彼女の変化に気付いたのは二年に上がるときだった
「此乃葉! 放課後カフェで勉強しない?」
「………」
いつの間にか日常になっていたかのように 声を掛けても此乃葉に避けられていた
「ちょっと待ってよ此乃葉!」
前を塞いでも川を流れる木の葉が大岩を避ける様に彼女が日々遠くへ行ってしまう映像が流れ出ていた
私が何かしたのか考えるも見当もつかず 本来なら夏休みの予定を決める時期でもあるのに
ーーこんなことって……… なんで……?
成績においての競争が充実しているこの中学校で友達を作るのは難かった
多人数でいるグループは大体小学校からの付き合いが多い連中がほとんどだ
そんな中で私が信頼できるような友情を築いてきたのは此乃葉だけだった
もう一度 もう一度 もう一度 もう一度だけ
慣れた昼の一人弁当
箱を蓋した私はいつも屋上で決心して人知れず立ち上がる
「此乃葉!」
下校中の此乃葉の前には息を切らしながら仁王立ちする義子がいる
「先生に呼び出されて帰りが遅くなっちゃった…… ハァ… ハァ… 」
「…………」
「一緒に帰ろう…… お願い……」
「義子ってさ………」
最近見せない此乃葉の微笑む顔を見れた まだ離れてない 繋ぎ合わせられる
そう思っていたときだった
「っ………… え?」
そこは誰も通っていない住宅街を見ていた
後ろを振り返ると戻ってきて欲しい彼女の冷めた背中がまた小さくなっていた
「此乃葉…… なんで? …………なんで私を避けるの!!!」
此乃葉は顔だけを少し義子に向ける
「義子ってさ…… 周り全然見ないよね?」
それだけが彼女の返しだった そしてそのまま去って行った
「私が何したってのよ!」
その場に崩れ落ちる義子に誰も答えを教えてくれる人はいなかった
翌日から私は此乃葉と会うことを止めた
クラスも違って普段ならそうそう会えることもなかったのだが
何より また話しかけて突き飛ばされる様な彼女の態度が怖かった
ある日
一人で下校も慣れ 親に頼まれて店が並ぶ街中を歩いていた
メモの食材を求めてスーパーに訪れ買い物を済ます
帰ろうと駅まで行こうとしたそのとき 裏路地から数人の声と共に知った声も聞こえてくる
ーー此乃葉!
笑い合う恰も不良グループの中心には彼女がいた
それを受け止められなかった私は裏路地の入り口で硬直する
「なんだ? お前と同じ制服着た奴がいるぞ徒花」
「…………義子!」
「此乃葉…… 何してるの?」
挙動が安定していない焦る私とは反対に彼女は冷静に敵を見るような目で私と向き合っていた
「おい行くぞ徒花! 他校にバレたらやっかいだ」
ーーバレたら?
数人の不良生徒がその場から逃げようとする
無慈悲にも彼女もその生徒達に付いていこうとしていた
「待って此乃葉!」
絶対に今引き留めねば
確信もない 直感で見逃してはならないと思った
「おい何やってんだ徒花!!」
「うるさい!! これ以上此乃葉に近寄らないで!!」
「っ………」
そのとき此乃葉の表情に背いて前に出ていた私は見ることができなかった
「いい加減にしろガキ! その女はなぁ……」
不良はゆっくり近づいてくるなり 私の胸ぐらを掴んだ
その後の一瞬の後悔を覚えたくない私は咄嗟に奴の股間に蹴りを入れてやった
「アゥパッ………!!!!」
「何やってんだよアギト 自慢の尻顎隠してんじゃねぇか!」
「うっ…… うるせい! この野郎……」
ぞろぞろと女子二人を囲む不良達に臆することなく構える私
何せ空手習ってたから
「ほぅ…… この人数で良い度胸だな 高校生相手に勝てるとでも思ってんのか?」
義子の正面に立つは図体のデカいアギト
彼が襲いかかると同時に殴り合いの喧嘩が始まってしまった
数十分後
顔に傷を作りながらも一人立っている私はいた
後ろで見ていた此乃葉に近づき 私はそっと彼女に手を差し伸べてみる
「一緒に帰ろう此乃葉! そういえば此乃葉の鞄に入っている物ってスーパーに売ってるやつだよね?!」
「……………」
少しだけ気になっていたのは此乃葉の鞄にチャックが締め切れないくらいに詰め込まれていた商品
「このお菓子とか今流行っているよねぇ コンビニに売ってないから大変だよ~~」
「……………」
そんなに溢れそうならビニール袋でも貰えばいいものを
「そうそうコンビニといえば最近できたレジカウンターで販売しているコーヒー!! あれおいしっ……」
「ごめん義子……… 私帰るね」
ーーまただ
友人を不良達から守ってまたスッキリしていた自分がいる 自己満足ばっかで此乃葉のことを考えていない
「まっ…… 待って此乃葉!」
しかし彼女は振り向きもせずに 何かを考えていたこともわからずにただ見送るしかなかった
「………悪い奴倒したんだからお礼くらい言って欲しかったな」
「ちょっと君! いいかね?」
自分も帰ろうとしていたそのときだった
さっき買い物をしてきたスーパーのロゴが入っているエプロンを着た店員らしき人に声をかけられた
「何ですか?」
「ついさっきにね うちの店から万引きがあったと客の情報があったんだ
私達も気付かなかったよ…… いや気付かなかったで済まされない量の商品が盗られていた」
すると店員は義子の後ろにいる不良達の鞄に目がいく
「おい…… まさか」
その鞄の中身を義子も再確認する
ーー………
スーパーの商品がぎっしりと詰め込まれていた鞄を見て店員は急いで警察に連絡した