Fate/ Witch Of The Beginning   作:五櫛みとも

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 ようやく三日目突入。二日目までに話を詰め込んだのと投稿の遅さが全て原因なんだ…。
 作戦会議と久々のメインキャラ三人組のちょっとした日常回。



3日目 衝突
ブランチと今後の方針


 

 時刻は午後1時。いわば昼食時。

 昨日の疲れが溜まっていたせいか、珍しく久遠寺邸の三人は揃って寝坊していた。しかしおかげで今は三人とも疲労がすっかりなくなっている。積もる話はあるが作戦会議を立てるのは明日にしよう、と言って就寝した判断は正しかったのかもしれない。

 

 そして今、青子の目の前には空っぽの胃を刺激し食欲を増進させる料理の品々が並んでいた。豆腐とわかめの味噌汁、大根と鶏肉の煮物、揚げたてのコロッケ、レタスを中心とした野菜に揚げた玉ねぎをふりかけたシーザーサラダ、そしてほかほかのご飯。おふくろの味とでも形容できそうな家庭料理の数々。一人一つご丁寧にランチョンマットまで敷かれている。

 

 この家ではとても見慣れない一品達に唖然とする。青子の横に草十郎が座るといただきますと手を合わせた。

 

「ねえ」

 

 箸を構えて揚げたてのコロッケを掴もうとする草十郎の腕を取る。

 

「昨日はお腹減ってたし気にせずがっついてたんだけど。やっぱり昨日からあれの態度、ずっと違和感があると思わない?」

 

「あれって何だ?」

 

 青子はキッチンのアーチャーの方へ視線を向けて顎をしゃくる。草十郎は少し逡巡するが、やがて趣旨を理解するとポンと手を叩く。

 

「ああ言われてみれば、確かに。食事当番表を作り直さないといけないな。昨日今日とアーチャーさんに作ってもらいっぱなしだ」

 

「いや、そうじゃなくて」

 

 青子は呆れてガクリとバランスを崩す。駄目だ、この男は。

 話の通ずるであろう有珠へと視線を向けると、彼女は静かに味噌汁を啜っている。一応彼女もアーチャーが馴染みすぎることは反対派だった筈である。

 

「有珠。あなたはどう思う?」

 

 先に食事していた有珠は、こくりと口に含んだ味噌汁を飲み終えると静かに碗を置いた。

 

「どう、というのは?」

 

「なんだろう、調子崩すというか…気持ち悪いっていうか…。ほら、初め会った時はアイツって刺々しい印象だったじゃない?」

 

「彼の皮肉屋な態度はそんなに変わってないように思えるけど」

 

「いやまあそうなんだけど。冷静に考えたら、あいつ真名もわかってないし。得体の知れない怪しい奴なのよ? なのにいつの間に馴染んでるし。有珠もなんか嫌って気持ちはわかるわよね?」

 

 しかし、有珠から返ってきたのは意外な言葉だった。

 

「別に。好き嫌いの感情的な問題は置いておいて、ここにいるのはもういいんじゃないかしら。出前を取るより食費も安く浮いてそれなりの味の料理も出せるんなら、雇った家政婦代わりだとでも考えればいいでしょう。妙な行動を起こせば痛い目にあうと、彼には脅しをかけて口酸っぱく言っておいたし。

 真名に関しては本人が知らないと言い張っていることをいつまでも追求し続けても仕方がないことでしょうし」

 

 青子は驚く。あれだけ部外者に拒否反応を起こしていた有珠がこうもあっさりと陥落するとは。あの他者への警戒心が異様に強い有珠を何がここまで変えたのか。

 青子は食卓に並べられた温かい家庭料理の品々を見る。

 

「やっぱり胃袋か。人間、胃袋を掴んだもん勝ちなのか…!」

 

「別に、一度ここにいるのを認めたことに対していつまでも固執してうるさく言うのが気に入らないだけなのだけれど…」

 

 青子は有珠の言葉も聞かずにぐむむ、と歯を食いしばる。

 私も料理の勉強しようかしら、と青子がボソボソと呟いていると、

 

「料理を教えてほしいなら、教えてやらんでもないが?」

 

 と突如横から現れたアーチャーがテーブルの上に取り皿を置いていく。咄嗟に、

 

「け、結構よ! 私だって本気出せばこのくらいの料理の一つ二つくらいちょちょいのちょいだっての!」

 

 とあからさまな威嚇混じりの虚勢。こんな鼻につくキザ男に料理の腕が劣っているなどと認められなかった。何より女として負けられなかった。

 アーチャーは「そうか。君があまりにも料理系統に不得手なように見えたので、別にそれぐらいはしてやってもいいだろうと思ったのだが」と言いながらキッチンへ戻っていく。どこまでもキザな男だった。

 

「ねえ。逆に、あなたはどうしてそんなに突っかかるの?」

 

「うーん、なんて言えばいいんだろう。人をあまり大切に思ってないような態度取ってる癖に、人に奉仕してる行動をとってるところ?ああいうのはなんか気に入らないのよね。私としてはもっと自分に正直に行動していた方が好きっていうか」

 

「あなたの異性の好みの話…?」

 

「違うって!」

 

 最初の印象の違いからか。初めから全く非協力的ならいっそ清々しいのだが、完全に他人行儀なままになりきれていない感じがどうも青子としては引っ掛かってならなかった。しかしそう考えると、やはり単純な好き嫌いの問題なのだろうか。

 

「そういえば料理だけじゃなくわりと家事も得意そうだったな、アーチャーさん」

 

「そうなのかしら?」

 

「うん。玄関の辺りとか綺麗に掃除されてたの有珠は気が付かなかったか? あれやったの、アーチャーさんだよね」

 

「……汚れがあまりにも目に余っただけだ。私も所詮は使い魔(サーヴァント)だ。使用人同様、せいぜい雑用や汚れ仕事がお似合いなのかもしれないな」

 

 いつかの英雄とは思えないほど、外から自身を卑下的に見下ろす英霊。照れ隠しと取るにはどこか哀しげで、ひどく自嘲的に見えた。

 だがそれはそれとして、家の些事(さじ)に全く気が付いていなかった青子は立つ瀬がない。男勢よりも自分が鈍感だと言われているみたいで少し腹が立つ。

 

「駄目だ、やっぱりアイツは気に入らない。というかここまで家の事に手出されたら、私の立場も危うくなってくる気がする」

 

「どうして青子が気にするの? 別にあなたは家事をこなす家政婦や主婦を目指しているわけじゃないでしょう?」

 

「これでも女としてのプライドってのがあるのよ! 魔術一辺倒のあなたにはわからないでしょうけど、女には時に負けられない戦いってものがあるの!」

 

「ふうん。難儀なものね」

 

 特に気にするでもなく、有珠はサラダのミニトマトを口に入れる。すっかり慣れた草十郎も食事を楽しんでいる模様。

 

「私だってできるってところを見せて、どこかしらの機会でいつかぎゃふんと言わせてやる。あまりなめられても困るもの」

 

 アーチャーへの青子による宣戦布告。対抗心をぶつけられている当の本人は流しで調理器具を洗いながら、やれやれと渋い顔をするほかなかった。

 

 

※※※※

 

 

 平和な昼食の団欒を終えると、四人の作戦会議が開かれた。

 グール達の謎の集団発生、突如現れた死徒、さらには闇に紛れて現れたサーヴァント。昨日の草十郎の出くわした出来事は、普段冷静な有珠でさえ驚きを隠せない耳を疑うものだった。

 

 そこで問題となったのは敵の狙いだった。草十郎を助けた死徒カリー・ド・マルシェなる奇人は人を探しているとのことで理由がわからずとも目的は明確だったが、グールとサーヴァントを影で操っているであろう人物の目的は未だ不明。

 しかし、この街で何か恐ろしいことが起ころうとしているということだけは明白なのは確かだった。

 

「教会に行くべきね。これだけ魔術師世界のタブーが多く侵されている中、あそこが事情を把握していない筈が無い。この街で一体何が起きているのか、聞けるかもしれない」

 

「静希君の襲われた現場にも行っておきたいわね。何らかの痕跡が残ってるかもしれない。早く行っておかないと向こうに証拠を消される可能性もある」

 

「そうね。二手に分かれて調査するのがよさそう」

 

 バックで何かしらの陰謀が進行しているならば、時間は無駄にはできない。戦力を分割するリスクは大きいが、相手の準備が整う前に動くべきだと判断する。

 

「じゃあ、とりあえず有栖と草十郎は教会へ。アーチャーと私は現場へ行くっていうのでどう?」

 

「ええ。場合によっては静希君を教会に預けることになるかもしれないものね。一応のところ静希君が非魔術師であることは向こうも承知の上だし、保護してもらえるかもしれない」

 

「ちょっと待ってくれ。俺は留守番なのか?」

 

 草十郎はどことなく不満げで納得できない様子である。女の子を戦場へ放っておいて自分だけ安置でぬくぬくとしているのは男としてあまりいい気分じゃなかった。

 

「しょうがないでしょ。そもそも本来、私達とあなたは住む世界が違うの。リスクを鑑みれば、然るべき区別は必要よ。いい? あんたはおとなしく待ってなさい」

 

 少し不満そうな態度でいる草十郎を青子はバッサリと切り捨てる。厳しくもどこか思い遣りに溢れた、子どもに念入りに説き伏せるような口ぶり。それは否定に口を挟むことも許されないような強制感を持っていた。

 

「親の帰りまで待機させられる子どもの気分だ。経験はないけど、幼稚園の待機児童ってこんな気持ちなんだろう…」

 

「実際お荷物だし。いつ昨日みたいに襲われるか、わかったもんじゃないでしょ」

 

 次はなかなかにキツい一言。しかし草十郎も言い返せない。事実、昨日の彼はカリー・ド・マルシェなる奇人の助けがなければ死んでいただろう。

 

 「どうせ俺は一般人さ」と寂しげに呟く草十郎。しかし青子と有珠から見れば、あなたみたいな一般人がいるか!と言いたいところではあった。事実、彼女らは魔術も使えない普通の人間である草十郎に何度か窮地を助けられていた。

 

 本当に不思議であるのだが、魔術の素養もなく非力である筈の草十郎のポテンシャルには、比較的化物レベルの強さを誇る二人をも圧倒させうるものがある。

 無茶なことでも首を突っ込み、自身の体がどうなろうと関係なしに彼は助けようとするだろう。

 だからこそ、彼女らは今回の件こそは草十郎には関わらせたくなかった。お荷物だ、などと言って誤魔化してはいるが、実際はただ彼を危ない目に巻き込みたくなかったのが本音だった。

 

 そもそも人として生き方が無茶苦茶なのだ。自然の摂理(ルール)に身を置くようでいて、それでいて決して曲げない志が芯にある。

 意志と自然。その相反する二つが共に内で共存し合っている不安定さ。環境に合わせてあらゆる物事を柔軟に吸収していくが、同時に強い自己保身の欲求がないから行動に限度としてのストッパーがない。

 

 そんなブレーキを失った行動を繰り返していたら、きっとそう遠くないうちに体がついていかずに破滅し死に至る。

 自然と社会は違う。

 皆が環境に適して自然のルールに流されるままに従って生きてはいない。定められた共同体の規則の中でどうやって抜け道を探して、どれだけ欲を満たし我を拡大させていくかが人間社会で成り上がるコツだ。

 草十郎のような動物じみた適応は今の人間社会に合わない。

 

 彼女らの草十郎を関わらせないという決断は、彼への思い遣りからくるものである。

 そんな彼女らの思いを想像できるはずもない草十郎は、口を尖らせている。しばらくそうしていたのだったが、彼女らの強引な説得により不服ではあるがしょうがないとやがて彼も折れた。

 

「わかった。だけど条件がある。俺が教会でおとなしく待っているのは、二人の何の助けにもならないって判断した時だけだ。二人が危なくなりそうだったら俺は無視して行く」

 

「OK。それでいいわ」

 

 約束にしてはお粗末だった。一度教会に預けられれば外の様子なんかわかるはずもない。そのまま何があっても草十郎に悟らせないようにしていれば万事解決。もう草十郎が危ない目に遭うことにはならない。

 これは魔術師同士の争いなのだ。これ以上無関係の彼は巻き込めない。

 

「これで、次の行動は決まったか」

 

 アーチャーが言うと、三人が頷く。

 

「決まりだな。私は霊体化してついておくとしよう。君らの知り合いにでも姿を見られたら後々面倒になるだろう」

 

「そうね。ありがとう」

 

「青子、教会で情報を掴んだら私もそっちへ向かうわ。青子やアーチャーじゃ気付かないようなことも私なら見つけられる可能性はあるから」

 

「そうしてくれると助かる。ああそれと、有栖。一応教会にはこっちがサーヴァントを所持してるってことは聞かれない限り秘密にしておいた方がいいと思う。話すのはあくまで『サーヴァントが現れた』っていうことだけ。こちらのカードを全て見せる必要はないんだから」

 

「大丈夫。わかってるわ」

 

 外装を羽織り必要なものを持ち、各自は準備を終えた。

 家を出るところで、思い出したように有珠が声をかける。

 

「青子、最後に。

 わかってるとは思うけど、もし他マスターと会ったらサーヴァント戦になることは覚悟して」

 

 青子は頷く。

 

「それはこっちの台詞。有珠の方こそ気をつけて。こっちはアーチャーがいるけど、そっちは丸腰なんだから。危険を感じたらすぐに逃げてね」

 

 屋敷から木々に囲まれた坂を下りしばらく歩いた一同は、街に出る辺りで二手に分かれる。

 

 有珠と草十郎は教会へ、現状この街で何が起こっているのかの確認。青子とアーチャーは草十郎が襲われた現場へと敵の手掛かりを探しに行く。これでひとまずの方針は決定した。

 あとは道中でトラブルがないように祈ることのみであった。

 

 





 久々のメイン勢の日常でした。前と引き続きまた食事してる…。まあstay nightでも時折出てくる食事シーンが醍醐味の一つみたいなとこありますし。
 それではまた次回。
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