Fate/ Witch Of The Beginning 作:五櫛みとも
祝fgo3周年。そしてHF二章公開日決定。とてもめでたい。
今回のお話の方は前前回の有珠編の続きです。説明シーン多め。わかりづらかったら流し読みしてもらっても、後々丁寧に扱っていくので大丈夫だと思います。
※オリジナル設定注意の喚起をしておきます、一応。
「協力しよう、ですって?」
目の前の白琵と名乗った男は確かに「マスター同士で協力しよう」と言った。茶化している様子はない。
「世迷い言を言わないで。サーヴァント同士を争わせ最後の一騎になるまで、聖杯は願望器たる力を与えないんじゃなかったかしら。詐欺に引っ掛けるつもりだったのでしょうけれど、そんな見え透いた釣り針じゃ私は捕まらないわ」
聖杯戦争とはただ英霊同士を戦わせるだけのものではない。脱落した英霊の魂が聖杯へと注がれることによって、人が願いを叶える段階としての願望器へと発展させるための儀式でもある。そして真っ当な魔術師ならばその聖杯を通じて万物の根源とも繋がる大聖杯へと至ることを目指す。
よって、マスター同士で一時的な協力関係を結ぼうともいつかはぶつかり合うことになることは明白である。それを承知で交渉してくるならともかく、この男の言い分だとまるで、
「わかっている筈だ。この地にあるのは正式な聖杯ではない。一つの聖杯を奪い合う必要がなければ、サーヴァント同士で殺し合う必要もどこにもない」
「あなたの言い分には矛盾がある。聖杯がなければサーヴァントが召喚される意味もなく、そもそも英霊召喚の原理が成り立たない。あなたの言い分通りだというならば、彼らは一体何に呼ばれたというの」
「そうだったな。それが今回の全ての始まりだ。こと今回に関してはサーヴァントは杯を満たすためではなく自衛か戦うための手段に過ぎない。もとよりサーヴァントでは今回の聖遺物は満たしきれない。それでも聖杯戦争のシステムを利用する体をとる以上、どうしても英霊の存在は不可欠だった」
彼はポツポツと語り始めた。
「紛い物の聖杯戦争の状況を作り出し、英霊召喚を可能とする。それらへの手引きが成功するかは一種の賭けだった。そして英霊召喚が成功したことによって私の理論は確証を得られた」
あろうことか、白琵なる男はこの聖杯戦争もどきを引き起こしたのは自分だとカミングアウトした。
「人の手で聖杯戦争を発生させるだなんて不可能よ。そんなことができたら代を経て起こる聖杯戦争に間隔を空ける必要はなくなる」
聖杯を操るなど人間にできはしない。そこまでの事ができるならば、そもそも聖杯戦争の必要はない。大聖杯の周期操作ができること、それは即ち大聖杯たる魔力の器ーーひいては根源とも接続可能な状況を示しているのだから。
「なに私がしたことといえば、進路を変える線路のレバーを引いたぐらいのことだ。きっかけはあった。
つい最近、この地で引き起こされた
「聖杯の…影……?」
「あるいは聖杯の型と言ってもいい。歪みによって空けられた孔を利用し、未来に行われるであろう聖杯戦争の際に出現する冬木の大聖杯との
プラトンのイデア論は知っているかな。我々がこの世で目にするモノは全て、最上の美しさを誇る完全なるモノとしてのイデアから伸びる影絵でしかない、とまあそういった話だ。
完全なものをより現実的な不完全なものとして再構築させることで、人工的な代替聖杯を現世へと還元する。
冬木の大聖杯とを繋ぐために開けられた人工的な孔から投影機で写すようにしてこの地に大聖杯を投影する。その理論を以て、私は不完全ながらも聖杯を手にした。だがこの状態の疑似聖杯は所詮は本物を象ったレプリカ、偶像でしかない」
聖杯の複製。それはひどく罰当たりな行為に思えた。
しかし力を溜める器となる少聖杯はともかく、根っことなる大聖杯は二つとない。投影品が力を持たなかったというのも納得できる。
有珠は頭の中で思考巡らせるが、白琵は気にするでもなく淡々と続ける。
「しかし、私はこの聖杯の影と融和可能な概念を生み出す方法を見つけ出し、新たな属性を付与することで聖杯同等ーー否、聖杯をも圧倒する魔力器の精製方法を導き出した。
……魔術師として育てられてきたならば、君も
有珠は眉を顰める。
「あらゆる有機物を金へ変え、死者をも蘇生させる力を持つという神代の真エーテルに匹敵する奇跡物ね。かつてヴァン・ホーエンハイム・パラケルススが賢者の石の精製の研究をしていた、なんて話も聞いたわ。子どもの頃に聞かされた
「その御伽話を実現させる。この戦いはそのための実験であり準備だ」
有珠はその場で立ち尽くす。開いた口が塞がらない。
「不可能だわ! そんなこと、錬金術師の集まる現在のアトラス院でもできない
「『ここで作られたものを決して外に持ち出してはならない』、アトラス院に属するものが課せられる大原則だ。
現在での精製は難しいが、アトラス院は賢者の石の技術を所有している。賢者の石はアトラス院の秘奥として奥深くに眠らされており、霊子演算機トライヘルメスに組み込まれて運営されている」
アトラスの霊子演算機に賢者の石が組み込まれている。その事実は考えてみれば不思議じゃない。
「そこに目をつけた私は禁忌を破り厳重に保管されていた霊子演算機の設計図を持ち出した。なにぶんこの身はアトラス院に籍を置いていたこともあったものでね。もっともそのせいで今はあそこに私の籍はなくなり、あろうことかアトラス院に加えて魔術協会にも追い回されることになってしまったのだが」
「封印指定……!」
アトラス院の元錬金術師であり現封印指定の魔術師。迷宮の如く入り組んだ地下に引きこもり、滅多に地上に姿を現さず粛々と研究を続けるエリート集団の一人だったが組織を裏切り逃れた魔術師。アトラスの最高機密である技術を有しているというならば魔術協会も喉から手が出るほど欲しいだろう。
そんな人物がここにいる。
とても信じ難い話ではあった。しかし、もしそうだと仮定すれば彼の言い分も決して出鱈目とは切り捨てられない。
「無論、本物の霊子演算機を個人がどうこうできるわけもない。私は霊子演算機の設計図を持ち出すのが精一杯だった。設計図は複雑怪奇なものでとても常人には制御不能なものであるとも思われた。
しかしそこで、偽物とはいえ聖杯の概念を持つ概念を核として用いれば霊子演算機の実現は可能ではないかと私は考えた。
そこで目を付けたのがこの地の疑似聖杯との融合。
疑似霊子演算機と疑似聖杯。不完全な魔術概念同士を結び付け合うことによって、新たな儀式をここに誕生させる」
そう言いながら、二つの拳の指を絡ませて組み合わせる動作をする。顔の前で行われたその手の動作は、傍から見ればあたかも祈っているようにも見える。もっとも、やろうとしていることは、神をも恐れぬ所業であるのだが。
「待って。たとえ流用したアトラス院の霊子演算機の技術が利用できたとしてもせいぜいが観測装置としての役割か仮想シミュレーション程度。
それに実際問題としてそれを実行に移すには莫大な魔力が必要だと思うのだけれど、それを偽物の聖杯なんかで補えるの。あくまで予想の範疇だけれど、それだけの大規模術式を一から作るならば世界中の魔術師を掻き集めても可能かどうかの消費エネルギーだと思われるけど」
「言っただろう。この地の歪みさえ利用すれば時間的・空間的制限は意味をなさない。地球上の地脈を利用しマナとオド吸収の適用範囲を地上全体に拡大さえしてしまえば、同時に距離的・物理的拘束もなくなる。杯を満たすのに聖杯からの縁で召喚したサーヴァントは要らない、地上人類全体の魔力があれば十分だ」
「サーヴァントを必要としない願望器の成就……まさか、サーヴァントの代わりに全世界の人間を生贄にしようっていうの!?」
魔術師に限らず、一般人でさえも魔力の元になるものは有している。要するに魔力とは人間や自然のエネルギーを、独自の法則を以て変換させて放出させるものだ。それが全世界の人間から抽出されるともなれば、得られる魔力は膨大なものとなる。
「それだけ高密度な魔力供給の
ーーヘパイストス。神々の女王でありゼウスの妻であるヘラから生まれ出た神の名。鍛冶神としても祀られ、技術を司るオリュンポス十二神の一神。時にゼウスの盾やアキレウスの武具といった神々の武器を鋳造したという逸話がある。
神々をも圧倒する技術を創造し排出することになぞらえて名付けたのだろうか。それにしては武具を出すわけでもなく、随分とこじつけを感じるような印象を受ける。
「その方法が可能なら、確かにサーヴァントによる戦争よりも確実に願望器を手にすることはできる。でもそのために人類を犠牲にするなんてあまりにも狂ってる……」
彼の過激な思想に怯えすら感じる。しかし有珠は気を確かに持って、睨みつけるように鋭く問うた。
「そこまでして、あなたは一体何の望みを叶えるというの……? 真理を求めるためならば、人間を失っても構わないとでも? あなたの望みは、そのヘパイストスとやらで世界の人々を犠牲にするほどのもの?」
「違うな。求めるのが真理でもなければ、叶えるのは私の望みでもない。これは人理という人の総体によって求められた望みだ。
この望みの成就は、人の未来の在り方を確定づける第一歩。そしてそれは全てを見通した私にしかできない使命なのだ」
未来を既にその手に治めているような言い分。まるで人を導く神の視座にでも立つようだ。話のわかる人間だと思っていたのだが思い過ごしだったらしい。これ以上議論したとしてこの男は止められない。
「理解に苦しむわ。独善的で、自分の目的に酔いしれて盲目になってる異常者ね」
「なんとでも言うといい。だがまだ足りない。冷えきったヘパイストスに火を入れさせ制御する❝炉❞が必要だ。舞台が整っていても核を入れるよう手引きをする人間が必要だ。いわば大聖杯に対する小聖杯の器と同様に、ヘパイストスを起動させるマスターとも呼ぶべき存在が」
「マスター?」
地面を引き絞るような小さな地震が起こる。これもヘパイストスという特殊魔術器の作用によるものだろうか。
「時は迫っている。この辺りが潮時だろう」
白琵の姿が徐々に薄らいでいく。もともと幻術だったようだった。アトラスの禁忌とされる法を破りながらもここまで逃げおおせているような奴だ。おそらく姿をくらます手法においてはかなりの実力者。
「待って! 思惑通りにそのヘパイストスとやらが成就したら具体的に何が起きるというの!それを聞いてない!」
「いずれわかることだ」
消えゆく中で彼は事も無げに言う。
「突然のことだったので今は頭の整理が必要だろう。もし再び生きて相見える時が来たならば、改めて君から答えを聞こう。私個人としては、戦いは好まない主義なのでね」
そう言い残すと、霧が晴れるように彼の姿が跡形もなく消えた。
「ちょっと、まだ聞くことはーー」
「有珠!!」
叫ぶと同時に草十郎が思い切り突き飛ばした。突然のことに有珠は受け身も取れずに地面に倒れ込む。
見ると、先程まで有珠が立っていた場所にナイフが突き刺さっている。
「ほう、我がナイフ捌きを見切るとは。生身の人間にしてはなかなかに優れた動体視力だ」
昨夜襲撃してきたのと同じ、髑髏面を頭に掛けた黒づくめの男が姿を現した。
「目はいいほうなんだ。それに、
その言葉の半分は本当だが、もう半分は強がりでもあった。
草十郎は二人の会話中、視界から外れるもっとも弱点となりうる背中をあえてがら空きにしておいて、ずっと背中に意識を集中させていた。
狼に背中を向けると襲いかかられる。それは逆に言うならば、背中を見せれば狼は必ず背中に向かってくる。集団であるならば対応は難しいが、一匹程度ならどんなに速くとも攻撃を見切るのは可能だ。
勿論、こんなほとんど直感に頼ったような手法は初手一回限りの技だ。本来ならばこの時点で狼を仕留めなければいけない。相対してしまえば二度と使えない。
「奴は姿をくらましたか。あの男も喰えない男だ。何を企んでるのかと思えば敵を
アサシンと思しきサーヴァントは先程まで白琵が立っていた場所を見ながらそんなことを口走っている。
先程の話は気になるが、今は襲撃者の対応に集中しなければならない。
とりあえず隙は作った、あとは有珠に託されるのみ。
意図を察知した有珠はすぐに懐から一輪の鈴を抜き取った。
取り出されたのは青を基調として猫を象った硝子の鈴。それはいわば、彼女の使役するプロイキッシャーをどこからともなく呼ぶ小さな呼び鈴。
鈴は指の合間をすり抜けるようにして、地に落ちていく。
地面に触れた鈴は、波紋を浮かべながら沈み込んでいき、幻想の調べを奏でる。
ーー筈だった。
予想に反して、鈴は硝子が弾け飛び光の粒になって空中に散らばる。硝子の欠片は光を反射させながら、無残にも消えていった。
「どうして…!?」
「教会の周囲に魔術対策がなされていないとでも思ったか。はじめからここには任意起動式の対魔術師用罠が隠されるように設置されていた。それをこちらのマスターが利用させてもらっただけのこと」
この地の教会管理者である詠梨神父の涼しげに笑う顔が思い浮かぶ。
「あの神父、余計なことを…!」
「有珠! 逃げるぞ!」
咄嗟に状況を判断した草十郎は有珠の手をとって走り出す。事前準備が完璧な相手の手のひらの上で、なおかつサーヴァント相手に戦っても敵いはしない。教会から離れて態勢を整え直さなければならない。ここは相手の
「残念ながらそうはいかぬな」
逃げようとする二人の前に突如としてアサシンが現れ、行く先に立ち塞がっていた。まるで瞬間移動でもしたかのように素早い移動。同時に草十郎を力の限り蹴り飛ばしていた。草十郎は為す術もなく地面を転がる。
続いて有珠の前に立つ黒いローブの髑髏男。片手には鈍色に輝く刃渡りの大きいナイフ。その黒々とした刃は不気味なほどに煌々と光を反射させている。
有栖は咄嗟に手を懐に入れて次なるプロイキッシャーを取り出そうとするが、その間も与えずに凶刃が彼女の手を刺し貫いた。
「有珠!」
彼女の手から血が吹き出す。
有珠の元まであと十数歩。これだけ遠いとさすがの草十郎もサーヴァントの攻撃から有珠を守りきれない。
「魔術を行使できぬ魔術師ほど、無力で取るに足らないものはないな」
つまらなさそうに呟きながら、切り返されたナイフが有珠の心臓を目掛けて振り下ろされた。
初心者歓迎と付けたタグは何だったのか……。そして下手したら濃いファンをも敵に回すような、型月設定を引用した独自理論の展開という所業。物語に独自性を持たせたかったのです、許してください。
それはそれとして、文章下手で説明がわからねえよ、という方は後々丁寧に扱っていくつもりですのでご心配なく。
それではまた次回。