Fate/ Witch Of The Beginning   作:五櫛みとも

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 ひょっとしたら気付いてる方もいるかもしれませんが、あらすじを少し見やすい形に変更しました。未だに手探りで本当に申し訳ないです。
 今回は新規参加のサーヴァントの顔出しを兼ねた幕間です。



幕間 : 交錯する思惑
とある雪の日のこと/英霊召喚


※※※※

 

 

 荒々しく吹雪く雪が肌を叩きつける夜のこと。

 吐く息は凍りつき、身体の感覚はとうに失っていた。いたるところが凍傷のラインを超えて壊死しかかっている。

 それでも赤紫色の足を引き摺って歩いていく。痛みも苦しみもあったが、それもただ組み込まれた神経反応としてあっただけだ。

 そこに感傷はなく、白く厚い空を見上げ、ただ一歩一歩を踏みしめる。

 ぜんまい仕掛けの人形のように、自身の傷ついていく身体に構わずに前に進み続けた。

 

 一体いつまでそうして歩いていただろうか。

 次に知覚できたのは今の空のように重く白い雪の上だった。意識が朦朧として、自分が倒れていることに遅れて気付いたのだった。

 空と地面の、上下の見分けすらつかなくなっていたらしい。

 

 電池が切れるようにエネルギーが底をついて、当たり前のように動かなくなって死ぬ。

 誰にも見向きもされず見捨てられた機械と同じ。

 使えなくなったら捨てられ、人の目の届かないところで朽ちていく。ないことに困ったら、より高機能を備えた代わりを作ればいい。

 

 みるみるうちに雪に埋もれていく体。視界も遮られていき、自分の体も見えなくなった。

 このまま死を迎えるのだと、ぼんやりと頭に浮かんだ。

 振り返るほど上等な人生であったわけでもない

 死への恐怖も生への執着もなかった。

 看取る人がいなくとも、終わりなんて怖くはなかった。

 

 私は霜の付いた瞼をゆっくりと閉じる。

 そこで私の生涯の終わりを確信した。

 

 

 そう。本当だったらこのまま、私はあそこで死んでいるべきだったのだ。

 

 

※※※※

 

 

 アインツベルン・遠坂に続く著名な御三家の一つたる間桐が接触してきたのは、つい一週間ほど前のことだった。

 (さかき)綴里(つづり)白琵(しらび)敏隆(としたか)(かつて彼女と接触してきた時は蘇理浩(スー・リイハオ)という名であったのでおそらくはこれも偽名だろう)を通してそのことを知らされた。

 

 そこから彼らの間で一体如何なる取引があったのかは彼女は知らない。ただ理解できたのは、密談の末に間桐臓硯と呼ばれる老人が協力者として手を貸すのを約束したことと、自分が成す役目は今までと何一つ変わらないということであった。

 

 間桐臓硯の刻印虫によって人工令呪を彼女の体に埋め込むことには成功した。もともと素養があり魔力の質も符号していたので、驚くほど短期間で終わった。一度特別な神経のパスが開いた形となったことで刻印虫の助けもあまり必要がなくなり、最低限の虫のみが彼女の身体には流れている。

 

 綴里はそんな経緯で得た令呪を握りしめ、間桐の協力者を名乗る外部の魔術師を前に、忸怩(じくじ)たる思いで立ち(すく)んでいた。

 今はその男の工房に寄り、経過報告をしているところだった。普通ならば工房を訪ねても男は姿を現すことはなく、「情報は間桐を通して聞くから構わん」と追い返される。それでも一応、綴里は律儀にここに寄るようにしている。

 そういった事情で、この男と面と向かって会話するのは滅多になかった。あるとすれば問題が起きた時だけ。つまりは今、彼女は問題の責任追及をされている真っ只中だった。

 

「何故、あそこで詠唱を止めた」

 

 自身の研究に手をかけながら、間桐に雇われた魔術師の男は問いかける。

 通常は自身の研究を秘匿し見られることを良しとしない魔術師のことだ、おそらく見られても構わないような些末な作業をこなしている最中だろう。

 ちなみに彼の名前や正体はわからない。教えて貰えなかったし、教える必要もないといった具合だった。

 

「偽装結界が不完全だったせいで、厄介な鼠が呼び寄せられた。おかげでこちらはアサシンを差し向ける事態となった。こちらの所持サーヴァントを一つ明かすに至ってしまったのだ。

 そして一歩間違えれば、魔術協会や聖堂教会に探知される危険性も大いにあった。相応の言い訳はあるのだろうな」

 

 協力者という立ち位置にある男は眼鏡越しに冷たい視線を投げかける。冷静沈着で、見ようによっては冷酷無慈悲にも見えるその冷たい目に綴里は身を縮こませる。

 

「言い訳はありません。すべてこちらの不注意です」

 

 それを聞くと、男は作業する手を止める。

 

「不注意? 魔術を己の手段としてしか用いぬ魔術使いと言えど、仮にも一端(いっぱし)の魔術師の素養を持つお前が不注意で詠唱を途絶えることがあると? 欠陥品とはいえ才能を高く買ったつもりだったが、いささか買い被り過ぎだったか?」

 

 根源の渦たる真理を目指す❝魔術師❞と違い、己の欲求にのみ魔術を使う❝魔術使い❞というものをあまりよく思わない、男は典型的な❝魔術師❞であった。

 もっとも、魔術使い以前に男は綴里を人として換算していない。意思を持つ道具同然との認識であるため、彼女を責めるというよりも自分の計算が狂っていたのではないかと考えあぐねる。責めるべきは道具の使い途を誤った自分の方なのだという思考をする男だった。

 

「何か失敗に足る要因があったのか。それとも、私の指示が不適切だったか?」

 

「いえ。そんなことはありません」

 

「あるいは、結界に迷い込んだ人物が関わっているのか」

 

 綴里は息を呑む。図星を指され、顔が強張ってしまいそうになるのを必死に堪えた。幸い、こちらの様子には気付いてはいないようだった

 

「あの男もおそらく今回の戦いの関係者だ。

 横から入り込んできたあの厄介な死徒と同盟関係にあるかどうかは定かではない。しかしあの後サーヴァントと接触したのをこちらで確認した。

 いいか、今後は見つけ次第、早急に殺せ。不確定要素は少ないに越したことはない」

 

 胸が締め付けられる。

 彼は殺さなければいけないのだと、令呪を見られたあの時から本当は理解していた筈なのに。

 

「不服か?」

 

「……いいえ。今度こそは見つけ次第、必ず殺します」

 

 男は彼女のどこか要領を得ないような反応に少し苛立たしげに眼鏡を釣り上げる。こんなモノに怒っても仕方が無いと知っていても、失敗への不安と焦りが男を攻撃的な口調にさせる。

 

「お前が身の丈に合わないような、どんな主義思想を持とうと、どんな意見を振りかざそうと構わない。だが、自らに与えられた役目だけは忘れるな。❝ヘパイストスの炉❞は既に完成へ向けて動き始めている。今こうしている間も刻一刻と予定日は迫っている。魔導の果て、根源の渦への探求を志さぬお前とてこの意味は理解するところだろうと思うのだが」

 

「はい、十分に理解しています」 

 

「果たしてどうだかな。とにかく今更になって計画の変更はできん。予定通り、英霊召喚の儀は執り行え。例え扱う魔術が底辺の魔術使い(ども)同様の粗末さであろうと、その身体に貯蔵された小源(オド)だけでも価値はあるというもの。それとも立ち会いなしでは英霊召喚もできないか?」

 

「いいえ、大丈夫です」

 

 彼女は通常通り無表情で返すが、人の体を持つ彼女にも痛む心はあった。利用価値がないと思われることが、造り物の彼女にとって最も恐るべきことだった。

 

 何もかもが中途半端な期待外れの不良品。

 完成品に一つ紛れ込む仲間外れ。

 利用されるだけでもいい、贄とされるでも構わない。それが、自分が今この瞬間に存在を(ゆる)される理由になるのなら。

 自分は本来、存在していてはいけない存在だから。

 

「助けが必要ないなら私は工房に籠もる。こちらも忙しいのでな。死徒の調整をせねばならん」

 

「はい。わかりました」

 

 立ち去ろうとする綴里の後ろで独りごちる男の声が聞こえてきた。

 

「難儀だな。ホムンクルスという連中は」

 

 帰りざまに呟かれたその言葉を、綴里は聞こえないふりをした。

 

 

※※※※

 

 

 綴里はタブレット状に加工した薬を水と共に一錠飲み下し、次に専用の目薬を差す。

 それらの処方はこの不完全な身体を維持するための日課である。そしてその日課をこなす時が、彼女が自身を造り物であることを自覚する時間でもあった。

 

 焔色の眼がみるみるうちに黒くなっていくのを鏡で確認し、顔を鏡から少し引いたところで、自分の顔が戸惑いと不安の入り交じった表情になっていることに気付く。

 

 (静希くん……)

 

 綴里は静希草十郎という男に一種の憧れを持っていた。

 はじめ彼へ抱いたのは同情を込めた仲間意識。

 周りの一般社会に溶け込むことも出来ずに、異分子としてやってきた転校生の男の子。自分の言っている常識が通じず、周囲と常に摩擦を起こしている。彼を密かに目で追いながら、卑屈だった彼女は仲間外れは自分だけじゃないと安心できた。如何せん彼女は下を見る事で心の安寧を図れる人種であった。

 だが、いつしかそんな彼の側に蒼崎青子をよく見かけるようになった。不器用に、時に(つまず)きながらも適応していく草十郎に尊敬の念を抱きつつ、いつも側で文句を言いながら彼を導く青子に敵意を感じるようになった。この胸が掻き乱されるような感情の名を彼女は知らない。

 

 

 ぶるぶると頭を振る。

 余計なことは考えてはいけない。ここ最近学校というものに通って得た彼女の経験は、使命達成への阻害を起こしている。機会を狙い潜入してきたというのに、これでは本末転倒だ。しっかりせねばなるまい。

 

 装いを整えると広間に出る。広間には召喚陣が既に印されていた。既に召喚のためにシラビから託された準備物も揃っている。

 英霊召喚の儀は方法としては難しいものではない。ただ今回は、召喚されるサーヴァントへのいかなる指定も難しく予測がつけられない、という点のみ。

 

 一つ深呼吸をし、令呪の刻まれた腕を差し出す。

 

 

 「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」

 

 

 詠唱を始めると、魔力の波が身体中を駆け巡るのを感じる。

 令呪が込もった左手が熱を帯びてくる。

 

 

「四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 

 左手の包帯が解かれていく。手当てをしようと保健室まで連れて行ってくれた草十郎のことを思い出す。

 召喚に集中せねばなるまいに、彼女の頭の中では草十郎のことが渦巻いていた。

 

 

 「閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

 これから召喚しようとしているものは自分が戦うための武器。

 また、計画の邪魔立てをしてくる敵を排除するための道具。

 この召喚を成功させてしまえば、綴里は彼を直に殺すことになるだろう。

 

 

 「――――告げる。

  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

 心の何処かで失敗してしまえばいいのに、という邪念が顔を出すが、その考えを力任せに引っ込める。

 その選択をすることは彼女に許されない。

 むしろなぜ使命に逆らってでも彼に死んで欲しくないと願うのか。それは未だ彼女自身にも理解できない。

 

 

 「誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 

 この詠唱は彼女の覚悟を表す連なりだ。

 決して後戻りをしないという決意の表れである。

 

 

 そうして淡々と諳んじられる召喚詠唱が節を終えたところで、どこからか風が吹き荒び、光に包まれる。

 目を瞑り、その力の流れに思わず後ろに引き下がった彼女は、倒れそうになるのを後ろに手をついて支える。

 形成されていく実体を持った何かと彼女とでパスが繋がっていくのを感じる。

 

 

 

 

 風は止み、沈黙に包まれた数秒間。

 綴里は恐る恐る目を開ける。驚きに彼女の目は見開かれた。

 魔力を含んだ霧に包まれ、陣の真ん中には召喚に成功した英霊が立っていた。

 しかし陣の中心に立つサーヴァントは、あまりに彼女のサーヴァントとして不釣り合い。彼女がその姿を見て抱いたのは、成功による安堵より戸惑いだった。

 

「サーヴァント、バーサーカー。真名、ベオウルフ。

 召喚の求めに応じ参上した。で、殴りにいくのは一体どいつだ?」

 

 迷いの無い目に、自信に満ちた顔つき。加えて荒々しい語調。全身からは隠しきれない殺意が溢れている。

 あまりにも彼女と正反対。

 無意識に放たれた彼の威圧に、綴里は思わず腰を抜かしてしまう。

 

 例え英霊召喚において現れる英霊が確立されていない状態だとしても、いくら何でもこれはない。

 どこかで手順を間違えて別のマスターが召喚したものがここに召喚されてしまった、といってもおかしくない。むしろそう言われた方がしっくりくる。

 

「おいおい、いつまでもそんなとこ座り込んでどうした? 召喚者の嬢ちゃん。さっさと一緒に敵をぶっ飛ばしに行こうや」

 

 クラス・バーサーカーを名乗ったベオウルフは手を差し出す。しかし、差し伸べられた彼女の側は体が震えて動かない。屈強な体に、常に闘気を漲らせた佇まいに怯えてしまっていた。

 本来は彼女が睨みを利かせて従わせるべきだというのに、マスターとしての立場はまるでなくなっていた。

 

「ったく、しょうがねえな。ほれ」

 

 ベオウルフは頭を掻き毟った後、強引に彼女の腕を引っ張ると、ひょいと体を抱えあげる。狩られた獣の如く腹を下にして肩に乗せられる綴里は頭の処理が追いつけず混乱してしまう。

 

 綴里の認識としては、バーサーカーはなべて狂化がかかっており、意思疎通が困難であるのが常だと思っていた。しかし、どうも目の前の人物は理性を保っている珍しい部類の狂戦士らしい。

 

「お、おろしてください……!」

 

「あん? 何か言ったか?」

 

 綴里はせめてもの抵抗に背中を拳でポカポカと叩いて抗議を表明する。が、振り返った傷だらけの顔は、間近で見ると一層迫力を増していた。

 

「あ……えっと……」

 

 勇気を振り絞る。絶対命令権たる令呪はこちらにあるのだ。恐れることはないと自身を奮起させる。

 

「わ、私が貴方のマスターです。マスターである以上、どれだけ力に任せて威張ろうと貴方は私が従えます」

 

 なんとかマスターらしい威厳を込めて言ったつもりであったが、実際はモゴモゴと口籠り語尾は小さく掠れている。

 なされるがままの彼女が懸命に意地を張る姿に、ベオウルフは不敵にニヤリと笑う。

 

「ほお、そいつは立派な心掛けだな。で、何が言いたい?」

 

「今すぐ私を床に下ろしてください! もし、言うことを聞かなければ令呪を行使します!」

 

 あまりにも幼稚なハッタリだった。地位の上下を示そうとするに必死なさまは本当に子どものようだ。

 

「あー、わあったよ。こんなとこで令呪なんて使われたらたまらんからな」

 

 ベオウルフは面倒そうに肩の少女をドスンと床に落とした。勢いよく尻餅をついた綴里は、目の前に星が飛ぶような衝撃にお尻を押さえる。

 

「な、なんで落とすんですか!」

 

「お前が落とせ、つったんだろ」

 

「降ろしてください、と私は言ったんです!」

 

 お尻を抱えて涙目で訴える彼女の悲痛な叫びは、繊細さの欠片も持たないベオウルフの心に届くことはなかった。

 

「あー。これは随分と頼りない弱っちろそうな子どもがマスターになったもんだ。これから先が思いやられんなァ」

 

「それはこっちのセリフです!」

 

 豪快に笑うバーサーカーに、からかわれているとわかって怯えも忘れて怒る綴里。こうして今ここに二人の陣営が結成した。

 

 綴里がそのバーサーカーを冠するサーヴァントの破天荒な行動に頭を抱え四苦八苦することになるのは、また後々のことである。

 

 




 ようやくお決まりの英霊召喚シーンですよ!
 冷静に考えたら未だにまともなサーヴァント戦を一度もしてないって、物語としてどうなんだ……。まあ土壌が固まってきて、三日目以降は戦闘を盛り沢山にするつもりなんで……。
 それと一応、❝ヘパイストスの炉❞は今作オリジナル設定ですので他で鼻高々に言うと恥をかきますので注意。いや、しかしそれがきっかけで「お前知らないの!?実はこんなのがーー」といった展開で宣伝になるのなら……!ないですね、ないない。
 それでは今回も読んでくださりありがとうございました。
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