Fate/ Witch Of The Beginning 作:五櫛みとも
少し長くなったので前後編に分けます。いくつか伏線張ってるつもりだけど、ごちゃごちゃして読みづらくなっていないか不安。
それと一応、たぶん今回R-15要素のある話です。
雲が月を覆い、夜の碧が沈んでゆく。
人通りの少ない閑散とした住宅街は一層その静寂を称えていた。
草十郎は下校後にそのまま直行したバイトを終えて、帰路に就いているところだった。
(夕飯の買い物をしてから行くべきか)
近頃草十郎は、自分でも作れる料理のレシピを模索中である。
久遠寺家の食糧事情を預かる草十郎とて、料理が上手いわけではない。せいぜいが大雑把なあんかけ焼きそば程度だ。
やはり節約するには自炊が基本。
青子にはたまに貧乏臭いと文句を言われるが、実際困窮しているのだからしょうがない。
その点、有珠は初めこそ奇妙な面持ちで出されたものとにらめっこするが、一度口にすると「まあいけないこともない」とこくこくと頷きながら食べてくれるので、草十郎としても嬉しい限りである。
青子はともかく、有珠には作り甲斐があるというもの。
作れる料理のレパートリーを増やせないものかと、最近は料理に興味を持ち始めていた。
そんなことを考えながら、中央通りから外れた横の小路に曲がる。その先は、未だ建設途中のまま放置された建物が並んでいるため灯りが少なく、闇を一層色濃くしている。
その小路に踏み込んだところで、ふと立ち止まった。
(なんだ? なにか……)
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落とされる一粒の鉱石。
沈みゆく石は、波紋を描きながら地面に融け込んでゆく。
その波紋に合わせて地は仄かに鼓動する。
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空気に何か異物が混じり合うような感覚。
異物は水の中で溶けていく飴のように広がっていく。
視界に入る景色が、画面越しの映像のようにひどく不鮮明になる感覚。
急に気分が悪くなる。
息が苦しい。頭痛がする。
頭の中を弄られているみたいな不快感。
(やっぱり風邪、ひいてるのかな)
そこで悪寒と共に背中に突き刺さる視線を感じ、草十郎は後ろを振り向く。
振り向いた先は、電灯が薄ぼんやりとコンクリートの地面を照らすだけであった。
確かにその位置に、なにかの気配を感じた筈だった。
人に尾行されているというよりは、動物が息を潜めて獲物を狙っているような。
(気のせいか)
何の姿も見えないのを確認すると、また前に向き直り小路に入る。
まだ春というには早すぎる生暖かい風。
辺りを満たす湿っぽく重苦しい空気。
澱んだ煙が滞留するようなむせ返る圧迫感。
並んだ室外機から淀んだ空気を放つ小路を通り、勾配の急な坂に差し掛かろうとしたところ。
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背後からの明確な殺意の視線に、再び後ろを向く。
蜘蛛の巣と虫の死骸で薄汚れた電灯の付いた電信柱の下。
点滅を繰り返す光に照らされて、そこには
頭にノイズが走る。
『最近、この辺りで行方不明事件が結構起きてるらしいんだってよ』
昨日だったか今日だったか、何でもない木乃実の話が想起させられる。
電灯の下の
白シャツに黒のスラックスという帰り途中のサラリーマンのような出で立ち。しかし人としての生気が感じられない。
それはゆっくりとこちらに顔を傾ける。
口を半開きにし、ぽっかりと穴の空いたような虚ろな目でじっとこちらを捉えたようだった。
暫く立ち止まって見つめていると、その男はゆらゆらと操り人形のように、不器用ながら緩慢な動作でこちらに向かってきた。
真横に折れて傾いた片脚の
近付いてくるにつれ、だんだんその男の全容が知覚できるようになっていく。
口から血泡を吹き、シャツの真ん中から飛沫状に大量の赤黒い液体を染み付かせている。
そして陰で黒く見えていた虚ろな目は、近くで見ると血のように赤く染まっていた。
草十郎はその様子をじっと見ている。
なんらおかしいことではない。
ただ人が歩いているだけ。
ただその人の腹に風穴が空いているだけ。
ただその人が血を通わせずに動いているだけ。
頭に浮かんでくるのはそんな
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男が草十郎の目の前に立つと、肩を掴み口を開けて首元に顔を近付ける。首に鉄の臭いの染み付いた息が掛かる。
草十郎は為されるがままに、動かずじっとその様子を眺めている。
なんらおかしいことではない。
ただ食われるだけ。
彼の餌となるだけ。
ここで死ぬだけ。
外部から強引に入力されるような言葉。
頭の中で反芻させられる
ゆっくりと首に歯が押し当てられた。
表面の皮が引き裂けて血筋が一筋流れ落ちる。
ナイフの如く鋭く尖った歯はやがて肉まで到達し、首を噛み千切られるだろう。
間違いなど何一つとしてない。
夜の街での人殺しなど
ーー否、この状況は間違っている。
ーーあまりにも不自然に過ぎる。
常識に囚われたものであれば、浮かぶこともない疑問。
暗黙の了解なる固定観念への疑問を常に持っていた、草十郎だからこそ至った疑問だった。
どうしてここで、自分は⬛⬛⬛⬛なければいけない。
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「……あ」
声を絞り出す。
精一杯の抵抗も、その小さな一言のみに凝縮されてしまう。
あまりにも些細で無意味な抵抗。
しかし、その言葉にもならない一言は怪奇への侵攻の手を鈍らせた。
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…………!!
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息を呑むような気配と共に、呪文の詠唱が途絶える。
瞬間、靄のかかった思考が僅かに晴れた。
「……! はっーー!!」
理性を取り戻すと同時に、草十郎はしがみ付く怪物を思い切り突き飛ばした。
息を大きく吸い込み、脳に酸素を送り込む。
予想外の抵抗だったのか、その人ならざる者はバランスを崩し、体をよろけさせながらその場で倒れた。
その隙をつき、草十郎は背中を向けて逃げ出した。
※※※※
雲に覆い隠された月は顔を覗かせる。
姿を現した月は、地上の様子を見守っているようである。
現実を侵す異変に気付くことなく、街は明かりを灯していく。
草十郎は前に、この感覚を味わったことがある。
全てが捻じれ、異質な空間に放り込まれたような隔絶感。
何が起きているのか、詳細には理解できない。
だが、一つだけわかること。
これは触れてはならないものだ。
立ち止まれば、容赦なく怪に取り込まれる。生き残りたいなら、走り続けるしかない。
「はあっ……! はあっ……!!」
曲がり角を利用して、何度も右折左折を繰り返して後ろの怪物を振り切る。
後ろを振り向く余裕はない。実際、追いかけてきているのかどうかすらもわからない。
息が切れる。肺と心臓が悲鳴を上げる。
必死に逃げていると、前から人が姿を現した。
違う。
それは人ではない。
先程のとはまた別の者であり、同じ類の者。
草十郎は本能的に咄嗟に横に跳んで
眼の前の標的を空振りしたことによりその怪物の体勢が崩れる。草十郎は跳躍の勢いで横の塀の壁を蹴り上げ、エネルギーを保ったまま正面の怪物を飛び越す。
「ーーーー!」
その先にもそれらはいた。
見回せば、一人二人ではない。
四人ほどが草十郎を囲んでいる。
「くそっ! 一体、なんだっていうんだ!」
草十郎はこの異質な世の理不尽さに声を上げる。
一方的な捕食。
逃げ場は何処にもない。
巣に迷い込んだ哀れな羊は骨も残らず食い尽くされる。
それがこの歪な世界の
もとよりここは人が足を踏み入れるべき場所ではなかった。
考える間もなく、血に植えた獣の一人に草十郎は押し倒された。
抵抗は間に合わなかったし、間に合ったところで結果は変わらない。一人二人ならまだしも、常人の力ではちっとも及ばない。
甘い蜜に群がる蟻のように草十郎の上に次々覆いかぶさっていく。きっとさぞ楽しく入れ食いできるだろう。
「まったく。人助けとは、割に合わない」
しかしてそれらの食事は、一閃の風によって中断された。
草十郎に馬乗りになっていた怪物達は為す術もなく吹き飛ばされる。
怪物と草十郎の間を遮った人物。その人物は華麗な手
「あれは
そんなセリフと共に、尻餅をつく草十郎の前に立つ人影。
赤い布をはためかせる背を、草十郎は呆然と眺める。
「アーチ……」
そこまで言いかけて止まる。
アーチャーじゃない。
よく似た赤い布を持ってはいるが、目の前に立っているのはアーチャーとは似ても似つかないような人物であった。
詠唱のラテン語がおかしい、と感じられた方。申し訳ありません、作者ラテン語を知りません。だったら出すな、って話ですね。意味とか間違っていたら、訂正ください。と言いたいところですが、あえてふりがなを実際の文と変えているところがあるので、それも難しいですね。
気付いた方は、文法・用法の間違いとか、こういうこと言いたかったんだろうなあ、というのを想像して訂正を送っていただければ助かります(傲慢)