生きる時間   作:滝翔

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特別授業一時間目 磨兒子義子

進学校【椚ヶ丘中学校】に通う引きこもりの中学三年生 磨兒子義子(みがにしよしこ)

理事長浅野學峯(あさのがくほう)に呼び出されていた

 

「君は二年の後半から学校に来ていないみたいだね……」

 

「…………」

 

「大事な時期を無駄にしているとは思わないのかい?」

 

「…………思いません」

 

その一言を聞いて理事長は軽く溜息を吐く

 

「本来この時期にE組に行かせたくないのだが 成績は目を疑う結果

競争社会に置いての挽回させる為の言葉が何一つ浮かばない酷さだ」

 

浅野は席を立ち

磨兒子を素通りして背後に立った

 

「なのに君の目は死んでいない 引きこもりだった自分が強者だとでも思っているのかね?」

 

「…………」

 

その真っ直ぐに自分を見つめる磨兒子に浅野は冷たい目線で見つめ返す

 

「是非教えて頂きたいものですね

学ばなければいけない 人生で二度と無い中学という学業を怠りながらも見せるその眼差しの意味を

私はあなたを貶める気は無い だが………」

 

「もう結構ですよね?! 失礼します」

 

そう言ってE組行きの書類を手に取ってその場から出て行こうとした

そこに浅野のトドメの一言が飛ぶ

 

 

「入学当初からの君を 私は名前しか知らない

そして今の会話が第一印象とするならば 君はただ逃げているだけの敗者だ」

 

「っ………!!」

 

「酸いも甘いも完璧に熟知してきた私にとって君が見せたその目は屈辱以外の何物でも無い

大人をそんな目で見るものではないよ

功績の一つも持ち合わせていない人間は社会で一番初めにつまみ出されることを覚えておくんだね」

 

扉を思いっきり閉められ

一人残された浅野は机の上に置かれた冷めたコーヒーを手に取る

その浅野の背後からうねる黄色い触手

 

 

「相変わらず理解出来ない趣味だ……」

 

「ヌルッフッフッフ~~~ これまた面白い問題生徒がいたもんですね~~」

 

「えぇ……… 同情しますよ

あの生徒は同学年のどの生徒よりも劣っています さすがのモンスターも手も足も出せないのでは?」

 

「ご安心を! 私は触手で語る教師ですので!!」

 

「相変わらずの斜め上からの返し文句ですね あの生徒と十分釣り合いますよ」

 

「それは良いことを聞きました 思いの他地球を一周するよりも早く馴染めそうですね~」

 

そう言って黄色い怪物は

さりげなく浅野の持っている冷めたコーヒーをイタリアから現地直送で取り寄せた

エスプレッソローストを挽いてミルクを注いだカフェ・ラッテにすり替えて出て行った

 

「…………スターバックスで適当に買ってくればいいものを 相変わらずおかしな生き物だ」

 

窓から見える景色を眺めながら 浅野は挽きたてのエスプレッソをすすり物思いにふけていた

 

 

 

 

 

校門を目の前に鞄を肩にかけて帰る磨兒子は

誰からも注目されず ただ一人寂しく帰っていた

 

ーーあぁムカつく…… ムカつくムカつくムカつく!!!

少し上手くいっただけの天才が 人種が違うだけの人間に偉そうに語ってんじゃねぇよ!!

 

ただ一点の憎悪だけを抱きながら駅へと向かう彼女は

駅の階段を無意識に駆け上がっていた

 

ーーだいたい私怠けてないし やりたいことに努力を費やしてきたし そこんところも理解してないのに大した口並べやがって……

 

理事長の顔を思い出しては妄想で罵き倒す磨兒子は

不運にも階段の段差を変に踏んでしまった

 

「えっ…… 」

 

そのまま後ろに倒れるのかと目を瞑る磨兒子の手を小さく暖かい手が掴まえた

 

「良かった…… 大丈夫?」

 

「…………」

 

その手が離れて初めて助けてもらった人の顔を見ることが出来た

 

「君も僕と同じ中学校だね」

 

「え?」

 

「制服同じ……」

 

「あぁ」

 

こういうときにはお礼を言わなければならないことなど解っている磨兒子

慣れてない 家族以外の人に久しぶりに気持ちを伝えようと口を開こうとしたとき

 

「渚くぅん 何してるのぉ?」

 

「業君! 今行くぅ! …………じゃぁ僕は行くから 気をつけてね」

 

 

「あぁ……… うん」

 

 

ーー言いそびれてしまった

でも同じ中学だし 本校舎で会えるだろう

 

助けてもらった男子生徒達とはあえて別の車両に乗り込み

電車に揺られながら家へと向かう磨兒子はふと気付いた

 

 

ーーあぁそうか……… 私 明日からE組に通うんだった

 

 

理由はただ出席日数を稼ぐだけ

部活も入らないでいいし 勉強もつまんない先生の話をただ聞いてればいい

周りもどうせ同じ低レベルの生徒が集まっている場所なんだから楽しくやれるだろ

気になるのは書類の最後に文字がびっしり書かれた意味不明な文だが 無視で

 

 

 

ーー今日はゼガキンが動画上げる日だから早く帰らなきゃ……

そういえば好きなゲームアプリの面白い対戦動画も昨日見つけたんだよな~~

 

 

 

向かう先に待っている実感できる楽しみに心を躍らせる

これから待ち受ける非現実的な暗殺教室が待っているなど想像もしていないだろう

 

 

 

 

 

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