでしこ。それに追い打ちをかけるようにあおいが小声で話し始める。

 

「ちょっと小耳に挟んだんやけどな、もし適正を超える重さのルアーを使ってまうと、ひと投げごとにパキッ、パキッて少しずつロッドに傷が入って……って、あいたー」

 

「やめい、イヌ子……とりあえず店員さんに相談してみよう」

 

 毎度のことながら、ほら吹きイヌ子が登場したところで千明が小突いて止め、近くにいた女性店員に声をかけた。

 

「すいませーん、初心者向けのルアーってありますか?」

 

「いらっしゃいませ、初心者向けですか?はい、ございますよ」

 

 にこやかに答えてくれたお姉さんに、千明が中心になって相談していく。

 

 今度ルアーフィッシングを始める事。場所はまだ決まってないが、県内の管理釣り場でデビューすること。そして、さっき話してたルアーの重さに関することなど、あまり知識が無いことも正直に説明した。すると、店員のお姉さんはうんうんと頷きながら彼女たちの話を聞いていたと思ったら、急に千明の手を握って話し出した。

 

「ありがとう!君たちみたいな女の子を待ってたのよ!」

 

「うぇっ!?は、はいぃ!?」

 

 いきなりテンションが上がった店員にびっくりしながらも、手を握られて身動きが取れないでいる千明が変な声を発する。だが、それにお構いなしで店員が続けた。

 

「雑誌だと『釣りガール特集』とか言って流行ってるみたいに書いてるけど、この辺じゃほとんどいなくてね……でもその制服、地元の高校のでしょ?あなた達みたいなかわいい子が釣りに興味持ってくれたと思うと嬉しくて……お姉さんに任せて!ばっちりアドバイスしてあげるから!あっ、ちょっとまっててね!」

 

 彼女はそうまくしたてると、近くにいた男性店員と何かを話して戻ってきた。戻り際に二人で親指を立てながらニヤリとしていた様子はなでしこたちには見えなかったようだ。

 

「お待たせ!しばらくあなた達に専念させてもらえるように話を通してきたから。さぁ、なんでも聞いてちょうだい!」

 

 戻ってくるなり、鼻息荒くそう言った店員について行けず、目をぱちくりさせるなでしこたち。そんな中、千明がいち早く何かに気が付いたようで、恐る恐る言葉を発する。

 

「……あのー、私達予算があまり潤沢じゃないんですけど……」

 

「大丈夫!高校生の懐具合もわかってるわよ。それに初心者に高い物なんて勧められないわ。どうせ無くすんだから」

 

 そこから店員のルアー講座が始まった。スプーン・スピナー・ミノーなどルアーの基本的な種類からトラウト向け、バス向けに加えて管理釣り場で使える物、使えない物。そして初心者でも扱いやすい物やそうでない物等、実物も触らせながら説明していく。

 

「ふぇぇぇ、なんかムニュムニュするー」

 

「うわぁ、なでしこちゃんのほっべみたいやなぁ」

 

「ふふ、それはワームと言われる種類のルアーよ。ただ、これは管理釣り場では使用禁止だから今は必要ないわね」

 

 そう言ってなでしこたちに触らせていた説明用のワームをしまうと、店員はちょっと真面目な顔になって、なでしこたちに質問をした。

 

「ところで、皆はどれくらい釣りたい?たくさん?それともボウズ……一匹も釣れなくてもいい?」

 

 そう聞かれたなでしこたちは顔を見合わせてちょっと悩む。ちょっと時間をおいて、なでしこが口を開いた。

 

「もちろん釣れないよりは釣れた方が良いですけど、それよりもみんなで楽しくできた方が良いです!ね?」

 

 そう言って他の二人の方を向けば「ズラァ」「せやね」とそれぞれ返事をした。それを聞いた店員は嬉しそうに微笑みながら口を開いた。

 

「そっか。楽しみたいか。じゃぁあなた達におすすめのルアーはこの辺かしらね」

 

 店員がいくつかルアーが入った箱を取って、近くの台の上に広げて見せた。

 

「おー、きれいだねぃ」

 

「こっちのはなんかかわいいな」

 

「見て見てー、抹茶ラテやって。こっちはバナナオーレや」

 

 店員が出してきたカラフルなルアーの数々にそれぞれ声を上げる一同。そして、その中からひとつ箱を持ち上げて説明を始めた。

 

「まずおすすめなのがこれ。スプーンの十色セットよ。さっきも説明したように、スプーンってのはどっちかというと初心者にはあまり向いてないんだけど、個人的な意見を言わせてもらえば、スプーンで釣るのが一番面白いわ!」

 

 へぇー、と三人の感心したような声を聞きながら、店員の説明は続く。

 

「このセットは一個当たりの値段も安くてお得なのはもちろん、どの色が釣れるのかを想像して、試してって試行錯誤するのも楽しいわね。まぁ、管理釣り場辺りならただ引きでも大体釣れると思うけど」

 

「じゃあじゃあ、こっちのはどうなんですか?」

 

 そう言ってなでしこが手に取ったのは、やたら美味しそうな名前が付けられているミノーだった。

 

「これは勧めようかどうしようか迷ったのよ……値段も安くは無いしね。それにほぼ間違いなく釣れるわ。ゆっくり、ゆーっくり引いてやると間違いなくね。そういう意味だと、ただ釣るだけなら初心者向けとも言えるわね。でも、それ以上におすすめなのは……」

 

「おすすめなのは……?」

 

「だって、かわいいじゃない?女の子なんだもの、せっかくなら道具もかわいいほうがいいでしょ?」

 

 店員が告げたまさかの理由に、一瞬「は?」となる三人だったが、すぐに「確かに」と手を打った。

 

 結局三人は皆で使う用ということでお金を出し合って、三色のミノーとスプーンのセットを購入。ついでに山梨県内の管理釣り場特集の雑誌を買って店を出た。

 

「えへへー、買っちった」

 

「買っちったなー。みんなで使う用とは言え、自分でルアーを買うとさらに楽しみになってきたぜ!」

 

「せやねー、釣れたらええなぁ」

 

 そんな話をして、いつものように身延まんじゅうを頬張りながら帰路へついた。

 

 

 

 

 その夜……

 

【なでしこ:りんちゃんみてみてー、抹茶ラテ買っちった(写真)】

 

「ん?なでしこか。抹茶ラテって、コンビニの新商品かなんかか?」

 

 なでしこから届いたメッセージに首をかしげながら、リンは写真を表示させた。

 

「お?おー、ルアー買ってきたのか。ていうか抹茶ラテって、色遣いは確かにそうだけど……ぶふっ」

 

 拡大表示させた写真をよく見て、リンは思わず飲んでいた牛乳を吹き出しそうになってしまった。

 

「うわ、箱にも『マッチャラテ』って書いてある……ガチな奴かこれ……」

 

【リン:『抹茶ラテ』ってメーカー公式か……牛乳噴いた……】

 

【なでしこ:ちょっとリンちゃん大丈夫!?拭いたぞうきんはちゃんと洗わなきゃだめだよ?】

 

【リン:学校かよ……それより、ルアー買ってきたんだ?】

 

【なでしこ:うん、カリブーの隣にカリブータックルって釣り具専門店があってね】

 

【なでしこ:ほかにもこんなのも買ってみたからみんなで使おうね(写真)】

 

「へぇ、きれいだな。にしても、なでしこはすっかり釣りにハマってる……のとはちょっと違うか。まだ行ったことないし」

 

【リン:ありがとう、それで釣れたらいいな】

 

【なでしこ:そうだね!今度はリンちゃんもカリブータックル行ってみようよ。いろいろあって楽しかったよー】

 

 なでしこの言葉にちょっと考えるリン。各種タックルが並ぶ店内を想像して、行ってみたいかも……と思っているようだったが、素知らぬ顔で返事を打ち込んだ。

 

【リン:ま、時間があったらねー】

 

【なでしこ:うん!(´∀`*)】

 




なかなか釣りに行かなくてすみません……
そして、やっぱり素直じゃないしまりん。

というか店員のお姉さん、名無しモブのつもりだったのですが
なんだかおもしろそうなので名前つけてオリキャラ昇格させようか考え中です……

モブ以外のオリキャラは出すつもりなかったんですけど……


お読みいただきありがとうございます
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