Fate/ Witch Of The Beginning   作:五櫛みとも

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 感想の他に誤字脱字の報告や、なかなかコアな質問もいただけるようになって、嬉しいと同時に冷や汗を流す日々を過ごしております。(いつかマニアック過ぎて答えられない質問来たらどうしよう…)
 更新に関しては作者が遅筆なのとここのところなかなか時間がとれなかったりで遅くなっていますが、エンディングまでのプロットは考えてあり必ず完結させるつもりですので、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
 さて本編としては以降、有珠側と青子側の二つの視点で同時進行的に進めていきます。



二つか三つか、はたまた四つか 〜side Alice①

 

 霧がかった外は肌寒く、道端の影になる部分には冬の残滓から未だ雪が残っていた。

 

 草十郎と有珠は狭い道路を二人並ぶようにして歩いている。道路の真ん中を歩いていても大丈夫なほど、ここらは車の通りが少ない。

 

 黒を基調とした服装の草十郎の横には、ファーの帽子に暖かめなコートと上下を黒づくめに身を包んだ有珠。服の好みが似てるのか、二人が並ぶと全体的に暗めで落ち着いた印象を与える。

 

 思えば、こうしてこの二人だけで外を歩くのは珍しかった。

 有珠は草十郎と通う学校が違うので登校で一緒になることもない。外に出かける用事がある時は大抵、青子と有珠のセットか、三人揃っての外出となる。

 

 こうして二人で歩いていると、普段家に居る時と比べて案外話題が湧かないものだった。

 

 もともと有珠自体、そんなに話す方じゃない。

 青子とも毎日楽しくお喋りするような仲でもなく、彼が来る前も必要最低限の会話のみで済ませていたような状況だったように彼女自身思う。赤の他人となればその無口ぶりは一層強くなる。

 そんな中で草十郎という存在は、いるだけで調子を崩すというか、思わず口を出したくなるような不思議な雰囲気を醸し出しているところがあった。

 別にそれで有珠の心中の何が変わったわけでもない。ただ今は、草十郎の唐突な発言に受け答えをしたり口出しをする程度には彼との関わり合いに馴染んでいた。

 

「そういえば、前に水族館のチケットあげたことがあったよな」

 

 道路脇に設置されている、日に焼け古ぼけた掲示板のチラシ群を見かけ、草十郎が話しかける。

 

「実は今度はバイト先の服屋さんの店長が動物園のチケットを余してるらしいんだ」

 

「……いつも思うのだけれど、静希君は一体いくつバイトをしているの」

 

 世間話程度の他愛ない小さな疑問だが、なんとなく気になって聞いてみる。

 すると草十郎は指を折って、ひいふうみいと数え始めた。

 

「色々だな。うん、本当に色々だ。家賃分が減らない限りきっとバイトも減ることはないだろうな」

 

 草十郎なりの不満を言ってみるが、有珠はどこ吹く風と受け流している。

 値下げ交渉に失敗した草十郎は一つ深い溜息を吐いた。家主の粋な計らいによって家賃代が下がるということは到底無さそうだ。この話題に関してはどれだけ続けても家賃の値下げに繋がらないだろう。

 

「それでチケットの話だけど、もし貰えたら今度また渡すよ。二つくらい余してるらしいから楽しんできてくれ」

 

「二つなの?」

 

「うん、二つだって。前みたいにまた二人で行けばいいんじゃないかな」

 

 有珠はどこか浮かなげな顔で、ともすると非難するような顔で草十郎に視線を投げかける。その曖昧な表情に反応に草十郎は戸惑う。何か言いたげにも見えるが、有珠が何を言いたいのかがさっぱりわからない。

 

「買えばいいでしょ」

 

「ん?」

 

「別に。追加でもう一つぐらい新しく買っても罰は当たらないんじゃない、って言いたかったの」

 

「罰は当たらないかもしれないけどお金は減るんじゃないか?」

 

 この鈍さは金賞ものだ。

 迂遠(うえん)な言い回しは彼には通じないのだと有珠はいたく痛感させられた。

 

「静希君は来ないの、と言っているのよ。たまには静希君がいてもいいんじゃないかと思ったから。高校生一人分の入園料くらいなら大したことじゃないでしょう」

 

 頑なに家賃を下げない大家の立場としてその発言はどうかとも思ったが、確かに草十郎も動物園というのには興味があった。

 

「そうだな、確かにワニとかは見てみたいかな」

 

 友人の木乃実に借りた動物のビデオを思い出す。彼が故郷の森で見たことのない動物である。日本の森にワニなどいたら世間で大騒ぎになるだろうから当たり前のことではあるのだが。

 

「せっかくの動物園だもの。珍獣同士が鉢合わせになるとどんな反応が起こるかも見てみたいわ」

 

「今の言い方、悪意を感じるぞ」

 

「悪意なんて一欠片もないのだけれど。むしろあるのは好奇心かしら」

 

 むう、と考え込む草十郎。これは馬鹿にされているのか、純粋に興味を抱かれているのか。どちらかの判別かは草十郎にとって難しい問題だった。

 

「そういえば、アーチャーさんはどうなんだろう」

 

 しばらく頭を悩ませていた彼の口から出てきたのは意外な名前だった。

 三人でなく四人として。草十郎の中ではアーチャーも既に自分達の仲間の一人として換算されているらしい。

 

「彼は……きっとこの戦いを終えれば消えるから」

 

 有珠にはそれが悲しいとも、そうでないとも言えない。

 この戦いの末に何が待ち受けているかはわからない。けれど、戦いの終わりにアーチャーが消えることはなんとなくわかった。もとより役目を終えたサーヴァントが現世から消えることははじめから定められている宿命である。

 

「……そうか。それは少し、淋しいな」

 

 たかだか三日ほど。彼と過ごした日々などその程度。

 青子の言うように、腹に一物を抱えている可能性は十分にあり油断は禁物である。もとより有珠は彼と馴れ合いをする気は毛頭ない。むしろ彼自身もそう望んでいるように思えた。

 

 どっちにせよ、きっとアーチャーは動物園なんて行きたがらないと思われた。どうしてか、子猫とかその辺の動物には好かれそうな気はするが。

 

 

 

 そんな話をしている中、急に有珠が立ち止まる。曲がり角にあるカーブミラーの一点を見つめると有珠の顔が緊張に引き締まった。

 

「基点ね。やはり仕掛けてあった」

 

「基点?」

 

「別の魔術師によって仕掛けられた結界を成すための基点。この様子だとまだいくつかあるわね」

 

 わざわざこちらの結界を事前に潰してきたのだ。向こうが新たな結界を張り直すことは予想できていた。

 

「それは壊した方がいいのか?」

 

「ええ。でも今すべきことではないわ。基点の一つを壊すということは相手に自分の位置を知らせるも同義。

 前も後ろもわからないまま敵に挑むよりは、情報を把握してから戦う方がいいでしょう? 結界の妨害と解除は後回しでいいわ」

 

 自分の領域を守る防波堤であり、取り除いた瞬間に仕掛けた場所から敵の位置が術者に伝わるセンサーでもあるわけだ。

 

「この辺りから敵の領域(テリトリー)に入っていくわ」

 

 有珠はそう呟くと、先程よりもさらに鋭く周囲に目を配りながら足を進めるテンポを早めていく。草十郎も早歩きで有珠を追いかける。

 

「ーーーー!」

 

 ある境目(ライン)を超えたところで平衡感覚がやや鈍り、足下の小さな段差に(つまず)いて有珠は前に転びそうになる。すんでのところで草十郎が腕を伸ばして、前に倒れ込もうとする体を支えた。

 

 草十郎が片腕で支えている黒衣の少女は驚くほど軽かった。

 肩に掴まった有珠は一度深く息を吐いて呼吸を整えると、すぐに何事もなかったかのように草十郎から手を離して立ち上がった。

 

「ごめんなさい。この結界は魔術回路に反応してるようだから、その辺りに敏感だとちょっと立ちくらみを起こすみたい。でももう大丈夫。少し目眩を起こしたけど、慣れてしまえばどうということはないわ」

 

 それを言い終えるか否か。草十郎は手を差し出していた。

 有珠は伸ばされた手を物珍しげにしげしげと見る。自分に向かって伸ばされる手の意味を計りかねて、有珠は目を丸くしている。

 

「またさっきみたいになったら危ない」

 

 そう言うと草十郎は再び、ずいっと手を押し出して近付ける。

 

 手を繋ぐのは合理的だ。さっきも草十郎の体に掴まったわけだから手を繋ぐくらいどうということはない。

 

「それとも本当にもう大丈夫なのか? それならいいんだけど」

 

 いつまで手を取ろうとしない有珠を見て、草十郎は手を下げる。しかし咄嗟に、有珠は引っ込められようとする手を掴んだ。

 押して駄目なら引いてみろ、そんな言葉が有珠自身の頭に思い浮かぶ。まんまと策略に引っかかったような気がして、少し腹立たしくも恥ずかしい気持ちになる。

 だが天然の草十郎がそこまで計算高くはないであろうと思い至り、有珠は落ち着いてかぶりをふった。

 

「乙女の手を握るのだもの。淑女のエスコートぐらいはできなきゃ紳士として名折れよ」

 

「わからないけど、やってみるよ。それで、エスコートってのはなんだ?」

 

 そんな返しに呆れながらも、有珠は手を握った。

 そうして触れ合っていると、彼の体温が伝わってくる。有珠の冷えた手と対象的に彼の手はとても暖かい。その体温が上へ上へと伝わっていくように、有珠の頬も少しずつ熱くなっていく。有珠にとって手を握るという行為は、感覚共有として青子と神経同調させる場合のみ行われるものだった。だから、ただ物理的に支えられるだけに手を取り合うというのはいささか違和感がある。

 色々に思うところはあった。でも体を火照らせるその熱は今日のように寒さの残る日には丁度よかったので、有珠もとりあえず手は離さないでおいた。

 

「なあ、有珠」

 

「ーーなに?」

 

「なんか、変じゃないか」

 

 有珠の手を引きながら草十郎が聞く。

 

「別に、変じゃないわ。何も変わらずいつも通りだけど、なにかおかしいかしら?」

 

 あくまで静かに普段通りの平静を保ちつつ返す。確かに今も有珠はいつも通りの清楚な立ち振舞いで、普段と何ら変わることない態度をとっている。しかし草十郎が気になったのはそういったことではなかった。

 

「そうかな。人がここまでいないのはおかしくないか」

 

「人?」

 

「ここに来るまでに一度も人とすれ違ってない」

 

 結界内部にいないのは当然として、思えば確かに今まで歩いていて人を見かけていない。ここらは商売をしている店も少なくそこまで人通りの激しい場所ではない。しかしそれにしたって休日の午後に人を一人も見かけないのはおかしかった。

 

 人の気配が感じられない。

 どれも人がいるのかいないのかわからないほどに静かである。

 周りの建物が全て人に打ち捨てられた廃墟のようである。

 先程まで浅く漂っていた霧が少し深くなっていく気がする。

 

 街がどうあろうと教会はもう目と鼻の先だ。教会にさえ着けば、これらの不可思議な現象も氷解する筈。

 しかし教会への道の途中には待ち伏せをしていたように一人の人影があった。

 

「普段の狂騒から離れた街というのは、ひどく落ち着く」

 

 人影は草十郎達に語りかけるように呟く。

 

「いやまったく、ここらは喧騒には似合わない。その事実は静寂を知り初めて気付くものだ。そう思わないか」

 

 突然の声に草十郎と有珠は思わず身構える。

 その声は草十郎には聞き覚えがある。目を凝らして見ると、立っていたのは草十郎と面識のある人物だった。白琵という草十郎の高校で教師をしている男だ。

 

「どうしてこんなところに?」

 

「なんだ、私が居てはいけなかったか?

 ……ああ、そうだな。君らの邪魔をしてしまったことは謝ろう」

 

 白琵は二人の繋がれた手を見る。

 有珠は未だ草十郎と繋がっている手に気付くとすぐに離した。

 

「一度、話をしておきたいと思ってね。このままでは、あまりにもそちらにフェアじゃあない。物事は公正平等であるべきなんだ」

 

 男は、左右不対象にも見える奇妙な表情で語りかける。

 

「悪いけど、あなたに付き合っている暇はないわ。先を急いでいるの」

 

 有珠は無視して通り過ぎようとするが、白琵は声をかけ引き留める。

 

「そう急がずともいい。どうせ教会に向かったところで、今となっては教会は機能していない。ここは一つ、ここで落ち着いて話をしようじゃないか」

 

 その言葉に有珠は足を止めた。そちらの行動は既にお見通しだとでも男はいいたげだ。

 

「どういうこと」

 

「この地の教会は既に占拠してある」

 

 一瞬、言葉を失う。教会に常駐している周瀬姉妹はまだしも、詠梨神父まで出し抜けるとは思えない。この辺りの教会関係者はそうやわじゃない。

 

「出鱈目を」

 

「果たして本当にそうか」

 

「仮にそうだとして教会が黙ってないでしょう。さすがに街の教会一つが連絡が途絶えさせたら聖堂教会の本部の方も気付く筈」

 

「ああ。あと五日もあれば、定期連絡のこないこの地に本部から幾人か調査官が送られてくるだろう。それらを抹殺するなり退けたとして、本部がこちらの調査に本格的に腰を上げるのは迅速に動いたとしてさらに二日ってところか」

 

「だったら」

 

「一週間も猶予があれば全て終わらせられる。いやあと三日足らずもあれば全ての準備は完了する。もう既にヘパイストスの完全覚醒の期限は近付いているのだから」

 

 一体何の話か。勝手に話を進められてもついていけない。

 自分達だけ蚊帳の外にされているような不快感に有珠は睨みをきかせる。

 

「そう恐い顔をするな。話をしに来たと言ったろう。私はそちらに選択の機会(チャンス)を与えに来た。そちらにとっても悪い話じゃない。受け答え次第では平和的解決が成しうる」

 

「話?」

 

 いつ何時襲ってきても対応できるようにと、有珠は既に臨戦態勢に入っている。しかしそれを気にするでもなく、男はリラックスした態度ですらすらと喋る。

 

「もし望むならこちらには君達を協力者として迎え入れる準備がある。我々がここで無理に戦う必要はない。同じマスター同士で手を取り合おうではないか」

 

「……なんですって?」

 

 身構えていたところに拍子抜けな言葉。耳を疑うその提案に思わず聞き返してしまう。

 

「戦わず、争わず、お互い助け合おうと言った。これが最善の手だ。

 これは聖杯戦争ではない。ゆえにサーヴァント同士で戦う必要性などどこにもありはしないのだから……」

 

 今この殺伐とした雰囲気と穏やかに笑みを浮かべる白琵のアンバランスさに背中に悪寒が走る。

 彼が一体何を考えているのか。その表情からは何も読み取れなかった。

 

 

「もちろん、断るというならばそれ相応の対応はさせてもらうがね」

 

 

 




 なんというか青春だね。ちょっと甘々にしすぎてしまったか。でも有珠もああ見えて少女趣味なところがあるっぽいし、まあこういうのもいいかなと。
 ちなみにこう見えて作者は青子派ですが、可愛さだけでいえば有珠に軍配が上がると思っています。でも誰がなんと言おうとその他諸々のトータルで見るならば青子がダントツ一番です。聞いてませんね、はい。
 それではまた次回。
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