Fate/ Witch Of The Beginning 作:五櫛みとも
投稿をかなり空けてしまい申し訳ない限り…。とりあえずここが幕間の終わりと同時に、一応序盤の区切りのつもりです。12話を区切りとしたかったのです。
今回少し堅い会話が多め。そして風呂敷どんどん広げてるけど大丈夫ですかね?(という自問自答)
白琵という男の知る現実の戦地に英雄はいなかった。
戦場でいつも感じていたのは、砂と血の臭いと、銃声と悲痛の音。皆がいやだいやだと怯え、やがて思考を停止し、敵を殺して回る。
中にはカリスマ性を発揮し先頭に立つ者もいた。皆を率い、指揮をとる、誇らしさを誇示するリーダー格。常にどっしりと構えていて、外から見る人々から立派だと持て囃される。あるいは彼らが英雄と呼ばれるものなのかとも考えた。
しかし彼はそういった人物達の瞳の奥に、いつも狂人の気を見てとるのだ。
他人を踏み
あれではまるで英霊という夢に取り憑かれたゾンビだ。
現実離れした英霊に憧れ、人間としての尊厳を失った骸たち。自身を英雄だと思い込んだ偽物達は、醜く互いに殺し合う。
そして彼は悟った。英雄とは過去の遺物でしかない。偉人はみな死んだ後に功績が讃えられ、祀り上げられる。生きてる者に真の英雄などおらず、本人がこの世を去ってようやく英霊となれる。その死の瞬間まではどんな人間も、凡百で矮小な人の群れの一人でしかないのだと。
※※※※
白琵は冷たい壁に四方を囲まれた狭い石室の中で目を覚ます。最低限の魔術回路回復用呪具3つほどに床に敷かれた魔法陣、そしてそれらをゆらゆらとたゆたう明かりで照らしている火のついたランプ、他には何もないシンプルな部屋。殺風景な部屋の中で唯一の特徴として、魔力効率をより高めるための暗示を兼ねて天井には幾人かの天使のような絵が描かれている。
彼は少し昔のことを夢に見ていた。疲労していた体の回復に少しばかり休息をとろうと壁にもたれながら座っていたが、そのまま寝てしまっていたようだ。体を起こそうとすると、間桐臓硯が地上へ続く階段の陰からこちらを見下ろしていることに気付く。
❝うなされておったの❞
「目を覚ましてすぐ、しわがれた老人の顔が近くにあるのは一層最悪だな。まったくもって今日は不運だ」
冗談の一つでも飛ばしてみるが、臓硯はクスリともしない。
❝体は未だ整わぬか。人の身では負担は多かろう❞
「いいや。この痛みにもだいぶ慣れてきた。それにこの痛みは私が抱えるべき重みだ」
白琵は手を何度か開いたり閉じたりしてみる。自身の内側を破壊する痛みもさほど気にならなくなっていた。体の調整は大部分が済んだらしい。膨大な魔力を体内へと注ぎ込まれた時は、神経内に溶かされた鉄を流し込まれるが如き焼け付く激痛にどうなることかとも思ったが、今は安定している。
「それより、
❝思惑通り動いておる。しいて言うならば、問題は内ではなく外だの❞
白琵も今回の件で敵は把握している。
青崎青子、久遠寺有珠、静希草十郎。この三人が同じ家で生活していることは、学校に教師として潜入している彼は当然のことながら知っている。うち彼が接触したことがあるのは二人。久遠寺有珠は他の学校の生徒のため接触できる機会はなかった。
彼女らをどう扱うか、それが問題である筈であるのだが、実のところ彼に心配するところはない。白琵は彼女らをもともと利用する算段を持っていた。
この展開は彼の期待通りのものであった。それを臓硯は知る由もない。
❝ところで『ヘパイストスの炉』の様子はどうだ❞
「順調だ。観測された数値は規定値を超えている。予想以上の出来となっているようだ」
❝ふむ。多少の邪魔はあるが舞台と役者は揃った、という訳かの❞
本当は邪魔などいない。全てが彼の計画した台本通りに事が進んでいる。無論、決してそのことを口に出すことはないのだが。
「炉に火は放たれた。次に必要なのは、篝火の勢いを増す燃焼剤だ。後は予定通りに大事なく事が進むのを祈るばかりだ」
それを聞くと、臓硯は満足げに口を歪ませて笑う。
❝今回をもって儂の悲願は成就されるであろう。此度の聖杯戦争こそはーーいや、今回は聖杯戦争ではなかったか❞
「ああ。これが成功すれば、聖杯戦争の歴史は塗り替えられる」
❝古来より続いてきた聖杯戦争は決着することなく終わると言うか。カカーー。聖杯であれヘパイストスであれ、儂は物がどうであろうと構わぬ。願望を叶えられさえすれば、どうでもよい。目的の為ならば、聖杯が消えることも能わぬ。聖杯戦争の歴史が途絶えようともな❞
臓硯は先に待ち受けるであろう願いの成就にくつくつと嗤うが、白琵は冷たく遮るようにーー
「『人間が歴史を学んで分かることは、人間は歴史から何も学ばないということだけだ』」
❝なんと?❞
「哲学者ヘーゲルの著作からの引用だよ。人はどれだけ歴史を重ねても同じ間違いを平気で犯す。何度繰り返しても、人の本質は決して変わりはしない」
白琵の考えに対し、臓硯は考え込むように顎をさする。
❝ふむ。確かに、人は歴史の上で過ちを犯し続けることで進んできた生き物とも言えるかもしれん。
これまで聖杯戦争も多くの過ちの下にあった。その証拠に、三回と繰り広げられてきた聖杯戦争を経ても、誰一人として未だに聖杯を手にした者はいない❞
「終わらない聖杯戦争。それは、終わりなく闘争へと駆り立てる、といった人という種の遺伝子に
❝
「人間が自身を特別扱いし過ぎたのだ。彼らは自分達が全ての生物の頂点なのだと錯覚を起こした。この身は常に高潔にあるのだと、自らの悪に目を逸していることにも気付かないフリをして」
白琵は拳を握りしめる。爪が食い込み皮膚を裂いて血を流さんばかりに強く力が入れられている。
「その愚かさが巡り巡って大きな間違いを生む。人の身勝手な理不尽さが、増幅に増幅を重ねて巨悪をなす。臓硯、君は変化を拒み己を正当化し続ける人間は愚かだと思うか」
❝その問は儂に訊く以前に、答えがおぬしの中で既に出ているのではないか❞
臓硯は、その議論は無意味だと言わんばかりにきっぱりとその問を退ける。
❝この戦いに参加する以上、ぬしにも思うところはあるのだろう。しかし、それは儂には関係のない話だ。同意もしなければ、口を挟む義理もない。ぬしとて横から儂に介入される事態は避けたいだろう。各々が願いを叶えるために動く、そのために儂らは手を組んだのだ。思想を共にして傷を舐めあい同情し合うためではない❞
「…そうだな、君の言う通りだ。このような問答に意味はなかったな」
❝お主のたまに出る思想問答は面白くはあるが、ちと話を脱線させてしまいがちなのが玉に瑕だな❞
「すまないな。どうも説教臭い教師としての態度が抜けきらないのだ」
白琵は
「さて、もう時間も遅い。私は自室に戻って寝直すことにしよう。明日は忙しくなりそうだから、しっかりと休息がとりたい」
❝そうか。では儂もここらで退散するとしよう❞
「ああ。お互い、よい夢を見たいものだ」
最後の白琵の言葉を聞くより早く、臓硯はガサガサと不快な音を立てながら階段の陰から霧散するように姿を消した。
臓硯がこの場からいなくなるのを確認すると、彼は独りごちる。
「先程の引用は、君に向けて言ったつもりなのだがな、臓硯」
何度失敗しても己の願望を成就させようとする哀れな老人。あの老人はヘパイストスの炉を聖杯の代替品だと捉えているようであったが、実際は違う。
白琵には、臓硯などには理解できえない目的があった。それは本来、聖杯であろうとなし得ない奇跡。浅ましい願望を塗り潰すほどに、偉大なる変革を宿す力。
これは聖杯戦争ではない。聖杯を求める者は不要。実現するは個人の願望に留まらず、世界全てを変革させる力。
「ふふっ」
男は右手で頭を押さえると、顔を上げて眼を天井の
光り輝く太陽の下でラッパを吹く天使たち。ヨハネの黙示録の一節を表したものだろう。実にありきたりなモチーフで、それでいて誰の目にも一目でその神々しさのわかる絵だ。石室に閉じ籠もっている彼であるが、その眼には溢れんばかりの宙に浮かぶ祝福の光が確かに映っていた。
「ははっ。はははははは!!」
どうも笑いが押さえきれない。
(あるべき人の理想が目前と迫っている高揚感がこれ程のものとは!)
彼の眼は人類の辿るべき軌跡を映している。
人を正しき道へと導く。
その使命のためならば、どんな犠牲でも払おう。積み重ねられた死体は、新時代を生きる者の糧となる。その手練を悪だと言うならばいくらでも罵るがいい。そう彼は笑う。
だがいくら責め立てようとも誰一人として彼を止められなどしないのだろう。変えられないその事実こそが、未来を連ねていくであろう今の人類の
彼は天井の絵に手をかざす。ランプの微かな明かりに薄ぼんやりと照らされた天使たちはこちらを見ながら手を伸ばし、彼の存在を祝福しているようにも見えた。
「なあ、ギャラハッド。お前にこの
静謐に包まれた石室の中で一人、声をあげる。発した声は辺りに反響して、幾重にも重なって鳴り響く。彼一人を残して、この空間には誰もいない。
ヘパイストスの炉は、既に輪転を始めた。
空を行き交う星達は巡る。
幾つもの星々は各々の目標へと向かい多種多様な筋を描きながら、やがて一つの結末へと収束していく。
結末を迎えたが最後、それらは炉の中で新たなより輝かしい星へと生まれ変わる。
その日はもう目前へと近づいていた。
今回、一応今作テーマとしていたまほよとfgoを繋ぐifの話を象徴とする話でした。(オリジナルストーリーで型月キャラごった煮にしてる面はある)
何なのこいつらなにがしたいのかよくわかんねえって気持ちがいっぱいだと思うでしょうが、このまま引き続きこの物語の行く末を見守っていただけたら幸いです。もちろん間違い指摘や批判も勉強になりますのでお待ちしております。
とまあ、せっかくの区切りだからと真面目なこと言ってますが、気軽に片手間で読んで「まー暇つぶしには悪くないんじゃない?」とでも思っていただければ嬉しいな、と考えるほど作者は単純な人間だったりする。