野クル+2日誌   作:ある介

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今回はそれぞれの放課後のお話
なにやら次のキャンプに向けて画策しているようです……


第九話「うわ、なんかおかしな人がおるで」

 ある日の野クル部室……千明は一足先に部屋に入りあるものを準備しながら他の二人の到着を待っていた。

 

「いやー、我ながらうまくできたな。二人も驚くに違いない……ふっふっふ……」

 

「うわ、なんやおかしな人がおるで……なでしこちゃん今日は帰ろか?」

 

「そうだね、あおいちゃん。あ、帰りになんか食べていこうか」

 

 最後の怪しい笑いの所だけをピンポイントで見られて、踵を返して帰ろうとするあおいとなでしこを「まってー」と顔を赤くしながら呼び止める千明。さすがに聞かれていないと思っていたものを聞かれていたのは恥ずかしかったようだ。

 

「冗談や。それで、何をニヤニヤしとったん?」

 

「あきちゃん顔赤いよ、かーわいー」

 

 なおもからかってくる二人にぐぬぬとなりながら、気を取り直して先ほどまで準備していたものを取り出す。

 

「じゃーん!これだ!」

 

 千明が二人の目の前に置いたのは、横にスリットが入っていたり、正面が扉の様になっていたりするが、一見するとちょっと大きめの縦長の段ボール箱だった。なにこれという二人の視線に、千明は徐に正面の扉状の部分を開けた。

 

 その内部はというと、上部には何かを吊るすためのフックが付いており、下から三分の一くらいの高さの所にBBQで使うような焼き網、底には何かを入れる皿というかバットのようなものが置いてあった。

 

 箱の中身を見たあおいはすぐにピンと来たのか、顎に手をあてて鋭い目線を千明へと送る。

 

「あき、これはもしかしてスモーカーか?」

 

「さすがイヌ子、ご名答だ。次のキャンプにはこれを持って行こうと思ってる」

 

 千明が用意していたものとは、スモーカー……燻製器のことだった。二人の会話を聞いてなでしこもそれが何に使う物か気が付いたようで、会話に加わる。

 

「燻製がこれで作れちゃうの?段ボールで?」

 

「そうだぞー、作れちゃうんだぞー。ほら、最近手作りの燻製って流行ってるだろ?ウチらも作れないかなーって思っててさ。でも、ちゃんとしたスモーカーは高いし、持ち運びが大変なんでネットで調べて作ってみました!」

 

 千明のその言葉に「おー!」と手を叩く二人。話を聞くと、段ボールはバイト先から。その他の部品も百均で買ってきたとのことで、千円掛かっていないとのこと……それを聞いた二人は更に感心したようだ。

 

「というわけで、これから外へ出てこれのチェックをします!」

 

「燻製作るのー?」

 

「いや、とりあえず煙が必要以上に漏れたりしないかを見るだけだからこれを使う」

 

 そう言って取り出したのはよく見るぐるぐる蚊取線香だった。なるほどこれなら煙がどうかというのもわかるかもしれない。ただ……。

 

「なぁあき、それって箱に匂いがうつって、次使う時に食材が線香臭くならん?」

 

「む……」

 

 

 

 

 室内になんとも言えない空気が漂ってしばらく……「さてと……」と言いながら千明が段ボールスモーカーをたたみ始めた。

 

「ほら、簡単に折りたためるコンパクト仕様!これで持ち運びも楽ちんだぜ!」

 

「あれ?あきちゃん、テスト……」

 

「あー、使う時は隙間をガムテープで目張りするから大丈夫、大丈夫!それに私は段ボール工作には実績があるからな!何も問題ないさ」

 

 そう言って、畳んだ段ボールを棚の上にそっと置いた。

 

 あおいとなでしこの頭の中には、前回煙になって消えた段ボールテント、その前の“自走式”自転車用キャンピングカー、そしておまけの大垣千明(梱包済み)が浮かんでいたのだが、とりあえず何も言わないことにして、自分のスマホに目線を落とした。

 

「で、何の燻製作るつもりやったん?」

 

「それなんだけどさ、色々検索してみたんだけど、やっぱりゆで卵はやってみたいよな。後、チーズ」

 

「あー、ええなぁ、おいしそうや。お肉は?ベーコンは……まぁ、元から燻製されとるけど、一味変わると思うで」

 

「あ、あおいちゃん、お肉だったら鶏肉は?胸肉をスモークして、ほぐしたやつを野菜とサラダにしたり、パンに挟んだり」

 

 何事もなかったかのように会話を再開させた三人は、何をスモークするかでひとしきり盛り上がる。スマホで検索したり雑誌を見たりしながら、あれこれ話していく中で千明が一つの食材を提案してきた。

 

「それなら、釣った鱒とかで燻製できないかな?」

 

 それを聞いた二人もそれは美味しそうだと賛成の声を上げるが、スマホを見ていたなでしこが作り方を検索したのだろう、残念そうな声を漏らした。

 

「あきちゃん……ちょっとそれは大変かも……これ見て……」

 

 なでしこのか細い声に、千明とあおいは彼女が見せてきたスマホの画面を覗き込む。するとそこには……

 

 

 

 

――――自家製鱒の燻製の作り方。ソミュール液と呼ばれる調味液を作り8~12時間漬け込んだ後、流水で2~3時間塩抜き。その後12~24時間風通しの良いところで乾燥させたら、30分ほどスモークする――――

 

 

 

「って、めっちゃ時間かかるじゃねぇか!」

 

「私も調べてみたんやけど、サイトによって時間バラバラみたいやね。どっちにしても一日ではできひんみたいやけど」

 

「んー、一泊二日の週末キャンプじゃだめだねぇ」

 

 おぉぅ……と床に手をつきうなだれる千明と、それを眺める二人。

 

 他の作り方を紹介しているサイトをあちこち覗いてはみるものの、どのサイトでも多少の違いはあるが、おおむね一日以上の時間がかかるようで、なでしこが言う様に一泊二日のキャンプではなかなか難しいようだった。

 

「とりあえず、なんかいい作り方が見つからなかったら、釣った魚でっていうのは無しだねー」

 

「しょうがない、とりあえず初回は他の食材で我慢しよう。ま、それはそれでテンション上がるよな」

 

 考えていた事の一つは難しそうだと分かったが、それでも今まで色々作ってきたキャンプ飯に新たなジャンルが加わるとあって、少なからず三人のテンションは上がっているようだった。

 

「そろそろ時間やで、帰ろかー」

 

 あおいのその言葉で、三人は部室を出ていく。帰り道の間もどんなものを燻製にするかという話題でもちきりだった……

 

 

 

 

 千明が部室でうなだれている頃、図書室ではリンもまた雑誌を見ながら川魚料理の想像を膨らませていた。

 

(この間の鱒はうまかった。他にキャンプでできる簡単な料理があればいいんだけど)

 

「しーまーりーん」

 

「うぉっ!って斎藤か、びっくりしたぁ……その呼び方はちょっと勘弁してくれ」

 

 四つ足の椅子を傾けてゆらゆらしながら雑誌を読んでいたところで、不意に呼びかけられて思わずバランスを崩しそうになったリンだったが、何とか踏みとどまって恵那に悪態をついた。

 

「あはは、ごめんごめん。なかなか気づいてくれないから思わずね。で、何を物思いにふけっていたのかな?なんだかニヤニヤしてたようにも見えたけど……」

 

「ニヤニヤなんて……」

 

 してない。と思わず言い返しそうになったが、それを言った所でどうせからかわれるのがオチだと気が付き、グッとこらえる。そして、自分が見ていた雑誌のとある特集を指さして、素直に考えていたことを話すことにした。

 

「これだよ、なんか簡単にできるメニューがないかなと思ってさ」

 

「なになに『自分で釣れば美味しさ倍増!川魚料理特集!』?」

 

「あぁ、ちょっと前のバックナンバーなんだけど、この記事を思い出して引っ張り出してきたんだ……まぁ、ここに載ってるのは家に持って帰って料理するものが多いんだけど、キャンプでも作れるもの無いかなーって」

 

 恵那はリンから雑誌を受け取って、目を通し始めた。そこに書いてあるのは、リンが先ほど説明した通り、管理釣り場などで釣った魚……主に虹鱒を家に持ち帰って料理するという内容の特集記事だ。

 

 基本中の基本である塩焼きに始まり、先日なでしこが作ったホイル焼きや手の込んだパイ包み焼なども載っている。そんな中で、恵那はある料理をリンに勧めた。

 

「ねぇリン、これなんてどう?」

 

「どれ?天ぷら?美味しそうだけど、キャンプで作れるの?」

 

「うん、前にワカサギで実践済みだよ」

 

「あー、あの山中湖雪中キャンプか。確かにあれは美味しそうだったな」

 

 恵那が指さした天ぷらの作り方には、基本的な作り方のほかにもカレー粉をまぶしたものうや、青のりを加えた磯辺揚げ風のもの。刻んだパクチーを加えたエスニック風のものなど変わり種もいくつか載っていて、リンの想像をさらにかきたてた。

 

 

 

 

――――満天の星空の下、パチパチと薪がはぜる……その音をかき消すようにジュワァっと大きな音を立てて、愛用のコンパクトグリルの上に置かれた鍋の中で衣をまとった切り身が泳ぐ……。

 

 まずはシンプルに基本のてんぷらから。鱒の淡白な味わいを楽しむにはやはり塩だろう。次は青のりを混ぜた磯辺揚げ。これは天つゆか、醤油だろうか?青のりの風味と醤油の香りが相まって香り高い……はずだ。

 

 続いて刻んだパクチーを混ぜ込んだエスニック風。これにはスイートチリソースかな、爽やかな香りが鼻に抜けて、きれいな白身にチリソースの赤が映える。最後のカレー風味はそのまま……いや、マヨネーズをつけてみよう。カレー粉のスパイシーさが魚臭さを消してくれて、それをマヨネーズのコクが包み込む。そして衣の中から現れる、ふんわりとした身の食感がたまらない――――

 

 

 

 

 そんな想像……いや、妄想を繰り広げるリンを恵那の声が現実に引き戻す。

 

「りーんー?どうかな?」

 

「うん、良いと思う」

 

「ま、釣れなきゃ食べられないんだけどねー」

 

「うっ、そう……だな……」

 

 そんな感じでそれぞれの放課後は過ぎていった……

 




という訳で今度のキャンプは燻製にチャレンジ……
するのでしょうか?

グビ姉の酒がノンストップで進みそうです……




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