Fate/ Witch Of The Beginning   作:五櫛みとも

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 一応時系列としては魔法使いの夜本編の直後としています(おまけシナリオ除く)。ですが、とりあえず設定とか難しく考えることなく軽い気持ちで読んでくださると嬉しいです。
 ネタバレ等は気を付けてくださいとしか言いようがありませんが、原作が楽しめなくなるようにはしないよう心がけます。
 投稿初心者で拙いところはあると思いますが温かい目で物語の行く末を見守ってくださると嬉しいです。




1日目 嵐の前夜
謎の弓兵登場


 

 

 

 80年代後半、三咲町。

 都市開発により建物や施設が増え、徐々に人工物に満たされていきながら人の手が広がりつつある街。

 

 坂を登ったところにある鬱蒼と繁る木々を残す小高い丘の上。そこには一つの屋敷が建っていた。

 

 夜な夜な奇妙な鳴き声が聞こえる。

 この世ならざるものが徘徊する。

 幽霊屋敷だとも噂される家。

 そこには二人の魔女が住んでいた。

 魔術の実験に明け暮れ、たまに夜の街にぶらりと姿を現しては外からやってきた利権を狙う魔術師と命のやり取りをする。

 

 そんな生活を続けていた二つの影。

 その影も今では三つに増えている。

 

 魔女に目をつけられた一人の少年。

 屋敷の一員となった彼を巻き込みながら日常は続いていく。

 

 本来、交わることのなかったはずの三者三様。

 それはただでさえ奇跡というべき星の巡り。

 星の導きに従って、三人の日々は過ぎ去って行く。

 

 

 しかしある出来事を境にその星筋は軌道を変える。

 本来存在しえない者、進むはずのない架空の時間。

 一つの歯車の狂いをきっかけに、世界は別の世界への変化を求め、異聞へと姿を変える。

 

 これはそんな、誰に観測されることもない星の巡りを描いた、ifのお話。

 

 

▽△▽△▽△

 

 

 日は高く、近くの森から鳥が(さえず)る休日の正午。

ドンガラガッシャーンという擬音のままに、爆発音とあからさまに部屋中のものがひっくり返った音が屋敷内で響き渡った。

 

 サンルームで心地よい初春の日光を浴びながら読書をしていた屋敷の主人ーー久遠寺有珠は、ため息を吐きながら読んでいた本を閉じる。

 

(青子ったらまた魔術の実験を失敗させたのね)

 

 蒼崎青子という女と暮らしていると、こういったことはままあることである。

 

 青子は魔術の出力効率の調整技術は魔術師の中でも極めて優秀で、それどころか彼女は世界に5人しかいないという偉大な魔法使いの一人であるのだが、細かい魔術の取り扱いに関してはあまり芳しくないという欠点があった。

 壊すことばかり得意で新しいものを生み出すのは苦手、という魔術師としてあるまじき性質である。

 理由あって彼女に対して有珠は魔術の師として付き、魔術の指導をしている。

 

 これまでもずっと魔術の面倒は見てきていたし、青子のやらかす失敗も多く見てきた。試行錯誤で発展していく魔術の実験において失敗は当然のこと。

 そうして多少は大目に見てきたがさすがに今回はやり過ぎだった。

 

 

 あの爆音の様子だと部屋の一室が吹き飛ぶ寸前だったに違いない。あの破壊魔の青子のことだ、今回のような失敗を何度も許してしまえばいつか屋敷が跡形もなく吹き飛んでしまうことだろう。

 

 有珠はこの自らが住む屋敷での空間に特別な思い入れを持っている。破壊でもしていようものなら、青子とてただでは済まないだろう。

 有珠は部屋の様子を窺うついでに、きつく説教してやろうと青子のいる実験室に向かった。

 

 

「いた」

 

 有珠は、書斎を兼ねた実験室の前で青子の姿を見てとる。

 青いセーターに黒ジーンズのいつも通りの部屋着の出で立ち、そして茶色がかったしなやかな長い髪は彼女の腰のあたりまで伸びている。

 

 案の定、扉は壊れて中と外をつなぐものは何もなくなり、部屋の出入り口は吹き抜けとなっていた。

 

(修理代だって馬鹿にならないのに……)

 

 費用の分は青子の食費から引いてやろうと冷徹な判断を頭の中で下す。きっと青子も悔しそうにお腹を空かせながら、これは自分の責任だからと耐えるだろう。あるいは隣の草十郎の夕飯が消えることもあるかもしれないが、有珠の知ったことではない。

 

 

 そんなことを考えながら有珠は青子のもとへと近づいていくが、どこか妙な違和感を感じた。

 

 何をやっているのかと声をかけようとするが、明らかにいつもと青子の様子がおかしく、声をかけるのも躊躇(ためら)われた。

 まるでとんでもない大魔術をうっかり起動させて途方に暮れて啞然としているような、かと思えば道端で突然知らない人に話しかけられて戸惑っているような、そんな表現に難しい顔で立ち尽くしている。しばらくここで共に生活して過ごしてはいるが、青子のあんな表情はこれまで見たことがない。

 

(一体、何?)

 

 青子の視線は部屋の中に向いているようだった。

 有珠は不自然に思い、無言で歩み寄り隣に立つと青子の視線の先を辿る。

 

 

ーーーー。

 

 

 瞬間、有珠は固まり、石像のように固まる二人がその場に残される。

 

 

 二人の視線の先にいたのは見慣れぬ男。

 擦り切れたような浅黒い肌、そして色が落ちたような白髪。異装の赤服に身を包んだ男は、呆れたように目の前の二人の少女に向かって笑う。

 

 

「随分と荒い召喚だな。召喚者の性格が知れる」

 

 

 家具や実験器具が散乱し荒れ果てた部屋の中心には、澄ました顔の赤い弓兵が傾いたソファに腰掛けていた。

 

 

 

※※※※

 

 

 

「青子、どういうこと」

 

 しばらくしてようやく落ち着いた有珠は青子に詰め寄る。

一方の青子は目線をそらしながらあはは……と笑うことしかできなかった。

 

「いや、なんというか……書庫でなんだか見慣れない魔術体系の本を見つけて、ちょっと実験してみようかなー、なんてやってみたんだけど」

 

 ちょっとした興味本位だったと明るく言うが、有珠の糾弾は一層強くなっていく。

 

「あなた、自分がなにをしたのかわかっているの?」

 

「そりゃあ、私だってあの使い魔が只者だなんて思ってないって」

 

「使い魔どころじゃないわ。あれ、サーヴァントよ。過去の英霊。私のプロイなんかじゃ比べ物にならないくらいの代物。

 あれは聖杯戦争という大魔術の儀式によって生み出される奇跡。本来、聖杯戦争の際でしか召喚されないものなのだけれど」

 

 

 魔術師である以上、有珠も使い魔を持つ。彼女は自身のそれらをプロイキッシャーと呼ぶ。例外もあるが基本的に彼女の行動や詠唱に合わせて起動し、使役することのできる代物である。

 しかし、目の前にいるのはあまりにも規格外。

 人類史に刻まれた境界記録帯(ゴーストライナー)ーーまたの名を英霊(サーヴァント)

 彼らは、時に召喚した魔術師の実力を優に超える並外れた戦闘力を持ち、時に神代の魔法と呼ばれる部類の魔術を使う、人類史において偉大な偉業を成し遂げた英霊たちである。

 

 有珠は両手で青子の肩を掴むと、息のかかりそうな距離で一拍おいて問うた。

 

「どうやったの、青子」

 

 青子も有珠の真剣さが伝わったのか、誤魔化しなく真面目に答える。

 

「私は本当に本の通りにやっただけ。儀式に必要な物を用意して、文言を唱えた。正直、ちょっとした冗談のつもりで本気でやるつもりなんかなかった。でもまさか、こんなことになるなんて……」

 

 事態の重さを実感したのか青子は目線を下に向けて俯いた。有珠もそれ以上追求することができず、青子の肩を抱えたまま目線を落とす。

 

「話は終わったか。お嬢さん方?」

 

 赤い弓兵は混乱する二人を尻目に相変わらず眉一つ動かすことなく尋ねる。

 

 この状況でまず動いたのは有珠だった。

 

「こうなった以上、あなたにも聞いておきたいことが山ほどあるわ。サーヴァントなら現界する際に聖杯から最低限の知識は与えられている筈だから、大体の事情は察しているでしょう?」

 

 弓兵はふっ、と癇に障る笑い方をしながら肩をすくめる。

 

「生憎だが、私にもよくわかっていないのだ。わかることとしては、どうやらここには正式に聖杯と呼ばれるものはないらしいということぐらいだ」

 

「ふざけないで。何が目的かは知らないけれど、私を出し抜こうだなんて思わない方がいいわ」

 

「そう怒ることはない、そちらもこちらも双方とも何も知らないというならばお互いさまだろう。なんなら真名さえも思い出せない状態なのだよ、私は」

 

 嘘か真か読みきれない独特の曖昧な表情で弓兵は語る。どうやらこのサーヴァント、なかなかに食えない男のようだ。

 

「とても信じられないわね」

 

「信じないという者を信じさせる程のものは私は持っていないが、事実だ。正規の手順を踏まずに私を強引に召喚したそこの少女に原因があるのではないかね?」

 

 話を振られ、二人の会話についていけずにぼんやりと聞いていた青子は慌てる。

 

「わ、私!? いやなんでこっちの責任になってるのよ! 出ちゃったもんはしょうがないでしょ!」

 

 弓兵は片目を瞑りながら、意地を張る子どもに諭すように有珠に語りかける。

 

「だそうだ。彼女の言うことは的を射ていると思うが? サーヴァントが召喚された以上ここにはなんらかの意味はあるはずだ。出てしまった以上、ここは原因追求にひとまず様子をみるのが得策ではないだろうか?」

 

 悔しいがその提案は受け入れるしかなかった。何しろ、あまりにもわからないことが多すぎる。実際、青子ほどではないが有珠も聖杯戦争に関しては噂に聞いた程度で詳細は知らないのだ。

 一体聖杯戦争とは何なのか、聖杯戦争の行われていないこの美咲町でなぜサーヴァントが召喚されたのか。

 なんにせよ、調べるための時間は必要だった。

 

「仕方ないわ。今はあなたの提案に乗ってあげる」

 

 そう言うが、有珠は一瞬の隙も見逃さないぞと言うように弓兵を睨みつけて続ける。

 

「でも私はあなたを認めたわけではないのだから。妙な真似はしないことね」

 

「なあに。私はマスターに従うことしかできない、しがない無力なサーヴァントだよ。

幸いクラス名はわかっているのでね、アーチャーと呼んでくれて構わない」

 

 アーチャーは立ち上がると、「やれやれ警戒心の強い魔術師は苦労するな」と両手を上げながら二人のいる方向へ歩き出すのであった。

 

 

 

 





 真名のわからない赤い弓兵……一体何ミヤなんだ……。

 そんな訳で始まりました、Fate/WB。 ←タイトル略
 青子は凜の元になったキャラでもあるそうなので、今作では凜の召喚シーンを少し意識したつもりです。
 これから少しずつ話を進めてクスリとできるネタも絡めていくつもりですので、ご期待ください。
 一体何人の方が読んでくださるかわかりませんが、壁に話しかけるくらいの気持ちで少しずつ投稿していきたいと思います。
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