Fate/ Witch Of The Beginning   作:五櫛みとも

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 fgoの二部二章が配信され、絶賛プレイ中の作者。
 それはそうと、本作では今回青子サイドのお話です。少し長めになってしまったかな。



合わない二人 ~side Aoko①

 

 

 青子とアーチャーが調査として食屍鬼(グール)やサーヴァントが現れたという場所へ向かうまでの道中のこと。霧がかった道を、アーチャーが前に青子が後ろで縦に並ぶように歩いていた。

 霊体化させてはいるが、マスターとなった青子にはアーチャーが前を歩いているという気配がわかる。どうやら青子の歩幅に合わせて歩いているようだ。そのさりげない紳士的気遣いはさておき、青子としてはずっと引っかかっているところがあった。

 

「ねえ。一つ聞いていい?」

 

 返事はない。霊体化して前を進むアーチャーは歩む足を止めはせず、無言で先を促しているようだった。

 

「もしかしてと思うんだけどーー」

 

 一迅の風が青子の長髪を揺らした。青子は髪を掻き上げながら言う。

 

「あなた、自分の正体にとっくに気付いてるんじゃないの?」

 

 彼は背中を向けたまま、こちらに首を動かそうともしない。どうしてそこまで細かい所作がわかったかというと、彼が霊体化を解いたからだ。幸い人が周囲にいる様子はない。ここからはしっかりと話をしていかなければならないと判断したようだ。

 そして彼は動揺するでもなく、静かに問うた。

 

「どうしてそう思う」

 

「昨日あなたが料理した時、包丁を使ってたでしょ」

 

「ああ。使ったが」

 

「でもね、キッチンに仕舞われていた包丁には使われた形跡がなかった。思えば、鍋なんかはすぐわかっただろうけど、包丁の置いてある場所は教えてないわよね?」

 

「……」

 

「それに、あまりに一瞬のことだったから気のせいかもしれないけれど、あなたが自分で包丁を取り出したように見えた。

 いえ。取り出したというより、その場で()()()()ように見えた」

 

 前を歩く男は答えない。だがその沈黙が彼のをそのまま答えを表していたように思えた。

 

記録(メモリー)から抽出したイメージを基礎構造から物体として編み込み、その場で模倣品を錬成する。普通は儀式での供物なんかにしか使われないような一風変わった、専門の使用術者が少ない魔術。

 実物を見たこともないし噂でしか聞いたことないけれど。あれ、()()()()よね」

 

 曲がり角に差し掛かり、前のアーチャーがブロック塀の向こうに体を滑り込ませるのを見ると、青子は足早に追いかける。

 

「自分の出生も知らずにあそこまで手慣れた手際で術を使うなんて、サーヴァントでもそうそう難しいと思うわ。魔術はまず自分の起源から五大要素のどの属性に属しているかを把握し、特性を知ることから始まるのだもの。魔術師としての基礎の基礎よ」

 

「……そのことは誰かに言ったか」

 

「いいえ。あなたがキッチンで調理している間、有珠は疲れて眠気にうとうとしていたみたいだったし。草十郎のやつは、まあ例え見えていても気付かないでしょうし」

 

 アーチャーはやれやれと溜息を吐く。真面目に聞いているというのにこの態度は調子を崩される。

 

「私も随分と間抜けな醜態を晒したものだ。平和ボケと言ったか、君らの呑気さに染まりきってしまったようだ。君らを見ていると、どうも腑抜けだった自分を思い出していけない」

 

 アーチャーはどこか今とは遠い場所を眺めるような目をしつつ自嘲する。

 

「アーチャー、私はあなたを責める気はないわ。

 ……ううん、やっぱ嘘。知っててずっと正体を隠し通してたなら正直かなりムカつく。

 けど自分の正体や過去を隠したいと思う気持ちはわからなくはない。私だって過去に大きな間違いを冒したことがある。どうしようもなく怖くて、決してしてはいけなかった間違いを」

 

 今は封印した過去の出来事。

 あの日から彼女の背後には常に赤い少女がつきまとっている。

 

「でも。それでも、あなたは英霊なんでしょう? 世界に認められた一人の英雄なんでしょう? それなら、どうしてそこまで真名を隠したがるの? マスターが未熟だから、とでも言いたいの?」

 

 彼は足を止める。しかしそれでもこちらを振り返ることはなかった。立ち止まった彼は静かに、そして厳かなトーンでゆっくり語り出した。

 

「もしもの話だ。私が()()()と呼ばれる者だったとしたら、果たして君はどう思う。それでも私を、恥のない人生を送ってきた曇りなき英雄ととるか」

 

 青子もこの戦いに挑む際に少しは勉強した。彼の言おうとしていることは理解できる。

 

 ーー反英雄。

 人類に悪をなし、その影によって人類を()()()者。

 人類を導き発展に貢献した者と正反対であり、人類に仇なすことで結果的に発展を促した者達。人々に恐れられ、憎まれることによって、人の歴史を動かした。英雄とは程遠い恐怖の象徴。

 

 彼がそうだとはとても思えなかった。

 だって、皮肉屋でいちいち言うことに棘はあるが、その実妙にお節介。それがこれまでの彼の印象である。

 

「あなたは、反英雄なの……?」

 

「もしもの話と言った。英霊と呼ばれるものが皆、武勇伝と栄華に飾られた生涯を送っているわけではないとだけ言いたかった。

 己が野望のために他人を陥れてきた、自らの正義のために無辜の人々を虐殺してきた、そういった連中も時に英雄として奉られることがあるものだ」

 

 そう言うと彼は堅く拳を握りしめる。

 

「……そして、自らの行為を悔い、過去の自分を憎むものも中にはいる。それだけの話だ。

 あいにく自分の過去を語り、周囲からの同意や同情を集める趣味もない。そんな浅はかな行為では決して癒えないものなのでな」

 

 青子は何も言えなかった。

 なぜなら青子は彼のことを知らない。

 どんな生涯を送ってきて、どんな選択を強いられてきて、どんな出来事から英霊となるに至ったのかも、彼女は知らない。

 

「私がこなすのはいつだって汚れ仕事だ。今回もその幾つもある仕事(タスク)の一つでしかない」

 

 言っていることは理解できる。それでも青子は許せなかった。

 たとえ無責任だと罵られようと、何も知らない癖にと非難されようと、ガツンとなにか言ってやりたかった。

 しかしあいにく、納得させるような言葉は何も思いつかない。自分の頭の回りの悪さに一層、苛々(いらいら)させられる。

 

 青子はどうして自分がここまで彼を好きになれないかがわかった。

 どこか諦観にも似た無常感。

 それはあまりにも自分の嫌う在り方であった。

 自分の信念を貫き通したなら、己の赴くままに前を向いて歩き続ける。それが青崎青子という人間である。

 

 この一連のやり取りを通して、やはり彼とは根本の性質から合わないのだと思い知らされた。

 

「さて、自身の契約したサーヴァントを信じるか信じないか。それは君の自由だ。

 なに、サーヴァントとマスター間での信頼関係などという腑抜けた精神論を持ち出す気はない。だが、そのサーヴァントの経歴から自分を裏切るかどうかを頭の隅に置いておくのは、悪いことではないかもしれないな」

 

 こちらを挑発するような言葉。

 もし彼の言う通りだとしたら、なぜ自分の不利になることを喋るのか。

 自分は決して裏切らないという証明のため?

 違う。彼はきっと、自分の行いを止められないのだ。

 本人も気付いていないだろうが、いつか自身をどこかで止めてくれる、変えてくれる者を待っている。穿った見方かもしれないが、青子にはそんな風に見えた。

 

「ねえ、アーチャー。あなたはーー」

 

 

 

 

 ーー瞬間、足元のコンクリートが弾け飛んだ。

 気が付くと青子の体は宙を舞っている。

 腹に当てられた鈍痛に顔を歪めるのは、空中へと体が放り出されていることに気付いた後のことだ。

 

「ーーーー!」

 

 アーチャーの声が遠い。体がスローモーションのように落ちていく。

 砕かれた地面の破片に混じりながらも彼女の目の端に映ったのは、地に拳を叩き込んだ人影。

 とても人間業とは思えない。……それもそうだ、襲ってきたのは決して人間ではないのだから。人の常識を超えた存在、アーチャー以外のサーヴァントを青子は初めて目にした。

 

「ぐっっ!!」

 

 横っ飛びに飛ばされた自分の体が地面に叩きつけられる。受け身も取り損ねて受けたエネルギーのままに体がごろごろと転がる。痛みに白く染まり混濁する意識。

 

(こんなところで、倒れたら駄目だ!)

 

 自分を励起させる強がりの言葉を足がかりにしてなんとか気絶を免れ、態勢を整える。

 地面に叩きつけられた体を右手で支えながら、なんとか起き上がらせた。たぶん内臓は破裂してはいない。肋骨が折れたかどうかはわからないが、すぐに自身の魔術刻印が治癒態勢に入るだろう。そうそう楽に死ねるような体でもないのだ。

 

「間一髪で重症はさけたか。

 死なせるつもりで拳を撃ってなかったとはいえ、いい反応だ。この程度の攻撃からマスターを守れないようじゃ、戦う気も起きねえからなァ!」

 

 もうもうと(けぶ)る土埃の中で英霊の男は吠える。

 死なせるつもりはなかったなど本当だろうか、少なくとも直撃していれば先程の一撃はただでは済まなかった。

 咄嗟の判断でアーチャーが青子を突き飛ばしたおかげでこの怪我で済んでいた。直撃していれば頭から腰に至るまで真っ二つになっていたかもしれない。

 

 隕石が降ってきたかのように一点を中心にして抉れた地面に、二人の人影が立つ。片方は白と黒で対になった双剣を手にした弓兵、もう片方は素手で彼と対面している褐色肌をした傷だらけな筋骨隆々の男。

 

「しっかりしろ! マスター!」

 

 青子に駆け寄ろうとするアーチャーを男は遮った。

 

手前(テメェ)の相手は俺だ。よそ見してる暇はないんじゃねえか?」

 

 直後、繰り出される重い一撃。咄嗟に二つの双剣で受け止める。

 剣を通して伝わる衝撃。遠くの青子にも伝わる風圧。

 驚くべきことにその一発で対になっている両方の剣にヒビが入った。

 

「うちの契約者が用あるのは、そっちの契約者だ。

 無粋な邪魔はしねえのが花だろ。それに、サーヴァントはサーヴァント同士で戦うのが基本ってもんだろうがよ!」

 

「くっ!」

 

 傷だらけの男はアーチャーの行く先を塞いでいる。青子のもとに行くのは不可能だと彼は判断した。

 

「敵マスターを探せ! マスターを叩けばこのサーヴァントの供給源を断てる!」

 

 アーチャーは目の前の敵を抑えるに手一杯である。

 

 青子はふらつきながらも、その場を離れる。このままだと二人の流れ弾に巻き込まれかねない。アーチャーの言う通りにしするのがいいだろうと青子も判断した。

 

 青子が離れると、そこには二人のサーヴァントが残された。

 

「賢明な判断だ。これで邪魔なくお互い殴り合えるってわけだ」

 

 相対するだけで肌が粟立つ威圧。

 目的の為に戦うのではなく、ただ戦うことが目的の敵。

 いかにも英雄然とした彼の苦手なタイプだ。

 

「さあ、こっからは面倒臭えしがらみなんざ忘れて互いに殺り合おうじゃねえか」

 

 呆れるほどの戦闘狂。

 アーチャーは先程よりも遥かに練度を上げて、夫婦剣を投影した。

 きっとこれの相手は骨が折れるとアーチャーは予感していた。

 

 

※※※※

 

 

 なんとか体は動く。内部で渦巻く魔術刻印が凄まじい勢いで傷を治療していくのがわかる。問題は治癒の際に、受けた負傷以上の激痛が伴うことだが、治るのならお安いご用。

 

 二人の攻撃が届かない範囲まで離れたことを確認した青子は、手近な壁に手を突く。荒々しげな呼吸を繰り返しながら、壁に背中を預けて腹を押さえた。

 突然の出来事に混乱し思考停止しそうな脳を、痛みで無理矢理覚醒させる。

 マスターの姿が見えない、何処かに隠れているのか。何かの機会を伺っているとすれば、早く見つけなければいけない。どうやら自分達は罠にかけられたようだということを思い知らされた。

 

「実力差はわかったでしょう。バーサーカーは決して誰にも負けない」

 

 頭蓋の内側で響くような声。無線のように周辺の結界の魔力を通してこっちに直接届けているようだ。

 向うからアクションを仕掛けてきたのは好都合。逆探知はできないが、敵方からの干渉があるなら足がかりくらいはつけられるかもしれない。

 

「降伏を推奨します。このまま戦ってもあなた達は勝てない」

 

 ご丁寧に降伏勧告を迫ってくる。命が惜しければ、というやつだろう。案の定グールがぞろぞろと建物の陰から現れた。草十郎の話通りだ。

 

「抵抗はしないのが得策です」

 

 体の痛みが和らいできた。完治とまではいかないだろうが、立って走れる程度にはなっただろう。

 スイッチを入れるようにして自身の内側の回路の電源を入れると、体内の魔術回路を起動させる。

 

「悪いけど。これでも負けず嫌いなのよね、私って!」

 

 回転するエンジン。練り込まれていく魔力。

 相手が数で勝負してくるならこっちは手順として最短の一工程(シングルアクション)魔弾(スナップ)で十分。詠唱をするほど工夫する必要はない。

 

 青子の右腕が一瞬だけ光を帯びる。

 光は収束し掌に集約すると、閃光(ストロボ)が放たれた。

 自身の身体を銃身として放たれる光の弾丸。

 青子の最も得意とする、シンプルでありながら圧倒的な破壊力を持つ魔術。自らの魔力をそのまま熱量に変換する方式のものだ。

 

 そうして放たれた光弾は着弾したグールを弾き飛ばした。

 少し威力が弱かったか、攻撃を受けたグール達はよろめきながらも立ち上がる。

 心配することはない、もともと牽制のつもりであった。最小限の魔力で倒せるならそれに越したことはないので威力を調整して出したのだ。おかげで、もう少しだけ気持ち強めに練り上げればグールを倒せることがわかった。

 

「あなたがどこにいるのかわからないけれども、自分のサーヴァントを倒されれば出てこざるを得ないでしょう!」

 

 サーヴァント相手にダメージを与えられるほどではないかもしれないが、こちらだって魔弾を牽制に使ってアーチャーのサポートぐらいはできる。グールを蹴散らしていきながらアーチャーのもとへ向かい、支援砲撃を行えば勝てる見込みはある。

 サーヴァントよりもマスターを先に潰すのが得策ではあるのだが、マスターが姿を現さないというのならばサーヴァントを危機に陥らせて強引にマスターを引きずり出す。そうして敵サーヴァントの様子を見ながらマスターの位置を探せばーー。

 

 そこで再びサーヴァントの戦いの場へ向かおうとしたところで突如横から飛び出してきた多くの人影に遮られた。青子の攻撃に対して彼らはそれを上回る集団による数で強引に止めに入ってきた。

 

「くっーー!!」

 

 一人のグールが青子に掴みかかる。それに続き、電灯に群がる羽虫のようにわらわらと青子を中心に集まってきた。

 不意な攻撃に青子は少し怯むが、落ち着いて対処する。

 

「このっ!!」

 

 青子は掴みかかってきたグールを振り払い、華麗な回し蹴りをお見舞いする。彼女とて格闘も心得ているのだ、接近戦にも死角はない。

 

「あとはこいつらを、まとめて吹っ飛ばしてやればーー」

 

 そこで手を構えた先、青子の目に映ったのはグールではなかった。視点が定まらず、生気は薄いが未だ生きている。

 グールではない。生きた一般人だった。

 

「なんでーー!?

 こいつら、全員がグールじゃないの……!?」

 

 放たれようとする魔弾を無理やり抑え込む。しかしその抑制が隙を生んだ。その隙を突いて周囲の本物のグール達が襲い掛かってきた。

 

「その中にはコントロールしているグールだけじゃなく洗脳済の一般人も含まれています。今から救出して洗脳を解いてやれば、あるいは彼らも助かるかもしれない。

 もしくは、もしあなたにその覚悟があるというならば、その強力な魔弾で罪の無い人ごとグールを殺して進んでいけばいい」

 

「卑怯な……! あんた誇りはないの!?」

 

「覚悟の違いと言ってください。それに誇りなんて、とうに私は捨てました。私にあるのは、ただあなたを打ち負かすことだけ」

 

 やむなく一般人を死なせない、気絶させる程度の威力で細かい魔弾を振りまく。しかし小さな力では当然のことながらグールを倒せない。せいぜいが怯ませる程度だ。こんなことを繰り返していたらきりがない。

 

「もし降伏を断るならば……ここで死ぬか、罪のない人々を殺していくか、そのどちらかをあなたは選ぶことになります」

 

 青子は血が滲むほど強く唇を噛む。

 はじめからこの勝負は仕組まれていた。決して勝てない方向へと誘導させられていた。

 

「バーサーカーもじきにあなたのサーヴァントを倒すことでしょう。仮に勝ったとしても、その時は貴方を殺す」

 

 姿の見えない敵は冷たく言い放つ。その言葉には確かな覚悟があった。

 

「もう一度言います。青崎青子さん、あなたはこの勝負に勝つことはできないし、逃げることも許されない。

 こちらには既に大量の人質がいます。あなたの決断が彼らの命運を握っている」

 

 相手がそう語る間も青子は必死に、意思を失った生者の入り混じる死者達の集団を退けていた。

 何度退けても、何度振り払っても、グールと洗脳された人間に囲まれる。手加減をしなければならないのが余計に体力を使う。

 

「理解できたならば大人しく降伏してください。でなければ、あなたの選択で大量の人が死ぬことになる」

 

 立ち回りながら、自分も舐められたものだと青子は小さく笑う。

 

「見くびってるようだけど、これでも私は一端の魔術師なのよ。一般人といえども、魔術の秘匿のもとに消せば済むこと。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いいえ。あなたには殺せない」

 

 まるで青子を知っているかのように断言するような口ぶり。

 

「あなたには、きっと殺せません。それが私の知る青崎青子という人間だから」

 

 





 今回は二人の生き方の違いの対比を少し書いています。
 青子は自分の気持ちに正直に真っ直ぐに生きようとするのに対して、アーチャーは自らの欲求なくただ正しきことを目指して行動する。そんな対照的な二人が書けていればいいなー、なんて。
 それではまた次回。
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