Fate/ Witch Of The Beginning   作:五櫛みとも

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※未だ慣れないもので、ここの文がおかしい、ここが変、と見直す度に改稿してしまい、申し訳ありません。読んでくださる方に支障が出ないように、今後はなくしていくよう努力します。



学校にて ~ side Blue

 

 

 

 三咲高校では卒業式の準備が着々と進んでいた。

 

 冬休み明けの学校は枯れ木が立ち並び、未だ寒々しい風が吹いている。歌唱練習のため卒業生に送る別れの歌がどこかの教室から流れているのも相まって、学校はどこか淋しげな雰囲気を醸し出していた。

 

 卒業の準備に奔走する生徒達の教室から一足離れた場所にある生徒会室。そこでは、生徒会長の蒼崎青子と副会長の槻司(つきじ)鳶丸(とびまる)の二人が年度終わりの仕事に追われていた。

 

「なあ生徒会長。別に休んでてもいいぞ。俺がやっておくから」

 

 眠気にうとうとと船を漕ぐ青子に見かねた鳶丸が、青子の手にしていた資料を取り上げる。

 青子はハッと顔を上げると、頭をブルブル振り回す。

 

「大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけ」

 

「嘘つけ。絶対寝てただろ」

 

 青子の向かい側に座る副会長こと鳶丸は目を細める。

 

 彼は髪型がオールバックのやんちゃな風貌と裏腹に責任感のある、仕事のできる男であった。他の生徒からはその立ち振舞いや雰囲気から殿下と呼ばれ慕われている。

 時に青子のストッパーとなり気苦労も多く、生徒会就任当初はぶつかり合うことも多かったようだが、今や二人は知己の仲であったりする。

 

「夜遊びか? 大概にしとけよ。この辺りで最近、行方不明事件だか誘拐事件だかが起こったって話だ。あまり外に出るのはおすすめしないな」

 

「別にそんなことしてないって。それと、眠いのは事実だけどまだやれるから」

 

 鳶丸はトントンと紙の束をまとめ終えると、青子に厳しげな視線を送る。

 

「意地張ってんじゃねえ。昨日何してたんだか知らねえけど、そんなでかい(クマ)作って、寝ぼけたまま手を付けた資料に後々ミスが発覚でもしたら元も子もないだろ。尻拭いに付き合わされるのはご免だからな」

 

 鳶丸の言うことは確かに正論だった。青子もぐうの音も出ない。

 

「……確かに、おっしゃる通りね。しょうがない、大人しくお言葉に甘えることにするわ。

 私は休んでおくから、聞きたいことあったらいつでも言って」

 

 青子は生徒会長のデスクに上半身をもたげるようにしてうつ伏せになり、腕を枕に寝る体勢に入る。

 

「聞きたいことがあれば、ねえ」

 

 鳶丸のページを捲る手が止まる。

 思えば、彼には青子に近々訊いておかねばならないと思っていたことがあった。

 それを言っていいかどうか。

 迷うところであったが、きっとまた春休みに入れば聞く機会は失われるだろう。

 

 決意を新たにして、鳶丸はなんでもないことのように、普段の口調で生徒会長に尋ねる。

 

「じゃあよ、ついでに寝ぼけ(まなこ)でいるところ聞くんだけど」

 

 返事をする気もおきず青子は聞き耳だけ立てる。

 

「お前、草の字と一緒に同棲してるって本当か?」

 

 ピシリ、と空気が凍りつくのを感じた。

 

「いや、俺だって人のプライベートに過度に干渉したくはないけどよ。はっきりしといた方がいいと思うぜ。

 あの鉄の蒼崎が男と同棲って一部では噂になってたりしてるんだ。草の字にはそれ以上そのことを誰かに言うなとは口止めしといたが、あいつは事の重大さをわかってるのかわかってないのか。

 このままだとあることないこと吹き込まれて、妙な誤解が広がってくぞ」

 

 野次馬根性の興味本位ではなく、純粋に青子に注意を喚起する。

 鳶丸は学園生活を送る上でのリスクの話をしているのだ。それは長年の間、生徒会での相棒を務めてきた鳶丸なりの青子への気遣いだった。

 

 しばらく青子と鳶丸の間に沈黙が流れる。

 

 やがてデスクに突っ伏したまま青子は口を開いた。

 

「屋敷の余った部屋を提供してるだけであって、別に同棲とかそういうのじゃないから。

 こっちの生活に慣れてない以上、事情を知る知り合いが近くにいるのは都合がいいでしょ。

 生徒会長としては問題児の管理も仕事なの」

 

 さすがに生徒の日常生活まで管理するのは生徒会長の本分から外れているのでは、という意見は鳶丸は口に出さないでおいた。

 

「搾取する側の大家と搾取される側の賃貸者、それが私とあいつの関係。ただそれだけだから」

 

 大家と賃貸者の関係をそう表現するのは青子をおいてなかなかいないだろう。

 しかしその青子のドライな対応を聞いても、鳶丸の胸の内にはどこかわだかまりが残る。

 

「だが、そうは言ったってなあ。いい歳した男女がひとつ屋根の下だぞ。問題だってあるだろ。

 あの草の字のことだ、たとえ変な間違いが起こったとして気付かねえかもしれねえけど、お前はどうなんだよ」

 

「別に問題なんてーー」

 

 言いかけたところで青子の脳裏にとある出来事が思い浮かぶ。

 

 

*

 

 

 思えばあれは、草十郎が屋敷での生活に慣れてきた頃。

 

 家事が変に板についてきた草十郎は、家事能力ゼロの二人に苦言を呈することが多くなっていた。

 

 うまく理由をつけて面倒な家事から逃れようとする青子。

 いつの間にか姿を消して居なくなっている有珠。

 そんな二人に手を焼く毎日。

 草十郎は屋敷内で家事隊長としての地位を確立させて、当番制で厄介な二人を管理するような構図が出来上がっていた。

 

 しかし草十郎が青子に対して放ったある発言が波乱を巻き起こす。

 

 

 ある日のこと。買ったばかりのお気に入りアーティストのCDのパッケージを青子がご機嫌に剝いていると、部屋の扉がノックされる。

 

 ドアを開けると、そこには何やら困り顔の草十郎。

 

「蒼崎、女の子がああいうのはどうかと思う」

 

「え? なに?」

 

「衣類の扱いだ。雑にするのはよくない」

 

 心当たりがなく、青子は首を傾げる。

 

「制服はハンガーにかけてるし、洗濯物を溜め込んだりもしてない。別にちゃんとしてるけど?」

 

 青子は部屋の壁際に設けられたクローゼットに目を向けながら言う。

 

「そんなことない。部屋じゃなくて、居間のソファの上に放置してあったぞ」

 

「ソファ?」

 

 思えば最近、脱いだコートをソファに置きっぱなしにしてしまうことが多いのを思い出す。

 よく有珠にも嫌な顔をされるのだが、すぐに外に出る用事などがあると、つい自分の部屋まで持っていくのが面倒で居間に置いてしまうのだ。

 その癖で今回もまた無意識にコートを置いてきてしまったのだろうと思われた。

 

「あー、わかった。後で片付けとくわ」

 

「いや、駄目だ。放置はよくない。今すぐ片付けた方がいい」

 

 後任せにしようとする青子に、強めの語気できっぱりと草十郎は注意する。

 

「う、随分厳しいじゃない。そんなに言うんだったら、そのままこっちに持ってきてくれればよかったのに」

 

「あのな、蒼崎。俺だって男だ。女性の身に着けるものに触れるのはどうも気が退けるってものだぞ」

 

 それを聞いた青子はつかの間、驚きに目を白黒させる。しかし、それもやがてニヤニヤと悪戯めいた邪悪な笑顔に変わった。

 

「へえ。あんたもそういうの気にするんだ。案外ウブなのね」

 

「当たり前だ。蒼崎は俺を何だと思っているんだ」

 

「いや? 案外かわいいとこがあるんだなあ、って」

 

 へえ、ふうん。と興味深げに困惑する草十郎を観察する。どこか人間性が希薄にも見えたこの野生児も、れっきとした思春期の男の子らしい。

 

「そんな目で見るな。俺は何かおかしなことを言ったか」

 

 少しムッとした表情で不機嫌になる彼の態度は、より一層可笑しさを助長させていた。

 

「まあまあ、お年頃だものね。女の子のものがリビングにあるのが落ち着かないのはしょうがないって」

 

「別にそんなんじゃない。放置しておくのはよくないって言ってるんだ」

 

「わかってる、わかってるって。放っておいた私が悪うございました」

 

「馬鹿にされてる気がするぞ」

 

「してない、してない!」

 

 青子は込み上げる笑いを堪えるので必死だった。

 草十郎はなぜ笑われているのか理解もできずに、口を尖らせる。

 

「でもな蒼崎。下着は放置せず、きちんと畳まないと皺が残ると聞いたぞ。それにもし洗濯前なら、汗が付いたまま放置するとシミが残る」

 

 

「ーーーーは?」

 

 

 青子の表情が一瞬で石のように固まった。

 聞き間違いではないかと青子は耳を疑う。

 今、こいつはなんて言った?

 

 

「だから下着だ。洗濯籠にも入れられず、箪笥にも仕舞われずに置いてあったんだ。まったく蒼崎はズボラだな」

 

 

「はーーーーはあああああああ!?」

 

 

 草十郎を押しのけるようにして、居間へ向かう。

 

 やがてドタドタという足踏みと共に、青子は皺のついた青色のショーツを抱えるようにして部屋に戻ってきた。

 

「なんで私のだってわかった!」

 

「有珠は自分の下着を居間に放置したりしないだろうからな」

 

「私だってしないわ、ドアホーーーー!!」

 

 

 一応の事の真相としては、青子が大量の洗濯物を入れた洗濯籠を運ぶ際、下着を偶然ソファの上に落としてしまい、後にそれを草十郎が発見したというものであった。

 

 

 その日の夜は、久遠寺家周辺の林で逃げる男と、それを追いかけるようにして放たれる謎の光のビームが目撃されたという。

 

 後に目撃者の情報によってこの出来事は、幽霊屋敷上空のキャトル・ミューティレーションとして三咲町七不思議の一つとして語られることになる。

 

 しかしその目撃者というのが、学校一信用のないC組のお調子者こと木乃実であり、またウキウキで噂を流したのも木乃実であったがために、構ってほしいがために作りだしたほら話だとされて誰も信じる者はおらず、事なきを得たのだった。

 

 

*

 

 

 ダン!と青子は拳をデスクに叩きつける。

 伏しているので外からは見えないが、顔は煙を上げんばかりに真っ赤になっていた。

 

 思わず椅子ごと少し飛び退く鳶丸。危うくバランスを崩して頭から落っこちるところだった。

 

「ほんっとデリカシーがないにもほどがある! ワザとやってんじゃないかって、たまに思うわ!」

 

「……か、会長?」

 

 青子は大きく息を吸って顔を上げると、戸惑う鳶丸の鼻先にビシリと人差し指を突きつける。

 

「とにかく! あいつとはなんにもないし、なってたまるもんか! 言いたい奴には言わせときゃいいのよ。からかってくるような奴がいれば生徒会長権力でそいつの弱みでも握って脅し返してやるわ!」

 

 青子の気迫に思わず鳶丸は顔が引き攣る。

 

「ああそうだったな。お前がその態度でいる限り誰も話題に出さないだろ。ちょっとお前に対する周りの畏怖の念を忘れてた。その勢いなら大丈夫そうだ」

 

 鬼の生徒会長、蒼崎青子。その二つ名は、関わった生徒たちのあいだではあまりに有名であった。

 

「まあお前とあの朴訥人の草の字のことだ。妙なことは起こさねえとは思うが、気をつけとけよ。水と油みたいなお前らだからこそ、おかしな化学反応を起こしそうだからな」

 

「忠告ありがたく受け取っておきます、副会長さん。

 でも、あいつの生殺与奪権は私が握ってるし、おかしな真似はできないから大丈夫」

 

「それが心配だって言ってるんだけどな」

 

 鳶丸は立ち上がり、窓際で遠く草十郎へと思いを馳せる。

 

 鳶丸が、蒼崎青子の支配下という草十郎の立場に憐憫の情を抱いていると、窓がカタカタと音を立てて揺れ始めるのに気付いた。

 

 続いて地面が揺れ、生徒会室の周りの棚に積み重ねられた小道具もぶつかり合って音を立てる。

 

「地震?」

 

 ()き上げるような小型の連続する揺れ。

 

 生徒会室を取り囲む金属製の棚がギシギシと揺れていたが、やがて揺れは数秒ほどで収まった。

 

「そんなに大きくはなかったが……」

 

 鳶丸は、先程まで揺れていた資料がうず高く積み上がった棚を見上げる。

 

 そこには、名簿の載った紙束から科学実験用の器具といった年季物の遺物が、大小様々に乱雑に積み重ねられていた。

 

「このオンボロ棚も新しいのに買い替えた方がいいんじゃねえか? いつネジが外れて落ちるもんかわかったもんじゃねえぞ」

 

「最近地震もなんだか多いみたいだし。備品買い替えの申請もとっておくべきかもね」

 

「そうだな。早いとこ替えないとあの棚、下手したら会長の踏む地団駄で壊れるかもしれないしな」

 

「地団駄だけでそこまで揺れるか!」

 

 その怒声があれば、棚は無理でも人なら震えあがらせられることができただろう。

 

 次第に怒り疲れてきた青子は溜息を吐くと、伸びをして体の筋肉を引き伸ばす。

 

「あーあ。なんだかくだらない話してたら目が冴えてきたわ。

 もうこうなったら集中して一気に仕事片付けて、早めに帰ることにするわよ」

 

「さっきまでバテてたやつが何を言うか。まあ俺も私用で、出来ればさっさと帰りたかったからいいけどよ」

 

「なに? 予定でもあるの?」

 

「俺んとこにホームステイが来るってんで、そのホストファミリーからの連絡が今日来るんだよ。うちの親が安請け合いしちまったみたいでな。

 別に俺が同席する必要はないが、同じ釜の飯を食う相手だ、電話越しででも相手のことはある程度知っときたいだろ」

 

「ふうん。そっちもそっちで大変なのね」

 

 気紛れの世間話などしながら青子と鳶丸は作業に戻る。

 

 それから作業は捗り、おかげで予定より早く仕事を終わらせて二人は帰路に就いた。

 

 その日は、それ以降地震が起こることはなかった。

 

 

 

 




 
 今回ほとんど魔法使いの夜の日常回じゃねーか。
 すみません。まほよの続きを待ち望む者として、どうしても書かずにはいられなかったのです。
 しかし日常の些細な場面も、本筋の核と関わってきたり?と思わせぶりな発言と共に、これらは必要な描写だと言い張りながら、次回に持ち越したいと思います。
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