皆と別れて家に帰ってきた義子は台所にいる母親から呼び出された
「義子…… 話があるの」
「………」
義子には分かっていた おそらく田舎に引っ越す話だろうと
そこには早めに帰ってきた父親も座って待っていた
「最近…… E組はどう?」
「…………楽しいよ」
「………そう」
「でも……… 田舎も良いと思うよ」
「え?」
義子の言葉に二人は驚く
「転校する話なんでしょ? 私は別に構わないよ」
「いいの? 義子」
「E組でも駄目だったのか?」
初めて口を開く父親に義子は大きめの声で否定した
「違う! E組の皆にはむしろ助けてもらったんだ……
趣味で盛り上がったり 同じ目標を持って立ち向かったり…… 本当に楽しかった」
「「 ……… 」」
「でも私はあの中ではやっていけないって思った
E組なんて言われているけど皆頑張ってたんだ
出遅れた私はなんか…… 場違いだってそう感じちゃったよ」
「そんなこと…… 義子だって頑張ってたじゃない!」
「お母さん…」
「動画とかSNSとか分からないけど 夜中遅くまであなたが何かしてたって知ってるのよ?」
ーー聞こえてたの?!!!
急に恥ずかしくなる義子だが
本題に戻そうと真面目な顔を崩さなかった
「田舎でも出来ることだし問題ない それよりも私は一からやり直したいと思う」
「此乃葉ちゃん…… だっけか? 友達と別れるのは辛くないのか?」
「………! …………別れは言ってくるよ」
「義子?」
様子が急変した義子を母湖遙は察した
義子は話が済んだかのように すぐに二階に上がっていってしまった
「やっぱり此乃葉ちゃんと何かあったのかしら?」
「高校に入ってから一度も家に来なくなったからな…… 何かあったとしたら無闇に聞けもしない」
「…………どうするの? あなた?」
「引っ越し準備は整ってるが?
友達の事か? それは私達にはどうにも出来ないさ!」
「そうね…… 難しいわね」
互いにお茶を啜る二人はただただ義子のことだけを考えるしかなかった
二階に上がった義子は部屋中を見渡した後 窓の方へと歩く
外から現れた殺せんせーやE組の仲間達のことを振り返っていたのだ
「思えば…… 不思議な体験だったなぁ~
黄色いタコの超生物なんてこの先二度と会えないな~
不破さんのような…… こんな私を助けてくれる人なんてそう現れないんだろうな……」
いつもならプレイするゲームも今日は興味が湧かず
風呂に入ってそのまま寝てしまった
ーー 本当に…… 楽しかった……
一週間後
引っ越し業者に荷物を預け終わると同時に 義子ら三人家族は永年住んでいた家を眺めていた
「これが見納めだ…… 出発するぞ義子」
「うん……」
ーー転校の話を聞いたとき
あの理事長は清々しく引き止めることすらしなかった
逆にE組では殺せんせーを始めとして一部の生徒達がお別れパーティーを開いてくれる始末
期末テストを控えている中 申し訳ないと思った
そして今日がその期末テスト当日である
「…………良かったなぁ! 義子!! テスト受ける前に引っ越せて!」
「えっ?」
普段の父親から らしくもない発言が飛んできた
「なんで?」
「ふふ! お父さんはこれでも昔は勉強が大っっ嫌いだったのよ」
「お父さんが?」
「ハッ八ッハ!!
勉強=青春なんて言う都会の連中みだいなわさぁ…… ほとんどいねぇべな!」
「うわっ! すんごいナマり」
「んだどもぉ 義子も羽伸ばせ」
「…………うん」
窓の外を眺め 今まで住んでいた街を横目で追い越す
父親の止まらない〝ん〟から始まる山形県のナマりを面白おかしく聞いていると
いつのまにか空港に着いていた
タクシーを降りて入り口に入り
父親からチケットを貰って荷物を預ける
乗り込みの時間まで
「トイレ大丈夫?」
「あぁ…… 行ってくる!」
お手洗いを済ませ 戻ろうとする義子に声が掛かった
「磨兒子さん」
「え? 殺せんせー?!!」
そこには 多分 おそらく 烏間先生に成りすました殺せんせーがいた
「ヌルフフフ! 見送りです」
「期末テストは?」
「私が本校舎に出向いても生徒達の監視役も務まらないので 基本旧校舎で待機なんですよ」
「あぁ~ それで暇な時間が出来たからここへ来たと?」
「はいそうです!」
「アハハ…… でも来てくれてありがとう 殺せんせー」
「磨兒子さんにこれを……」
義子が殺せんせーから受け取った物は〝アルバム〟だった
中を見ると そこにはE組と出会ってからの良くも悪くもある写真がギッシリと詰まっていた
「またいつの間に撮ったのやら……」
「ヌルフフン!」
「でも私って E組に入ってそんなにいないよね? よく三年分くらいの厚みを作れたね」
「一つ一つが思い出ですからね 今のE組の生徒達の卒業アルバムとなれば〝アコーディオン〟レベルになるでしょう!」
ーーハハ…… 皆も大変だ
「それでね磨兒子さん」
「はい?」
「あなたは暗殺教室を卒業することは出来ませんでした」
「………」
はっきりと言った殺せんせーに義子も笑顔が途絶える
「でもね磨兒子さん
あなたは過去の後悔を受け止めて今ここに立っている
不破さんと会ったあの日からあなたは逃げなかった」
「………楽しかったからだよ 皆のおかげですね」
「ヌンヌン…」
殺せんせーは首を横に振った
「社会に出れば生きてるのが嫌になるくらいの現実が幾度となく訪れます
しかし いかに巧みに正面戦闘を避けてきた殺し屋でも 人生の中では必ず数度 全力で戦わなければならないときがあります
磨兒子さん…… あなたは〝友達から受けた裏切り〟を乗り越え
これからも出会うであろう新しい友達を裏切らなかった
逃げなかったあなたは立ち向かえたんですよ?」
「………」
ーーそうだ…… 私 友達なんて出来ないと思ってた どうでもいいと自分に言い聞かせてたっけ……
「今のあなたなら新しい場所でもやっていけるでしょう」
「大丈夫…… だと思います」
「えぇ 大丈夫です」
「………じゃぁそろそろ行くね さようなら」
「はい! さようなら」
義子の差し出す手を握ろうとした殺せんせーは 勢いよく後ろに下がった
「ヌルフフフ! 最後の最後にやってくれますねぇ~ 磨兒子さん」
「あちゃ~~~」
袖に仕込んでいた対殺せんせーナイフが見事に失敗した
「これはもう必要無いね 先生を刺す気にはなれないよ」
そう言ってナイフを殺せんせーに返す
布で受け取る殺せんせーはニヤニヤとした表情で挑発する
「ヌフフフ 負け惜しみですか?」
「うぅん…… 私は殺せんせーに〝生きて〟欲しいだけ」
「っ……………」
搭乗の合図と共に義子は殺せんせーに背を向ける
「ありがとう先生!!」
ーーバイバイ………