〝 義子さん 〟
ーー声がする…… 誰の声だろう…… って言いたいけどこの声はあの人しかいない
「義子さん!!!!」
ーー!!?
目を開けても意識がはっきりしないような真っ白な空間
しかし起き上がるダルさも無く 負ってる筈の傷の痛みも感じない
「久しぶり!! …………殺せんせー」
「久しぶりです…… 磨兒子さん」
「……ハハ もう下の名前でいいよ
てか気付いてないかもしれないけどチョクチョク下の名前で呼んでたからね!!」
「ニュ~~ そうでしたかね~~」
黄色い触手で顔を掻く殺せんせーはすっとぼけの表情をしていた
「ここは何処なの?」
「さぁ…… 私もわかりません あなたがいるならあの世ではないと思います」
「私がいるからって…… 面倒臭がった自明が見え見えですよ?」
「ヌフフフ!! おそらくでしか確かめようがないですが
もしあなたが来たこの場所が死の世界であるのなら……
私は今の状況を悔やみきれませんからね~~
なのに私の心は…… とても居心地の良さを伝えてくれます」
「………ふぅん」
義子はその場に体育座りでくつろぐ
嬉しい筈なのに 確信していることを言い出せない
「……私は暗殺されましたよ 無事に」
「っ?!!!!」
信じたくない真実
だけど今のE組の生徒達の顔色を窺う程 受け入れなければならなかった
「今の殺せんせーは…… 何ですか?」
「素直に話せば多分ですが…… 茅野さんの一部です」
「……ハァ?!」
「二代目死神と呼ばれる元教え子と柳沢との決戦の際
茅野さんは私の負担を減らそうと二人に襲いかかりました……
結果は二代目死神の触手によって胸部を貫かれ 致命傷を負う私の不始末」
「……そんなことがあったんだ」
「そこで私は医療の力を駆使して茅野さんの身体を元に戻しましたとさ!!」
「ザックリとオチ持ってきたけど 普通に凄い!!」
義子が笑っている最中 殺せんせーは話を続ける
「不足した細胞を私の体内組織で補うことで茅野さんを無事生還させることが出来ました」
「つまり今の殺せんせーは茅野さん自身でもあるってこと?」
「そういうことになりますね…… 細胞一つ一つは常に短い命です
いずれ私という存在も…… 完全に消滅するでしょう」
「……悲しいこと言わないでよ」
膝を押さえていた両手が強く締め付けてくる
「本体はどうなったの?」
「見届けました…… 最後は生徒一人一人出席を取り天へと向かわれたでしょう
一足早く雪村先生に会いに行ったかと思うと…… 妬けますね~~」
「…………」
手は震えなかった だけど心は冷え込んでくる
「……もうすぐお別れだったりする?」
「はい! 長く居ていい場所ではありません」
「……もう少しくらい ……居られるのかな?」
「ここに居たいんですか?」
「……うん って言ったら?」
「にゅ~~…… 困りますねぇ
生徒を死に誘うなんて まるで死神ではないですか?」
「……フフ 怖れないよ 先生と一緒なら」
受け答えを止めなかった殺せんせーは沈黙の時間を作る
「あなたがここに留まっても…… 私を助けることは叶いません」
「っ!!」
「〝目の前の人を助けたい〟 それはあなたにとって長所であり短所でもある
とても脆く 危うく 謝った決断をした場合には取り返しのつかない諸刃の剣」
「…………何が悪いの?」
「義子さん……」
「先生が死んじゃったかもしれないって そんな確信もないこと……
私がどれだけ考えないようにしてたか分からないもんね!?」
「……」
「実際に真実だったけど…… 今私の目の前にいる…… 希望が見えたっていいじゃん!!
此乃葉だって救えた 次は殺せんせーを!!」
「無理なものは無理です…… すみませんが今はそれしか言えません
私はこの世の全てを見てきましたが人の死だけは倫理上の存在だと豪語します
それは何故か? 人が生き返った前例が全くと言っていいほど存在しないから」
「………生きてるじゃん 殺せんせー生きてるじゃん!!」
いつの間にか義子は殺せんせーの懐にいた
震えだした両手はしっかりと抱きついて離れない
涙ぐむ彼女に対して それでも彼は彼女の先生だ
「オカルトに走ろうともこの事実は免れない だからどうか……
その道には進まないで欲しいですね」
「なんで…… なんで……」
義子の身体が透けていく
「やだ!! まだ…… まだ駄目!!」
「さよならです義子さん」
「っ…… ぅぅぅ……」
義子は余す限り殺せんせーを抱きしめた
意識が遠のいていく感じが 目覚める時なんだと感じたから
今はただ 彼の温もりを感じる
「人が死ぬって…… こんなに怖いんだ……」
「……ですね あなたも立派な暗殺教室の生徒でしたね」
「一ヶ月の間でしたけど…… お世話になりました!!!!」
「はい…… ……どういたしまして!!」
「……ぅぅぅ ぅぅ…… 大好きだよ!! 殺せんせー!!!!」
「私もです」
ーーあぁ…… ようやく 最後の生徒も送り出すことが出来た
次に目を開けたときは 太陽の日差しだけが眩しかった
一緒に海に落ちた茅野は既に目覚めており
駆けつけた烏間とイリーナ にベタついているシティーハンター
「義子ちゃん!! 義子ちゃん!!」
「……おはようございます」
起き上がる義子は意識がはっきりしていない
だけどジョークが言える彼女にその場の全員は腰を抜かして安心の笑みを見せていた
ーーあれ?
義子は茅野の顔をじっと見つめる
「茅野ちゃん……」
「え? ……あれ? おっかしいなぁ!! ……涙が止まらないんですけど」
次々に流れるその綺麗な涙は茅野のものか それとも
ーーまだそこにいるんだよね 殺せんせー
いや
ーーそうだよね…… 殺せんせーは私達の 心の中に
義子は空を見上げ 手を胸に当て 静かに目を閉じ 恩師に感謝を込めた