野クル+2日誌   作:ある介

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お待たせしました、いよいよなでしこたちが釣りを始めます


第七話「さぁ、リンちゃん!いつでもカモン!」

「さてそれじゃ、初心者釣りガールの皆に管理釣り場での釣りを教えていくわよ」

 

 スタッフのお姉さんのその言葉を聞いて、なでしこたちは改めて「お願いします」と頭を下げた。そんな彼女たちの言葉に若干にやけつつ、お姉さんは説明を続ける。

 

「まずはタックルのチェックからね。一応キャスティングの練習とか、扱い方は把握してきたと思うけど、実際に釣りに来るのは初めてって事だから、一緒にチェックしていきましょう」

 

 そうして、それぞれの持つロッドがきちんとつないであるか、リールはちゃんとセットされているかを一つ一つチェックしていく。

 

「うん、大丈夫みたいね。次にラインをこうやってリールから出して、ガイドに通して……で、この先にルアーを結ぶんだけど、結び方は大丈夫?」

 

「一応結べるようにはなったんですけど……ちょっとまだ心配かも……」

 

 お姉さんの質問になでしこがちょっと自信なさげに答えると、他の面々も頷いて同意する。そんな彼女たちを見て、お姉さんはポケットを探ると小さな袋に入ったある道具を取り出した。

 

「そんなあなた達には、これをあげるわ」

 

「なんですか?クリップ?」

 

「これはスナップって言ってね、ここがこうして開くようになってるから、あらかじめラインに結んでおくと、ルアーの着脱がしやすくなる優れものなの。ルアーフィッシングってルアーをとっかえひっかえしながら魚の反応を見るからね。こういう小道具があるとグンと楽になるわよ」

 

 そのスナップを袋から取り出して使い方を実演しながら、一人一つずつ配って行く。なでしこたちはそれを受け取ると、感心した様子で「へー」といじりながら、おぼつかない手つきながらもしっかりとラインに結び付けた。

 

「なるほど、これやったら簡単やなぁ」

 

「ほんとだ、簡単につけられる」

 

 あおいと千明は最初に使うルアーを決めていたようで、さっそくスナップにルアーを取り付けていた。

 

「なー、斎藤どれが良いと思う?」

 

「んー……これとかどう?このへんのカーブがリンっぽいし」

 

「わからん……まぁ、いいか。それにしてみよう」

 

 と、謎の会話を交わすリンと恵那。そして、なでしこはというと……

 

「お姉さんはどれがいいと思いますか?」

 

 と、タックルボックスを広げてお姉さんに意見を求めていた。

「んー、そうねぇ。貰い物って聞いたけど、トラウト用は色々揃ってるみたいだし……ま、好きなの使ってみるといいんじゃないかしら?さっきも言ったように、いろんなルアーを使いながら魚の反応を探っていくのもルアーフィッシングの楽しみの一つよ」

 

 ウインクを決めながらそう言ったお姉さんの言葉を受けて、なでしこはしばらく悩んだ後一つのルアーを手に取った。

 

「じゃあこれにします!」

 

 そう言ってなでしこが手に取ったのは先日買ってきたスプーンセットのうちの一つ。薄いピンク色のスプーンだった。

 

「ほう、その心は?」

 

「この色は撫子色……私の色なのだよあきちゃん」

 

「やっぱり、だろうと思った。安直だなぁ」

 

 一足先にルアーをセットしていた千明が横からそんな風に口を挟む。そんな二人のやり取りを笑顔で眺めながら、お姉さんは「それもアリよー」と声をかけながら水際へと進み出た。

 

「ルアーがセットできたところで釣りを始める訳なんだけど、ちょっと見ててね……まず周りに人がいないことを確認してから……ほっ……投げたら、着水の直前にラインが余分に出るのを止める。で、ベイルを戻して適当な深さまで沈めたら……これくらいのスピードで巻いてくる……と」

 

 一連の流れを実演しながら説明して「基本はこれの繰り返しよ」と振り返る。するとその視線の先には「おー」と声を揃えて拍手をする一同の姿が。

 

 実際お姉さんのような上級者のキャスティングというのはきれいなものなので、彼女たちに限らずこういった反応をする初心者は多い。さらに、お姉さんが見せた『一定のスピードでリールを巻く』というテクニック。これがルアーフィッシング……特に管理釣り場でのエリアフィッシングには重要になってくる。

 

 基本的に管理釣り場の魚……特にトラウトはルアーのイレギュラーな動きよりも、一定の動きに反応することが多い。もちろんあくまで『基本的に』で『多い』という注釈が入るのだが、そういう傾向にある。そして、それ以上に一定のスピードで巻くということは釣り人にとっても水中の僅かな変化をとらえやすいというメリットもある。

 

 食いつくまではいかないが、魚が反応して小突く感覚を感じて、ルアーの色、種類、魚がいるタナなどの、その日の魚の傾向を探ったりするのに役立つのだが……初心者釣りガールの彼女たちにそこまで求めるのは酷な話だ。彼女たちの場合は下手にイレギュラーな動きを入れるよりも、その巻き方の方が釣れるという理由の方が大きかったりする。

 

「――とまぁそんな感じかしら。あとは魚の取り込み方も説明したいから、一匹釣れるまで私も隣で様子見てるから、なにかあったら声かけて頂戴ね」

 

 お姉さんのその言葉をきっかけに、それぞれ距離を取りながら思い思いの場所に向かって行きキャスティングを始めた。以前練習しただけあって、キャスティングはなかなか様になっており、リトリーブ(リールを巻いてルアーを引っ張ること)もさっき言われたことを念頭に、一定のスピードを心掛けているようだ。

 

 そんな彼女たちにお姉さんもアタリがあった時の合わせ方や、リトリーブの注意点なんかを伝えながら様子を見守る。

 

 するとさっそく……。

 

「うぉっ!来たっ!…………って、あれ?」

 

 千明の竿にアタリがあったようだったが……うまく合わせられなかったようだ。

 

「くー!一番乗り行けると思ったんだけどなー」

 

「あはは、あきちゃん残念」

 

「ドンマイ千明……あ……来た」

 

「って!しまリン、もちょっとこう……」

 

 悔しがる千明に、なでしことリンが反応したところでリンの竿にもアタリが来たようで、リンは話しながらもしれっとそのアタリに合わせた。千明としてもそのいつも通りの軽い反応に、肩透かし感を味わいながら、気持ちを切り替えて応援に回る。

 

 そして図らずも友人たち一同の期待を一身に背負うことになってしまったリンはといえば……。

 

(うわ!わわわ!来ちゃったよ……てか、魚ってこんなに力強いのか!えーっと、竿を立てて……リールを巻けばいいんだよな?な?)

 

「落ち着いて!無理して巻こうとしないで、しっかりラインにテンション……っと張りを持たせながら……そう、しっかりロッドのしなりを利用してね」

 

(ゆっくり……落ち着いて……って、ばしゃばしゃいってるし、いいのか?これで?)

 

「そう、そう……あとちょっと……そっちのお嬢ちゃん、ネット用意してあげて!」

 

「りょーかいですっ!」

 

 かなりテンパっているリンの内心とは裏腹に、取り込み自体は今の所うまくいっているようで、お姉さんがアドバイスを送りながら隣で応援していたなでしこにランディングネットを用意させる。

 

「さあ、リンちゃん!いつでもカモン!」

 

「お、おう、なでしこ、しっかり拾ってくれよ!」

 

 そう言ってリンは魚が弱ったところを見計らって、一気に手繰り寄せた。それを受け止めるなでしこもリンの動きに合わせてネットを使って水中でしっかりと魚を受け止める。

 

「や、やった……」

 

「やったねリンちゃん!初ゲットだよ!」

 

「初めてのレインボートラウトゲットおめでとうお嬢ちゃん。で、そのトラウトはどうする?このままリリースするなら水から出さずに、触らないように針を外してリリースするんだけど……食べちゃう?」

 

「え?……はい、食べちゃい……ます」

 

「わかったわ。じゃあ水から上げて針を外しましょうか」

 

 お姉さんはそう言うとなでしこに言って魚を水から上げさせて、タックルボックスに入っていたプライヤーを使って針の外し方を説明していく。

 

「――って感じで、頑張って頂戴ね。今日は暇だと思うから、ちょこちょこ様子見に来るし、何かあったらいつでも呼んでくれていいから」

 

 そう言ってクラブハウスに戻っていくお姉さんに、一同は揃ってお礼を言うと、さっそくリンを囲み始める。

 

「リンすごいねー。魚釣っちゃったね」

 

「レインボートラウトやったっけ?まんま虹鱒やけど、英語で言うとなんやかっこええなぁ」

 

「こうしちゃいられん!なでしこ!あたしたちも釣るぞ!」

 

「ガッテンだよ!あきちゃん!」

 

 口々にそんなことを言っては、自分たちの釣りに戻る彼女たちをよそに、リンはじっと手を見つめていた。

 

(うわぁ、釣っちった……ここは『釣ったどー!』とか言ってみたりしたいが……我慢我慢……)

 

 自分たちの目の前で魚が釣りあげられたのを見て俄然テンションが上がったなでしこたちと、二匹目をゲットするべく静かに闘志を燃やすリンだったが、そんな彼女たちの気合とは裏腹に、その後魚のアタリはなかなか来なかった。

 

 しばらくたって次にアタリが来たのはなでしこと恵那がほぼ同時だった。

 

「わっ!来たよ!……これは、大物の気配……」

 

「私も来たかも。でも、あんまり大きくなさそう?」

 

「斎藤、手伝おうか?」

 

「んー、大丈夫そうだからリンはなでしこちゃん手伝ってあげて。私は……ほら。釣れた」

 

 リンと話しながら恵那が釣り上げたのは、それほど大きくはないものの、リンと同じ虹鱒だった。

 

 そして、リンが未だ魚と格闘を続けているなでしこの元にネットを持って向かうと、ちょうど見える所まで魚が寄せられたところだった。

 

「うわ、でかい」

 

「まさかこんなに大きかったとは……リンちゃん網お願いできる?」

 

「お、おう、任せとけ」

 

 予想以上の大きさに、若干腰が引けながらもなんとかリンがネットを差し出すと、なでしこはゆっくりネットに収まるようにロッドを立てていった。

 

「もうちょい……よし。おめでとうなでしこ。大物だよ」

 

「やったぁ!りんちゃんありがとう!あ、写真撮って、写真」

 

 釣りあげた魚を持ち上げて、満面の笑みで写真を撮ってもらうなでしこ。そして魚籠に入れようと改めて魚を見て首を傾げた。

 

「あれ?なんだかリンちゃんが釣ったのと違う魚?」

 

 そんななでしこの疑問に答えたのはあおいだった。

 

「なでしこちゃん、多分これや。ブラウントラウト。茶色っぽいし、ぽつぽつも付いとる」

 

「そうなんだー、ってあおいちゃん調べるの早いね!?」

 

「まぁ、私も釣れたしなー。なんか違うなー思て、調べてみたんよ」

 

 実はなでしこと恵那の陰に隠れて、あおいも小ぶりながらブラウントラウトを釣り上げていた。そして、その事実に最も強く反応したのが千明だった。

 

「えー!イヌ子いつの間に……ってことはあたしだけまだ釣れてないのかー……くそぅ……ますます最初の一匹をバラしたのが悔やまれるぜ……」

 

「あきはやればできる子やで」

 

「……そうだな。鱒の一匹や二匹、すぐに釣りあげてやるぜ!」

 

 付き合いの長いあおいのフォロー?が入ったところで、千明が気合を入れなおしてルアーを取り換える。千明が選んだのは例の抹茶ラテカラーのジョイントプラグだ。それを、今までになく慎重に、かつゆっくりと引いてくる……すると……。

 

――コツン――コツン――

 

 アタリとも呼べないくらいのちいさな振動がラインを通してロッドに伝わり、千明の手に違和感を伝える。

 

(ん?これは……いや、まだだ。焦るな大垣千明……まだ突っついてるだけだ……このままゆっくり引いて……)

 

「来たっ!」

 

 一発目の時とは違って、ベストタイミングで合わせられた今回のアタリはしっかりと魚の顎をとらえていた。後はラインブレイクしないように落ち着いてリールを巻いていくだけだ。

 

 千明の隣では何も言わずともあおいがネットを構えて待ってくれている。それを横目で確認した千明は、焦らず、ゆっくりと自分に言い聞かせながら、魚の動きを見極めつつロッドとリールを操作していく……そしてしばしの格闘の後、その時はやって来た……

 

「あき!もうちょいや……よし、入ったで!」

 

「ふふふ、やった。ゲットだぜ!この調子で二匹目いったるわ!」

 

 その後もそれぞれ一・二匹ずつ釣り上げたところでなでしこがぽつりとつぶやいた。

 

「お腹減ってきたねぃ」

 

「せやねー、そろそろ時間の方も終わりやねぇ」

 

 前半は初心者レッスンもあったということで、いつの間にか予定の時間まであと少しとなっていた。結局釣果としては一人二・三匹ずつという結果だったが、ボウズがいなかったというのは大きいだろう。

 

 そろそろ時間ということで、片付けを始めたなでしこたちの所へレッスンをしてくれたお姉さんがやって来た。

 

「おめでとう皆、見てたわよ。この人数だと大体一人くらいはボウズがいるもんだけど、皆釣れてよかったわね。それと、かまどの方も用意しておいたわ……炭の置いてあるところね。炭の使い方とか、火のつけ方は大丈夫?」

 

「はい、キャンプでよく使うので大丈夫です」

 

「そっかそっか。キャンプやるって言ってたわね。それじゃ、貼ってある注意事項をよく読んで、気を付けて楽しんでね」

 

 手を振って去っていくお姉さんを見送って、なでしこたちもバーベキュー用のかまどが並んだ四阿へと向かった。

 

「下ごしらえはなでしこに任せちゃっていいの?てか、なでしこ血がダメって言ってなかった?」

 

「ふっふっふ。リンちゃん、それは過去の私なのだよ……」

 

「……大丈夫ってことで良いんだな?じゃあ私たちは炭を育てておこうか」

 

「あ、私もなでしこちゃんを手伝うね。親に色々食材を持たされてるし」

 

「ん、了解」

 

 そうしてなでしこ・恵那組とリン・千明・あおい組に分かれて作業を進めていくことになった。

 

「なでしこちゃん、生きてる魚も捌けるの?」

 

「いやー、ちょっと前まで血とか駄目だったんだけどね……お姉ちゃんに鍛えられたというか……」

 

 そう言いながら、数日前まで徹底的に魚の捌き方を教え込まれたのを思い出していた。なでしこが釣りを始めると言い出してから、姉である桜に『生きてる魚を釣って、命を頂くなら自分でできるようになりなさい』と仕込まれたのだ。

 

 最初はおっかなびっくりで、顔を背けながら捌いていたのだが、姉のスパルタ教育?と、元々料理ができたのもあってか、何とか捌けるようになっていた。

 

「へー、なんだかすごいお姉さんだけど、その言葉は大事だね」

 

「そうなんだぁ、お姉ちゃんは厳しいんだけど、いつも色々教えてくれるんだよね……厳しいんだけど……」

 

 なでしこはだんだんと小声になりながらそう言うと、釣り上げた魚たちに手を合わせてから包丁を手に取った。

 




原作で「血がダメだ」と目を覆ってしまっていたなでしこでしたが
頑張って克服してもらいました
同じ場面でリンは平気そうでしたが
料理の腕的に魚を捌くのは……どうなんでしょう?

次回は釣った魚でBBQの予定です

お読みいただきありがとうございます
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