強欲ルフィ   作:炭素

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エースは怠惰

 

 

 

 「ハァ…ハァ…」

 

 少年は追われていた。

 ‎‎見慣れた風景が後ろへ流れていく。それなのに息が上がる。

 ‎枝先で引っかけた頬が、ズキズキと痛む。靴の中に溜まった泥が、足を鈍らせている。

 森の中ーー河を、沼を、岩場を、木々の間を必死になって駆け抜ける。追っ手を退けるために、持っている鉄パイプで岩を落とし、凶暴な動物をもけしかけた。

 ‎しかし、どれもさほど効果はなかった。

 

 「エ~ス~」

 

 もう四日も続いている。三ヶ月前とはまるで違うルフィの動きに、エースは気味悪さを感じていた。

 ‎ダダンら山賊達が話しているのを昨夜も聞いたから尚更だ。

 

 ‎曰く、ルフィには悪魔が憑いた。

 ‎

 ‎突拍子もない話ではあるが、エースも納得せざるを得なかった。だって、そう考えなければあんなガキーーいくらゴムであろうとーーが三ヶ月もの間、この山で生き残れるはずもないのだ。

 

 「なぁグリード、さっきここ通ったよな!」

 

 そして、その悪魔の存在を、ルフィも隠そうとしていない。そればかりか、アジトに戻ってきた次の朝には、わざわざ悪魔の紹介までしていた。

 

 「…」

 

 ふと思った。自分は鬼と呼ばれ、ルフィは悪魔扱いされている。

 ‎どちらのほうがましなのだろう。

 

 「なぁなぁエース!どこに行くんだ!?おれも一緒に行きたいんだ!連れて行ってくれよ!」

 

 だが、気味が悪いことにはかわりない。得体の知れないものを、サボに関わらせたくもなかった。

 

 「うわっ!危なっ!」

 

 また避けられる。

 

 ‎「チッ!ついてくるな!!」

 ‎「…わかった!また明日!」

 

 しかし。

 ‎何が基準かはわからないが、一定の距離カンを取って、それ以上は近づいてこない。この数日、その繰り返しなのだ。

 ‎その妙な聞き分けの良さが、エースの神経を逆撫でする。

 ‎だったら最初からついてくるな。

 ‎エースは、ルフィの方を一瞥しーー落ち込んだ様子のルフィが目に入ったところで目を反らして、その場から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 「なぁ…グリードぉ…」

 ‎『'ま、しょうがねえな。明日からは作戦変更だ'』

 

 

 

 

 

 次の日ーー。

 

 

 

 「やったー!友達だ!仲間ができた!!グリード!おれに友達ができたんだ!!」

 「エース、グリードって何だ…?」

 ‎「…さあな」

 

 

 

 

 

 今日の朝。ルフィは、ここ数日は何だったのかーーエースの前に姿を見せなかった。

 ‎そう、然程気にしなかったのが間違いだったのだろう。実際のところ、ルフィはこっそりと自分の後をつけてきていたのだ。

 ‎最悪なことに、サボと一緒に五年間貯めていた海賊貯金の存在を知られた。そのうえ、口を封じるために、サボと二人がかりで捕まえようとしても、ルフィは捕まらなかった。

 ‎

 ‎「なんで捕まらねえんだ!!クソッ」

 ‎「エース、おれちょっと休憩…」

 

 不運は続く。

 ブルージャム海賊団の船員ポルシェーミが報復にやってきた。‎エースがチンピラ達から奪った金は、商船のものではなく、ゴミ山を牛耳る海賊の金だったのだ。

 ‎逃げようとしたときにはもう遅かった。サボがその手に捕らえられてしまっていたからだ。

 エースには、‎サボを見捨てて逃げるなんて考えは存在しない。しかし戦おうにも、サボは連れのチンピラに首に刃を当てられている。

 ーー‎抵抗すれば、殺す。

 ‎もはや、ポルシェーミに従い、金を渡すしかなかった。

 

 「おい、おれの仲間(になる予定)にーーなにしてんだ!!!」

 

 ーーいつのまにかルフィが、チンピラに腕を振り上げたまま、叫んでいた。

 ‎

 ‎瞬間。

 ‎サボを捕らえていたチンピラを含め、ポルシェーミを除く海賊達が、口から泡を吹いて崩れ落ちた。

 ‎ルフィが、呆然と固まっているサボの手を引いて、ポルシェーミ達から距離を取った。

 

 「…?……あ!!やった、見たかグリード!!今、気が…気が出せたんだ!やっぱり!何か出せると思ってたんだおれ!!!……………まぐれじゃねェ!」

 

 また、グリード。

 ‎喜んだ後に落ち込むルフィの様子を見ていたエースは、それ気づいた。

 

 「避けろっ!」

 「ガキがァ!!何をした!!」

 

 ルフィが、ポルシェーミに気づいた。しかし、ポルシェーミを見てビクリと固まる。

 ‎ルフィは動かなかった。

 ‎ポルシェーミの剣の凪ぎ払いによって、ルフィは切り飛ばされ、草木の中に突っ込んでいった。

 

 「…っ!!サボ!!やるぞ!!」

 ‎「あっ…ああ!!」

 

 

 

 

 

 「おいっ無事か!お前!」

 

 エースは激闘の末にポルシェーミを下し、縄で縛るのをサボに任せて、ルフィの元へ急いだ。

 ‎戦いの最中も一度も出てこなかったのだ。まさか、動けないほどの重症を負ってーー

 

 「え…エース…ご、ごめ…おれ戦わないと…いけなかったのに…ウゥゥ」

 

 ルフィは、顔をぐしゃぐしゃにして震えていた。途切れ途切れの言葉を聞いて纏めるとーー動物達とは全然違って、怖くて動けなかったらしい。

 ‎エースには、それが理解できた。単純な動物達とは違い、人間は様々な悪意を持っている。よく身に染みていることだ。

 しかし今は、それが少し可笑しかった。

 ‎気味の悪い存在であるはずのルフィが、ただの子どものように泣いているのだ。

 

 「くくっ」

 ‎「グスっ…」

 

 

 

 

 その日から、エースに仲間が一人ーー

 

 「'おお、すげえなお前ら。ガキ二人でここまで金を集めるとは中々…'」

 

 いや、二人増えた。

 

 

・・・・・

 

 

 ‎海賊達の一件から、サボが“不確かな物の終着駅”を出て(追われる形でだが)、ダダン一家のアジトで一緒に暮らすようになった。

 ‎山で日々高め合いーー

 

 「'気の流れを読めお前ら。手のひらを見るようにな'」

 ‎「グリードそれしか言わねェ…」

 ‎「'ルフィはそれで出来てんだからいいんだよ。現に、半分は避けてんだろコイツ'」

 ‎「しししし!」

 ‎「グリードとルフィ…入れ替わったらすぐ分かるなあ」

 

 そして、町の不良達、“ゴミ山”の悪党達、入り江の海賊達との戦いに明け暮れる日々が続いた。

 

 

 「何読んでんだルフィ?」

 ‎「'残念、グリードだ'」

 ‎「あー。ルフィは本なんて読まないよな」と、サボ。

 ‎「バカにすんな!俺だって一緒に読んでるぞ!文字だって書けるし!手紙だって出したんだ!」

 ‎「はァ?お前が?」

 ‎「'本当だよ。ルフィは本読むぜ。お前らも読むか?“東の海の植物図鑑”と“肩もみの基本”、あと新聞'」

 ‎「植物図鑑で」

 「おれ新聞」‎

 ‎「'村長のじーさんからの借りモンだから汚すなよ。新聞はアジトにあったから別にいいけどな'」

 

 ルフィのリュックから、エースは図鑑、サボが新聞をそれぞれ取り出す。そして、各々が読書を始めた。

 

 「…え?…天竜人…」

 ‎「'あ?サボ知ってんのか?来るらしいな天竜人ってのがこの国に'」

 ‎「天竜人ってなんだ?」

 ‎「…世界貴族って言って、世界で一番偉い人のことだよ」

 

 ‎数日後、町に行ったことで、サボが貴族の息子だと知ることになった。

 エースはサボが貴族だと知ったところで、たいして気にしなかったが。

 ‎そして、それぞれの“先”を語り合い、晴れて兄弟の盃を交わしたーー。

 

 

 ・・・・・

 

 

 

 「じいちゃんが来たぞ!!エース!ルフィ!」

 ‎

 ‎ある日村長とマキノが山に来て、村の子ども服の古着を貰った数日後に、次はガープがやってきた。

 

 「久しぶりだなジジイ」

 ‎「よ、じいちゃん。手紙で頼んだ本くれ!」

 ‎「こら貴様ら!!もっと喜ばんか!」

 

 理不尽な拳が、エースの頭上から飛んでくる。

 しかしエースはそれを、難なく避けた。目線をチラリとも向けることなくだ。

 

 「ぬ、エース貴様…」

 

 ガープは目を白黒させた。本気でやった訳ではない。しかし、十歳そこら(ガープ基準)の子どもに避けられるとは思っていなかったのだ。

 ‎表情を固くさせる。

 ‎次はルフィに向かって拳を降り下ろす。

 

 「危ねェ!!何すんだじいちゃん!!」

 

 ルフィは、ガープの拳が到達する前に、大きく飛び退いていた。以前とは、明らかに段違いだ。

 ‎ガープの表情は更に険しくなった。

 

 「…お前達、なぜ“覇気”を使っておるんじゃ」

 「「?」」

 「…え?知らんの?」

 

 エースとルフィは、首を傾げて顔を見合わせる。そして、目配せして頷いてーーなるほどと手を打った。

 

 「じいちゃん、おれ達気を読んでるんだ。自分の手のひらを見るように。な、エース!」

 ‎「そうだ。手のひらを見るようにな」

 「…末恐ろしいガキ共じゃ」

 

 ガープは呆れていた。どこで思い付いたのかよく分からない理論で、見聞色の覇気を、未熟ながらも習得していたのだ。海軍将校でも取得者は稀なそれを、十歳そこらの子どもが垣間見せている。

 ‎結局ガープは、“血”か…と納得した。

 ‎むしろ、鍛えがいがあると云うものだ。

 

 「む!ルフィ刺青なんぞしおってェ!この不良孫がァ!!」

 ‎「いでェ!おれゴムなのに!痛いっ止めてくれ!じぃちゃん!!」

 ‎「ルフィっ!この、くらえ!くそジジイ!」

 ‎「じいちゃんに向かって手を上げるとは、何事じゃエース!!」

 ‎「飯できたぞ、エース、ルフィ…って何だこのじいさん!敵襲か!」

 ‎「何じゃ貴様ァ!」

 ‎「うぉぉぉお!危な!」

 

 

 ・・・・・

 

 

 その日、エースは食材探しに山を駆けていた。サボとルフィも同じく駆け回っているころだろう。

 ‎今日の勝負は夕食。誰が一番大きな獲物をーーではなく、誰が一番旨いものを出せるかの勝負だ。提案はグリードである。

 ‎これには、少々分が悪いとエースは感じていた。ルフィとグリードのセットで、問題のグリードーー最近料理の本を読んだのか、グリードの作る飯は旨い。ただ肉を焼くにも、自分がするのとでは、かなり差が出るのだ。

 ‎そして、サボもそれに影響されている。この前食べたシチューは美味しかった。

 

 「おっ」

 

 気配で、頭上を鳥が通ったのがわかった。目で確認すると、大きな鳥の影だった。それが、数本先の大木に突っ込む。

 

 「よし、卵ゲット」

 

 肉も手に入るかもしれない。

 ‎エースはニヤリと笑って、大木に足を掛けた。

 

 

 

 

 「なんだ?これ」

 

 エースは、歪な形をしている赤い石を左手に持って、太陽の光に透かして眺めていた。

 

 見つけたのは、二十メートルほど登った先にあった鳥の巣の中だ。ちなみに、鳥の卵は一つもなかった。光沢のあるガラクタが巣の中に散らばっているだけだった。

 

 「うーん?」

 

 見たことのない石だ。少し柔らかいような、なんの変哲もない石だ。しかし、なぜか目が離せない。

 ‎どれほど眺めていただろう、ぼーと眺めて警戒を疎かにしていたエースの背後を、戻ってきた巣の主が襲った。

 ‎手から石を弾かれ、木から足を滑らせーー葉っぱの生い茂った細い枝を何本も折りながら、エースは地へ落ちた。

 

 

 

 ZzzZzzZzzZzzZzz

 

 

 「…おい」

 

 エースは、一面真っ白な世界に立っていた。そこにぽつんとーーいや、どすんと一つの巨体があった。

 ‎それは、大の字に俯せしていた。

 

 「'……'」

 ‎

 ‎反応はない。

 ‎エースはジリジリと巨体に近づいていく。

 

 「お前は誰だ。ここはどこだ。お前が助けてくれたのか」

 ‎「'めんど くせ…俺…スロウス…'」

 ‎「お前喋れたのか…怠惰(スロウス)?」

 

 エースの中で、何かが引っ掛かった。

 ‎

 ‎「あ、それ…」

 

 答えは、直ぐに見つかった。未だ顔を上げないスロウスの右肩辺りに、見覚えのあるものがあったのだ。

 

 「お前、グリードのこと知ってるか」

 ‎「'…ああ………'」

 ‎「…まあいいや。取り敢えず、ここから出せよ」

 ‎「'…しらね'」

 ‎「おい」

 ‎「'……'」

 ‎「何だコイツは」

 

 

 

 ZzzZzzZzzZzzZzz

 

 

 「ただいま」

 「エース!遅かったな!」

 ‎「何してたんだ?お前、何も持ってないじゃないか」

 

 新しく作った自分達の家の木の下で、ルフィとサボが心配そうな表情で駆けてきた。

 ‎それはそうだ。もう日はほとんど沈みかけているのだから。こんなに遅くなったことはなかった。

 

 「'おい待てエース。何か妙な気配がするんだが、気のせいか?'」

 

 ルフィがーーいや、グリードが警戒した面持ちで言った。サボは困惑した表情で、交互に見遣っている。

 ‎エースは、やっぱり…と諦めたように手を上げた。

 

 「待てよ、グリード。でも多分お前の予想の通りだぜ」

 ‎「ほー…で、どいつだ?」

 ‎「スロウスって。こいつ何もしゃべんねェんだ」

 ‎

 ‎スロウス…の辺りで、グリードはあからさまに警戒を解いた。そんなグリードの様子に、エースも釣られてホッとした。

 

 「よかったな。そいつは“当たり”だよ。“外れ”がいるのかは知らねえけど。性格も…まあ無害な奴だ。能力的にも悪くねぇよ。たぶん」

 ‎「たぶんかよ」

 ‎「そののろま野郎に、力貸せって言ってみ」

 ‎「…?わかった。スロウス、お前の力?ちょっと貸してくれ」

 ‎『'…?めんどくせ…'』

 ‎「おい」

 

 何もないんだけど…と、グリードに文句を言おうと一歩踏み出したところでーーエースの意識は激痛と共に途切れた。

 ‎エースは、サボとルフィの間を抜けて、大木に激突した。

 

 

 

 「'あ、やべ…制御できねえのかコイツは'」

 「エースっっ!!」

 

 

 エースは、身体がバラバラになるんじゃと思うほどの激痛を味わうことになった挙げ句、暫く寝たきりの生活を送ることを余儀なくされた。

 

 

 

 

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