Fate/ Witch Of The Beginning   作:五櫛みとも

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 今回、情報が少なく独自設定マシマシで出してしまったキャラ設定等あるので、月姫リメイク出たら多々矛盾点が浮上するかもしれません。その時は陳謝します。それはそれとして早く月姫リメイク発売をーー(ここから何度も繰り返されたやり取り)



怪異の夜 後編

※※※※

 

 

 吸血衝動、というものは吸血鬼である限り逃れられない生理現象である。

 人が喉の渇きに苦しむと水を求めるように、吸血鬼も己の身を存続させるために血を求める。

 中にはその行いを嫌い、己の吸血衝動を理性で無理やりに抑えつける者もいるという話もあるが、通常の吸血種ならば身が持たない。或いは真祖と言われるものならば、吸血行為を行わずともかろうじて生きてはいけるかもしれないが、その忍耐力は並大抵のものでない。

 最低限の血だけで生きていくというのも難しいだろう。一度摂取してしまえば、求める欲求は際限がない。吸血という行いを承認できない本能に抗う者は、日々を己の内から湧き出る欲求の苦しみとの葛藤に費やしているという。

 

 

※※※※

 

 とある一棟のマンションの屋上。

 眼下に三咲町の街を見下ろす男がいた。

 

 空柩のキルシュタイン。

 彼を知る人々は、彼をその名で呼ぶ。

 しかし彼自身はその名で呼ばれるのをあまり好んでいない。

 

 彼の肩に鴉が羽を降ろす。

 野生のものではなく連絡係の使い魔である。さしずめ、伝書鴉といったところか。

 

「成る程。結局、第八秘蹟会も確たる証拠は掴めなかった、か。大英博物館も舌を巻く聖遺物盗品集団で有名なあそこ相手に尻尾を掴ませない、というのは立派ね」

 

 それはどこか悪意の籠もった言い方だった。

 

「聖杯も見つからなかったか。

 聖杯回収ができない、無聖杯戦争とはよく言ったものね。

 監督する者もいない、正体を知るものもいない。聖堂教会も手は出せないわけね。かといって管轄外だからってやりたい放題なわけでもあるまいに。サーヴァントが確認され次第、動き出すでしょう」

 

 情報を与えきった鴉は伝達の役目を終えると、羽根を広げて飛び立とうとする。それをキルシュタインは制した。

 

「ああ、ちょっと待って。丁度私の方の使い魔も戻って来る」

 

 そう言うと、彼は近くの蝙蝠を引き寄せる。掌上で羽根を休めた黒い蝙蝠は忽ち雪のように溶けていった。同時に、情報コードがキルシュタインの脳内に駆け巡る。

 

「ふんふん、街の一部を異界化させているみたい。人払いの結界に、二重に認識阻害暗示の結界まで重ねがけしてる。

 よほど用心深く準備してたのが功を奏して、魔術協会も聖堂教会も対応が遅れてる、ってところかしら。

 残念ながら、私の目は誤魔化せなかったみたいだけど」

 

 幾度か頷きながら情報を引き出していく中、蝙蝠の仕入れてきた情報の一つに眉を顰める。

 

食屍鬼(グール)……? これまた一体なぜこんなところに。まさか他の死徒が関わってるなんてことはないでしょう…?」

 

 鴉に確認するが、関連情報は持ち合わせていようである。

 

「いよいよもってきな臭くなってきたわね、この街」

 

 鴉にこちらの情報をインプットさせる。

 

「死徒が出た以上、聖堂教会も魔術教会も黙ってないでしょうね。埋葬機関も嗅ぎつけて、近い内にこの街にも❝代行者❞が来る」

 

 代行者にはいい思い出がなかった。盲目的な教えの下で鍛えられてきた、戦闘に特化した意思を持つ殺戮兵器のような連中である。

 もっともキルシュタインも、追いかけてくる代行者達に何度も煮え湯を飲ませてきた側ではあった。

 

 キルシュタインは目を凝らし、街の教会に目を向ける。

 

「この街の教会は何をしているのか。この異常に気付いてない筈がないのだけれど」

 

 そうして掴んだ情報を鴉に伝えている間に、彼は異変を察知した。

 

「まずい、動き出した。代行者に嗅ぎつけられる前に決着をつけるって算段っぽい。ちょっと急がせてもらうわ」

 

 もういいか、と言わんばかりに鴉はバッサバッサと羽ばたきを始める。

 

「ええ、さようなら。あ、それと最後に彼のところに立ち寄って『親愛なるミハイル・ロア卿、敬意を込めて』とでも伝えてくれる?」

 

 言伝(ことづて)を了承し飛び立っていく鴉を見送ると、彼も問題の発生元へと向かったのだった。

 

 

※※※※

 

 

 追い詰められた草十郎の前に颯爽と現れたのは筋骨隆々な男だった。

 白髪の角刈りに、鼻の下には白いカイゼル髭。厚ぼったい唇は自信満々に釣り上がっている。

 

「厄介ね」

 

 男は足を広げ姿勢を低く保ち、両腕を胸の前で交差させている。その構えはインドの武術、カラリパヤットとどことなく似ていた。

 

「人払いがなされた結界の中にフラフラ迷い込む貴方も貴方だけどねっと!」

 

 死徒が次々と姿を現す。

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛ーーーー!!

 

 死徒達は声帯の潰れた声を上げる。

 それは人に非ず、血に飢えた獣の咆哮。

 

 男の手から放たれた赤い布は次々と死徒を包み込んだ。

 白髭の男が布越しに触れる度に、内部が瞬間蒸発する。

 

 包み込むものを外界と遮断させ、魔力を増幅させる聖骸布。

 本来の用途としては術者を護るものだったが、キルシュタインはそれを攻撃の手段として使っていた。

 布が包みこむ鉄壁の護りは、相手を閉じ込めれば逃げ場のない地獄と化す。密閉空間で一斉に浴びせられる魔力波は、対象者を蒸し焼きを通り越して霧にする。死から遠ざかったグールに死の性質を付与させる対処法の一つである。

 

 そうしてあっという間に、最後の一体を処理する。蒸発したかつて有機物であった赤い霧と共に、隙間から死にかけの蟲が一匹這い出してきた。間もなくそれの体も崩れ、白く干からび灰となって風に吹かれていった。

 

「蟲? そう。だんだんバックが掴めてきたわ」

 

 赤い布を回収すると、男は草十郎の方へ向き直り、中腰でかがみ込んだ。

 

「大丈夫だったかしら?」

 

 手を伸ばすが、草十郎はその手を借りることなく自力で立ち上がる。

 

「あれは人、だったのか?」

 

「正しくは人だった者ね」

 

「さっきのは人殺しってことになるのか?」

 

 その素っ頓狂な発言に男は思わず吹き出す。

 

「面白いこというのね。あれを人だと? どう見たって化物よ。殺されそうになったのは貴方じゃない」

 

「それでもあまりいい気分じゃない。無益な殺しをするのはあまり好きじゃないんだ」

 

「でも貴方は生き残りたいでしょ? 違う? ならこちらが強者となって倒すしかないのではなくて?」

 

「確かに自然は弱肉強食だ。だけどそれは生きるためだ。強い者が弱い者を蹂躪していいというのとはちょっと違うと思う」

 

「気難しいのね。それとも、まさかあたしを警戒してる? こちとら命の恩人なのよ?」

 

 からかうようにして手を差し出す。握手を求められたのはわかるのだが、それを握ることは気が進まなかった。

 

 

 

 ーー瞬間、キルシュタインの首元にナイフが飛んでくる。

 

「っっ!!」

 

 咄嗟に、キルシュタインはそれを弾く。横目にコンクリートの地面の上に落ちた得物に目をかけた。

 

 (黒塗りのナイフ……!)

 

 続いて二投、三投。

 毒への警戒から器用に刃に触れないように弾く。

 闇の中で蠢く影は位置をずらしながら、次々とナイフを投擲していく。

 

 (くっ! 気配がないせいで、位置が掴みづらいったらない!)

 

 上下左右から迫り来る刃物を次々と弾いていく。

 目を凝らして投擲者の位置を掴もうとするがなかなかうまくいかない。

 暫く猛攻が続いたが、埒が明かないと判断したかナイフの攻撃が止み、再び静寂が取り戻された。

 おそらく次なる機会を狙うためであろう。或いは、宝具展開の準備かもしれない。通ずるかどうか疑問ではあるが、ここは発破をかけるべきだと判断した。

 

「闇に紛れるその闘い方。そして完璧な気配遮断スキル。アサシンのサーヴァントとお見受けしたけれど、どう?」

 

 闇は答えない。ただ黙って聞き耳を立てる。

 

「闇に紛れて身を隠そうとも、闇の世界で生きてきた私には効果は薄い、とだけ忠告しておくわ」

 

 

 ーーーー貴様、死徒か。

 

 

 どこからともなく声が響いた。

 

 一筋の汗が滴り落ちる。

 何かしらの宝具を仕掛けてくるとしたら、キルシュタインとて対応しきれない可能性が高い。アサシンはサーヴァントの中でも純粋な戦闘力は高くないと聞く。しかし英霊ともなればどのような宝具を持っているかは未知数である。人の身でない彼とてサーヴァントと対等に戦うことが可能なのか。

 

 

 ーーーー相手が死徒と知ったならば、こちらも全力で向かわねばなるまい。

 

 

 来る。

 聖骸布を構え、体内でありったけの魔力を練り上げる。おそらく全力で向かわねば一瞬でこちらがやられる。全盛期から衰えた力で果たしてどこまで打ち合えるか。

 

 と、そこで僅かに結界に歪みが生じた。同時に小さい地震が起きる。

 

 

 ーーーーふむ、未だ安定せぬか……。

 

 

 一瞬、闇の中から白い髑髏の面が浮かび上がる。

 宝具発動の予備動作として姿を現したわけではなさそうだった。

 

 

 ーーーーここが頃合いだな。

 

 

 そんな声が響くと、深追いする気はなかったのか、アサシンと思しき影は去ったようだった。

 

 サーヴァントがいなくなったのを確認したところで、ようやくキルシュタインは安堵に一息ついた。

 

「ありがとう、でいいのかな」

 

「お礼なんていい。余計な犠牲者を出されて、埋葬機関連中に補足されるのはこちらも避けたいところだったから……。あいつらに見つかる前に、先にこっちでの仕事を済ませとかないといけないしね。

 まあ、もう手遅れかもしれないけど」

 

「そうか、仕事か。大変なんだな」

 

 意味は解っていないが、とりあえず相槌を打つ草十郎。

 

「人づてに頼まれててね。普段親しくさせてもらってる人を通してのものだから断れなかったのよ」

 

 手を左右に広げながらやれやれと首を横に降る動作は前に木乃実から貸してもらったビデオで見た、インド映画のワンシーンのようだった。

 

「そこで貴方に一つ聞きたいことがある。これはあたしの仕事の一つなのだけれど」

 

 戦いから開放され会話で取り戻した朗らかな表情とは打って変わって、男は再び殺意の籠もった鋭い顔になった。思わず草十郎の背筋に寒気が走る。

 

「貴方、エミヤという名に心当たりはない?」

 

「……エミヤ? 人の名前か?」

 

 突然の男の豹変に警戒しつつ、聞き覚えのないワードに眉を顰ませる草十郎。

 その様子に追撃するように真っ直ぐ目を見て男は問うてくる。

 

「そう。知らないのね?」

 

 その瞳に映されると、なんだか吸い込まれるような浮遊感に包まれた。草十郎はどこかぼんやりと答える。

 

「心当たりはないし、全く聞いたこともない」

 

 蛇に睨まれた蛙のように、草十郎はその眼に視線を縫い付けられる。

 暫く顔を向き合わせていたが、溜息と共に男は目を逸らした。すると、草十郎の緊張感が一気に解けた。

 

「本当のようね。知らないならいいの。手間をかけさせたわ。じゃあ、ちょっとじっとしてて」

 

 聖骸布を手に巻きつけると、男は額に手を伸ばしてくる。

 草十郎は断ることもできずに呆然と眺めることしかできない。

 その指を額につけようとしてくる動きは、目の前の青年の記憶を消すための予備動作であった。

 

 かつて死徒キルシュタインは、触れたものの性質を変化させる能力を持っていた。

 しかしそれも過去の話。今ではその力もすっかり衰えている。聖骸布を使わなければ、今の彼は死徒と呼ぶにはあまりにも脆弱であった。それでも全盛期を過ぎた彼とて記憶消去くらいはできる。

 

 手が額に触れようとする直前、草十郎は気がかりだったことに気付き口を開き声を上げた。

 

「ああ、そうだ! 俺は大丈夫だったけど蒼崎と有珠が心配だ! あっちの様子ってわかったりするかな? あの二人が無事ならいいんだけど。って、名前言われてもわからないか」

 

 男は眉を顰め、ピタリと手を止める。

 

「アオザキ……?」

 

「うん。知ってるのか?」

 

「思えば、ここはアオザキの管理地内だったわね。なるほど。最新の魔法使いが。ということは、今回の件も辻褄が合ってくるかも」

 

 男は手を引っ込めると、ぶつぶつと独り言をし始める。

 

「おーい。どうしたんだ、急に」

 

 突然顔を上げたかと思うと、草十郎は()め付けるようにジロジロと身体中を観察される。どこか値踏みをするようなその視線に草十郎は少し怯えを覚えた。

 

「魔術師には見えないけれど。あなた、ただの一般人ではないというわけ」

 

「いや、俺はいたって普通の善良な一般市民だぞ」

 

 草十郎は無実を証明するように、顔の前で右手をぶんぶんと振り回す。そのどこか間抜けな所作に男は少し笑ってしまった。

 

「ありがとう。あなたのお蔭で思わぬ収穫があった。お礼と言ってはなんだけど、あなたにはおかしなことはしないであげる。

 まあ魔術師でもない私が秘匿とか厳守する謂れもないしね。魔術刻印を遺していくでもないこの身。日々の余生を過ごすだけといったところ。ま、これでも二十七祖への道は諦めてないけど」

 

 男は星が出そうな華麗なウインクをする。別の意味で草十郎に寒気が走った。

 

「あ、そうだ!」

 

 男は手をパンと鳴らすと、なにか思い付いたようで「ちょっと待ってて」とだけ言い残して急いで何処かへ行く。

 やがて、何かを抱えて超人的な足の速さで戻ってきた。

 

「折角だから巻き込んじゃったお詫びとしてはなんだけど、これあげるわ」

 

 渡されたのはパンパンに張ったレジ袋。中には調味料類が多く入っているようだった。

 

「えっと、これは……」

 

「アタシが今晩作ろうと思っていたお夕飯のカレーの材料。実はお買い物の帰りだったのよ。それらがあれば、きっと最高のカレーが出来上がるわ」

 

「カレー……」

 

「カレーは最高の嗜好品よ。吸血鬼が血を渇望するように、私の体はカレーを渇望するの。カレーの味を知ってしまったら、血なんて飲めたものじゃないわ。貴方もカレーの魅力に溺れるといい。

 それじゃ用も済んでカレーを渡したことだし、あたしはここで」

 

 本格カレーセットを渡してどこか冗談めかすように語った後、男は去ろうとする。

 

「待ってください。あなたは一体……」

 

「そうね……。カレーの伝道師、カリー・ド・マルシェ。そう呼んでくれて、よくってよ」

 

「なんだかカッコよくて美味しそうな名前だ!」

 

 カリー・ド・マルシェ。それが今の彼が名乗る名前。

 死徒としてのキルシュタインでなく、ただ一人のカレーを愛する者。血を吸うことを最小限に抑えることを心に決めた日に自身に名付けた、冗談のような名前だった。

 

 カリーは癖なのかまたウインクを一つすると、素早く屋根に飛び移り闇に消えていく。

 

「ふむ、おかしな人だったな。結構慣れてきたものだと思ってたけど、やっぱり都会にはまだ俺の知らないことがいっぱいあるんだな」

 

 レジ袋を片手に帰路に就く。

 魔術師や吸血鬼という聞きなれないワードを気にすることもなくなり、むしろ青子と有珠のせいでそれらも馴染み深いものとなりつつある。そのためか、今の状況にも草十郎はどこか気の抜けた認識であった。そこが彼の長所であり決定的な短所であることに、彼自身はこれから先も気づくことはないだろう。

 

「それにしても、今日は色々な人と出会うな」

 

 その後、捜索していたアーチャーに見つけられたのは、カリーと別れて暫くした後のことだった。

 

 




「ああ!カレーが呼んでいる気がするわ! 近い将来、青髪武装法衣ガールにカレーの素晴らしさを伝えなければいけないと、私の中のゴーストが囁いてるう!」

 という訳で、きのこの虚言から生まれたという裏キャラのカリー・ド・マルシェさんです。
 月姫のシエルをカレーの住人にしたのは彼が原因だとか。シエル出さずにこっち出すって、カレーファンに喧嘩売ってますね。あれ?

(間違い等ありましたらご指摘ください。感想や評価もお待ちしております…)
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