「ごめん! ごめん! 帰らないで磨兒子さん!!」
「…………」
周りが引くくらい全力で逃げる義子の片腕を不破は必死に引っ張り戻そうとしている
「寺坂が逆に変人になってしまったね」
「うぅっ……! うるせえぇ!!!!
なんだって俺がこんなことしなきゃいけねぇんだよ!!」
「磨兒子さんが怖がっているんだから 緊張を解く方法としてはこれが最善なのよ」
寺坂組のヒロイン狭間綺羅々が寺坂の陰で不気味な笑みを浮かべる
「とりあえず揃ったってことか?
時間も時間だし 昼飯作ってきたぞ」
村松拓哉が自分で作った全員分のラーメンを配りにやって来た
一緒に手伝う吉田大成 そして奥で既に作業を始めている堀部糸成
なんと竹林
そしてあの渚 茅野 杉野 神崎さんのメンバーもいた
「あっ……」
義子はつい目を反らす
「磨兒子さん!」
「………大丈夫なの?」
「「「「「 ………… 」」」」」
「期末テスト控えてるんでしょ? 皆こんなことしてていいの?」
こんな質問して結局傷つくのは自分だってわかっているのに
視線が集中する恐怖を受け止められない義子に杉野は
「バッカでぃ! 息抜きだよ 息抜き」
「えっ!?」
「磨兒子さん文化祭参加しなかったでしょ?」
「狭間さんの脚本半端なかったもんな」
『 観客の食いつきはある意味100%でしたね! 』
「うぉ!」
義子の懐から声がした
「スマホから………?」
『初めまして磨兒子義子さん! 私は自律思考固定砲台と言います 皆さんからは〝律〟と呼ばれています』
「え………? 会話が出来るの?」
『はぁい!! もしもお困りなときは全身全霊でサポートさせていただきます!!』
画面の奥で陽気に話しかける美少女 何気にテンションが上がる
「それじゃぁさっそく始めましょうか」
「最初って何やるの?」
義子が聞くと不破が台の上を指した
「そんな細かい段取りは無いよ! とりあえず台本あるから読んで!」
「わっ……! 本格的だ」
パッと見ただけでわかるプロの文体
台本から放たれる狭間のどす黒いオーラがシナリオの完成度の高さを物語っていた
「これって浦島太郎…… なの?」
「まぁ大体感覚は追々わかってくるから」
全員が素早く位置に付き 不破が監督のように座りメガホンを持って合図を出す
義子はカチンコを鳴らす
:浦島太郎
律『むかしむかし ある村に誠実な若者がおりました
いつもの釣り具を担ぎ 漁に出向く彼は今日の分の食料を確保して帰る途中』
「やめて下されぇ~~」
『亀(渚)です
大勢の子供のまま育った大人達(寺坂・村松・吉田・堀部)に虐められています』
「ちょいと君たち いい歳して…… おやめなさい」
『浦島(杉野)は自分が釣り上げた魚と現金を彼らに渡し 亀を救出』
「もう捕まるんじゃないよ」
「ありがとうございます ぜひ竜宮城へとご招待させて下さい」
ーーここまで順調だね
不破の隣で見守る義子
しかし 狭間の脚本は原作通りにはいかない
「いいえ…… 明日も仕事がありますので結構です」
『浦島は亀のお誘いを振り切り 家に帰って行きました』
ーーえっ?!
『亀は一人寂しく竜宮城に帰ります』
「あなたを助けた恩人をここへお連れできなかったと」
「はい…」
『乙姫(神崎)です せっかく助けてくれた浦島をなんとしても竜宮城へ招き入れようとします』
「………豪華な食事! 幻想的な内観! 何より美しい妾がいると伝え ここに連れてくるように!」
「はっ…… はい」
『強引で傲慢な乙姫の命により 亀は今一度陸に上がり浦島を捜します』
「おや亀さん! こんな所にいたら また悪い連中に酷いことをされますよ」
「浦島さん! この前の助けてくれたお礼に竜宮城へ来て頂けませんかね……」
「そんな昔の事を… 覚えててくれてたんですね ですが私は妻と子供を養わなければならない身ですので すみません」
『浦島はまたも亀のお誘いを断り 帰っていきました
このことを乙姫に伝えると乙姫は金切り声で叫び出します』
「あぁなんで…… なんであの人は来てくれないの?! 知りたい!! お話したい!! なんとしても連れてきなさい!」
『亀は何回も陸と竜宮城を往復することに不満を抱きながらも海を泳ぎ やっとの思いで陸に上がる』
「浦島さん……」
「亀さん?! どうしたんですか? 酷くやつれてますが……」
「浦島さんも老けましたね…… 乙姫さんのとこへ…… 竜宮城へ…… 来て頂けませんか?」
「…………ごめんなさい 明日は息子の大事な祝言なんですよ」
「そ……… そうですか……」
『またも断られました 亀はしぶしぶ帰ろうとすると』
「もしかして…… 今までずっと海を行き交いしていたのかい?」
「………」
『亀は泣きました 彼に伝えるために必死に海を泳いできたことを理解してもらえたことに
そして乙姫の理不尽な命令に不満を持っていたことを浦島に話しました』
「パワハラだ!!」
『浦島はとある箱を亀に渡しました 乙姫に届けるようにと
竜宮城へと帰った亀はさっそく乙姫に例の箱を渡しました
少しでも彼の事を知ることが出来るだろうと 乙姫は躊躇無く箱の蓋を開けると
そこには一通の手紙と手鏡が入っていました』
〝乙姫様へ
私にお会いになろうという気持ち とても嬉しかったです
ですが私とあなたは赤の他人 実際に会ったことも無い人間を想い続けるということは
最悪 一生会えないかもしれないということを分かって下さい
この長い年月で私は妻を娶り 子供を授かり この手紙を書いた明日にはその息子が祝言を挙げます
私は当分竜宮城には行けません 孫の顔を見るまでは
やるべきことを全て成し終えたら その時は 是非お会いしましょう
それまではお互い 目の前の大切な者を見守っていきましょうね〟
『手紙を読み終えた乙姫は箱に入った手鏡を手に取って覗く
そこには永年の月日を過ごした老婆の姿が映っていたのだ』
「いつの間にか…… こんなにお婆ちゃんだったのね」
『乙姫は我に返り 今までの空白の時間を嘆いた』
「亀…… あなたには随分酷い労働を課せてましたね」
「乙姫様……」
「今度は私が自分の力で会いに行きます あなたも私が連れて行きますので」
「はい!」
『乙姫は両手を広げるとその姿は鶴へと変わり 両足で亀を掴むなり海中から大空へと羽ばたいた
浦島太郎は家族に看取られて既に墓の下で永遠の眠りにつき
お盆の日には彼の墓の上で亀を乗せた一羽の鶴が大空を舞っていたという』
おしまい