Fate/ Witch Of The Beginning 作:五櫛みとも
本編での学校での日常編はここで終わりです。取りあえず三咲高校の面々との絡みを書けて満足でしたとだけ。ちなみにちゃっかりオリジナルキャラも混じってます。
「クシュンッ」
草十郎は口を押さえて、大きめのクシャミをした。
「なんだ静希、冬休みの間に風邪でもひいたか?」
「どうだろう。確かにさっきは一瞬だけ寒気も感じた気がするけど」
「案外、誰かが噂をしてたのかもしんねえかもな。お前が朝にあったっていう和風のかわいこちゃんとかさあ!
寂しさに押し潰されそうな孤独な旅路、声をかけられたところから始まる和服美人とのラブ・ストーリー!
くううう、羨ましいぜ!」
「いや、ラブ・ストーリーとやらはなかったと思うぞ」
「バッカ、これからだって。
そして接近していく二人のもとに俺こと超絶イケメンライバル、木乃実芳助が現れる!
天然不思議系男子と超絶完璧イケメン男子!
二人の間で揺れ動く乙女ゴコロ!
さて一体彼女はどちらを選ぶのかーーーー痛えっ!」
「ドラマの見過ぎだ、バカ。そしてなんであんたが出てくるんだって。あんたが入り込む余地、どう考えてもなかったでしょうが」
背の低い女の子、
「嫉妬はやめろよー、久万梨ー。いくら俺を取られるのが嫌だからってー」
「うるさい。たとえ天変地異が起ころうともあんたにそんな感情は湧かないから安心して。
ていうか、くだらない無駄話してる暇あったら手を動かせ。卒業式も迫ってるんだから、ちゃっちゃと終わらせて帰りたいでしょ」
この学校では、卒業式の前に日を跨いで設営準備という作業があるのだが、その際の掃除や設営は在校生によって任せられるという伝統があった。
ここ体育館では、草十郎達のクラスが掃除と設営に動員されている。
木乃実は「めんどくせー」「こういうのって普通業者の人とかやるんじゃねえの?」「ケチり過ぎだろウチの学校」と事ある毎に、誰とも知れない学校責任者に野次を飛ばしつつ、こっそりサボって草十郎を無駄話に巻き込んでいたのであった。
「卒業式といえば、あの蒼崎嬢が在校生代表の送辞を読むんだっけか」
「うん。そう言ってたな」
「え、そうなんだ」
その情報は青子の友人であった金鹿でも知らなかった。
「よくやるよね。大勢の前で読み上げることは慣れっこなんだろうけど。先生方も困ったらすぐ青子に任せるんだもん」
「ほう、それは申し訳ない。頼りない先生ばかりで迷惑をかける」
突然入り込んできた声に、尻尾を踏まれた猫のようにビクリと小さな金鹿の体が震える。
恐る恐る振り返ると、後ろには生徒指導の教師である白琵敏隆が立っていた。
「げっ! シラビ!」
「人の顔を見るなり、『げっ!』とは失礼だな、久万梨」
何を隠そう、金鹿はその教師が大の苦手だった。
少し癖っ毛の黒髪。身長は180センチ程度の色白の長身痩躯。
淡々と屁理屈を述べ立てる理詰めの説教が得意という男である。
「壁に耳あり、障子に目あり。聞かれたくないことは口にしないことだ。
そして蒼崎の送辞は、彼女の努力が認められたことによる功績であり、名誉であって決して押し付けではない。
以上だ、わかったか?」
出た。白琵のもっともそうな説教。あたかも正論であると諭すように語りかけて、怯ませるという常套手段だ。
金鹿は白琵のこういったところが気に入らない。
「まあまあ。実際、蒼崎さんは頼りがいがあるからねえ」
後ろには茶色のスーツに身を包む山城先生が、おまけのように付いてきている。金鹿としては、対照的に山城は呑気過ぎて心配になる。
「よし。君たちが暇で途方に暮れてるようなので、私が分担の指示をしてあげよう。
掃除ももうすぐ終わりだ。木乃実と久万梨は並べる椅子を持ってくるように、静希は登壇用の踏み台を体育倉庫から持ってきて貰おうか」
白琵のあからさまな嫌がらせに、金鹿と木乃実は嫌味に顔をしかめる。草十郎だけが素直に頷いていた。
※※※※
草十郎は人々の間をすり抜け、体育倉庫へ向かっていた。
この時期になると、先輩と仲を深めていた後輩が別れを惜しむような会話がちらほら耳に入るようになる。
もっとも草十郎は、転校してきて日も浅く先輩の知り合いもあまりいなかっために、特別な感慨と言えるほどのものはなかった。
大道具等の備品を仕舞う体育館の倉庫に着く。
出入り口の扉は開いており、そこには手に包帯を巻いた女の子が一人居た。暗くて見づらいが、草十郎と同じクラスの女子ではないようだ。
彼女はその手で大きなテーブルを抱えて持とうとしている。
「手伝うよ」
草十郎はその子の横に入り、代わりに持つ。
さすがに怪我をしている女の子一人でテーブルを持たせるのは、あまりよろしくない。
少女は突然現れた人に少したじろぎ戸惑いがちに「あ、ありがとうございます……」と言った直後、相手の顔を見てはっとする。
「わわっ! し、静希君!」
眼鏡を掛けた黒髪ショートカットの子。
小心者なのか彼女は驚き、急にしどろもどろになった。
「えっと、あなたは確か水泳部の」
草十郎は水泳部の部室に訪問した際に彼女を見かけていた。確か名前はーー
「
彼女は話しながら、長めの前髪を指で弄る。
「こちらこそ、よく俺の名前覚えてましたね。一度しか会ったことなかったのに」
「静希君は有名だから。その……あなたの珍行動のエピソードとかも一部では有名ですし。突然、二階の窓から飛び降りようとしたとか」
「別にそんなつもりはないんだけどな。人から見たら変わってるのか。
俺の方は声をかけられるまで気がつかなくて申し訳なかった」
「い、いえ! 静希君のことが印象に残っていて、私が勝手に覚えていただけなんで」
「それに、静希君は私と同じだから、特別覚えてるんだ」そう彼女は言葉の端に付け足すようにボソリと呟く。あくまで自分だけが聞こえるように、彼には聞こえないようにと。
「とりあえずこれ運んでおきますよ」
草十郎は机を持ち上げるが、榊も慌てて端を掴む。
「あ、片方持ちます。もともと私が持っていこうとしたものですし」
「無茶はよくない。手、怪我してるんでしょう?」
「いえ、ちょっと肌がかぶれてるだけなんで、支障はないです。
でも、そうですね。念のために二人で持っていきませんか。そっちの方が安定すると思いますし……」
そう言いながら、彼女が片方を持つので仕方なく二人で持ち運ぶことにした。
草十郎を前に、綴里は後ろを支えるようにして、向かい合わせになるように長机を縦向きにして歩く。
「榊さんも体育館で卒業式の手伝いに?」
向かいの草十郎が喋りかける。
「うん。私も用が済んで、手が空いてたから。本当は卒業生は準備には手を貸さないんだけどね。下級生に間違われたみたい」
それを聞くと、草十郎は足を止めた。つられて綴里も止まる。
「どうしたの、静希君……?」
「榊さん。先輩だったのか……!」
部に訪問した時に聞かされなかったうえに、後輩である草十郎に敬語を使っているので気付かなかった。草十郎は失礼なことはなかったかと、自身の発言を振り返る。
「いえ、いいんです。私、小さくて子どもにさえ間違えられることもあるくらいで。
それに、静希君の方がずっと大人っぽく見えるし」
綴里は少し恥ずかしそうに笑う。
事実、彼女は背が小さく童顔であるうえに、立ち振舞いもどこかおっかなびっくりなこともあり、初対面の学校の生徒からは年下に見られがちであった。
「こんなんだから私、なんだか卒業するって実感が持てないんです。他の人達だけが成長して、私だけ置いてけぼりにされているみたい。
ただちょっと歳を重ねてるだけで、先輩なんて慕われる器じゃないの」
「周りが成長していて自分だけが置いてかれる気持ち、か。
俺もわからなくはないです。蒼崎なんかといると、特にそう感じることがある」
「蒼崎さん、ね」
蒼崎、というワードに反応する。
彼女は少し目線を下げ、つられるように少し声のトーンも下がる。
「あのさ……静希君って学校で蒼崎さんとよく一緒にいるよね。帰る時も一緒に歩いてたりして……」
「そうですね。蒼崎は生徒会の仕事があるから、一緒に帰るのは時間が合う時だけだけれど」
「帰る家が同じですから」と言いかけて、鳶丸にあまり言いふらすなと諭されたのを思い出し、その言葉を呑み込んだ。
これでも草十郎は聞き分けがいい方なのだ。
「あの……二人はーーーー静希君と蒼崎さんは……」
そこで彼女の言葉は止まる。
そこから先が喉につかえて、次の言葉が絞り出せない。
「ん? なんですか?」
「い、いえ。やっぱり何でもないです……」
こうして接していると、彼女はよく口籠る癖があるようだった。その態度を見ると草十郎としては純粋に「何か間違ってしまったのではないか」と心配になるのだが。
そうこう話しているうちに、体育館の出入り口近くに着いていた。
「下ろすのそこでいいですか?」
「はい。ーーーーあっ!」
テーブルを床に置こうとしたその時、彼女は手を壁に引っ掛けてしまう。
左手に巻かれた包帯が裂け、その拍子に手が剝き出しになった。
「大丈夫ですか?」
怪我をしていないかと、草十郎はすぐに彼女の左手を取る。
その裂けた包帯の下には三画の赤い痣が浮かび上がっていた。
「それ……」
草十郎はその甲に刻まれた、どこか紋様にも見える痣をまじまじと見る。
綴里は咄嗟にその手を振り払った。
「あ、あの……! これは……!」
彼女の顔が真っ青になる。
背中を冷や汗が流れ、口の震えが止まらない。
あまりにも迂闊に過ぎた。
それは決して見られてはいけないもの。
下手に魔術を行使していると魔術師であることがバレて怪しまれると思い、わざと人が気にしない程度に粗雑な隠し方をしていたのが裏目に出た。
よりにもよって、あの蒼崎青子と繋がりを持っている、静希草十郎に見つかってしまった。彼が蒼崎青子を通して、魔術に関わっているリスクだって十分にある。
だがそんな理屈以上に、彼女個人としては彼にだけは知られたくなかった。
彼には謀略振り撒く魔術世界とは別次元の人でいると信じていたかった。
でも、きっとこれは避けられない。
咄嗟に綴里の口が、詠唱の構えに入るーーーー
「ひどいな。今まで見たことのない、かぶれ方だ。
すぐ保険室に行って、包帯を巻き直してもらった方がいい」
魔術詠唱を結ぼうとした彼女の口が停止する。
嘘はない。
彼は本気でそれをただの痣だと勘違いをした。
何も知らないのだ。
その反応は紛れもなく、魔術とは関わりのない人間の証明であった。
「今日って保健室に先生はいるのかな。まあいいや。保健室までついて行くので、もしいなかったら俺が包帯巻きます」
草十郎は彼女の手を引いて、歩き出す。
彼女は抵抗もできずにそのまま引っ張られる。
手を引いて前を行く彼の背中を見ながら、彼女は安堵に胸を撫で下ろしつつ後ろをついて行く。
そうして二人で歩いていると、保健室に着いたのがなんだかあっという間に思えた。
「あ。先生、いるみたい。ありがとう、静希君」
「そうですか。また無理して同じことしないように、気を付けてください。それじゃあ、お大事に」
草十郎は手を振りながら、体育館へと戻ってゆく。
彼を見送りながら、彼女は一人呟く。
「……本当に、ごめんなさい。静希君」
彼女は左手の令呪を、右手で覆い隠すようにして握りしめた。
ちなみに、綴里の手を引いて連れ出す草十郎の行動をこっそり目撃していた木乃実は、体育館の隅で恨めしそうに歯噛みしていたとか。案の定、木乃実は草十郎が帰ってくるとすぐに絡んできた。
「ぐっ、何故だ。何故お前の周りに女子が姿を表すのだ」
「共学だからな。校内を歩いてれば女子もいるだろ」
「それは女子に避けられてる俺への当てつけと取っていいか!?」
そんなやり取りを繰り返して木乃実の愚痴を聞かされながら、その日草十郎は学校での役目に従事したという。
今回、さらっと今作のオリジナルキャラが紛れてます。
Q.クロスオーバーなのにオリキャラ?
→物語のキーとして登場させる必要がありました。
ちなみに登場サーヴァントはオリジナル無し、原作ありきのみです。