生きる時間   作:滝翔

11 / 33
特別授業十一時間目 親の心情

肌寒い夜風も忘れ

殺せんせーは義子に起こった出来事を打ち明けられた

 

「にゅ~~………」

 

「アハハ…… ごめんね先生 こんな長話に付き合わせて」

 

「謝る必要はありません ただ七時から見たいテレビがあったので録画してきたかどうか不安になってきましてねぇ」

 

「…………敵わないなぁ 先生には」

 

義子はブランコから飛び降り

殺せんせーの方を向いて手のひらを見せる

 

「じゃぁ私もう帰るわ! トマト牛乳パスタとコーヒーご馳走様でした」

 

「ヌルっフッフッフ! 夜道は危険ですから自宅まで送りますよ?」

 

「すぐそこだし大丈夫よ それに男に住所知られたくないしね」

 

手を振りながら帰っていく義子

それを見送る殺せんせーはただ無表情の黄色い顔だった

 

家に帰って来た義子を出迎えるは父親だった

 

「こんな遅い時間に…… 何処行ってたんだ?」

 

「別に…… ファミレスで勉強してただけだけど? 悪い?」

 

靴を脱いでそのまま二階へと真っ直ぐ向かう娘

 

「義子…… ご飯はぁ?」

 

「食べて来た」

 

足を止めずに上り続ける姿を二人は下から見つめることしかできなかった

 

「さっ! お父さん ご飯食べましょ?」

 

「…………」

 

当たり前になってしまった夫婦だけの夕飯

目の前にだけ座っている愛する者との食事はけして苦ではない

しかし いつしか生まれたもう一人の家族との楽しい夕飯を築いている

そしてそれが突如無くなったことで会話のない二人だけの冷めた食事になっていることに母親と父親は気付いていた

 

そんな中 気まぐれ中の気まぐれに父親が母親に会話を持ちだした

 

「義子は…… その…… 学校に行き始めたのか?」

 

「えぇ…… 復学してくれたわよ 久しぶりに作る弁当も新鮮でいいわ!」

 

「………噂に聞いたんだが 〝E組〟って場所に行ったらしいな 落ちこぼれが集まる」

 

「ちょっとあなた! 義子に聞かれたらどうするのよ!」

 

「俺は自分の娘を落ちこぼれなんて思っちゃいない! だが社会は正直だ 一度付いたレッテルを剥がすことなど父親の私でもできないことがある」

 

「あなた………」

 

「近い内に会社に退職願いを出してくる

私達は大人になってから都会に進出してきたから慣れることが出来たが 義子はそうじゃなかったのかもしれない

学生の間でも競い合う過酷な環境はむしろ都会では一般的だ しかも義子が通う学校はあの椚ヶ丘中学校

田舎に帰ろう…… 湖遙(こはる)!!」

 

「ちょっと待って! そんな急に」

 

「急じゃない! むしろ一年も様子を見てきたんだ 高校くらい真剣に取り組められるよう ちゃんと俺達が用意しようじゃないか」

 

義子の父親はネクタイを解いてバスルームに向かおうとしていた

 

「待って! 義子の意見を聞いてやって!」

 

「親に相談できないから部屋に逃げるしかできないんだろう?

俺はあいつのことならわかっているつもりだ ……父親だからな」

 

「そんな無責任な………」

 

「早いとこ転校の手続きをしといてくれ…… 帰ったら帰ったで田舎に慣れることも始めなきゃいけないしな」

 

風呂場の戸は閉められ湖遙は言い返すことを止めて台所へと戻っていった

二階の部屋にいる義子は扉を開けたままにしたせいで話の全てを聞いていた

 

「慣れとか…… そういうのじゃ……」

 

此乃葉の件とはまた別の新しい刃物に刺されそうになる義子は急いでヘッドフォンをかぶり

画面の奥の世界へと逃げていった

 

 

翌日

学校に行くことより行かないことが常識の義子は昼食を済ませてから即座に二階へと向かう

またいつのもの様に戻ってしまった母湖遙の顔からも笑みが失われる

 

ゲーセンに行くのも怖くなってしまった義子はただひたすら部屋の中で遊ぶことを考えていた

 

「ダウンロード~~ ダウンロ~~ゥド~~ 店行く必要無い無いナイン!! 今日はKTQ9をするんだよ~~」

 

ポテトチップスとコーラを手の届く場所に置き ゲームのダウンロードを待つ義子

気長に昨日録画していたバラエティ番組を見ながらポテチを頬張っていた

ふと立ち上がる彼女は部屋に配置されてる冷蔵庫からカップ麺を取り出して一階から沸いたお湯を注ぐ

 

「太るカップに太るポテトを入れたらどうなるの~~ プラスとプラスはプラスでお腹を満たすサプライズ~~ つゆが無くなる前にぃ ポテトをベッチャベッチャだ ぬらべっちゃ~~!!」

 

「ヌルっフッフッフ………」

 

 

「…………」

 

 

適当に歌って舞い上がる義子が見た窓には無数の黄色い触手が張り巡らされていた

 

「ギャァァァァァァ!!!」

 

「にゅやぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ギャァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

「にゅやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「義子?!!」

 

 

下にいる湖遙は義子の悲鳴と共に急いで二階を駆け上がった

ドアを何回もノックしてようやく義子が出てくる

 

「大丈夫義子?!」

 

「あぁうん! 大丈夫大丈夫! 不意打ちでゴキブリが出てきてびっくりしただけ」

 

「別の…… にゅやって声も聞こえたんだけど?」

 

「そ…… それはぁさ…… 映画だよ映画!! 先週の金曜に録画してた〝宇宙人(うちゅんちゅ)トレック!〟

沖縄出身の兄弟が宇宙に行ってゴキブリの怪人に襲われる名シーンに……

こう「()ぃやぁぁぁぁぁぁん」って叫ぶシーンがあってそれだよ……! それだね!!」

 

「ふぅん……… まぁ何も無くて良かったわ」

 

なんとか説得出来た義子は額の汗を腕で拭き取り 屋根にいる殺せんせーに声を掛ける

 

「私はゴキブリ扱いですか!!!」

 

「窓の向こうが黄色い世界でびっくりしたわよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。