ある日の夜。リンからいつもの面々にメッセージが飛ばされた。
【リン:おーい、行くとこ決まったぞー】
【なでしこ:えーどこどこ?】
【千明:あいや、待たれい!( ・`д・´)ノ】
【あおい:なんやのあきー、下らんことやったら許さへんよ】
【なでしこ:へんよー】
【恵那:へんよー】
【千明:いやいや、どうせなら明日の放課後集まって聞かせてもらおうかなって】
【なでしこ:ほほう、それは楽しみですなぁ】
【恵那:ハードル上がったね、リン】
【リン:あー、わかったわかった。じゃあ明日部室……は狭くていやだから、いつものベンチのとこな】
【千明:狭くていや……】
【あおい:ま、否定できひんなぁ】
【なでしこ:うなぎの寝床だもんねー】
【千明:……これが零細サークルの定めよ……】
「と、いう訳で、発表するぞー」
翌日、いつもの場所に集まると、さっそくリンからそんな声がかかった。そして、自分のスマホを操作して、話を続ける。
「今URL送ったから、それ見ながら聞いてほしいんだけど、そこだったら電車で行けそうなんだよね。連絡すれば日野春から送迎もしてくれるっぽいし。それに他にも理由が……」
「北杜フィッシングエリアか……おっバーベキュー施設もあるじゃん!」
「ええなぁ。もし釣れたら焼いて食べよか?」
(ほかにも理由があったんだけど……さすが野クル、そこに目が行くとは食い意地が……ま、それも決め手になったのは確かだけど、それは黙っておこう……)
と、千明とあおいの反応に、頭の中は他人のことを言えないリンだったが、そんなリンを恵那がニヤニヤしながら見つめていた。と、そこでなでしこが「はいっ!」と手を挙げて発言する。
「県内だったらお姉ちゃんが車を出してくれるそうです!」
「それなら、私はスクーターで行けるね。確かお姉さんの車って5人乗りだよね」
「あ、そうだったかも……リンちゃん大丈夫?寂しくない?」
「寂しくないって……その代わり、荷物は載せてもらおうかな」
5人乗りで一人乗れないということで一瞬青くなったなでしこだったが、リンの言葉でほっと胸を撫でおろす。ただ、やはりリンを一人でスクーターで行かせることには少し抵抗があるようで、申し訳なさそうな顔をしているが。
「リンなら大丈夫だと思うけど、気を付けてね。ていうか、私たちはテスト休みだけど、平日なのにお姉さん大丈夫なの?」
「うん、お姉ちゃんの大学春休みなんだってー、羨ましいよねー」
「羨ましい……好きなだけキャンプできるではないか」
申し訳なさそうにしているなでしこに、恵那がふと気になったことを質問した。それに答えたなでしこの言葉にリンが反応して、なでしこの表情も少し和らいだようだ。
「せや、時間はどうするん?8時営業開始って書いとるで」
「それなんだけど、営業案内の所見てみて。10時半から15時までの半日券があるじゃん?それで釣りして、その後はちょっと遅めのお昼ってことでバーベキューとかどうかな?結構そういうお客さんも多いみたい」
この場所を選んだ時から考えていたことをリンが伝えると、周りから「いいねぇ」「それだ!」と賛成の声が上がる。
リンが管理釣り場を調べていくときにブログなども参考にしていたのだが、実際にここに行った人の中に今話したような利用の仕方をしている人が何人かいたのだ。
と、いった所で校庭のスピーカーから下校を促す声が聞こえてきた。
「んじゃ、今日はこの辺で。あたしらは部室に寄って、荷物取って鍵も返しに行かなきゃだから、しまりんと恵那はここでバイバイかな」
「ん、じゃぁまた」
「またねー」
そう言ってお互い手を振り別れる一同。野クルの面々は校舎へ、リンと恵那は校門へむかったのだが、結局駅で電車待ちの間に合流。五人で電車に乗って帰ることになる……まぁ、電車の本数も限られているので、よくある話だった……。
そして釣行当日……
「なでしこー、そろそろリンちゃん来るんじゃない?」
桜に呼ばれて身支度を整えながらなでしこが部屋から出てきた。
リンが原付、他の皆が車ということで速度差があるため、リンは朝のうちに荷物だけ預けて先に出発することになっていた。
先日の話し合いでリンがそれを提案した時、自分は時速30キロまでしか出せないし、お姉さんの車を待たせるわけにはいかないと主張し皆の理解を得たのだが、内心はというと……
(この時期の朝方は、原付でのんびり走ると気持ちいいんだよね)
と、なんとも彼女らしいことを考えていたとかいなかったとか……
ともあれ、そんなわけでリンが各務原家に到着し、さっそく桜の車にタックル一式を載せていく。
「桜さん、今日はよろしくお願いします」
「気にしなくていいわよ。それより、ごめんね車乗れなくて。一人で大丈夫?」
「はい、長野や伊豆に比べればなんてことない距離ですから」
リンの荷物と一緒に自分のタックルも積み込んでいるなでしこを尻目に、二人はそんな会話を続けていた。
「そうだ、リンちゃん、今日の道順なんだけど、ちょっと時間に余裕があるじゃない?だから……」
そう言ってタブレットに表示させた地図を見せながら、桜はリンに説明を始める。
「なるほど……桜さん、それはナイスアイデア。では、私は先に行って……」
何やら二人の間で話もまとまり、リンはなでしこに声をかける。
「それじゃなでしこ。私は先に行くから……また後でね」
「わかったー!リンちゃんも気を付けてね。またあとで」
リンは手を振って愛車にまたがり颯爽と走り去っていった。なでしこたちも後から追いかけるとは言え、途中で他のメンバーを拾うことを考えるとそれほど時間は無いので手早く準備を済ませて車に乗り込む。
「それではお姉ちゃん。よろしくお願いします」
「はいはい」
いつものようにけだるい感じで返事をして、桜が車をスタートさせた。しばらく車を走らせて、待ち合わせ場所に指定していたところで千明たちと合流。ひとしきり挨拶を済ませた後、さっそく出発することにした。
「恵那ちゃん恵那ちゃん、結構な大荷物だったけど何持ってきたの?」
「うん、今日の事親に話したら、いろいろ持たされて……残念ながらちくわは連れてこられなかったけどねー。ま、楽しみにしててよ」
「あ、わたしもちょっといい物もってきたんよ。クリキャンの時の肉には負けるけどなー」
そんな会話をしながら走っていると、なでしこがあることに気が付いて桜に質問を投げた。
「あれ、お姉ちゃんさっきの所曲がらなくていいの?」
昨日から地図を眺めていたなでしこが、曲がると思っていた道をまっすぐ行ったことを疑問に思ったのだ。
「んー、ちょっと時間は遅れちゃうかもしれないけど、寄りたいところがあってね。あなた達をおろしてからでもいいんだけど、どうせなら一緒にと思って。リンちゃんも先に行って待ってるよ」
「なになに!?美味しいところ!?」
「……はぁ……あんたはどうして食べ物の事になると勘が鋭いのかね。また豚野郎になりたいのか?ん?」
桜の言葉に「へぅ゛」と首を竦めるなでしこだったが、次の言葉でスイッチが切り替わったように笑顔を見せる。
「ま、美味しいところよ」
そんな姉妹のやり取りに後部座席の面々も苦笑いを浮かべてしばらく。それらしい建物が見えてきた。その店先には見慣れたスクーターも止めてある。
車から降りて、まず目に入る佇まいに歓声をあげる一同。いつものように写真を撮りつつ、酒蔵内に併設されているカフェの店内へと入っていく。
「おー、のすたるじー」
「あき、それ意味わかって言うとる?まぁ、確かにノスタルジックやけど」
まさに『古き良き』という枕詞が似合いそうな店内を眺めていると、店の一角からなでしこを呼ぶ声が聞こえてきた。
「おーい、なでしことその仲間たち。こっちこっち……桜さんもお疲れ様です」
「あー、リンちゃーん!」
先に到着していたリンが席を取っておいてくれたようだ。席について、店員さんの持ってきてくれたお冷とおしぼりで一息つくと、恵那が口を開いた。
「お姉さん、このお店は?」
「ここが酒蔵なのは入るときにわかったと思うけど、そこの麹から作った甘味料を使ったスイーツが食べられるお店でね、一度来てみたかったのよ。ま、私のわがままで連れてきたからここは奢りよ、好きなもの頼んでね」
恵那の質問に答えた桜の言葉になでしこたちは「スイーツ!」と大きく反応しつつ、お礼を述べるとさっそく注文を始めた。
彼女たちが注文したのは、数量限定という麹トーストに、人気のスムージー、アイスクリームなどといったスイーツ各種。
「いやー、キャンプだけやのうて、活動前のアイスは定番やねー」
「おいしいんだからいいんだよー」
「なでしこの言う通り!美味しいは正義……ということで……」
千明の言葉に合わせるように「いただきます」と声をそろえて食べ始め、それぞれが注文したものをシェアしつつ、美味しいスイーツに舌鼓を打つ。
(あぁ、これが麹の甘味……砂糖とはまた違った優しい甘味が口の中に広がる……そして桃の風味もまた何とも言えん……まさに山梨の大地が生んだ味……)
いつものようにリンの脳内食レポも展開され、おいしさのあまりあっという間にスイーツが消費されると、まったりとした空気がながれる。
「ねぇあおいちゃん、これあかんやつじゃない?」
「せやなー、あかんやつやー」
「あかんやつかー、でもそろそろ今日の目的を果たしに行かなきゃねー」
あおいとなでしこのやり取りに恵那がやんわり釘をさす。それに合わせるように、先に席を立って会計を済ませていた桜から出発を促され、彼女たちは重い腰を上げた。
そして車に乗ること十数分……いよいよ本日の目的地に到着。車の中からもチラチラ見えてはいたが、車から降りて近づいてみるとさらに彼女たちが知る『釣り堀』との違いに驚くこととなった。
「うわ、ひっろ!」
千明のその言葉が、皆の心情を的確に表していた。彼女たちは所謂『釣り堀』のちょっと広い感じを想像していたが、実際はそれよりも数段大きく、平日ということもあって人もほとんどいなかったことでそれが余計に感じられた。
荷物をおろしキャリアーに乗せたところで、夕方までこの辺りを見て回るという桜と別れて、クラブハウスへと近づいて行く。
なでしこが当たりをきょろきょろしながら「うわー、うわー」とはしゃいでいると、クラブハウス前を掃除していた女性がそれに気が付いて声をかけてきた。
「いらっしゃーい、こっちにどうぞー」
まだ少し距離もあったので、大きく手を振ってなでしこたちを呼ぶ女性。
「スタッフの人みたいね。じゃあここは、なでしこちゃん受付お願い……って行っちゃった」
物怖じしないなでしこの性格を見込んで、恵那が受付をお願いしようとそう言っている途中でなでしこはすでに駆けだしていた。
ほどなくしてすっかり盛り上がっている二人に合流した他のメンバーと一緒に、クラブハウス内へと入り受付をすることにする。そこでリンがこの管理釣り場を選んだもう一つの理由について、スタッフのお姉さんに話しかけた。
「あ、あの、無料レッスンをやってるって聞いたんですけど。予約してなくても大丈夫ですか?」
「ええ、今日は他に入ってないし大丈夫よ。あなた達初めて?」
「はい、やっぱり最初は教えてもらいながらの方が良いと思って……その……いろいろ調べてはきたんですけど……」
「そうね、実際にやってみないとわからないこともあるものね」
「はい。いいかな?みんな」
リンはそう言って振り向いて皆の顔を見る……。
「もち!しまりんグッジョブ!」
「リンちゃんさすが!……こういうのなんて言うんだっけ?前に授業でやった……」
「仁和寺にある法師?」
「『先達はあらまほしきことなり』だね」
そんな学生トークを聞いたスタッフさんがぽつりとこぼす。
「あー、私もはるか昔に習った気がするわ……」
無事に受付を済ませたなでしこたちは、準備して来るというスタッフさんに先立ってポンド(池)の淵へと降りてきた。
「いやー、こうしてみるとほんと広いなー」
「そうだねー、もっと狭いと思ってたや」
仁王立ちでポンドを眺める千明となでしこの横で、他の三人は着々と準備を進める。ロッドにリールをセットし、魚籠を沈め、ランディングネットも出しておく。と、そこへ準備を済ませたスタッフさんがやって来た。
「おまたせー。あら、準備は大丈夫みたいね。じゃあさっそく始めましょうか」
スタッフさんのその言葉に「よろしくお願いします」と声をそろえて頭を下げる一同……いよいよ野クル(+2)初ルアーフィッシングのスタートだ。
(かわいい女子高生たちにこんな風に言われるなんて……女教師……いいわね、こういうのも)
例によって寄り道してから目的地へ……
初心者だけで管理釣り場というのはあまりお勧めできないので
レッスンをしてもらうことにしました。
というか、釣り経験者であっても初めて管理釣り場に行くときは
その場所に詳しい人と一緒に行くか、スタッフさんに良く話を聞くことをお勧めします
管理釣り場ならではの禁止事項や、魚の扱い方などもあるんで……
それと、原作と同じように実在のお店や施設を元ネタにして
名前をちょっと変えたり、ぼかしたりして登場させてますが
あくまでモデルということで、細部は違うことがあるので
ご理解いただきたいと思います。よろしくお願いします
お読みいただきありがとうございます