屋根の上に待機していた殺せんせーを窓越しに迎え入れ
景色を覆う超生物の触手にはコンビニから買ってきた数袋を手当たり次第漁っていた
「それで…… 今日は何のようですか? っていうか授業は大丈夫なんですか?」
「今は昼です そして磨兒子さん…… クラスに戻ってくれませんかねぇ~~」
「やっぱそれか…… もういいよ先生 私には私なりにやりたこと決まったし それに……」
「ほぅ…… やりたいこととは?」
ガリガリ君ナポリタン味をバリバリ食いながら顔を寄せていく殺せんせーに
義子は引き気味だけど言葉を発するときはちゃんと彼との目を合わせて言った
「漫画を書くことよ……」
「ほほぅ…… 磨兒子さんの漫画への愛は昨日確認できましたからね」
「あとアンスタやハガレッタ-で急上昇ランキングとワードで一位を取ること あとラノベも書いてるし YOUTUBERも最近始めてみた」
「にゅっ! 随分と色んなことに挑戦しているんですねぇ………」
「まぁ全部中途半端で全然人気なんて取れてないんだけどねぇ」
俯く義子を見るガリガリ君シチュー味を頬張る殺せんせーは当たり棒に喜んでいる
「しかしどれも言ってしまえば博打ですからね 進み行く目的地に業界と名が付くなら誰しもその世界で必死に刃を磨くものです」
「……………」
「あくまで趣味…… されど自分の趣味です 中途半端なんて自身に思い込ませてはいけま…
おおっとぉぉ!!? 昼休みが終わりそうなのでまた放課後に来ます ではぁぁぁぁ!!!」
ガリガリ君コーンポタージュ味を口に咥えて颯爽と中学校がある方向へと飛んでいった
カーテンと共に髪が靡く義子は風の行方を追って後ろのゲームのダウンロード終了の文字が表示されたテレビ画面を見て
自然にコントローラーを握りしめてコーラを飲んでいた
ーー本気なんだけどなぁ…… でも正論か……
これから始まるストーリーを頭に入れることができない彼女はただ手を動かすだけで先生の言ったことについて考えていた
気がつくと時間も進み 窓の向こうは真っ赤な夕焼けに染まっていた
義子は両腕を前に伸ばしゲームの電源を切ってふと窓を見る
「また黄色い世界だ………」
窓を開けて殺せんせーを招き入れると
「ヌルフフフフ! 今日はななな なんと! 助っ人を呼んできました」
白い布で窓を覆い隠し 何処からともなく音楽が流れ出す
「ウフフ…… 〝この漫画は伊達じゃない!〟
そこにジャンプが落ちていれば 読まざるを得ないのが世の常よ
E組特殊キャラクターの一人 不破優月只今参上」
布の先には堂々と屋根の上に立つE組のクラスメイト不破がポーズを決めていた
「えっと………」
「昼間に自信なさげだった磨兒子さんによりやる気を出して貰うため その手の業界のスペシャリストに来て頂きました」
「スペシャリストって…… 中学生だよね?」
後ろに後ずさりする義子に不破は律儀に靴を脱いで部屋に入ってきた
「一度やってみたかったのよねぇ…… 窓越しの初登場
こんな狭い世界から始まる壮大なストーリー…… みたいな?」
「あ…… ちょっとわかる」
「てな訳で磨兒子さん さっそく載せてる動画見せてよ」
「えぇ…… 恥ずかしいなぁ……」
照れて目を反らす義子を見た不破は今までとはひと味違う雰囲気を醸し出した
「磨兒子さん……」
「は…… はい!」
義子は威圧に逆らわずに手際よくパソコンに自分の配信していた動画を見せる
「…………」
「…………」
「にゅ~~~………」
狭い部屋に三人もいるのにも関わらず沈黙が続く
不破は次々と動画を覗きこみ 気がつけば辺りも暗くなっていた頃にやっと不破の口が開く
「つまらないわ!」
「「 エー------!!!! 」」
「はっきり言うと前に見せて貰った殺せんせーの面白動画並につまんないわ 見てるこっちが恥ずかしくなるレベル!!」
「「 すごくはっきり言ってきたぁぁぁぁぁ!!!! 」」
驚く義子と流れ弾を受けた殺せんせーは致命傷を受けたが如く床に崩れ落ちる
「まず磨兒子さん! 今言ったけど〝見てるこっちが恥ずかしくなる〟というコメントは大体配信者自身が恥ずかしがってやっているからよ!」
「っ………!!」
「あなたはまだYOUTUBERとして日が浅そうだから仕方ない でも変な方向に手応えを感じてしまわない内に教えておきます」
「ハ… ハァ…… じゃぁ不破さんはもうプロレベルだったりするの?」
「私? プロってまではいかないけど………」
そういって不破は自分の上げている動画を検索して二人に見せた
タイトル:フワフワTV 無類の漫画好きが歴史上の様々な未解決事件を紐解いてみた
『フワフワハローユーチュ~~ブ!!
どうもフワフワ子でぇす!
今日はあのジャック・ザ・リッパーに関する未解決事件をこのフワ子探偵が謎を解いていきたいと思います
そうそうあの切り裂きジャックだよ~
まずは最初の被害者のメアリー・アン・ニコルズから』
そこには練習を重ねたであろう努力が滲み出てくる様な彼女のたゆまぬトークセンスと熱意が画面の向こうにあった
「いつも人気の配信者を見てるけど…… 改めてすごい……」
「にゅぅ! あまり目立たないですが不破さんはE組の中でも総合的に成績上位ランカーですからねぇ
この一本の動画の中でも探せば探すほど見つかる動画の工夫や台詞に魅力を感じますねぇ」
「作り込まれている漫画ほど面白いでしょ? 元ネタの関連性や読み返しを逆手に取る伏線なんてもう…… 完成が見えてくればくるほど燃えてくるのよぉ!!!!」
「「 も…… 燃えているぅ! 」」
「てか逆に先生はどんな動画上げてたの? 人より超人だし絶対大勢の人が興味湧くと思うんだけど」
「そっ…… それは義子さん…… あのですね……!」
殺せんせーがあたふたしている間にも不破は検索を始めていた