ーーまた逃げてしまった 何度目だろうか………
部屋に籠もる義子はひたすら画面の奥の敵を倒す事に夢中になる中で そんな言葉を録音しているかのように頭の中で流れている
昨日出会った場所に自分の居場所がなかったと自覚することが怖い彼女はただひたすら見慣れた怪物達を倒す
「………飽きた 新作ソフトまだかなぁ」
E組から逃げて三日が経ち
親の気遣いもあって学校に行かない義子は漫画とアニメとゲームをループする生活に戻っていた
ーー………たまにはゲーセンでも行こうかな
私服に着替えて外に出ようとする
まるで生気を感じない姿を台所にいる母親に見守られながら外に出る
ゲームセンターやビデオ屋は意外に近く 苦労しない
行く気力が湧いてくるまさに救いの聖地だった
入り口を入り 当たり前のように格ゲーの台に座り無意識に金を入れる彼女は慣れていた
使い慣れたキャラを使って退屈にいつも通りのCP対戦をつまんなくプレイしている
たまに反対側の台から挑戦者が現れるがこれもいつも通り勝ち越してCP対戦へと戻る繰り返し
繰り返しの筈だった
ーーあれ………? 負けた……
そのとき初めて夕刻だったことに気付く
「な…… なんで?」
最近負けたことのない彼女に画面越しの酔っ払いの酔拳スタイルの老人に一回も勝てなくなる
結局何百円使おうとも勝つこともなく
「っ………!!」
そのとき声がした
「相変わらずすごいねぇ神崎さんはぁ!!」
「えへへぇ そんなことないよ 茅野ちゃんも勉強の息抜きにやってみたら?」
「いやいや その手捌きは国宝級だよ神崎さん」
「大袈裟だよ杉野君」
義子は思わず反対の台を覗くと
「あ…… 磨兒子さん」
「っ…… E組の………」
そこにいたのは椚ヶ丘の生徒
しかもE組の渚 茅野 杉野 神崎の四人だった
私は訳わからずその場から逃げようとする
「待って!」
神崎が台を立ち上がって 義子を呼び止める
「この前はどうしたの義子さん?」
「っ………」
ーー逃げ出したい 逃げ出したい 逃げ出したい
拒否反応にも近い義子の感情はこのとき限界だった
その心拍数を神崎の近くにいた渚も気付く
「あれれぇ~~? こんなとこで何してるの磨兒子さん!」
そのときトイレから帰ってきた業も現れる
「もしかしてだけどさぁ~~ E組はもうちょっとヌルい場所って思ってたりしてた?」
「っ………」
「ちょっ…… 業君!」
渚が止めようとしているが業はニヤついた表情で率直に聞く
「どうせE組だから気軽に復帰できるとか思ってたんでしょ?
でも み~~んな真面目に勉強してる 本校舎の連中と同じくらいに
このクラスですら置いてかれてる感を味わいたくないから逃げたんだよねぇ?」
「…………」
何も言い返せない自分がいた
それに俯く自分をフォローしてくれている渚達にも正直イラついている
「大丈夫だよ義子さん! 皆も最初は君と同じだったんだから」
「そうだよ! これから追いつけば…… 私達もわからないところ教えてあげるし!」
渚と茅野から差し伸べられる手
しかし今の彼女にはまるでナイフに刺されている気分だった
「別に助けてもらわなくていいし……」
二人の手に背くように店を出ようとする
しかしまたもや義子の退路を断つ黄色い者がいる
「ヌルっフッフッフ~~!! こんなところにいたんですね磨兒子さん」
「ゲッ!!」
そこにいるのは当然殺せんせー もちろん渚達も近づいてくる
「殺せんせー! どうしてここに?」
「べっ…… 別に勉強の息抜きで神崎さんのゲームテクを見に来ただけだかんなぁ!!」
「ヌルフフフ! 大いに結構ですよ それよりも磨兒子さん」
殺せんせーは彼女の肩にそっと触手を置く
「この前の先生への暗殺…… とても素晴らしかったです またクラスに殺しに来てくれませんかねぇ?」
「あんなの……… ただの初見殺しですよ
先生の私への危機感を持ってしまった今 私にはもう手段がありません」
「そんなことはありません!」
触手を肩から頭へと移動する
「そこにいる杉野君は趣味の野球を生かして暗殺して来ます
茅野さんだって私の大好きなプリンを武器にされたのであのときは誘惑的に本気でヤバかったです」
「…………」
「それに神崎さんはオンラインゲームの達人の称号も持ち合わせています
人それぞれ自分だけの刃を研いで私を殺しに来てくれています
その個々の力を合わせて私にとっておきの技を使わせた程です
どうですか? あなたにも…… あなたが気付いていないあなただけの武器がまだ隠しているのではないですか?」
「っ………!!」
歯を食いしばる義子に渚が近づく
「磨兒子さん! 僕も暗殺の才能があるとか時代に合わない評価を受けているけど……
好きな映画とかいっぱいあるんだ また明日学校でさ そういう話もしながら一緒に頑張ろうよ」
ーー本当におかしい…… このクラスは普通じゃない
義子は殺せんせーの重く感じる軽い触手をハネのけて
「私は勉強の危機を感じているんです!! ………なんですか暗殺って!」
「にゅぅ…………」
「馬鹿にしないで……… 馬鹿にするな!! あんた達は椚ヶ丘の勉強に付いていける…… 結局付いていける秀才なんだ
私はその環境に出遅れた 寄って集って内心私のこと見下しているんでしょ?!
そうです私は勉強が出来ません 中学もこの先の高校もロクに成績に結果を残せない出遅れた落ちこぼれよ!!」
皆はただ黙って聞いていた
反論出来ようにもできないからだ 彼女の頬には既に涙が伝っていたのだから
ふと我に返る義子も格ゲーの台に置いてある鞄を持つなりその場を走り去って行った
「殺せんせー………」
「にゅ~~~~~~~~~~……」