生きる時間   作:滝翔

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特別授業二十三時間目 月が泣いた日

3月13日

卒業式を明後日に控える義子は 部屋で卒業ソングの練習をしていた

たった三ヶ月の田舎での中学生活だったけれども

同じ高校に進学する友達との新しい生活を前にワクワクが止まらない

 

そんな何でも無い日の夜

南の方角より 上空から放たれた赤い柱が義子の目に留まった

急いでテレビを点ける ネットを調べれば見覚えのある景色が報道されていた

 

『こちらは椚ヶ丘中学校前です

隠蔽されていた怪物の存在に近隣住民の方達が門の前に殺到しています!!』

 

ざわついているテレビが注目しているのは殺せんせーの事で間違いないだろう

しかし義子が気になったのは画面の隅に映るE組の旧校舎が建つ山の一帯が

半透明なシールドで覆われた部分が気になっていた

 

「おいこれって……」

 

父親も母親も釘付けになる中

義子は表情一つ変えずに部屋へと戻ろうとする

 

「義子……」

 

階段を上がろうとする義子と母親の湖遙

 

「……E組はどういう所だったの?」

 

「っ!!」

 

世論の説得よりも自分の娘の実体験に興味を持ってくれてた母親に

義子はつい顔がニヤける

 

「怪物はいなかったよ あの校舎には生徒と先生だけだった」

 

「……そう!」

 

部屋に戻るとたまに読み返す自分だけの特製アルバムが開いて置いてある机に向かう

アルバムを眺めるきっかけはいつだって〝ふとした瞬間〟 それが結構多かった

 

「大丈夫だよ そうだよね殺せんせー」

 

特に気にはせずに布団へ入る義子

たった一ヶ月の思い出を振り返りながら眠りに就く彼女は安らかだ

窓に映る夜空と自分の顔を照らし合わせると月が笑っていた

 

 

3月13日

この日はE組の生徒にとって暗殺教室のタイムリミットだった

国家の最終プロジェクトは宇宙より化学兵器を駆使し その矛先を殺せんせーへと向けられる算段

E組の生徒は全員現地へと向かい シールド内に予想外の刺客との激戦の末

一人の少女の命を助けた怪物の名にふさわしくない対象者(ターゲット)

望みである生徒全員の一丸となった暗殺により

 

その黄色い体は光となって宙に散ったのであった

 

卒業生は悲しみ 思い出に浸り 教室の各々の席でぐっすり眠る

卒業出来なかった義子は今は安心してぐっすり眠った

 

 

3月15日

雪国に桜の激励は虚しく

代わりに雪が積もる雪吊の木々が出迎えてくれた

 

「卒業おめでとう 義子!!」

 

「ありがとうお母さん!! お父さん!!」

 

 

「義子!! 写真撮るから来てぇ!!」

 

 

親から離れて同い年の仲間の集いに参加する娘を微笑ましく どこか嬉しく

そんなたくさんの思いが混ざる涙を母親は流している

 

「はい!! ずっ友!!」

 

 

「「「「「 イェーイ!! 」」」」」

 

 

卒業証書を握りしめた三月

それは殺せんせーという存在が生まれた月であり

殺せんせーが亡くなった月

義子にはまだ片方を知るよしがない

 

 

 

ーー若き暗殺者達よ

今から一つの命を刈り取る君達は

きっと誰より命の価値を知っている

たくさん学び 悩み 考えたはずだから

私の命に価値を与えてくれたのは君達だ

君達を育むことで 君達が私を育んでくれた

だから どうか今 最高の殺意で収穫して欲しい

この28人の未来の糧になれたなら

死ぬほど嬉しいことだから

本当に 本当に楽しい一年でした

皆さんに暗殺されて 先生は幸せです

旅立つ者から旅立つ者へ 命丸ごとの エールを

 

ただ…… 忘れてはいけないことがある

 

 

私にはまだ仕事が残ってることを もう一人の生徒を見捨てては旅立てない

 

 

 

 

 

 

 

 

東京某所

 

「こちら港前!! 〝対象者等《ターゲット》〟を見失いました!!」

 

「追い込んだと思ったのに…… どこに行った?」

 

警官が銃を構える緊張感漂う異様な現場

倉庫の屋根から飛び出る触手と月明かりに照らされた顔が警官達を見下ろしていた

 

「…………」

 

その少女は関わることなく姿を消す

ただの家出少女を追っている様には見えない防弾チョッキを身に纏う彼等の額からは微量の滝汗が

 

『まさか…… クソ… せっかく超生物の存在に終止符を打てたというのに』

 

通話の相手は国防省

 

 

 

 

『早急に多国籍犯罪組織に加入したと思われる

触手の力を手に入れた〝徒花此乃葉〟を捕獲せよ!!』

 

 

 

 

 

 

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